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狭間のトト  作者: 時雨煮
第四章
34/59

対決

 無骨な猪人(オーク)と遜色ない体格のニンジン的生物(クリーチャー)が、斧と鍬とで戟を交わしている。なんだろうこの絵面は。

 相手が敵でないことは、僕の話を聞いて理解しているはずなのに、カロッテも親方も構わず戦いを続けていた。親方はともかく、僕の配下(ミニオン)であるカロッテまで言うことを聞かないってどういうことか。

 戦闘用の斧相手にただの農具では分が悪いだろうと見ていると、僕の予想通り、鍬の柄を叩き折られてしまった。けれど、勝負はそこで終わらなかった。

「まだやれるだろう、なァ?」

「──!」

 互いに得物を放り出し、両手で組み合い始めたふたりに呆れていると、猪人のひとりが僕に耳打ちしてきた。

「ああなっちまうと気が済むまで止めねえと思うんで。えーと、トト様?」

「様付けとかいらないって。これまで通りでいいよ」

「そうっすか? じゃあ、坊ちゃんで」

 緊張を解いた彼は、背負っていた袋を地面に置いて、中を漁り始める。カロッテと親方の力比べはどうやら親方が優勢のようで、決着が付くのにそう時間はかからなさそうに見えた。

「ダンジョンマスターと友好的に接触できたら、こいつを渡すようにシバ様から言われてたんでさァ」

 手渡された小袋の中には、白銀色の小さな円盤が数枚入っていた。一枚を手に取って、注視してみる。

「《対話の代貨(チャット・トークン)》。十分間、遠方の《奇跡行使者》との対話を可能にする、か」

 試しに魔力を流し込んでみると、《秘本(ルールブック)》に見知った名前が現れる。彼と最後に話したのは、もう一ヶ月近く前になる。


【行使者 [Shiva] を呼び出しています。 ──接続しました。】


『もしかして、とは思ったが』

 目の前に浮かび上がった狗頭のマスターの幻像は、苦笑いを浮かべていた。

『本当にダンジョンマスターになっちまうとはなぁ』

「ええ、まあ、その」

 どう答えたものか言葉が浮かばなくて、無言で頭をかく。

『何にしても、元気そうで何よりだ』

「はい。シバ様も」

 シバ様の幻像は頷いて、話を続けた。

『新しい星とマスターが現れたってんで、《氏族(クラン)》の連中が興味深々でな。手始めに俺が代表して偵察隊を送ったってわけだ』

「偵察隊、ですか?」

 親方たちは確かに強いけれど、いきなり罠に引っかかったりしていたわけで、この人選はどうなんだろうか。

『トト君がそっちの方に向かって飛んで行ったところまでは把握していたからな。見知った顔が居た方がいいだろうってな』

「あー、なるほど」

『それにしても、えらく遠くまで行ったもんだ。もうちょっと近けりゃいろいろサポートできるんだが……』

「いえ、今のところ困ってないですから」

 手を振って遠慮する僕を無視して、シバ様は唸り始めた。

 そのまま腕を組んだり、顎に手を当てて歩き回ったりしていたものの、やがて諦めたように肩をすくめた。

『ま、その辺りは何か思いついたら、だな』

 シバ様が左手を振ったのに合わせて、頭の中にメッセージが届いた。


【行使者 [Shiva] からフレンド申請が届いています。承認しますか?】


 拒否する理由はない。承認すると、シバ様の情報が《秘本》に記載されていく。

『これで、こっちの連中のステータスも見えるようになったはずだ。邪魔じゃなければ、二、三日滞在させてやってくれ』

「えっと、寝る場所とか用意して無いですけど」

『野営できりゃ問題無いさ。食糧も十分にあるはずだから、気を使わなくてもいい』

「そうだぜ、トト坊。後はちょっくら探検させて貰えりゃ御の字さ」

 いつの間にかカロッテを下していた親方が、片腕を挙げて笑う。カロッテの方はといえば、地面に膝と両手をついて悔しがっているように見えた。地の利があったとはいえ、レベルの差は覆せなかったらしい。

「わかりました。じゃあ、適当な感じで」

『おう、頼んだぜ』

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