流れる星
左目から外すと、《先見の片眼鏡》の曇りはすっと消えていく。魔力を流し過ぎて壊れてしまった、というわけでは無さそうだ。
もう一度確かめてみようにも、魔力は空になってしまっている。《魔力回復薬》はもう一本残っているけれど、温存しておくことにした。あの味はしばらく遠慮したいし、一本だけでは回復量が足りない。
魔力が尽きた状態から完全に回復するまで、安静にしていても五時間はかかる。他にいい案も思いつかず、僕は港を後にした。
翌日。日課の苔玉狩りを休んで、再び桟橋に立つ。
片眼鏡を左目に。銀色の星をじっと見続けながら、ゆっくりと魔力を流し込んでいく。
魔力が底を尽き、視界の片隅に示された数字が五日を超えてからも、僅かずつ回復していく魔力を注ぎ込む。
五日と二時間。三時間、四時間。
じりじりと増えていく数字をちらと見ながら、《星天》を眺めていると、右目と左目の視界に僅かな「ずれ」が現れる。
魔力を止めないように気を付けつつ、「ずれ」が何なのかを確かめるべく視線を向けてみる。
《虚海》に近い、かなり遠方の青い星が、時間の経過と共に《星天》をゆっくりと横切っていく。青い星が向かう先には、さっきまで注視していた銀色の星がある。
しばらくして、青い星は急に速度を上げて──左目の視界は白く曇ってしまう。
「六日後、か」
数字を確かめて、片眼鏡を外した。
僕の行動次第で、六日後から先の《星天》は変化する。
深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
すべての星の下には「ダンジョン」があって、それは普通、《黄金都市》や《七色鉱山》のように動かない。ただし、それには例外もある。
ダンジョンマスターが別の場所に拠点を築くために「ダンジョン」を棄てると、ダンジョンコアの動きに合わせて《星天》の星も移動する。場合によっては、「ダンジョン」そのものが移動することもあるのだ、と父さんから聞いたことがあった。
どちらにしても、悪い予感がした。このまま何もしなかったら、シバ様に良くないことが起きてしまいそうな。
「ひとまず、誰かに知らせないと」
片眼鏡のことを話せば、ナラカは信じてくれるだろうか。仮に信じて貰えたとして、それからどうなるだろう。
「宮殿まで、報告が届くかな……」
金髪のダンジョンマスターが青い星のことを知ったからといって、果たしてそれがシバ様に伝わるかどうか。
──それよりも、もっと確実な方法があるんじゃないだろうか?




