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狭間のトト  作者: 時雨煮
第二章
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《七色鉱山》ふたたび

 モーリィと名乗った青い甲冑のダンジョンマスターは、抵抗できない僕をひとしきり撫で回して、それでも満足できない様子で、

「なあ、君、俺んトコ来えへん? いいモン食わせたるよ?」

 などと誘われりしたものの、それはシバ様の後ろに隠れてなんとかやり過ごした。

 名残惜しそうにちらちらとこちらを振り向きながら泳ぎ去っていくモーリィを、運搬艇(キャリア)に戻った僕とシバ様は用心深く見送った。

「何であれで泳げるんでしょう」

「……わからん」


 《紺碧戦艦バルコ・デル・アズール》が十分に離れていったところで、シバ様は警戒を解いて、後に残された防衛用の柱を消滅させた。《虚海(ラウム)》の上はすっかり元通りになって、戦闘の跡はきれいさっぱり無くなってしまった。

「ああ、しかし、一年分は消費しちまったんじゃねえか……」

 さすがにマナが勿体無かったか、いや仕方ないと自問自答するシバ様の操縦は荒れていて、酔いそうになりながらも《七色鉱山(レインボウマイン)》へと辿り着いた。


 岩山の頂上、桟橋の上に降り立って、狗頭のダンジョンマスターは大きく伸びをした。背の高いシバ様にとって、小型運搬艇(キャリア)の操縦席は窮屈だったに違いない。

「それで、どうする? 《黄金都市(エル・ドラード)》に戻るんなら、《性能強化(エンハンス)》かけてやってもいいぞ」

 片道六日の道程を、一日とちょっとに縮めることができる提案にちょっと心が惹かれる。しかし、いま帰ったところで、また変わり映えのしない日々が待っているのは間違いない。

「……すいません。駄目じゃなかったら、しばらくここに居てもいいですか」

 僕の問いかけに、シバ様はふむ、と顎に手を当てる。

「姐さんからは好きにさせて構わないって言われてるが、猪人(オーク)の居住区に兎人(ラパニア)を放り込むってのもな……」

「僕は構いません。お願いします」

 頭を下げる。少しの間でも違う環境で過ごせれば、何かが変わるかもしれない、なんて甘い考えだとは思うけど。

「……わかったわかった。荒っぽい連中だが、そこは我慢してくれよ」

 そう言って、シバ様は第零層(エントランス)へと下る階段に足を向けた。


 以前使ったのとは別の《転送装置(トランスポーター)》で、シバ様と僕は《七色鉱山》の「居住区」へと転移した。

 洞窟内の広い空間は、壁面に埋め込まれた照明で明るくなっている。あちこちに開いている横穴は、別の広間や住居へと繋がっているらしい。

 いま立っている区画は、鉱山で手に入った鉱石や宝石を加工する職人たちが住んでいるという。

「親方はいるか!」

 シバ様の大声を聞いて、近くで僕たちの様子を窺っていた猪人のひとりが近くの横穴へと飛び込んでいく。穴の中で何やら問答があった後、ずんぐりした猪人が小さなハンマーを片手にのそりと姿を見せた。

「シバ様が直々にこんなところまで来られるとは、珍しいですな」

「作業中だったか? 悪いな、サンゲン」

 サンゲンと呼ばれた猪人は首を振って、ハンマーを腰巻に差し込んだ。

「いや、構いませんぜ。こいつで物分りの悪い奴の頭を殴るかどうかってところだったんで」

「くれぐれも、殺さん程度にな?」

 呆れた口調でそれだけ言ったシバ様は、僕の背中を押して前に立たせた。

「お前さんのところに、しばらくこいつを住まわせてやってくれ」

「わっ、と、トトです」

 値踏みするような視線を受けて、耳が垂れていく。そんな僕の様子を見て、サンゲンがにやりと口の端を上げた。

「ふむ……こりゃまた、食いでの無さそうなウサギですな」

「冗談だからな、気にするなよ。サンゲンもあまり怯えさせるんじゃないぞ」

「へい、合点でさ。悪かったな、坊主」

 サンゲンの笑顔もわりと凶悪な部類に入るんじゃないかと思いながら、僕は差し出された手を握り返した。

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