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狭間のトト  作者: 時雨煮
第三章
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《秘本》と《車輪》

 呼吸を整えて立ち上がり、改めてベリルと向かい合う。いつの間にか、右目はまた眼帯で隠されていた。

「色々と見えるようになったのは分かる。けれど、なんて言ったらいいのか……情報が多すぎて、扱い切れない感じなんだ」

「ふむ」

 しばらく考え込んでいた彼女は、やがて諦めたように肩をすくめた。

「ま、なるようにしかならんじゃろ。一つひとつ確かめてみるしかあるまい」

「そうだね」

 僕が頷いたのを受けて、ベリルは自分の頭の上を指し示した。

「となれば、まずは《ステータス》かの。わっちの能力が見えるかの?」

 そちらに意識を向けると、軽い頭痛と共に「情報」が見えてくる。普通に見えているものとは別に、もうひとつ別の視界があるような感覚に、また少し気分が悪くなる。

「名前、ベリル。種族、コモニア。うん、なんとか見えるみたいだ」

「よかろう。では次じゃな。確か、左手の上に《秘本(ルールブック)》、右手の上に《車輪(ルーレット)》、じゃったか」

「《秘本》に、《車輪》ね」

 両手を前に差し出すと、古めかしい装丁の分厚い本と、ゆっくりと回転する円盤のイメージが浮かび上がった。


 右手の円盤をよく見てみると、外周近くにいくつもの数字らしき記号が小さく刻まれていた。

「《車輪》。あらゆる偶然を司り、《奇跡》の結果を決定づける。か」

 続いて左手に視線を向ける。分厚い本はひとりでに開いて、中身を僕に見せてくる。

「《秘本》。あらゆる必然を司り、《奇跡》の行使を可能とする。現在使用可能な奇跡は──ッ」

 遠慮なしに流れ込んでくる大量の情報が、僕の思考を妨げる。

 目を瞑って意識を反らし、情報を遮断する。詰まっていた息を吐き出して、僕は途方に暮れた。

 本当に、こんなものを使いこなせるようになるんだろうか。


 あれこれと試行錯誤しているうちに、不要な情報を切り捨てるコツが、何となく分かってくる。

 それでも時折やってくる頭痛を我慢しながら、《秘本》の情報を整理していく。

「現在使用可能な奇跡は、《生成(クリエイト)》、《調整(カスタマイズ)》、《車輪(ルーレット)》の三つ、か」

「それだけか? 《氏族(クラン)》については書かれておらぬか?」

 やきもきした様子で、ベリルが横から口を挟んでくる。《氏族》とは確か、ダンジョンマスター同士の同盟のようなものだったか。

 奇跡以外の情報を探して本をめくっていくと、それらしい記述を発見した。

猶予期間(モラトリアム)中は《氏族》機能を利用できません。だってさ」

「ああ、そうか、そんなものもあったかのう……」

 当てが外れたのか、銀髪の少女は悔しそうに俯いてこぶしを握る。

「……マスター」

 きっと、僕に聞こえないように小さく呟いたであろう彼女の言葉は、しっかりと耳に届いていた。

 僕ではない誰かへの呼びかけを聞いて、僕はもう一度、本へと目を向ける。

「ねえ、猶予期間はすぐに終わらせられるみたいだけれど」

 はっと顔を上げたベリルだったものの、すぐに首を横に振った。

「駄目じゃな。猶予期間のうちに、マナを得るためのダンジョンを完成させねば、わっちもお主も長くは持たぬぞ」

「え、そうなの?」

 そんなのは初耳だった。ベリルは真剣な表情で言葉を続ける。

「ダンジョンマスターは、ダンジョンを運用して《虚海(ラウム)》からマナを手に入れ、ダンジョンコアに蓄積せねばならん。それが滞ればコアは消滅し、権能が失われるのじゃ」

「ええと、よく分からないけど……とりあえず、先にダンジョンを用意しないといけないってことか」

 そういうことじゃな、と彼女は頷いた。

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