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狭間のトト  作者: 時雨煮
第三章
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契約

「部隊からはぐれた雑魚ミニオンだとばかり思うておったが、存外に物を知っておるようじゃな」

 黒い眼帯を外し、露わになった右目はやっぱり、深緑色に輝く宝石だった。《虚海(ラウム)》から生まれ、ダンジョンマスターに力を与えるもの。ダンジョンコアの宝石が、妖しく誘うように光っている。

「それでお主、どうするつもりじゃ?」

「どう、って……」

「わっちには、急ぎ確かめねばならぬ事がある。そのためには、誰かと契約を結ばねばならんのじゃが」

 誰かとはつまり、僕のことだろう。他にこの場にあるのは、宙に浮かぶ岩と小型運搬艇(キャリア)だけだ。

「でも、いま会ったばっかりだし、それに僕なんかで──」

「ふたつばかり、先に言っておくことがある」

 僕の言葉をさえぎって、銀髪の少女は少し早口で話し始めた。

「契約を行えば、お主はミニオンではなくなり、他のマスターと同列の存在となる。ミニオンを復活させる《蘇生(リザレクト)》などの恩恵は失われるのじゃ」

「うん、なるほど……もうひとつは?」

 先を促すと、銀髪の少女は肩をすくめて、少し困ったように言葉を続けた。

「わっちと契約したとして、お主に与えられる奇跡の力は微々たるものじゃ。故あってわっちの力は大きく制限されておる。それでも、お主が構わぬと言うのなら……」

 彼女は立ち上がって、僕の方へ片手を伸ばした。

 その表情は真剣だった。僕は運搬艇を岩の近くぎりぎりまで近づけて、操縦席の扉を開いた。差し出された手を取って、運搬艇へと引っ張り上げる。


 助手(ナビ)席に立つ少女と、改めて向かい合う。汎人(コモニア)であるにも関わらず、僕と目線の高さが変わらないのだから、彼女はかなり幼いはずだ。白い肌、細い手足が病弱そうではあるけれど、身体の弱さなら僕も負けてはいない。

「僕の方こそ、君を失望させる自信があるんだけれどな」

「そうかの? であるなら、わっちとお主は似合いであろうよ」

 少女はそう言って、自嘲するような笑みを浮かべた。


「僕はトト。君の名前は?」

「ベリルじゃ。お主、契約に関してどれほど知っておるのかの」

「全然かな。そういうものがある、ってことだけしか知らないんだ」

 首を振る僕を見て、少女──ベリルはそうか、と頷いた。

「さほど難しい話ではない。お主の血を、わっちの宝石に注げばよいのじゃ」

「血、かあ……」

 ナイフなら《収納鞄(バッグ)》に入っている。しかし、血を流さないといけないとなると気が引けて、鞄を探る手が止まってしまう。

「何じゃお主、怖気づいたか?」

「そんなことないよ」

 うん、全然そんなことない。大したことじゃあない。

「だったら早うせぬか。注ぐと言っても、一滴二滴で十分じゃ。いつまでもこんな狭い処では敵わん」

 ベリルが座っていた岩は、いつの間にか《虚海(ラウム)》に沈んでしまっていた。仕方なく、《収納鞄》から取り出したナイフで指先を傷つけようとしていると、僕の両手の下に、しゃがみ込んだベリルの顔がぬっと現れた。

「ち、近いよ。危ないって!」

「ほれ。ここじゃ、ここ」

 右目を示して催促する彼女を無視し、覚悟を決めて刃を入れる。痛みと共に血の滲み始めた指先を、緑色の宝石に近づけた。

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