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狭間のトト  作者: 時雨煮
第三章
31/59

《大長虫》と《陽光灯》

 それから何日か後。大樹の根元で一息ついていた僕は、《農場(ファーム)》を見回しながら疑問を口にする。

生成(クリエイト)していないのに、雑草とか虫とか魚とか、何処から湧いて出てくるのかな」

「ダンジョンの法則が《虚海(ラウム)》の揺らぎに影響を受けるせい、らしいの」

 《車輪(ルーレット)》を回して手に入れた《初心者用釣竿(ビギナーズ・ロッド)》を片手に水路を覗き込んでいたベリルが、魚の影を探しながら返答する。

「お主やカロッテのような変異種が生まれるのも《虚海》の影響だと言うが。実際のところは、わっちにもよく分からぬの」

 そう締め括って、ベリルは顔を上げた。

「それで、カロッテの方はどうなっておる?」

「いま、第二層を見回り中。あちこち知らない穴が開いてるから、何か居るのは確かなんだけど」

 地下に食料庫と栽培室を作った後、より深い階層に防衛用の拠点を作るために、僕の時間に余裕があるときに少しずつ拡張を繰り返していた。

 そうして昨日、第二層の部屋や罠の整備をするべく《農夫人形(パペット・ファーマー)》を送り込んだのだけれど、僕が寝ているうちに何者かに壊されてしまっていたのだ。

 目を閉じて、カロッテに付き添わせている《人形》の視点で状況を確かめる。カロッテは両手で(クワ)を構えつつ、地下の通路を用心深く進んでいく。その背後を、照明を持った二体の《人形》がついていく。


 数時間かけて第二層をしらみつぶしに調べてみたものの、これといった成果は上げられず。無言で首を振った僕に気付いて、ベリルは釣竿を引き上げた。こちらも釣果はなし、のようだ。

「さて、モグラでもおるのかのう?」

「おびき出す餌とか用意した方がいいのかな」

 仕方なく帰還の指示を出そうとしたとき、いきなりカロッテが振り返って、視界から消え去った。カロッテが走り出したのだと理解するのに数秒かかって、僕は慌てて《人形》たちに後を追うように指示を出す。

 しばらく後、カロッテは行き止まりの部屋へと飛び込んだ。少し遅れて、《人形》が部屋まで辿り着いた。


 僕の背丈と同じくらいの太さの赤黒い肉の塊が、部屋を横切っている。表面のぬめりが角灯(ランタン)の光を反射していて、僕は思わず声を上げてしまった。

「うっわ……」

「む? 何かおったのか」

「ええと、《大長虫(ジャイアント・ワーム)》、だってさ」

 振り下ろされた鍬が、《大長虫》の胴体に突き刺さる。

 《大長虫》は体液を撒き散らしながら暴れ始めたものの、頭も尾も──どちらが前だか判別がつかないけれど──土の中にあるために、脅威になるような反撃にはなっていなかった。


 半日後。小屋の中。

 小さなテーブルの反対側で、よく焼けた肉の塊を美味しそうに頬張っていたベリルが、僕の視線に気づいて小首を傾げた。

「どうしたのじゃ。肉は食わぬのではなかったか?」

「ああ、うん。僕はいらないんだけど、そんなに肉に飢えてたんだなあって」

 カロッテが仕留めた《大長虫》は輪切りにされて、腐るといけないのじゃ、と僕の《保管庫(ストレージ)》に押し込まれた。

 焚き火で焼いただけの山盛りの肉を口に運び続ける少女を見ていると、そろそろちゃんとした調理場が必要だろうかと考えさせられる。

「肉ばっかりじゃ栄養偏るから、ちゃんと野菜も食べなよ?」

「わかっておるわかっておる。お主も煩いのう」

 ベリルは渋々立ち上がり、野菜の大皿へと手を伸ばした。


 綺麗にニンジンだけ残された大皿に一言物申すべきか、言葉を捜していると、ベリルの質問が先に投げかけられた。

「カロッテの傷は大丈夫かのう」

「地面に埋まりながら《陽光灯(サンライト・ポスト)》浴びてるから、じきに回復するんじゃないかな」

 カロッテの現状を伝えながら、僕は頭を捻った。《人形》に埋めて貰ったんだろうか。だとしたら、どうやって意思疎通したんだろう?

「……まあ、いいか」

 見た目はムキムキではあるものの、《人精草(マンドレイク)》は歴とした植物だ。光や水、土の中から栄養を得ていることには変わらない。成長促進のために設置した照明は、カロッテのお気に入りの場所のひとつになっていた。

「ところで、《陽光》って何なのか知ってる?」

「いいや、知らぬの。察するに、古語か何かではないかのう? 明るい光、といった意味の」

 そうなんだろうか?

 ダンジョンマスターになったら色々と知ることができるだろうと思っていたのに、実際には全然わからないことだらけだった。

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