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異世界流浪譚 ~傭兵と共に~  作者: ガキ坊
二章 諸国巡遊編
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魔物

昨日、誤って最初の方を投稿してしまい申し訳ありませんでした。

 魔物は初めにターシャ達団員達の傍へと降り立った。


「ドレ、相手ヲシテヤロウ。モットモ我ニ攻撃ガ通ジルナラバダガ」


 魔物の大きさは高さ約六メートルもあり、手にしていた槍、斧は大きさが桁違いであった。魔物はまず、ウォカやルーアに目をつけ、蔑むように言い放った。


「フム、ソンナボロボロナ武器デハ我ニカスリ傷一ツ負ワセルコトハデキナイゾ」


 ウォカやルーアはその魔物の異様な気配に圧倒され、数歩下がってしまう。しかし、すぐに気を引き締めて挑発し返した。


「へん、ただの木偶の坊じゃねぇか! この剣の錆になりな!」


 魔物は余裕の笑みを湛えたまま、ウォカとルーアに向き直る。その時、魔物の左右と後ろの三方からそえぞれ、ターシャ、ジャマン、エレインが攻撃を仕掛ける。


「隙がありすぎよ。大きいってだけで油断し過ぎじゃない?」

「大口を叩く割にこちらを警戒すべきだったな」

「久斗様の前で許しがたい発言ですわ。灰になりなさい、エクスプロージョン」


 ターシャの短剣が、ジャマンの剣が、エレインの火属性魔法が魔物に向けて放たれる。魔物の尻尾である蛇は自身に迫る爆発の火種に気付いたが、魔物自体は攻撃に全く気付いていなかった。

 しかし、ガキンと硬質の音を響かせてターシャとジャマンの攻撃は防がれ、爆発の火種も蛇が一睨みしただけで消滅させられていた。ターシャ達の攻撃を防いでいたのは背中に付いている三対の翼のうち、一番下段に位置している翼が自動で下りて来ていたのであった。

 

「なっ」

「そんな」

「嘘ですわ……」


 その音と結果に三人は目を見開き体を硬直させる。魔物は音がしたことで自身が攻撃されていることに初めて気が付き、にまにました笑みを浮かべながら説明する。


「我ノ翼ハ何物ヲモ阻ム最硬ノ盾ヨ。ソシテ」


 首を巡らし、エレインに向けて卑下た顔で追加の説明を行う。


「我ノ尻尾ハ魔法ヲ全テ無効化スル故、魔法ハ効カヌゾ。グワハハハハハ」


 高笑いする魔物に対してエレインに悔しがる様子はなく、逆に嘲笑(あざわら)いを返す。


「なら、これならどうです?」


 そう言うと、隣に来ていたジェシカに目配せをし、一緒になって詠唱を始める。


「汝は其の世界を構成せし元素、生命を全て凍りつかせし凍土の水よ、生命を全て燃やしつくせし燎原の焔よ。今二つの相反せしその力を用いて我らの前に立ち塞がりし敵を消滅させよ、フレアチックエクスプロージョン!!」


 二人が同時に詠唱することで魔術が発動し、まず魔物の周りに霧が発生する。すぐにターシャ、ジャマンが魔物から距離を取り、それに従うように他の団員も距離を取った。


「ム」


 魔物はその霧に一瞬戸惑うが、すぐに気を取り直して尻尾の蛇を使おうとする。そこに魔術が完成し、霧が爆発したかのように轟音と共に吹き飛んだ。


「ヌグアアアアア」


 魔物はその威力に悲鳴のような声を上げ、前足の膝を付いた。それを見た団員達が歓声を上げる。


「さすが!」

「ざまあみやがれ」

「偉そうに言ってた割に呆気ないですね」


 それぞれが好き勝手に魔物を罵倒していると、久斗が大声で全員に注意を喚起した。


「皆さん、まだ終わっていません。あの魔物は膝を付いている演技をしているだけです」


 その言葉に団員が驚いていると、魔物が笑いをかみ殺した声をだした。


「ククク、ソコノ坊主ハヨク分カッテイルデハナイカ」


 魔物はそう言うと徐に立ち上がり、槍と斧を構える。弓を持っている手と剣を手放していた手は胸のところで腕組をする。


「フム、死ヌガヨイ」


 言い終えると同時にルーアに向かって高速で近付き、槍を突きだした。ルーアは持っていた盾を掲げて防御するが、槍は盾の抵抗がまるでないかのように簡単に突き抜けルーアを串刺しにした。


「ゴフッ」


 ルーアは口から血を溢れさせ、盾を掴んでいた手がダラリと下がる。

 魔物は汚いものを見る目でルーア見やり、無造作に槍を振るいウォカに向かって投げ放った。ウォカは飛んできたルーアを反射的に抱き締める。そして、腕の中で命の灯が消えようとしている親友を見た。


「あ、ああ。る、ルーア?」


 目の前の現実が認められず、震えた声で名前を呼ぶウォカ。しかし、ルーアは焦点の合わない目を虚空に向けるだけであった。


「あ、あああああ!! 許さねえ、許さねえぞ」


 魔物を睨み付け、吠えたてるウォカを魔物は愉快げに眺める。


「コヤツノ盾ハ大シタコトガナイナ。全然抵抗ガナカッタゾ」


 馬鹿にするように喋り、そして、次いで構えていた斧を何の事前動作もなしに投げつける。ウォカはルーアを抱き締めていたが故に避けられず、目を固く閉じて覚悟を決める。


「危ない!!」


 しかし、斧はリンの土魔法で作り出した何層もの岩楯(がんじゅん)を突き破りながらもギリギリのところで止められる。その岩楯の量に魔物は感心した声を出す。


「ホウ、中々ノ魔力デハナイカ。コレハ実ニソソル」


 そうして魔物が自分が得る糧の事を思い舌なめずりをしていると、急に顔が歪む。


「お前の自慢の盾も大したことがないね」


 魔物が憎々しげに足元を見やると、そこには翼を断ち切り足も半分ほど切り裂いている久斗の姿があった。魔物はせめてものの抵抗に刃が抜けないよう筋肉を引き締める。しかし、久斗は抜くことが叶わないと判断すると、すぐに無手のまま魔物から離れた。


「小僧ガ!! 調子ニ乗ルナヨ」


 魔物はその久斗に向けて槍を突き出す。だが、その槍は久斗に当たることはなかった。槍の横合いからアルムが上手に剣を合わせて打ち落としていたのである。


「そんな単調な攻撃では当たりませんよ。ルーア殿に当たったのはたまたまです」


 アルムが涼しげな表情で言うと、魔物は顔色を真っ赤に染めて咆え猛る。


「グオオオオオオオオオ!!」


 その声に、アルムの動きが一瞬止まり、魔物はニヤリとして手を伸ばす。だが、今度はターシャから空魔法の支援をもらったフォクシがアルムの襟に噛みつき、そのままアルムを魔物の手の射程外まで連れていく。


「フォクシ、助かりました」

「ケン」


 アルムが礼を述べると、フォクシは一鳴きして魔物に振り返る。魔物は伸ばした手が何も掴めていないことに腹を立てて、フォクシを睨みつける。


「畜生如ガ我ノ邪魔ヲスルカ。ソノ身ヲ以ッテ償ウガ良イ」


 魔物は何も番えていない弓をフォクシとアルムに向ける。殆どの団員はその動作に怪訝な思いを抱いたが、久斗だけは不吉な予感に駆られ大声を張り上げる。


「皆、耳を塞いで!!」


 フォクシは耳を塞ぐことが出来ないため久斗が必死に空魔法で防音の膜に包む。その次の瞬間、魔物は弓の弦を力いっぱい弾いた。辺り一帯に野太い音が響き渡る。団員達は久斗の指示に瞬時に従い被害はなかった。しかし、唯一久斗の指示に従わなかった詩音はその音をまともに浴びていた。


「い、痛い、痛いよう。頭が痛いよう。ひーちゃん、た、たすけ、て……」


 それだけを呟くとガーゴイルにもたれ掛かるようにして倒れ込んだ。ガーゴイルは詩音の容態を確認するとすぐに抱きかかえ、離れた場所へと移動しようとした。


「あ、待て!」

「久斗君、あの子は後よ。今はこの魔物をなんとかしないと」


 詩音を抱えたガーゴイルが離れようとしていることに気付いた久斗は止めようとするが、すぐにターシャに止められる。その指摘が絶対的に正しいことを理解し歯噛みしながらもガーゴイルに背を向けた。

 久斗が詩音に気を取られている間も魔物は団員達に強烈な攻撃を仕掛けていた。


「当たるな! 必ず避けるんだ。そして、味方が避けられなさそうだったら援護してやれ!」

「離れていても弓の音に気を付けてください」


 ジャマンやアルムが必死になって魔物に張り付き、後衛に攻撃が行かないようにしていた。少し離れたところではジェシカがルーアの治療に躍起になっていた。


「く、傷が深すぎるわ。ウォカ、久斗君を呼んで。あたしじゃ助けられない」

「分かりました。久斗ー、こっちだ! 早く!!」


 久斗はターシャに前衛を託すと急いでルーアの元へと向かう。そして、駆け付けるや否や治療魔法を詠唱し始める。


「我願うは、全てを癒し活力を与えし力、生命を司りし水の元素よ、今その力を我に示さん、メディカルウォーター」


 久斗の治療魔法により、ルーアの外傷は全て綺麗に治っていく。その結果をきちんと確かめてから久斗はジェシカに後方に下がることを勧める。


「ジェシカ姉さん、今はルーアさんを連れて離れておいてください。もう魔力が殆ど尽きかけているのでしょう?」

「あらら、やっぱり久斗には見抜かれちゃうか。……仕方ないわね。それじゃあ一旦下がるけれど、絶対勝ちなさい」

「ん!」


 ジェシカの言葉に久斗は力強く頷き、魔物の方へと駆けていった。それを見送りながらジェシカはウォカに尋ねた。


「ウォカ、あなたはどうするの? あなたの実力だと前戦に出ることは叶わない。かといって後方から攻撃する力もない。いてもまた邪魔になるだけ。そういう意味ではコニーやキーラもそうだけどね」


 歯に衣着せぬ言い方にウォカは苦笑し、魔物と相対する久斗を見つめる。そして、静かに自分の想いを打ち開けた。


「正直、ここに残って何がしかの支援はしたいと思っています」

「そう、なら」

「でも! でも、俺がいることで、俺たちがいることで久斗やターシャさん達の邪魔になるのなら下がっておこうとも思います」


 ウォカが悔しげな表情で言い終えると、ルーアを担ぎあげて魔物を警戒しつつ後退を始める。ジェシカもそれに倣い、魔物に厳しい視線を向けながら後退を始めた。


――久斗、どうか無事に戻ってくるのよ。最悪の場合はあのSS級冒険者に頼ればいいのだから……。


 ジェシカは久斗に向けて祈るような視線を一瞬見せた後にウォカを手伝いながら下がっていった。






「く、この」

「たああああ!」


 アルムとジャマンがそれぞれ自分の武器に魔力を乗せて攻撃する。ガアンと甲高い音を響かせて自動防衛する羽にはうっすらと傷が付いていっていた。魔物はそれが気に食わずに二人を排除しようと両手を使い追い払うように攻撃を加えていた。


「ヌウウウ、邪魔ダ!」


 鋭い音を立てて必殺の拳を振るう魔物に冷や汗を掻きながらも紙一重の所で避けていく二人。そこにターシャが参戦し、魔物はより苛立たしげに咆える。


「ヌウ、下等生物風情ガアアアアアア!!」


 更にはそこにフォクシが足元を撹乱し、リンが闇属性魔法で視界を奪い、エレインが火属性魔法の爆発で武器の軌道を逸らす。。リンの魔法は尻尾の蛇にすぐに解除されるが、ターシャ達はその一瞬とエレインの援護を上手に使い魔物の攻撃を避けていっていた。

 キーラ、コニーは攻撃、支援の手立てが思い浮かばずに右往左往していた。そこに久斗が近寄る。


「コニーさん、キーラさん」


 名前を呼ばれた二人は近付いてきている久斗に気付いた。そして、すぐにコニーがルーアの容態を聞く。


「ちょっと、ルーアは大丈夫なの?」

「はい、なんとか命は取り留めました。ただ、今も昏睡状態のままですのでジェシカ姉さんやウォカさんに頼んで後方に下げてもらっています。そこでお二人にお願いがあります」


 二人はちらりと魔物の方を警戒するが、魔物は決定的な攻撃をできずにいるターシャ達に意識を注いでいた。それを確認した二人は久斗に頷きを返す。


「わかったわ。何をすればいいの?」

「下がった三人のうちウォカさんと一緒になって残りの二人を護衛してほしいのです。残念なことに詩音は捕まえられませんでしたから、また魔物が呼び出される恐れもあります。だから」

「護衛をすればいいのね。確かにここにいても私達にできることはないもんね。悔しいけれど後は任せるわ」

「そうだね。リンちゃんが残っているのに、とは思うけれど足手まといなのは事実だもんね。分かったわ、団長の指示に従うわ」


 久斗の指示に二人は頷き、すぐに魔物を警戒しながらジェシカ達の方へと駆けだしていった。それを見送った久斗は魔物を鋭い視線で射抜く。魔物はそれには気付かずにターシャ達を相手に苛立ちだけを募らせていっていた。


「グウウ、チョコマカト」


 魔物は苛立ちのあまり、攻撃がどんどん大振りになっていった。その隙を見逃さずに久斗は魔物に近寄る。


「これで、はぁ!!」


 魔物の足に斬りつけたままの刀を再召喚する。鞘に納刀された状態で呼び出された刀を居合の要領で抜き放ち、尻尾である蛇を斬り飛ばす。魔物は斬り飛ばされた激痛に悲鳴を上げていた。


「ギャアアアアアア!」


 そして、素早い動きで後ろを向き、怒りを露わにした表情で久斗をねめつける。そして、怒りのままにその四本の腕を武器を持ったまま振りまわす。


「ガアアアアアア! 死ネ、死ネ、死ネ」


 しかし、久斗はその腕をかいくぐり逆に腕を斬りつけていく。斬るたびに腕からは青い血が噴出し、久斗を染め上げていく。

 また久斗に狙いを定めたのと尻尾の蛇が切り落とされたことでターシャやジャマン、アルムは背後から攻撃を仕掛ける。殆どの攻撃は自動防衛の翼に弾き返されるが、いくつかの攻撃が翼をかいくぐり魔物へと届く。魔物の体は翼ほどの硬度はなく、魔力をのせた武器によって傷をどんどんつけられていく。


「グウウウウ」


 魔物は埒が明かないと判断し、一旦翼をはためかせて空へと浮き上がる。そして、十メートル程の高さまでいくとそこで滞空しだした。


「フウフウ、我ヲココマデ傷ツケルトハ思ワナンダワ。特ニソコノ小僧ニハナ」


 魔物は久斗達を睥睨すると、忌々しげに呟いた。そしてふとあることに気が付きニヤリと笑いだす。その笑みに団員達は嫌な予感を感じ、構えに力が入る。その様子に久斗達があることに全く気付いていないことを悟ると大笑いを始めた。


「ガアッハッハッハ。貴様達ノ命運モ尽キタナ」

「キャア!」


 その言葉が終わるのと同時にリンの悲鳴が上がる。一番離れた所にいたリンの悲鳴に久斗達は慌てて後ろを振り向いた。

 そこには久斗が斬り飛ばしていた尻尾の蛇に巻きつかれて肩から胸にかけて咬みつかれているリンの姿があった。


「リンちゃん!」

「リン!!」


 久斗やターシャの悲痛な悲鳴が木霊する。その悲鳴を心地よく聞いていた魔物は久斗達に取引を持ちかける。


「我ノ尾ハ我ノ意思ニ従ウ自立思考ガアル。今ハハマダ咬ミ千切ラセハシテイナイガ、ドウダ、ソコノ娘ヲ助ケタクバ、武器ヲ捨テ抵抗ヲヤメロ」

「くそ!」


 ジャマンが頭を振り、久斗を見つめる。他の団員も久斗に視線を向けていた。絡みつかれ咬みつかれているリンもまた久斗を見つめていた。しかし、その瞳はあることを訴えかけていた。


――リンちゃん……。でも、そんなことをしたら……。


 リンの想いを汲み取った久斗は苦悶の表情を浮かべる。魔物はそれを愉快気に見ながら滞空しているのであった。




読んで下さりありがとうございます。

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