《星天図》
《大梟》の背から運搬艇の上に飛び移った狗頭のダンジョンマスターは、ハッチを開けて中へと入ってきた。
僕から動く星の話を聞いて、低い唸り声を上げる。
「竜にでも襲撃されたか? いや、そうとも限らんな……」
シバ様が助手席の前に手をかざすと、そこに大きな紙面が現れた。紙の上には格子状に線が引かれていて、色とりどりの小さな円があちこちに描かれている。
いったい何の図面だろうかと考えていると、紙面が僕の方へと寄せられた。
「近くにある星の位置を知ることができる《星天図》だ。ここが《黄金都市》で、こっちが俺の《七色鉱山》」
恐らく、ダンジョンマスターの目にはもっと詳しい情報が見えているんだろう。金色と銀色の円を順番に示した後、シバ様はその間の空白地帯を指し示す。
「今いるのがこの辺り。トト君が見た星は、向かって左の方から近づいてきたんだな?」
「はい。青い星でした。あっちの方に現れて」
僕が指し示した方角を見ながら手元の紙をぐるりと回して、シバ様は顎に手を当てた。
「……それらしい星は見当たらないな。まだ《星天図》の範囲外か」
「ほ、本当ですよ」
「わかってるさ。嘘つくためにわざわざここまで飛んでは来んだろ」
僕を安心させようとしているのか、笑顔らしき表情を見せてくるけれど、口の端から鋭い牙が見えている。
少しだけ思案した後、シバ様は《星天図》を丸めて消し去ると、僕に場所を替わるように促した。
「どうするんですか?」
「ひとまず急いで戻るとしよう。何にしても、先手を打っといた方がいいだろうしな」
操縦席に立ち、制御球に右手を置くと、シバ様は左手を胸の辺りまで上げて、そこにある「何か」を見下ろした。
「──《性能強化》、発動。五倍、十時間」
何をしたのか聞く間もなく、動力機関の立てる音が大きくなる。小刻みに揺れ始めた運搬艇の中で、凶悪な笑みを浮かべる狗人がひとり。
「よし。久々に飛ばしてみるか」
「えっ」
しっかり掴まってろよ、という声が耳に届くよりも前に、想定以上の加速によって僕の身体は背後の壁に衝突した。
《奇跡:性能強化》
ダンジョンマスターのみ使用可能。
対象となった物品の能力を一時的に強化する。消費マナは持続時間と強化係数を元に算出される。
小型運搬艇
定員2名。巡航時速10ノティカ(15km)
細長い機体の前部に操縦室、中央に仮眠室、後部に動力機関と格納庫が配されている。




