ひとりの決断
父さんの小型運搬艇に、必要になりそうな物を運び込む。
遠征隊に参加した報酬で手に入れた食料はまだ少し残っていたけれど、それとは別に保存の効く食べ物を市場で手に入れた。《収納鞄》に入れておけば腐らないというわけでもないので、食べ切れない分の《緑苔》は近所にお裾分けした。
運転席後方の休憩室に置かれていた《水生成》の装置が、問題なく動作することを確かめた。ついでに、先日のレースでどこかおかしくなっていないか、少しだけ試験飛行を行ってみる。
気にかかった部分を整備して、一息つくことができたのは、丸々一日以上が経った後だった。さすがに疲労が限界で、一眠りしようとベッドに潜り込んだ。
十二時を知らせる鐘の音で目が覚めて、僕は冷えた頭で考える。
「……何が、確実なもんか」
ひとりで《虚海》の上を飛んで、《七色鉱山》まで行こうだなんて。針路さえ決めてしまえば運搬艇は勝手に飛んでくれるけれど、辿り着くまで何日もかかる。寝ている間に何が起きるか分からないというのに。
巨大な「竜」に一飲みにされる運搬艇のイメージが頭に浮かんで、僕は耳を振ってそれを打ち消した。
そんなことはどうでも良かった。結局、僕は今の境遇を我慢できなかっただけだ。
僕自身が青い星のことを知らせに行けば、毎日《緑苔》を狩るだけの日々から抜け出せるかもしれない。そんなことを考えていたのだ。
けれど、ここまで来て止めるつもりはない。ナラカへの置手紙を書き上げて、僕は運搬艇へと乗り込んだ。
目立たないよう、高度を低く保ったまま外周部へと向かう。僕の心配を余所に、誰に見咎められることもなく、運搬艇は「下層区」を抜けて、《虚海》の上へと滑り出した。
金色の星の光が少しずつ薄れていく。もう少し進むまで明かりを点けるのは我慢しようと考えながら、頭上のハッチを開けて梯子を上る。運搬艇の上から、生まれ育った街並みを、並び立つ塔、不死鳥の宮殿を眺める。
もう戻れないかもしれない《黄金都市》の輝きを目に焼き付けてから、僕は運搬艇の速度を上げた。




