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狭間のトト  作者: 時雨煮
第五章
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根喰いの隷竜

 揺れる《虚海(ラウム)》から姿を見せたのは、二本の角を持つ巨大な爬虫類の頭だった。次いで前脚が現れ、一対の羽根を備えた太い胴体が現れる。灰色の混沌を四つ足で踏みしめ、赤みがかった黒色の鱗に包まれた「(ドラゴン)」が咆哮する。もうひとつの視覚が、注視する僕にその名を知らせてくる。

下級竜(レッサー・ドラゴン)、《根喰いの牙竜ファング・オブ・ニドヘグ》」

「《星喰い(イーター)》めか……!」

 ベリルが僕の横から身を乗り出して、黒色の竜を睨み付ける。

『すぐにそこから離れるんだ。別のダンジョンまで誘導すれば、逃げ切れるかもしれない』

 シバ様の忠告は正しいのだろう。けれど僕は首を横に振る。たとえ上手くいっても、それでは別のダンジョンを危険に晒してしまう。

「カロッテ、掴まってて!」

 首をもたげ、運搬艇に対して口を大きく開いた《牙竜》の噛み付きを避けるべく、針路を変えつつ加速する。首元から胴体の横へと通り抜け、振り回される尻尾を避けたところで、左手の《秘本(ルールブック)》に意識を向ける。

生成(クリエイト)、《鉄壁(アイアン・ブロック)》、形状変更」


 【警告。敵対勢力が一定距離内に存在、および、混沌領域の干渉──】


「──即時顕現(リリース)!」

 警告を最後まで聞いている余裕は無い。《牙竜》の真上に、三本の鉄の杭を作り出す。運搬艇の倍ほどの長さの杭は、すぐに落下を始め、こちらに向き直ろうとしていた《牙竜》へと突き刺さる。怒りんだ含む叫び声が届いて、耳が震えた。

『トト君、お人好しが過ぎるぞ』

「危なくなったらちゃんと逃げます!」

「無謀じゃ、トトよ……」

 ベリルが不安げに僕の顔を見る。様子を見ようと旋回させた運搬艇の窓から、苦しげにもがく竜の姿が見えた。胴体に二本、翼に一本の杭が刺さっていて、《牙竜》は《虚海》に半分沈んだ状態で暴れている。

「ほら、効いてるって。これなら、倒せるんじゃない?」

『駄目だ』

 僕の言葉をシバ様が否定し、隣の少女もまた首を振る。

「この程度でなんとかなるなら、誰も苦労はしておらぬ。見るがよい」

 再び視線を向けたとき、《牙竜》は翼に突き刺さった鉄杭を噛み砕いていた。竜の口に杭が飲み込まれるたびに傷口が輝き、胴体に突き刺さっていた鉄杭も少しずつ抜けていく。

「あれが《星喰い》の再生能力じゃ」

 確かに驚異的だ。けれど、だったら口を封じればいいんじゃないか。

「生成、《鉄壁》、形状変更、即時顕現」

 もう一度、今度は首の上を狙う。これなら、さすがの《星喰い》でも。


 【警告。魔力が不足しています。不足分をマナで代替しますか?】


「……却下(キャンセル)


 ベリルの生命線であるマナは無駄遣いできない。そもそも、万全の状態だったのにどうして魔力が足りないのか。《秘本》を開いて確かめる。


 【魔力残量 2545 + 14 / マナ残量 9598】


 想像以上に減っていた魔力に、言葉を失う。いくら何でも減りすぎじゃないか?

 助手(ナビ)席に立つシバ様の幻像が、指折り数えながら言葉を紡いでいく。

『ダンジョンを管理していない状態での《奇跡》行使、即時顕現、それから戦闘中。おそらく、他にも不利な補正がある。その状況では、いくら魔力があっても足りないぞ』

「……ダンジョンがあれば、いいんですね」

 もう一度、《秘本》に集中する。魔力が残り二割を切っていても、これならいける筈だ。

「生成、《農場(ファーム)》──」


 【警告。敵対勢力が一定距離内に存在しているため、雛形タイプの作成は行えません。】


 またもメッセージに邪魔される。そんなに、僕の行動が気に食わないのか。

「だ、だったら!」

 右手を《収納鞄(バッグ)》に突っ込んで、《魔力回復薬(マジック・ポーション)》を探し出す。アイツの口をどうにかする分だけ回復できれば問題ないんだ。

「前を見るのじゃ、トト!」

 ベリルの叫びに、思わず顔を上げる。傷を癒し終えた《牙竜》が、いつの間にか運搬艇の前に陣取っていた。再び横薙ぎに振り払われた竜の尾が、正面からまっすぐ迫ってきている。

 《回復薬》を放り出し、右手を制御球(コントローラー)に戻したものの、回避は間に合いそうもない。

 遅まきながら降下を始めた運搬艇の中で、衝撃に備えて身構える。一瞬遅れて、天井を蹴る音と共に身体がふわりと浮いた。


 《牙竜》の尻尾が運搬艇の上を掠めて通り過ぎ、衝撃で機体が回転する。回る視界にちらりと見えたのは、竜の尾にしがみつき、《耕し丸(ティラー)》を突き立てているカロッテの姿だった。

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