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狭間のトト  作者: 時雨煮
第二章
18/59

《紺碧戦艦》

 異変に気付いた虫人(インセクタ)たちが、武器を手に《紺碧戦艦バルコ・デル・アズール》から飛び出してくる。

 冷気に耐性でもあるのか、氷の上を柱に向かって突き進んでくる様子に、シバ様は舌打ちした。

「五番、六番、即時顕現(リリース)

 四本の白い柱の少し後方に、今度は黒い柱が出現する。近づいてくる虫人たちを、柱からの放電が襲う。何人か、白い柱まで辿り着きはしたものの、彼らも柱を破壊するまでには至らなかった。

「凄いですね……」

「そろそろ反撃してくるだろうけどな。ほら、来たぞ」

 《戦艦》の甲板に、大型の投石器(カタパルト)が押し出されてくる。虫人たちは手際よく準備を終えて、次々に砲弾を投射し始めた。

 最初の何投かを外した後、白い柱へと砲弾が命中する。やがて、根元に叩き込まれた弾が決定打になって、柱の一本が傾いていく。

「シバ様、マズくないですか」

「倒されるのは想定内だ。十一番から十四番まで、即時顕現」

 黒い柱の後方に、白い柱をもう一列出現させる。《星天図(ステラスコープ)》を見る限り、まだ出現させていない塔は残っているけれど、シバ様の表情は固い。左手に視線を向けて、眉根を寄せて低く唸っている。

「さすがに、即時顕現はマナを食い過ぎるな」

 いいとこ見せようって張り切るんじゃなかったか、という小声の呟きまで、僕の耳にはばっちり聞こえている。

 そうこうしている間に、一列目の柱はすべて倒され、シバ様は苦い顔で雷の柱を追加した。


 《戦艦》からの攻撃が止まったのは、三列目の白い柱を出現させた後だった。

「大人しくなりましたね」

「ああ。《大梟(グレート・オウル)》と守備隊の連中を動員して、偵察部隊を全滅させたからな。これ以上は割に合わんと判断したんだろう」

 シバ様は運搬艇(キャリア)を降下させると、僕を引き連れて凍りついた水面の上に降り立った。《戦艦》の上で虫人たちが騒いでいるのを見て、僕はシバ様の背後に身を隠す。というか、寒い。

 しばらくして、《戦艦》の上が静かになったかと思うと、目の前に青い人影が飛び降りてきた。

「とぉう!」

 人影は、がしゃんとかばりんとか、そんな音を立てて着地して、片足を氷の中に突っ込み、もう一方の足を滑らせて。

 ちょっと真似出来ない格好で静止した。


 その人影──頭の天辺から足の爪先まで、全身を青い甲冑で固めた騎士(ナイト)風の人物は、何でもない様子で片足を氷から引き抜くと、埃を払う仕草をしながら僕たちの方へと近づいてきた。

「はあ、死ぬかと思た。洒落にならんわ」

 あれでどうして普通に動けるのか、中身はどうなってるのかと、逆に聞きたいところだ。若干引き気味にしながらも、シバ様は腕を組んで甲冑男を威圧する。

「お前が、ダンジョンマスター、ってことでいいんだよな?」

「ええ、そうでっせ。《紺碧戦艦》のマスター、モーリィと申します」

 それで、そちらさんは? とでも言いたげな仕草を受けて、シバ様も口を開く。

「名前だけは見えるだろう。俺はシバだ」

「いやいや、自己紹介は大切ですよって。それにしても、やけに手が早かったやないの」

 もう少し近づける思たんやけど、と悪びれずに言い放たれて、シバ様は鼻を鳴らした。

「残念だったな。まっすぐ引き返すなら見逃してやるが?」

「……しゃーないですなあ」

 甲冑男、モーリィが残念そうに首を振ると、背後の《戦艦》が少しずつ後退していく。巨大な構造物が丸ごと動いている様子が間近にあって、思わず口を開いて見入っていると、甲冑男の面頬がこちらに向けられた。

「それで、そっちのちっこいウサギさんは、あんさんの秘書か何かで?」

 シバ様は手を顎に当ててひとしきり悩んだ後、僕の方を見下ろした。

「……マスコット、か?」

「僕に聞かれても」

 何と答えていいのやら、だった。

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