サンゲンの工房にて
3904.07.15 16:00:01
【メッセージID:24003は宛先不正のため送信に失敗しました。8時間後に再試行します。】
シバ様の計らいで《七色鉱山》の居住区に居候することを許された日のこと。
サンゲンに連れられて入った工房では、何人もの猪人たちが黙々とそれぞれの作業を行っていた。想像していたよりも静かだったものの、部屋にこもった熱気は相当のものだった。
「悪ィが、急ぎの仕事の途中でな。その辺で適当に待っててくれ」
「あ、はい」
片隅に置かれていた大きな椅子に腰掛けて、工房の中を見回してみる。扱っているのは宝石や貴金属の類のようで、どちらを見ても検査やら加工やら、細々とした工程の作業が続けられていた。
「似合わねえことしてるだろう?」
工具箱から小さな道具を取り出しながら、サンゲンが声をかけてくる。確かに、細工であればもっと手先の器用な、それこそ兎人の方が向いているんじゃないかとは思う。
僕の表情を見て、彼はふん、と鼻を鳴らした。
「まァ、ここには猪人しか住んでねえから、適材適所ってわけにもいかねえんだよ」
「他の種族の人はいないんですか」
「探索やら取引やらで、短い間だけ滞在する奴らはいるがな。同じ種族で集まった方が、補正って奴で有利になるってんで、普段は猪人の男だけだ」
サンゲンは何でもないように答えて、大きな宝石の加工の作業に取り掛かり始めた。
……いくら効率が良いからって、それはむさ苦しすぎやしないだろうか。
こっそりと僕の方を窺う周囲の視線をいくつも感じながら、サンゲンの作業が終わるのを待つことおよそ一時間。
「親方ァ、腕輪のデザイン、こんな感じでどうスか」
「《豪力の腕輪》だったか? 《猛獣牧場》からの依頼だよな。あんまり派手だといい顔しねえ連中だが……いいだろう。強化用の宝石は仕上がってるから、これで進めていいぞ」
「了解っス」
部下らしき職人との何度目かの会話を追えて、サンゲンが僕の方へと向き直る。さて、と何かを口にしようとしたところで、首をわずかに傾けた。
「大丈夫か、坊主」
「はい?」
「お前さん、何だかふらふらしてるぞ」
そうだろうか? 確かに、シバ様の操縦する運搬艇は乗り心地はいまいちだったし、この工房は暑くてぼんやりしてしまうけれど。
なんて考えていると、猪人の親方は肩をすくめて立ち上がった。
「駄目そうだな。キンカ、後は任せた。今日は適当に閉めといてくれ」
「うス」
「そら、行くぞ」
言うが早いか、僕の襟首は太い腕に掴まれて、否応なしに工房の外へと運び出されることになった。
工房からそれほど遠くない場所に、ダンジョンの上層から滝のように水が流れ落ちている広場があった。さらに下層へと続いている流れを眺めているうちに、舞い上がる飛沫が頭を冷やしてくれて、僕はようやく一息つくことができた。
「しかし何だ。ひとりで《黄金都市》を飛び出してくるたァ、坊主もなかなか根性が座ってるな」
「それはその、勢いで、つい」
縮こまって答えた僕の背中がばん、と叩かれる。
「若いうちに無茶しとけ。俺も昔はあちこちのダンジョンを荒らし回ったもんだ」
荒らすなんてとてもとても、できるわけがない。サンゲンが笑顔で語る武勇伝も、猪人の身体能力があってこそだろう。戦うことができない僕には縁の無い話だ。
「でも、今は工房で仕事をしてるんですよね」
「かれこれ二十年になるな。お前は手先が器用だから、細工でもやってみろって言われてな」
「言われて……って、シバ様にですか?」
「ああ、そうだ」
やはり《黄金都市》のダンジョンマスターよりも、住人との距離が近いような気がする。住人に対する接し方が違うのは、居住区の大きさも関係しているのかもしれない。
僕が考え込んでいたのをどう受け取ったのか、サンゲンは思いついたように問いかけてきた。
「坊主も試しにやってみるか?」
「えっと……遠慮しておきます。不器用さには自信があるんです」
「兎人なのにか」
そんなこと言われても、仕方ないじゃないか。
誰に向けたらいいのか分からない文句を飲み込んで、僕は黙って頷いた。
共鳴
同一種族の配下を三体以上、同じ作業に従事させる際のボーナス補正。




