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狭間のトト  作者: 時雨煮
追補編
57/59

試練の始まり

兎人(ラパニア)トトを連れて、《七色鉱山(レインボウマイン)》第四層に存在する《転送装置(トランスポーター)》までの道程を踏破せよ。時間制限は無し。他者の同行は認めない』

 絶対に達成できないだろう無理難題を出すなんて、シバ様も容赦ないなあ。

 なんて考えていたのも束の間、すぐに挑戦すると言い出したアンジェに従って第零層(エントランス)に到着した辺りで、ようやく自分の置かれている状況に思い至った。

 待機していた仲間の精霊人(アールヴ)の下へと伝達に向かうアンジェを見送りながら、よくよく考えてみる。

「もしかしなくても、死にませんか僕?」

 狗頭のダンジョンマスターを振り返って尋ねれば、真面目な表情で重々しく頷かれた。いや、それは困るのだけど。

 耳を立て、抗議の視線を向けたものの、シバ様はにやりと笑って右手を差し出してきた。そこには、細長い(たすき)と思しき布が握られている。

「冗談だ。こいつを身につけておけ」

 帯を受け取って肩からかけてみると、黒い布の表面に銀色の複雑な紋様が浮かび上がった。わずかな魔力の流れを感じながら、シバ様の説明に耳を傾ける。

「死を一度だけ肩代わりする、《身代わりの帯布(プロテクト・スリーヴ)》だ。そいつが千切れた時点で強制的に呼び戻すから、安心するといい」

 そういうことなら、まあ大丈夫なんだろう。ついでにもうひとつ、疑問を解消しておきたい。

「僕の立ち位置がいまいちわかってないんですけど」

「ああ、そうだな……アレを助けるか妨害するか、トト君の好きに決めるといい」

「いいんですか?」

「ああ。どちらにせよ今回は間違いなく失敗するだろうしな」

 なるほどと頷きながら、仲間との会話を終えて戻ってくるアンジェに視線を向ける。

 彼女の理由次第では、協力するのもやぶさかじゃない。……とはいえ、戦闘の手助けなんかはできないのだけれど。


 《転送装置》で第一層へと足を踏み入れたところで、僕たちは向かい合い、改めて互いに名前を名乗った。

「いきなり巻き込んでしまって御免なさい」

「いえ。事情はよく分からないですけど、意気込みは伝わってきましたし」

 特に急ぎの用事がある訳じゃないし。決まりの悪そうなアンジェに対して、耳を横に振って気にしていないことを伝える。

 安心したのか、肩の力を抜いたように見えた彼女は、少しだけ言い淀んだ後に口を開いた。

「……サンゲンとは、将来を誓い合った仲なのです」

「親方と、ですか」

 聞き間違えただろうかと耳を疑っている間にも、アンジェの言葉は続いていた。

「はい、そうです。それぞれの立場のせいで、今は離れ離れですけれど。いつかふたりで暮らそうと、子供は三人くらい欲しいと。ひとりは後衛の支援職に育てて──」

「アンジェさん、アンジェさん。大体分かりましたから」

 話の内容は気になるものの、長くなりそうなのでこれ以上は後で聞くことにする。

「それで、第四層まで踏破できる見込みはあるんですか?」

「地図を借りてきましたから」

 アンジェが広げて見せてきた三枚の紙には、これまでの探索で踏破されている場所が、詳細な書き込みと共に記されていた。所々に手直しした跡があるのは、シバ様がダンジョンの構造を少しずつ変えているからだろう。

「上手く戦闘を避けられれば、これで第三層までは辿り着けるとは思うのですが……」

「そこから先は手探りですか」

 第四層から下には、より強い魔物(モンスター)が棲んでいるらしい。僕なんかは確実に足手まといだろう。

 多分に運任せで、かなり分の悪い試練ではある。それでも、今やれることをやるだけだ。

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