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狭間のトト  作者: 時雨煮
第二章
14/59

《虚海》を飛ぶ

err.log


3904.07.15 08:00:01

【メッセージID:24003は宛先不正のため送信に失敗しました。8時間後に再試行します。】

 《虚海(ラウム)》の上にも、風は吹く。混沌の揺らぎが積み重なって、時として強い空気の流れになるのだ。

 見張りの当番のときにも感じていたことだけれど、自分で運搬艇を操縦して《虚海》を飛ぶとなると、それを一層強く実感することになった。

 三度目の仮眠の後、操縦席に戻った僕は、目的地である銀色の星を確かめた。

「……また、流されてる」

 正面にあったはずの星が、わずかに左へとずれている。制御球(コントローラー)に触れて、慎重に針路を修正する。それから助手(ナビ)席に移動して、《星測儀(ステラメート)》を覗き込んだ。

「方角よし。距離は……七百ノティカ」

 耳が萎れる。計器に表示されている時間によれば、出発してからそろそろ丸二日が経とうとしている。それにも関わらず、道程の三割程度しか進んでいない。この調子で飛んだとして、最低でもあと四日はかかるだろう。準備に費やした一日分も加えれば、問題の「六日後」は《虚海》の上で迎えることになる。


 嫌な思い付きが頭をよぎる。《先見の片眼鏡フォアサイト・モノクル》の使用者が死んでしまった後の未来もまた、見ることができないのだとしたら?

 小型運搬艇に備え付けられている照明は、前方しか照らしてくれない。金色の星は遥か後方で、辺りは暗闇に包まれている。

 じわじわと締め付けられるような圧迫感を受けながら、僕は《収納鞄(バッグ)》から日誌を取り出して、今の状況を書き留めた。

 変わり映えのしない灰色の平面をずっと見張っていようにも、集中できる時間は限られている。何時間か後、僕はまた睡魔に襲われて、操縦席の後ろに置いてある仮眠用のベッドに潜り込んだ。


 時を告げる《黄金都市(エル・ドラード)》の鐘の音が聞こえた気がして、僕はまた目を覚ます。

 気のせいに違いない。そうは思っていても、僕の耳はそばだてられる。運搬艇の動力機関が立てる低い音とは別に、何かが風にはためくような音が聞こえないだろうか。

「……鳥の、羽ばたき?」

 口にしてようやく、その正体に思い当たる。少しずつ大きくなってくるその音に、僕は慌てて操縦席へと飛び込んだ。制御球に右手を置きながら、音の出所を探る。

 真っ暗な窓の外に、いくつもの羽ばたきの音。照明の角度を上に向けると、一瞬、大きな影が横切るのが見えた。

 いつの間にか、大きな鳥の群れにすっかり囲まれてしまっている。鳥たちは編隊を組んで、運搬艇からつかず離れず飛んでいるらしい。

 明かりの中に時折見える、獰猛そうなくちばしや鉤爪に身を縮こまらせていると、その中の一体がゆっくりと近づいてくるのが聞こえた。音の方に照明を向けると、大きな鳥の背に見覚えのある人物が跨がっているのが見えた。

「トト君、俺だ! ひとりでこんなトコロまで、一体どうしたっていうんだ?」

 ダンジョンマスターが「ダンジョン」から離れられるってことを、そのとき僕は初めて知ったのだった。

《星測儀》

 星の見える高さから、ダンジョンまでの距離を計測する道具。


ノティカ

 距離単位。1ノティカ≒1.5km

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