プロローグ
視界が歪む。夢でも見ているのだろうか。
世界が霞む。脳はどうにも状況を整理しきれていない。
必死に身体を動かそうとするが、まるで石にでもなってしまったかのように、ピクリとも動かなかった。
嫌だ。待ってくれ。まだやりたい事がたくさんあるんだ。伝えたいことだっていっぱいある。だからーー。
そんな願いとは裏腹に、意識はどんどん薄れていく。そしてついに、目の前は真っ黒になった。
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「はっ……!」
目を覚ますと、そこは何もない空間だった。
上下も無ければ、左右も無い。音も、光も。かろうじて見えるのは、自分の姿だけだ。
「お、気が付いたみたいだね。」
すると、暗闇の奥から、誰かが出てきた。全身真っ白なコーディネートがとても印象的だ。
「一体どうしたんだい?そんな怖い顔して。氷川継太君。」
俺ーー氷川継太は、そう聞かれてもまだ、警戒の姿勢を解かなかった。
「……おかしい。ここどこだ。てかお前誰だよ」
「はっはっは。うん。そうだね。焦るよねー。わかるわかる。まぁ、座ってよ。お茶も何もないけどさ」
俺は訳が分からなかった。
何故俺はこんなところにいるのか。というか、そもそもここはどこなのか。
こいつは誰なのか。
能天気を装って、油断を誘っているのか。
どちらにしろ、信用することはできなかった。
だが、そんな俺の気持ちなど露知らず、白服の彼は話を進めていく。
「さて、継太君。突然だが、君には異世界へ旅立ってもらう」
「はぁ!?なんで俺が!?」
「なんでって?くじ引きで当たっちゃったからだよ。
大丈夫。いずれ来て良かったって思えるから」
彼はにっと笑った。やはりこいつは訳が分からない。
「ちゃんと元に戻れるんだろうな」
「なーに、君なら平気さ。
やってもらうことだって難しい事じゃない。ちょいとその世界を救ってくれれば、それでいいよ」
世界を救え、とは簡単に言ったものだ。そんな容易なことではない。
「大丈夫。君には一つハンデをあげよう。だから、安心して行っておいで」
笑顔で俺の肩を押す。すると、真っ黒だった空間が、粉々に砕け散った。
足場が崩れ、崩落が始まる。
割れ目からは真っ白な世界が見え隠れしていた。
バランスを取れなくなった身体に、奇妙な浮遊感が訪れた。
「ちょ、待っーー」
すぐに手を伸ばすが、掴んだのは空のみ。小さくなっていく彼を見ながら、俺は為す術もなく落ちていった。