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異世界流浪譚 ~傭兵と共に~  作者: ガキ坊
二章 諸国巡遊編
65/69

突入

「皆、武器は持った?」


 ターシャの呼びかけにその場にいた全員が頷いた。


「ああ。しかし、こうなるんだったら武器も持ち歩いておくべきだったな」

「仕方ないですよ。この街は知事の意向で武器の携帯は極力避けるようにとのお達しだったのですから。無理矢理持っていってそれで捕まるような事があれば本末転倒ですからね」


 ジャマンの愚痴にアルムが突っ込む。それに苦笑してジャマンが言い返した。


「まあ、それはそうなんだがな。それでも一言言いたくなるのが人間だろう。ん?」


 その途中で自分たちに近寄ってくる人影に気付いた。遅れてターシャ、アルムも気付き、三人は武器を構える。

 しかし、そこにやってきたのはウォカ達であった。


「はぁはぁ、あれ? ターシャさんじゃないですか」

「それにそっちにはアルムさんにジャマンさんじゃないですか。一体どうしたんですか? 武器まで構えて」


 ウォカが三人に気付き、声をかける。それに続いてルーアも声をかけた。ターシャ達は人影がウォカ達四人であることに安堵し、武器を降ろした。


「どうしたもこうしたも、この街で起きている異変に対抗するために武器を取りに来たのよ。そっちこそ、走って戻ってきたという事は武器を取りに来たの?」


 息を整えたウォカがターシャの問いかけに頷いた。


「ええ、久斗からの連絡があって一旦こっちに武器を取りに行けと」

「そう、なら皆で一緒に行きましょう。途中で何かあるか分からないのだから別行動は危険だわ。構わないわよね?」


 ターシャは振り返りアルムとジャマンに聞く。二人とも異存はなく待ちの姿勢を見せた。そして、ジャマンがウォカ達に早くするように催促をする。


「向こうはたった四人だけで動いている。あの団長殿がいるから大丈夫だとは思うが、早めに戻る方がいい。だからさっさと支度してこい」


 歴戦の戦士であるジャマンの指摘にウォカ達四人はより危機感を高め、急いで宿屋へと入っていった。そうして、ものの五分も掛らずに準備を終えた四人は宿屋の外へと飛び出した。


「遅い、今から休みなしで戻るぞ。もし、はぐれても待ち合わせ場所は分かっているんだから放っておくからな。しっかりついてこいよ」


 ジャマンはそう言うと、ターシャに頷いた。ターシャはそれを見るとウォカと一緒に詠唱を始める。


「我願うは我らを御身と同化させし風の衣、その偉大なる力を我らに与えたまえ、ハイスピードアップ」


 詠唱が終わるのと同時にターシャ達七人に風の力が宿る。


「ではいくぞ」


 そうして、七人は隊列を組んだ状態で待ち合わせの場所を目指してザルツブルグの街を駆け抜けていくのであった。




 その頃、待ち合わせ場所に到着していた久斗達はその周りの魔物達の討伐に乗り出していた。


「エレインさん、リンちゃん、フォクシ。次は十一時方向から四体」


 久斗は探知結界を起動し、敵の探索に努めていた。その探索に引っ掛かったものの中で自分たちに近付いてきている魔物だけを撃退していた。


「了解いたしましたわ」

「任せて、お兄ちゃん」


 普段反目し合っている二人であったが、久斗が見ていることもあり息の合った連携を見せて魔物に魔法の波状攻撃を加えていた。囮となっているフォクシも二人の呼吸に合わせて動いていた。

 この時に来ていた四体の魔物もフォクシが囮となって撹乱し、その隙を突いてリンの地属性、そしてエレインの火属性の魔法で仕留めていた。


「……もう、この辺りでこっちに来ているのはいません。少し休憩しておいてください」


 久斗がそう声をかけると二人と一匹は少し疲れた様子で久斗の近くへと寄り、腰を下ろした。


「しかし、これでもう十体以上は仕留めましたわ。一体敵はどれほどの魔物を飼っているのかしら」


 エレインは腰を下ろした状態で疲れたように呟いた。その呟きを聞いた久斗はハッと気がついたように探知結界を用いて魔物の数を調べ出す。


――三十、四十、……百ほどか。やっぱりこれほどの魔物の数は飼っていられるはずがない。必ず誰かが気付くはずだ。ということはこの魔物達はまったく別の所から来ている? でもどうやってだろう。


 その時、フォクシの姿が目に入り、ふとした考えが浮かんできた。


――もしかして、この魔物達って召喚獣? だとしてもこんな数を召喚出来るなんて……。でも次々に沸いてきているんだから何処かから連れてきているとしか思えないし……。


 うんうんと唸っている横ではリンとエレインがどちらがより貢献したかでいがみ合っていた。


「ふふん、(わたくし)はあいつらを十体は焼き尽くしましたわ。すなわちそれほど敵を倒したのですから(わたくし)のほうが優秀ということですわ」

「ふん、おっぱいお化けが。それならあたしだってあいつらを十体は確実に串刺しにしているわよ」


 フォクシは我関せずと言いたげに欠伸をした後に、ぴくりと耳を動かした。そして、久斗の足に擦り寄る。


「ん? どうしたの、フォクシ」


 久斗が頭を撫でて聞くと、フォクシは首をある方向へと向ける。釣られて久斗もその方向を見ると数人の人影が見えていた。久斗は一瞬警戒するが、すぐに探知結界に引っ掛かっていないのに気付き警戒を緩めた。

 そして、ガチャガチャという音が聞こえてくるのと同時にその人影は久斗に挨拶をしてきた。


「良かったわ。無事だったのね」

「ターシャさん達も。道中魔物に襲われませんでしたか?」

「幾つか寄って来たのがいたけど、あっちにいる人が全て一太刀の下に切り捨てていたわ」


 ターシャはそう言って、ジャマンを指差しながら感嘆の吐息を溢した。ジャマンはウォカやルーアから色々と質問攻めを受けていたが、久斗の視線に気付くとこれ幸いとばかりに抜け出してきた。


「いやいや、若い奴は勉強熱心だな。で、団長殿はどういった用件だ?」

「いえ、今ターシャさんから聞いたのですが、魔物を全て一太刀で斬り伏せたとか」


 尊敬するような口調にジャマンはターシャを一睨みすると、誤解を解きにかかった。


「一太刀ではないし、全てでもない。ターシャ殿やアルム殿の支援が無ければ俺もずいぶん苦労しただろう。いやはや、今さらながらにこの傭兵団の凄さを思い知ったよ」


 おどけた口調で肩を竦めるジャマンの姿勢からそれ以上何も聞かないでほしいという意図を読み取った久斗は追及することはなかった。

 そうして、全員が揃い、休憩もある程度取れたところで久斗は全員を車座に集めてこれからの動きを伝えた。


「これより、僕達『彷徨い人の泊まり木』はあの赤い膜を目指します。道中に沢山の魔物がいるかもしれませんが寄って来たのだけ倒していきます」

「団長、ちょっといい?」

「はい、どうぞ、コニーさん」


 コニーは久斗が言い終わるのと同時に手を挙げて質問の了承を取る。そして、久斗が許可するとすぐに自身の疑問をぶつけた。


「あの赤い膜に向かうのはいいんだけど、街の人々はどうするの? ここに来るまでにも既に被害が出ていたと思うんだけど


 久斗はその質問に(こら)えるような顔で答えた。


「……街の人達についてはまだいるであろう傭兵や冒険者の方に任せるつもりです」

「そんな! いるであろうっていなかったらどうすのよ!?」


 コニーは驚きとともに久斗に異議を申し立てた。周りにいたウォカやルーア、さらにはキーラといった比較的若い団員もコニーと同様の想いを抱き、久斗に不服の目を向ける。

 久斗はそれを分かっていながら自分の意見を押し通そうとした。


「それでも、僕達はあの赤い膜を目指すべきだと思っています。多分あれが今回の事件の()です。それと合わせてですが」

「もういい! あたし達は独自で動くわ。行こう、ウォカ、ルーア、キーラ」


 踵を返して街の人々が避難している方向に動こうとした時、パチンとコニーの頬が(はた)かれた。


「痛っ。一体何をするのよ!」


 コニーは叩いてきた相手を睨みつける。しかし、叩いた本人は全く意に介さずに逆にコニーを叱り飛ばした。


「上の者の決定に不服を申すのはまだいいが、不服だからといって無闇に別行動を取ろうとするな! お前はそれでも傭兵団の一員としての自覚があるのか!」


 ジャマンのその言葉にコニーは涙を浮かべ、ウォカに縋りついた。ウォカは慰めたいとは思うものの、ジャマンの叱責の内容はもっともであったために動くことが出来なかった。ジャマンはその二人の様子を見て溜め息を吐いてから、諭すような口調で語りかけた。


「確かに指示系統に従えない時はある。死ぬのが分かってて突撃する時や自分の信頼が著しく損なわれる時がそうだ。だが、それ以外の場合はどんなに不満があろうとも従わねば傭兵なんぞは成り立たんのだ。お前の街の人々を護ろうとする心意気は買うが、今は団長殿の指示に従うんだ」


 それだけ言うと、ジャマンは久斗とターシャに軽く頭を下げてから元の場所に戻り座り込んだ。ターシャは自分がしなければならなかった憎まれ役をジャマンが買ってでたことに感謝し、頭を下げた。


「……コニーさん、確かに護るべき人を置いていくのは気が咎めますが、今回の事件は護るだけではいつか破綻すると思うのです」


 久斗の言い分にコニーだけではなく、他の団員も驚いた顔で久斗を見つめる。久斗は推測ですが、と前置きをして自身の考えを語りだした。


「多分あの赤い膜は召喚陣だと思うのです。今も探知結界を張っているので分かるのですが、魔物の数は少しずつ増えています。今分かるだけでも百五十はいるでしょう。ここまでの数をいきなり出すには召喚しかないと思います」

「じゃあ、あの赤い膜を潰せば魔物は消えるの?」


 黙って久斗の話を聞いていたコニーはすがるような声で聞く。しかし、久斗は首を横に振った。


「残念ながら送還の陣を敷いて送り返すか、倒すかのどちらかでないと駄目でしょう。実際にフォクシはそうですし」


 名前を呼ばれたフォクシが頭を上げる。久斗は何でもないという風に頭を撫でた。コニーは青ざめた顔で呻く。


「そんな、そしたら被害が……」

「そうだ、広がる。だが、団長殿が言う事が正しければ、被害はどんどん増えていくんだ。今は一刻の猶予もないんだ」


 ジャマンが苦々しげに言うと、久斗は頷いた。


「ジャマンさんの言う通りです。これ以上の問答は後にして、今は出来る限り早く行かなければいけません。それに」

「それに?」


 ターシャが不思議そうに聞く。


「冒険者さんならとびきりの人がいるじゃないですか。既に連絡入れてあります。あの人ならきっと護ってくれていますよ」


 あの人という言い方にコニーを始め、数人が眉根を寄せて考える。そしてすぐにあっ、と声を上げた。


「あのSS級の冒険者!」


 代表してコニーが叫ぶと久斗は頷いた。


「そうです。ですから僕達は後ろはあの人に任せてあそこを目指しましょう」


 あそこ、と赤い膜を見て立ち上がる久斗に、団員達もそれぞれ意を決めて立ち上がる。その中にはコニーの姿もあった。


「では『彷徨(さまよ)い人の泊まり木』出陣します。陣形は前衛がジャマンさんとターシャさん、さらにアルムさんお願いします。続いて中衛にリンちゃん、フォクシ、それとキーラさんお願いします。後衛にはジェシカ姉さん、エレインさんお願いします。そして、後ろから襲われた時の対処として殿(しんがり)にウォカさん、ルーアさん、コニーさんお願いします」

「久斗様はどの位置に?」


 久斗が陣形の配置を伝えると、エレインが尋ねた。それに久斗は刀を抜いて、言い切った。


「僕は先頭で道を切り開きます」


 しかし、それに異を唱える者がいた。


「久斗君は後衛でみんなに指示しなさい」

「団長殿は後衛で指揮を取ってくれ」


 ターシャとジャマンは、声が重なったことに顔を赤らめて口を手で塞ぐ。久斗は二人の意見に目を丸くして、そして苦笑しながら刀を納めた。


「じゃあ、お言葉に甘えますね。よろしくお願いします」


 久斗がはにかんで言うと団員達全員が頼もしげな表情で頷くのであった。





「九時方向から新手二、来ます。ターシャさん、エレインさん対応お願いします」

「わかったわ」

「了解ですわ」


 久斗の指示にターシャ、エレインが軽く返事をして討伐に向かう。久斗はそれを見送ることなく次の指令を出す。


「後ろ、六時方向より大型一、来ます。ルーアさんの盾で防いでその隙にウォカさん、コニーさんで攻撃してください。リンちゃんは闇魔法で援護を」

「任せろ」

「ルーア無茶するなよ」

「ほんとほんと。吹っ飛ばないでよね」

「援護、頑張る」


 指示を受けて四人が後ろを向く。すると、高さ三メートルほどの巨人が近寄って来ているのが見て取れた。四人は気を引き締めてかかろうとしたその時、巨人の足元から岩の槍が付き出てその場に巨人を縫い付けた。四人が反射的に久斗を見ると、親指を立てて自分の仕業であることを示した。四人は互いに頷き合うと連携を取って巨人へと挑んでいった。


「しかし、多いねこれは。後少しとはいえ、無事にたどり着けるかどうか」


 ジェシカが久斗に険しい顔で耳打ちした。久斗もそれを感じ取ってはいたが、進むしかないと思いそう答えていた。


「でも、もう少しで赤い膜に到着しますし、魔物の数自体も減っています。ここは進むしかありません」


 団員達の命を危険に晒すことを承知してのいるが故に厳しい顔をして言う久斗にジェシカはフッと口元を緩めた。


「そうね。ここまで来ちゃったら、もう下がることも出来ないものね」


 久斗の責任感の高さを知っているジェシカは久斗の想いを汲み取り、そう答えを返していた。そこにウォカが疲れた声で報告してきた。


「久斗、あの巨人は仕留めてきたぞ」


 久斗が振り返ると、盾をボロボロにしたルーアに疲れた顔のウォカとコニー。リンも若干しんどそうな顔をしていた。


「ありがとうございます。後はあそこまで突っ切るだけです」


 膜の所を指差す久斗に四人は気力を振り絞り、久斗の後に続いた。






 目標である赤い膜は既に目の前に見えており、魔物もあらかた片付いている状況であった。しかし、団員達の消耗も激しく、エレイン、ジェシカ、リンの三人は魔法を行使し過ぎて魔力が尽きかけていた。また前衛を担っていたターシャ、アルム、ジャマンも肩で大きく息を、殿(しんがり)を担っていたウォカ達三人も顔色を悪くしていた。


「皆さん、後もう少しです。魔物も今はいません。あそこまで駆け抜けましょう」


 そう言うと久斗は先頭を駈けだしていた。一瞬呆気にとられた団員達は、すぐに我に返ると久斗を追いかけていた。

 しかし、そこで赤い膜が震動し、新たに体長三メートル程の小型のミノタウロスが膜から出現する。そして、久斗達を発見すると雄叫びを上げて突進しだした。


「ブモオオオオオオオオオ!!」


 その雄叫びにウォカやルーア、コニーは一瞬身を竦めるが、久斗は意に介さずにミノタウロスに向かって駆けていく。 


「邪魔だあああああ!!」


 そして、裂帛の気合を放ちミノタウロスに居合を仕掛ける。鞘から神速で抜刀された刀はミノタウロスの肉厚な体を脇腹から肩へと切り裂いていく。


「ブモオオオオオォォォォォ……」


 ミノタウロスは絶叫を上げると、そのまま倒れ伏した。久斗は倒れ込んで来たのを察してすぐに飛びのき、下敷きになるのを避けていた。


「さぁ、今のうちに抜けますよ」


 そう言うと、赤い膜に近付き抜刀している刀で斬りつけた。膜は斬られるたびに蠢いたが、久斗は気にせずに斬り刻んでいく。そして、膜に人が通れるほどの穴が出来たところで中へと飛び込んだ。しかし、膜が顫動(せんどう)して閉じていこうとしていたために、久斗は団員達に向かって叫んだ。


「膜が閉じようとしています。早く! 早く!」


 団員達は力を振り絞って膜に空いた穴に飛び込んでいった。そして一番最後にルーアが飛び込むのと同時に膜はその穴を閉じてしまっていた。


「間一髪だったな」

「そのボロボロの盾はもう諦めたら?」


 ウォカとコニーが言うと、ルーアは首を振って否定した。


「これは大切な人からの贈り物なんだ。そうそう捨てることなんてできないさ」


 大切な人という言葉にコニーやキーラが喰いつき、わいわいと騒ぎだす。それを見ながらターシャは頭を抱え、ジャマンやジェシカは苦笑していた。そこに久斗の声が掛かる。


「さ、魔物が呼び出される前に行きますよ」


 その声で弛緩していた空気は瞬く間に引き締まり、団員達の表情には緊張が宿っていた。そうして、「彷徨い人の泊まり木」は周囲を警戒しながら天球状に張られた赤い膜の中心へと歩いていった。

読んで下さりありがとうございます

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