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狭間のトト  作者: 時雨煮
第四章
35/59

ギフト

 それから二日間、親方たちは果樹園の空き地に陣取って、あちこち歩き回っていた。

 特に行動を制限していなかったのだけれど、彼らが大樹の小屋に近づくことはなく、様子を探っては僕に助言をしてくれていた。

「猶予期間中じゃからの。迂闊に近づかぬよう言われておったのじゃろう」

「ああ、その通りだが。それで、強化するのはホントに鍬で構わねえのか?」

「剣やら斧やらはどうも合わぬようなのじゃ」

 ベリルは正体を隠し、僕の配下(ミニオン)のひとりとして彼らと交流している。ふたりはさっきから、カロッテの新しい武器について親方と意見を交わしているようだった。

「となると、頑丈さは必須だろうな。多少重くなっても、アイツなら問題ねえだろ」

「うむ、そうであるの」

 シバ様からの何通目かの《伝文(メッセージ)》がやってきたのは、そんな折だった。


【行使者 [Shiva] からメッセージが届いています。】


 視界の片隅に現れた白い封筒に意識を向けると、一枚の便箋が引き出された。目の前で広げられた便箋には「強化用の宝石(ジェム)はサンゲンに渡しておいてくれ」とだけ書かれている。その一文通りに、《保管庫(ストレージ)》に情報が追加されたのを感じた。

 宝石が五つに、装飾品がひとつ。これは何だろうか。

「えっと……《瞑想の紳士帽メディテート・シルクハット》?」

「なんじゃ、それは」

 右手の上に取り出してみると、見た目は確かに黒いシルクハットだった。効果を調べてみると、どうやら魔力の回復速度を高めてくれるらしい。ダンジョンマスターになってから魔力が枯渇することは無いのだけれど、緊急時には役に立つかもしれない。

 毎日《車輪(ルーレット)》を回していても、出てくるのは回復薬やよく分からない素材、小道具ばかりで、役に立ちそうな装備品は今のところ無かったし。

「……ありがたく、貰っておくかな」

 頭に乗せてみると、耳の部分がすり抜ける。兎人(ラパニア)でもちゃんと被れるようになっているらしい。

 一緒に送られてきた宝石のうち、緑色のものを残して親方に渡して、僕はシバ様に返すメッセージを考え始めた。


    ◇


 親方が《七色鉱山》への帰路についてから数日後。

 地下の二層目以降に防衛用の罠や魔物を配置したり、最深部に避難用の部屋を用意したりといった作業を一通り終えて、僕とベリルは小さなテーブルを挟んで向かい合っている。

「あと三日も無いのなら、わっちは別に待っても構わんのじゃが」

「大丈夫だよ。ギリギリまで粘ってると、そこを狙われるかもしれないってシバ様も言ってたし」

 余力がある、とアピールしておいた方がいいんじゃないかと、僕も思う。準備が整ったんなら、今度はベリルの願いを最優先で叶えるべきだろう。

 不安げなベリルを宥めつつ、左手を差し出して《秘本(ルールブック)》を開く。


 【猶予期間(モラトリアム)適用期間は残り約55時間です。終了しますか?】


 ここまで来て、迷うことは何も無い。

 意を決して承認すると、これで三度目になる、酷い頭痛が襲ってきた。


 【猶予期間を終了しました。奇跡行使者としての確定を確認。クラン機能を解放します。】


 【《権能:阿摩羅識アマラ・ヴィジュナーナ》を付与。成功。】


 僕とベリルに対する保護が消え去ったのを感覚で理解しつつ、銀髪の少女に向かって話しかける。

「《氏族(クラン)》機能、使えるようになったよ」

「そう、であるか……」

 目を伏せて何か迷っていた様子のベリルは、しばらくしてようやく顔を上げた。

「探してもらいたいクランがあるのじゃ。名前は──」

 頷いて応え、痛みを無視してクラン名を宣言する。

検索(サーチ)。《氏族》アガルタ」


【──検索完了。該当する《氏族》は現在、存在しません。】


 何も言えず、僕は首を横に振る。ベリルは「そうか」とだけ呟いて、椅子から立ち上がった。

《権能:阿摩羅識》

 《狭間(ヒアトゥス)》を変革するちから。

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