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狭間のトト  作者: 時雨煮
第一章
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ダンジョンコア

 格納庫の中身を全部放り出してきたおかげで、中盤までの飛行は順調で、僕の小型運搬艇(キャリア)は中ほどの順位を保っていた。

 レースが終盤に差し掛かり、運搬艇は「上層区」の高い塔が立ち並ぶ区画へと入っていく。塔の間にあるチェックポイントへと直進する針路をとった途端、運搬艇が横風を受けてがたがたと揺れ始めた。

「《風精霊(エアエレメンタル)》、何体か待機してるな」

「そんなあ」

 《魔力特化》のおかげで有り余る魔力を持っていても、針路の細かい調整は得意じゃない。

 落ち着いてくれない制御球を必死に操作して、乱気流の回廊を通り抜けることだけに集中する。その甲斐あって、運搬艇は無事にチェックポイントを通過して──

「トト! まだ終わってないぞ!」

 狭い塔の間を抜けて、気を緩めかけたところで、ナラカが声を張り上げた。一度は落ち着いた揺れが、再び激しく襲ってくる。

「も、もう限界──」

「まだ行けるだろ、踏ん張れ!」

 そう言われても、僕自身の姿勢が安定しない。身体を支えていた左手が滑って、僕の身体は宙に浮いて。

 助手(ナビ)席から手を伸ばして僕を受け止めたナラカは、残念そうに首を振った。運搬艇は完全にコースを外れて、「上層区」のはるか上をゆっくりと旋回する。こうなってしまったら、リタイアするしかないだろう。

「しゃーねえ、なあ」

「すみません」

 このレースはダンジョンマスターも見ているわけで、いいところを見せたかったんだとは思うけれど、父さんが持っていたような操縦技能(スキル)は、僕には無いのだ。


 《黄金都市(エル・ドラード)》の中心にそびえ立つ宮殿の天辺にはいつも、緋色に燃える大きな鳥が止まっている。「下層区」からは小さな火の玉くらいにしか見えない鳥が、今はとても近くではっきり見ることができた。

「《不死鳥(フェニックス)》なんでしたっけ」

「そうだな。額に宝石が埋まってるの、見えるか」

 制御球を操作して、運搬艇を少しだけ宮殿の方に接近させる。眩しさを我慢しつつ目を凝らせば、確かに黄色の宝石らしきものが備わっているのが分かった。

「あれが、ダンジョンコアですか?」

「親父から聞いてたか」

 宝石の輝きに目を奪われながら、僕は黙って頷いた。


 「ダンジョンコア」。《虚海(ラウム)》から生まれ、ダンジョンマスターに強大な力を貸し与えるもの。《星天(ステラ)》に輝く星と同じ色の宝石を持ち、それが壊されない限り死ぬことは無い、らしい。

「そろそろ降りるぞ」

「はい」

 名残惜しいけど、いつまでも飛んでいたら邪魔になってしまう。僕とナラカを乗せた運搬艇は、宮殿を離れて外周の方にゆっくり降下していく。

「なあ、トトよ」

 ナラカを見上げると、真面目な顔がまっすぐ僕を見下ろしていた。少しだけ言い淀んだ後、彼女ははっきりとした声で僕に告げる。

「どうやらな、こんど、攻略隊に配置換えになりそうなんだわ」

「あー、はい」

 言わんとすることは大体理解できた。そうなると、僕はもう、遠征隊に参加できなくなりそうだ。

「こればっかりは何ともならなさそうでな。お前さんさえ良ければ、うちの家政婦とかよ」

「いえ、大丈夫ですよ」

 僕は首を振る。さすがに、そこまでナラカの世話になる訳には行かなかった。

《黄金都市》

 ダンジョンマスター「メロウ」が管理する広大な都市型ダンジョン。

 各所に食糧供給用のジェネレータが設置され、住人の多くはそこから現れる魔獣を狩って生活している。

 特に能力の優れた市民は中心部に住み、ダンジョンの探索を行う遠征隊や都市の防衛隊に所属する。

 地下にはオーソドックスな「迷宮(ラビリンス)」が存在する。

 ダンジョンカラーは金色。ダンジョンコアは不死鳥(フェニックス)

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