タワー・ディフェンス
相手に気付かれないように、シバ様は小型運搬艇を上昇させ、照明を消して静止させた。
それからしばらくの間、《星天図》のあちこちを指し示しながら、近くの「ダンジョン」について解説していたシバ様が、手を止めて青い星の方を見る。
「来るか。暇潰しも終わりだな」
速度を上げてまっすぐこちらに近づいてくる青い星の下を、双眼鏡で確かめる。
星の光を反射して、真下の《虚海》が青く輝いていた。そこに揺らめいているのは灰色の混沌ではなく、透明な水の領域であることに気づいたのは、しばらく経ってからだった。
「水が、動いてる?」
「どんな仕掛けなのかは分からんが……やはり、ダンジョンを捨てて逃げてきたってわけじゃ無さそうだな」
青い水の上に浮かび、飛沫を上げながら近づいてくるのは、巨大な「船」だった。《黄金都市》の大型運搬艇より、何倍も大きなそれを見て、シバ様は忌々しげに目を細めた。
「大型船舶タイプのユニークダンジョン。《紺碧戦艦》、か」
《戦艦》の上から、いくつもの小さな影が飛び立っていく。それらは運搬艇のはるか下を、《七色鉱山》に向かって飛んでいる。
「通り過ぎちゃいますよ」
「どうせ偵察隊だ。放っといて本体を叩く」
翅を震わせ、編隊を組んで飛び去っていく虫人たちには構わず、シバ様は《戦艦》の観察を続けていた。
《戦艦》の上には、小さな建物が並び立っていて、幾つもの煙突が黒煙や蒸気を吹き上げている。
水の上を進む歪な鉄塊と、その上で輝く青い星はさらに近づいてきて、小型運搬艇の周りも明るくなってきていた。
「ここまで引き付ければ大丈夫だろう。そろそろ始めるか」
右手を前に差し出して指を鳴らし、シバ様は高らかに告げる。
「サブダンジョン《列塔回廊》、領域確定」
《虚海》の一部が、淡く輝き始めた。光っているのは広い長方形の領域で、《戦艦》の周囲も範囲内に収まっている。
「一番から四番まで即時顕現」
《戦艦》の進行方向に、四本の白い柱が競り上がってくる。柱は人の背丈の三倍ほどの高さまで伸びると、周囲に冷気を放ち始めた。
水面が冷気に触れ、見る間に白く凍り付いていく。
「七番から十番、即時顕現」
《戦艦》の左右にも二本ずつ、白い柱が現れる。正面の氷に乗り上げて、軋む音を立てながら《戦艦》は動きを止めた。




