クリエイト
《性能強化》によって、一人乗りの高速艇を超える速度を出し始めた小型運搬艇は、数時間後には《七色鉱山》までの距離を半分ほどにまで縮めていた。
銀色の星からの光によって、周囲がほんのすこしだけ明るくなってきたところで、僕たちは遠くに青い星が見えてきたことに気がついた。
運搬艇の速度を少し落として、シバ様が取り出した《星天図》を確かめる。紙面の端の方に、じりじりと動く青い円があった。
「十中八九、こいつだろう。どうやって移動してきたのかは分からんが、このまま放っておくわけにはいかんな」
どういうことだろうかと耳を傾ける。
「……ダンジョン同士が近づくと、マズかったりしますか」
「近づくほどダンジョンコアが互いに干渉し合って、不利益が発生する。普通はやらんのだが、こいつはそれを狙ってるのかもしれん」
「他にも理由が?」
「斥候を送らんと相手の状況は分からんが、所属している《氏族》が「ヴァルハラ」だってことは分かる。何か企んでると考えといた方がいい」
「《氏族》、ですか」
複数のダンジョンマスターの目的や利害が一致したときに、同盟の形で結成されるのが《氏族》であるらしい。《黄金都市》と周辺のダンジョンのマスターたちは同じ《氏族》に所属していて、互いの「ダンジョン」に不足している物資を取引したり、やり過ぎない程度に「ダンジョン」を攻略したりしているのだ、とシバ様は語った。
「メロウの姐さんがリーダーでな。この辺には《氏族》に所属していないマスターもいるが、ウチの方針には従ってる」
「ヴァルハラは、違うんですね?」
「ああ。奴らはあちこちのダンジョンを荒らして回ってる連中だ。姐さんのお陰で、この辺じゃ大人しくしてる……いや、してた、だな」
《星天図》をじっと睨みながら、シバ様は顎に手を当てて思案している。
「略奪が目的なら部隊を送りゃいい話だ。ダンジョンコアごとやってくるのは、別の意図があるのか?」
ぶつぶつと呟いている内容は、正直なところ理解できない部分が多い。僕なりに《七色鉱山》が狙われる理由を考えてみたものの、大したことは思いつかなかった。
「ダンジョンを乗っ取られたりとかは、しないんですか?」
「支配権を奪う方法はある。ただ、すぐ近くにいる姐さんが黙ってないって知ってるはずだから、いきなりそこまでは無いだろうな」
また唸り声を上げて考え込み始めたシバ様だったものの、すぐに肩をすくめて紙を丸め始めた。
「頭使うのは苦手だ。追い払っちまう方向で行こう」
針路を青い星の方に変えて、運搬艇は《虚海》の遥か上を飛んでいく。
シバ様からは《大梟》に乗って《七色鉱山》に行くことを薦められたけれど、僕は同行を願い出た。ここまで来たのだから、最後まで見届けたかった。
運搬艇がとりあえずの目的地に到着したのは、さらに数時間が経った後だった。
僕に《星天図》を預けたシバ様は、何やら準備を始めていた。左手を前に差し出して、《虚海》のあちこちに視線を向ける。
「生成、《氷の防御柱》。アップグレードは射程三段階。設置予約。生成、《雷の防御柱──」
シバ様の言葉に合わせて、手元の紙の上にいくつもの三角形が描かれていく。それらは《七色鉱山》を示す銀色の円と、青い円の間を遮るように、幾重にも配置されていた。
しばらくの間ためつすがめつした後、シバ様はふん、と満足そうに鼻を鳴らした。




