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#6・打開策

 

「ロイさん!」


 なんてことだ。

 まさか彼がやられるなんて。

 しかし、オーガが何かアクションを起こした様子はない。

 少なくとも防御や反撃をするそぶりなどは見えなかった。


 では、一体何が?


 ふとオーガの周りを見ると、なぜか無数のゴブリンが群がっていた。


 まさか。


「おいおいおい……んなこと本に書いてなかったぞ?」


 あぁそうだ。

 本には「ゴブリンを呼び寄せる(、、、、、)」としか書いていなかった。

「ゴブリンを生み出す(、、、、)」なんて、そんなこと、あるわけが無い。

 そう、あるわけが無いのだ。


 ……では、今目の前で起こっているのは幻なのだろうか。


 一体、二体……まだまだ増える。

 まるで、オーガの動きに呼応するかのように。

 気がつけば、先ほど倒したゴブリンと同じくらいの数にまで増殖していた。


「ふりだしに逆戻りかよ……」


 信じられなかった。

 ロイも、下から出てきたゴブリンには対応しきれなかったのだろう。

 不意打ちをくらい、やられてしまったようだ。


「コイツ、ヨワイ。オマエモ、ヨワイ」


 と、突如オーガが喋り出す。


 ……もう本なんて信じるか。喋るなんてどこにも書いてなかったぞ。


「……ヤレ」


 その一言が、ゴブリンたちへの合図となった。

 アメ玉に群がるアリのように、一斉にゴブリンが押し寄せて来る。


「くそッ!重圧(プレス)!」


 目の前の群れを岩の壁で押し潰した。

 同時に"火炎帯"であたりの敵を焼き尽くす。

 下から出てきたゴブリンたちは、"岩石槍"で全て串刺しにしていった。


 まさに魔法のオンパレード。

 休んでいる暇などどこにもない。


 手を止めれば、その時点で俺の人生は終了だ。漫画のように次回作に期待することもできない。

 ニーナとリッツは未だ敵の手中だが、まずはこの状況を打破しなければ。二人を助けたところで何の意味もないことは明白だった。


 大きく跳躍。

 そのまま真横に手を伸ばした。


「"岩石槍"(ストーンランス)×"火炎竜巻"(フレイムトルネード)ッ!」


 燃え盛る真紅の槍を放つ。


 着弾地点を中心に、大きな爆発が起こった。


 爆炎と共に敵の断末魔が洞窟に響き渡る。


 目の前にいた無数のゴブリンが、みるちる灰へと変わっていった。




 手応えは十分にあった。

 少なく見積もっても半分は片付けられたはずだ。


 ーーだが。


「嘘……だろ……?」


 煙の奥から現れたのは、先ほどのゴブリンたちを軽く超えるであろう大群だった。

 いや、もうこいつらは一つの軍隊と言ってもいいかもしれない。


 主に忠実で。

 各個体が武装し。

 たとえ死んでもまた新たな兵が生み出される。

 戦時中の日本軍みたいだ。


 何度殺しても無限に湧き出るのだから、軍の頭を直接叩かなければ勝機などあるはずがない。

 せめてニーナたちだけでも安全な場所へ行ってもらえれば、もっとスムーズに戦えるのだが……。


 その時だった。

 ゴブリンの群れを割る、一本の道ができたのは。

 その道は、ニーナとリッツに向かって真っ直ぐ伸びていた。

 布もないのに、真っ赤なカーペットができている。

 ふと見ると、さっきまで倒れていた老人が、いつの間にかいなくなっているではないか。


「ロイさぁん!」


 やってくれた。

 本当に、本当に頼りになる人だ。


 彼は数秒としないうちに二人の所へ辿り着き、まるでとあるゲームのように無双し始めた。


 あれだ、ロイ無双だ。

 今頃、彼には「○○コンボ!」なんて文字が見えているのだろう。


 こうやって見ていると、爽快感と共に、憎たらしかったゴブリンが少しだけ可哀想に思えてくる。

 しかし、今の今まで気絶していた人の動きとは思えない。

 ロイは、二人の命を背負いながら、それでも全く隙を見せずに戦っていた。


「ロイさん!先に二人を安全な場所へ!」

「わかりました!すぐに増援に来ますので、それまで持ちこたえていて下さい!」


 そのまま、ロイは洞窟を後にした。

 もちろん、後を追おうとするゴブリンはいなかった。

 そりゃあそうだろうな。俺がゴブリンならわざわざ死にに行くような真似はしない。


 よし。

 これでやっと心おきなく戦える。

 ふと懐をまさぐると、まだ魔石が残っていた。

 それらを全て使い切り、ポキポキと指を鳴らす。

 体中にエネルギーが巡っていくのがわかった。

 自分の鼓動の音が、うるさいほどに聞こえる。


 不思議と、今までの恐怖は無い。

 ただ単純に、負ける気がしなかったから。


「"岩石林"」


 ノーモーションで魔法を発動。大半のゴブリンを葬り去り、そのままオーガに接近した。

 股下に入り込んでも、奴は気づかなかったので、なるべく気づかれないように、残りのゴブリンを消し去った。

 それでも、まだオーガは気づかれない。

 仕方ないので、真下から"岩石槍"を唱えた。


 その声で、やっと奴は気づいたらしい。

 今自分が殺されかけていることに。


 たまらず空中へ飛んだオーガだったが、すぐさま体勢を立て直した。そして俺と距離を取り、またゴブリンたちを生み出した。

 倒しても倒しても終わりが見えない。

 先の見えない迷路に立っているようだ。




 ……もう、いいや。


 なんかもう、どーでもよくなってきちゃった。

 あれだけ頑張ったのに、結果が出ないなんて知ったら、やる気なんて無くなるに決まってるじゃないか。

 今まであれだけ熱くなっていたのが嘘のようだ。

 やりこんでいたゲームに飽きた、あの感覚と似ている。


 三人とも逃げられた。

 それでいいじゃないか。

 だったら。


「"粉塵炭"(パウダーチャコール)


 辺りに黒い煙を撒き散らす。

 舞い上がった黒粉は、太陽と共に、すぐに俺たちを覆い隠した。

 双方、敵が見えなくなる。




 これから起こるのは、マジックでも超能力でも何でもない。

 しっかりと証明された、ただの科学だ。


 敵が魔法を使うなら、俺は科学で対抗しよう。

 それが、俺なりの戦い方だ。


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