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狭間のトト  作者: 時雨煮
追補編
56/59

アールヴ来襲

「ダンジョンマスター様!」

 赤みがかった金髪がふわりと広がり、天井から食堂を照らしている輝石の光を反射する。燃える炎のように揺れるそれは、持ち主の動きに合わせて床の上へと舞い降りていく。

 よく通る高い声と共に食堂に飛び込んできた精霊人(アールヴ)の少女は、シバ様の前で迷いなく平伏した。簡素な飾りの施された魔法銀の半身鎧は、その見た目に反してほとんど音を立てなかった。

 別のテーブルで談笑していた猪人(オーク)たちは、この状況を見ながらひそひそと会話しているように見える。そちらを気にすることなく、少女は願いを口にする。

「どうか、どうか認めては頂けないでしょうか」

「その話は終わっていた筈だが?」

 食事に戻ろうとしていたシバ様は、彼女に視線を向けることなく、面倒くさそうに答える。懇願するように顔を上げる少女を無視して、骨付き肉へとその手を伸ばしていく。

「わたくし、何でも致します! ですから!」

 その一言に、シバ様の手が止まった。猪人たちも内緒話どころではなく固まっていた。ついでに、シバ様の向かいでサラダボウルを抱えたまま、未だ状況を把握できていない兎人(ラパニア)──すなわち僕である──もまた、空気を読んで黙っていた。

「……」

「……」

「……はァ」

 長い沈黙が続いた後。諦めたようにため息をついて、シバ様はゆっくり立ち上がった。


 果たして猪人たちは食堂から追い出され、外に居た野次馬たちも厨房の料理人たちも追い払われて、残ったのはシバ様と膝をついたままの少女、それから置物状態で放置されていた僕だけになった。

「兎人……?」

 小声のつぶやきから、僕が何者なのかをいぶかしんでいる様子が窺える。それはこっちも同じだ。

「あの、彼女は、一体?」

 恐る恐る問いかけると、席に戻ったシバ様は親指で少女を指し示した。

「こいつはアンジェ。《猛獣牧場(ワイルドファーム)》から来た遠征隊のリーダーだ。お願いがあるなんて言うから一応会ってやったんだが、断っても断ってもしつこくってな」

「そこを何とか、お願い致します!」

 再び頭を下げる少女──アンジェに対して、シバ様は首を横に振る。

「サンゲンは貴重な戦力だ。同じ《氏族(クラン)》とはいえ、他所のダンジョンにくれてやる訳にはいかん」

「でしたら、私がこちらに残って──」

「駄目だ」

 アンジェの言葉を遮って、シバ様はまた首を振った。

「遠征隊の訪問は特別に見逃してやっいてるが、長期滞在は許さん。大体、お前さんが抜けたら遠征隊はどうなる?」

「事情は皆に話しています。問題ありません」

「問題ならこっちに大有りだ。居住区は女人禁制だぞ」

 さっきもいきなり教育に悪いこと言いやがって、と僕にしか聞こえないくらいの小声で愚痴ってから、アンジェの方へと顔を向ける。

 しばらくの間、どうしたものかと低く唸っていたシバ様の視線が、ちらりと僕の方に向いた。

「……だが、これ以上付き纏われるのも願い下げだな。機会をやるとしよう」

 精霊人の少女はかばりと顔を上げたものの、シバ様の言葉の続きを黙って待っている。下手に口を挟んで機嫌を損ねないように、ということだろう。

「試練を突破した者に、ダンジョンマスターとして相応の褒賞を与える分には、問題なかろう?」

「ぜひ、挑ませてください」

 問いかけに即答したアンジェからの期待の眼差しを、シバ様は鼻を鳴らして一蹴した。

「サンゲンの価値に見合った試練だ。注文は一切聞かん」

「はい。ありがとうございます!」

 アンジェは喜色を浮かべ、また頭を下げた。シバ様は満足そうに頷くと、凶悪な笑みを僕に向けた。

「悪いが、トト君にも少しばかり働いて貰うぞ」

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