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狭間のトト  作者: 時雨煮
第一章
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《先見の片眼鏡》

 どうしたものかと呟きながら、狗頭のダンジョンマスターが何処からともなく取り出したのは、僕の背丈よりも長い金属製の棒だった。表面には様々な文字や図形が刻み込まれていて、どうやら魔法の道具であることが窺えた。

「《見習い魔法使いの杖アプレンティス・スタッフ》というんだが……ちょっと持ってみたまえ」

 杖と呼ぶにはいささか語弊がありそうな、鈍器めいたそれを目の前に差し出される。僕は少しだけためらってから、両手でしっかりと受け取ってみた。

 見た目通りの荷重が両腕にかかり、取り落とすまいと悪戦苦闘した結果、僕が杖に寄りかかっているのか、逆に寄りかかられているのか分からない姿勢でようやく安定した。

 そんな、斜めになった僕と杖の様子を見て、狗頭のダンジョンマスターは難しい顔で唸り声を上げた。どうやら怒っているわけではないようだけれど、普通に怖い。

「まあ、それでいいか。《魔力弾(ミサイル)》の魔法は使えそうかな?」

「……すいません、駄目です」

 魔力を流し込んでみても、杖が反応する様子は無い。さもありなん、とダンジョンマスターは肩をすくめる。

「やはり、必要膂力値(ストレングス)が足りてないと装備品扱いにならないんだな。となると……これはレベル制限で引っかかるし……こっちは精神値(マインド)が必要、か」

「その、マスター様? あまりお手数おかけするのもご迷惑でしょうし」

「いやいや、気にするな。ここで放っておく方が、俺の精神衛生上良くない」

 僕の遠慮をばっさり切り捨てたダンジョンマスターが、ずい、と顔を近づけてくる。

「それとな、俺の名前はシバだ。マスターサマ、なんて呼ばれ方されると、なんだ、背中が痒くなる」

「は、はい」

 シバ様の手が《見習い魔法使いの杖》を掴み上げると、杖は光の粒になって消えてしまう。入れ替わりに現れたのは、小さな装飾品だった。細い銀色の鎖がついた、薄い透鏡(レンズ)を片目に当ててみせ、シバ様は口を開いた。

「《先見の片眼鏡フォアサイト・モノクル》。これなら能力値の制限なし、トト君のレベルでも装備できる。これをあげよう」

「本当ですか!」

 震える手で片眼鏡を受け取って、左目で覗き込んでみる。眼鏡とは言うものの度が入っているわけではないらしく、見える風景はいつもと変わらなかった。

「ただし、使用可能になる魔法は攻撃系でも補助系でもない」

「それでも、使えるようになるんですよね、魔法」

 シバ様は頷く。屈んでいた姿勢を戻し、空中の「何か」へと視線を向ける。

「《未来視(フォアサイト)》の魔法。片眼鏡に魔力を流し込むことで、確定している未来を見ることができる。どれだけ先を見ることができるかは、流し込んだ魔力の量によって変わってくる。トト君の魔力なら、最大で五日先、といったところか?」

 何だか凄い魔法だった。上手く使えば、敵の動きを先読みしてひらりとかわす、とかできるんじゃないだろうか。貴重な鉱石が埋まってる場所も事前に分かったりとか。

 僕の表情から何を考えているか察したのか、シバ様は軽く肩をすくめた。

「残念ながら、トト君自身の行動次第で変化する可能性のある未来は、一切見ることができない」

「……ええと?」

「戦闘や探索に活用するのは難しい、ということだ」

 そうでもない魔法だった。というか、途端に使い道が分からなくなった。

 僕が片眼鏡をポケットに仕舞い込んだのを見て、シバ様は宥めるように声をかけてきた。

「そう気を落とすな。もしかしたら何かの役に立つかもしれないし、地道に頑張ってりゃ他の装備も使えるようになるはずだ」

 そうは言っても、地道に頑張ってきた結果が、この現状なのだけど。

 シバ様はさらに言葉を続けようとしていたものの、鉱山の中から近づいてくる話し声に気付いて口を閉ざした。

《棍棒:見習い魔法使いの杖》

 必要膂力: 50.0

 装備者は《魔法:魔力弾》が使用可能になる。

 戦闘職向けの補助装備。


《装飾品:先見の片眼鏡》

 装備者は《魔法:未来視》が使用可能になる。

 流し込んだ魔力1点につき、1時間先を映し出す。

 装備から外すか、最後に魔力を流してから一分経過すると効果が終了する。

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