《星光農園》にて
3904.08.16 16:00:04
【メッセージID:24003は宛先不正のため送信に失敗しました。8時間後に再試行します。】
猪人の親方の手によって耐久性を大幅に強化された鍬──《耕し丸》が、カロッテの膂力で繰り返し振り下ろされる。
橙色で人型の動く植物は、深い畝を手際よく作り上げていく。その様子に満足そうに頷いて、サンゲンは僕の方に向き直った。
「頑丈さにかけては、俺が作れる中じゃ最高級品だ。そうそう壊れやしねえが大事に使えよ」
「それは僕じゃなくて、カロッテに言ってください」
「何言ってんだ?」
お前の配下だろうに、と言いたげに鼻を鳴らされるけれど。
言葉は通じているというのに、何で僕の言うことをちゃんと聞いてくれないのか、僕が知りたいところだ。
「こりゃあ、アレだな。丸々と太ったところでトト坊に食われるとか思ってるんじゃねえか」
「食べませんよあんなの」
耳を振って否定しておく。なんだか筋張ってそうだし。
仕方ないので、隣で眠そうにしていた銀髪の少女にいつものように丸投げする。
「ベリル、お願い」
「……うむ。カロッテよ、農具はもう少し丁重に扱うがよい!」
姿勢を正し、片手で答礼を返す《人精草》。ベリルの言葉は素直に聞くというのがまた、なんというか。
畑を耕しながら、ペースを落とすことなく遠ざかっていくカロッテの姿を見送っていると、隣の少女が親方に声をかけた。
「ところで、服のことで相談なんじゃが」
「おう?」
サンゲンは怪訝そうにしつつも、手招きされて僕たちの前に座り込んだ。目線の高さが合ったところで、ベリルが自分の服の袖を引っ張ってみせる。
今日の彼女は、最初に出会ったときの黒いワンピースではなく、だぶついた草色の作業服を身に着けている。心底困った表情で、ベリルは言葉を続けた。
「こやつが洗濯すると言うから《人形》どもの服を引っぺがして着替えてみたのじゃが、どうにも野暮な上に、寸法がのー」
「僕には用意できないしさ、なんとか新しい服が手に入らないか、って話しててさ」
サンゲンは腕を組み、少しばかり考える素振りを見せる。
「うちはそもそも男所帯だからなァ。女物の服だったら《猛獣牧場》に頼むのが一番だろうな」
「アンジェさんのとこでしたっけ」
ナラカから聞いた話を思い出す。《猛獣牧場》には精霊人の街があって、探索者たちが日々様々な巨獣を狩っているという。
行きそびれてしまったダンジョンに思いを馳せつつ、どうしたものかと思案する。
《猛獣牧場》まではかなりの距離があるし、大体、運搬艇に乗せて派遣できそうな配下はひとりもいない。新米ダンジョンマスターに伝手なんかほとんど無いわけで、とれる手段も限られてしまう。
「……後でシバ様に相談してみます」
「まあ、仕方ないのう」
不満げではあったものの、ベリルもしぶしぶ頷きを返した。
「そういえば、アンジェさんとは何か進展ありました?」
「またいきなりだなァ、おい」
結局、《七色鉱山》では詳しく話を聞けずじまいで、今まで訊ねる機会が無かったんだから仕方ない。
いまいち芳しくない表情で、サンゲンは肩をすくめて見せる。
「進展も何も、まだそんな日が経ってねえだろうが。アンジェの奴ァ、次こそはって息巻いていたが」
「親方の方は?」
「なるべく早めに後を継げる奴を育てておけって、シバ様から指示はされたさ」
どいつもこいつもまだまだ足りねえな、と頬杖をついて嘆息ひとつ。
「じゃあ、やっぱり親方が《猛獣牧場》に行くことになるんですね」
「あまり気が乗らねえんだよ。行ったら行ったで、頭が固い連中がぎゃあぎゃあ騒ぎそうでな」
それはつまり、他のダンジョンより閉鎖的な雰囲気ってことなんだろうか。《七色鉱山》ではそんな感じは受けなかったけれど、あれはシバ様が一声かけてくれたおかげだった気もする。
取りとめのない思考を始めてしばらく経った頃。ふと、サンゲンが僕の方をじっと見ているのに気付いた。
「どうしました?」
「なァに。ここを拠点にするのも面白そうだ、って思ってよ」
何年先になるかわからねえがな、と続けて、猪人の親方はにやりと笑った。




