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異世界流浪譚 ~傭兵と共に~  作者: ガキ坊
二章 諸国巡遊編
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少女

「あの子がシオンなのは分かったけれど、久斗君が言っていた性格と随分違うみたいね」


 ターシャは自分達の旅の目的である人物が目の前にいることが信じられなかった。それ故に愚痴のように感想を吐き出していた。


「三年も経てば性格なんて変わるわよ、お、ば、さ、ん」


 挑発するように強調してからかう詩音をキッと睨み付けながら状況をどうやって打開するかを考える。そして、気配の主達が怯えている隙を突こうとするが、少女が手を上げると、ターシャ達を威嚇しながら移動を始める。


「逃がしてあげないわよ」


 クスクスと余裕の微笑を湛えて詩音は言う。その言葉を裏付けるように気配はぐるっと久斗達を囲む形で包囲していた。


「くっ」


 ターシャは悔しげに舌打ちした後に短剣を強く握りこむ。ジャマンも腹を決めて剣を構え直す。気配の主達は二人の決死の覚悟を感じ取り唸り始め、一触即発の状態となっていた。そこに久斗の悲痛な声が響いた。


「しーちゃん、やめて! 何でこんなことをするの?」


 その叫びに詩音は首を傾げる。


「何でって。ご主人様がそう言うからよ。ひーちゃんを連れてきなさいって。それに、用が終わればひーちゃんと一緒に日本に返してくれるって」

「なっ!?」


 その返事に久斗だけでなく、ターシャ、ジャマンも驚く。三人の驚きようが滑稽に見えた詩音は心から不思議に思い問いかける。


「何か問題でもある? あたしはその為だけに今までひーちゃんを捜していたのよ。そこの小父さんと小母さんはあたし達が家に帰るのを邪魔しないでね」


 詩音はそう言うと気配の主をけしかけようとした。しかし、その時、周囲を囲んでいる気配の主達の一体に炎の矢が何本と降り注いだ。その攻撃をまともに浴びた気配の主は抵抗する暇もなく息絶えていた。そして、すぐに発火しその場に残った物は灰だけとなっていた。突然の出来事に詩音が驚き声を上げる。


「な、なんなの! 誰がしたの!?」


 その答えとなる人物は素早い動きで久斗へと抱きついていた。


「久斗様ー。うーん、そうそう、この感触こそまさしく久斗様ですわ」


 答え――エレインは久斗に抱きつくとその頬を久斗の頬に擦りつけていた。久斗は自分の頬に当たっているのがエレインの頬であることに気付くと顔を赤くしてしまう。そこに()()の怒声が轟いた。


「この馬鹿エレイン、さっさと離れなさい!」

「そこの小母さん、ひーちゃんから離れろー!!」


 片方はそのままエレインの頭に拳を落とし、もう片方は硬いガーゴイルの体を思い切り叩いてしまい手の痛みから涙目になっていた。


「ふ、ふん。そこの小母さんもみんなみんな、ひーちゃんから引き離してやるんだから」


 詩音が涙目のままそう吠えると、エレインは叩かれたところを両手で押さえながら不敵に笑う。


「ふふふ、(わたくし)が何の勝算もなく出てくる訳がありませんわよ」


 エレインはそう言うと手を上空にかざして特大のフレイムボールを飛ばす。その炎の球はそのまま上空に向かって飛翔し、辺り一面を赤く染め上げる。

 詩音はその大きさに急いでガーゴイルの後ろに隠れたが、そのまま上空目掛けて飛んでいったフレイムボールを呆気にとられて見送った。そして、エレインのほうを見ると(あざけ)りの言葉を放った。


「ふん、大層なことを言った割には駄目駄目じゃない、お、ば、さ、ん。そんなことであたしから逃れられると」


 思ってるの、という言葉を発しようとしたその時、複数の場所から矢や魔法が射かけられ公園を色とりどりの光で染めていった。そして、その矢や魔法に狙われていた気配の主達は二匹ほどを残して全て討ち取られていた。


「な、え、え?」


 詩音は未だに状況の変化についていけずに目を白黒させていた。そこにエレインの馬鹿にするような声が耳に響く。


「あらあら、今のフレイムボールは合図だという事も分からないのでして? 案外察しが悪いのですわね。所詮小娘でしたわね」

「な、なんですって!!」


 その声に反応して激昂する詩音であったが、久斗の心配の色を灯した瞳を見て冷静さを取り戻した。そして、自分の戦力を瞬時に把握するとガーゴイルの背中によじ登った。ガーゴイルは詩音に頭を叩かれると、それを合図にして空へと飛びあがる。


「ふん、今日の所はこの辺にしておいてあげる」

「負け犬の遠吠えは恥ずかしいですわよ。素直に負けを認めなさい」


 詩音の負け惜しみに苦笑を浮かべたエレインが指摘する。それにムッとする詩音だったが、すぐに余裕の笑みを浮かべてから宣告する。


「もう怒ったんだからね。あまりやりすぎるなってご主人様が言ってたけど絶対許してあげない」


 最初の時のようにくすくすと笑い出す詩音にターシャが問いかける。


「一体何をするつもりなのかしら?」

「くすくす、それは明日になれば分かるわ。精々今夜一晩だけの安息を満喫しておきなさい」


 詩音がそれだけを言うと、ガーゴイルは空中で向きを反転させる。そして、動きだそうというときに久斗が叫んだ。


「待って、しーちゃん」


 すると、ガーゴイルは動きを止める。そして、詩音は振り返ると妖艶な笑みを見せて久斗に一時の別れを告げる。


「ごめんね、ひーちゃん。明日には迎えに来るから。すぐに助けてあげるからね」


 言い終えると、ガーゴイルの頭を叩く。すると、ガーゴイルは逃走を開始した。すぐにエレインが矢や魔法の追撃をかけようと合図を打つために手をかざしたが、久斗がその手を引っ張った。


「久斗様……、どうしてですの?」


 裏切られたという思いが表情に出ていたが、久斗は気遣う余裕もなく沈痛な表情のまま止めた理由を述べる。


「あの子が、あの女の子が『詩音』です。僕が皆に手伝ってもらって捜していた詩音です」


 エレインは告げられた言葉に絶句してしまっていた。





 その後、久斗は助けにきていた他の団員に礼を述べた後に大事な話がある、と言い、盗賊の処遇を決めるのに使った食堂へと戻って来ていた。一同が集まった食堂には当然のようにジャマンもおり、ウォカやルーアが不思議そうな顔をしていた。全員が勢揃いし席に座ったのを見計らって久斗が立ち上がる。


「では、急ですが『彷徨(さまよ)い人の泊まり木』の会議を始めたいと思います。まずはじめに先程の援護ありがとうございます」


 久斗は礼と共に深く頭を下げる。そして、頭を上げると公園の時のような狼狽した様子ではなく、毅然とした態度で話を進めていく。


「まず、そちらにいるジャマンさんですが、まだ正式にではないですが入団が決まりました」


 おお、とざわめく団員達。特にウォカとルーアは新しく入団するのが男性という事で諸々の事情から拝んでさえいた。それを見てしまった久斗は理由が分かるだけに苦笑してしまうが、そのまま進行を続ける。


「では、ジャマンさん、挨拶の一言お願いします」


 久斗に呼ばれたジャマンはすっと自然体で立ちあがるとぺこりと頭を下げる。そして、すぐに頭を上げて団員を見回しながら話し出した。


「みんな知っているだろうが、ジャマン=シェパードだ。元冒険者だが、考えることがあってこちらに入団した。これからよろしく頼む」


 簡素なあいさつを終えると、ぱちぱちとまばらな拍手が送られた。ジャマンは再度、軽く頭を下げるとそのまま着席した。


「ありがとうございました。これからよろしく頼みますね」


 久斗はジャマンに礼を述べると、表情を少し硬くして次の案件を口にする。


「では、次なのですが、先程の相手について説明したいと思います」


 ターシャやエレインは心配げな表情で久斗を見つめていた。ジェシカやリンはその二人の表情に嫌な予感を覚えながらも久斗の話に耳を傾けた。


「まず、先に言っておきますとあの少女の名前はシオン=ヒノ。僕がずっと探していた少女です」

「なんだって」

「おいおい、どういうことだ」


 団員達がその情報にざわめきだしたが、ジェシカがそれを一喝する。


「ちょっと、静かにしなさい! 話の途中よ」


 ジェシカの一喝に団員達は黙りこんだ。久斗はジェシカに向かって軽く頭を下げて礼を示すと、話を続ける。


「彼女は僕が彼女を捜したように僕のことを捜していたそうです。その理由ですが、僕の故郷へと帰れるからというものでした」


 久斗の「故郷」という言葉に再び場がざわつき始める。しかし、今度はジェシカが一喝する前に久斗は話を進め始めていた。


「ただ、彼女を保護してくれていた人物の命令ということもあるようです」

「お兄ちゃん、その人の所に行っちゃうの?」


 久斗の言葉に被せるようにリンが不安な表情を隠しもせずに問いかける。場は静まり返り、全員が久斗の返事を聞き漏らすまいと耳をそばだてた。

 久斗はリンのその表情に、そして周りの団員達の表情から自分がどれほど思われているのかを感じ取っていた。団員達の想いに嬉しさがこみ上げて来ていた。そして、その嬉しさから口元を緩めながらリンの疑問に答えた。


「少しは考えました。元々は僕も彼女と同じように日本に帰るつもりでしたから」


 団員達、特にキーラやコニーを除いた女性陣の顔が曇る。


「でも、行きません」


 その答えにリンやエレインは素直に明るい顔を見せたが、ターシャやアルムは不思議がり、その理由を聞いた。


「ねえ、久斗君。どうしてかな?」

「そうですね、理由の一つは、彼女のあの攻撃性です。彼女は三年前のあの日、はぐれる前はひどく優しい子でした。ですが、この三年の間に彼女に何があったのかは分かりませんが、今の彼女は非常に危険な考えを持っていました」


 その言葉にジャマンが思い出すように呟く。


「そういえば、すぐに殺す、殺すと口にしていたな」


 ターシャやエレインもうんうんと頷く。久斗はこくりと頷くと話を続けた。


「ええ。それは彼女を保護した人物の影響だと僕は思うんです。そんな危険な人物が僕に何の用かと考えると、とてもではありませんが付いていく気にはなれませんでした」


 団員達は再びざわめきだしたが、久斗がまだ話の続きをしようとしている気配を感じ取り自然に収まっていた。久斗は全員が黙ったのを確認してから口を開いた。


「それと、僕が行かない理由はもう一つあります。それは皆さんの事です」


 その言葉に、良く分からないとばかりにリンが尋ねる。


「お兄ちゃん、それってあたし達が邪魔ってことなの?」

「ちがうよ、リンちゃん。逆なんだよ」

「逆?」


 久斗はふっと温かみのある笑みを浮かべて団員の顔を一人ずつ見回していく。そして、自分の飾ることのない気持ちを口にした。


「僕は、皆さんの事が好きです。本当に勝手ですが、家族だと思っています。三年前のあの日、ネルバ村で拾われてから今までずっと助けてくれていた皆さんには本当に感謝しています。

 だから、その家族を置いてまで帰りたいとは思わなかったんです。僕は日本の子供、安堂久斗であると同時にこの傭兵団の団長ヒサト=アンドウでもあるんです」


 最後は揺るぎのない顔で言い終える。その横顔にターシャは表情を緩め、エレインはうっとりし、リンは見惚れてしまっていた。他の団員達も気恥かしさから目を逸らしたり、頬を掻いたりしていた。


「くくく、あーっはっは。いやー団長殿がこんなに面白いとは思わなんだよ。それで、あの子に付いていかないのは分かったが、これからどうするんだ?」


 ジャマンは久斗の告白に大笑いした後、表情を引き締めて問いかけた。そのジャマンの問いに他の団員もハッとして久斗を窺う。


「勿論、彼女、詩音は取り戻します。それがこの旅の目的ですから」

「素直にこっちに来てくれるとは思えないが……。まあ、団長殿にも考えがあるんだろう」

 

 久斗は即答したが、ジャマンは首を捻っていた。しかし、すぐに(かぶり)を振って疑問を打ち消した。その態度にエレインやリンがムッとするが、久斗が何も言わなかったため、行動に出ることはなかった。


「じゃあ、団長。今後はどう動いていくんだ?」


 ルーアが尋ねると、久斗は少し悩んだ末に答えた。


「今までのように、闇雲に捜すことは変わらない気がします。特に、彼女がご主人様と呼んでいる人物を見つけ出さないことには取り戻すのは難しいと思うんです。ですので、すみませんがこれからも各地を転々と移動していくと思います」


 申し訳なさそうな久斗にウォカが明るくとりなした。


「ははは、俺達は楽しんで旅をしているんだ。それに良い実践にもなっているしな。あまり気にするなよ」

「……ありがとうございます」


 久斗は改めて精一杯の感謝の意を込めて頭を下げた。それを全員が温かな眼差しで見守るのであった。





「今後の事もざっくりとだけど決まったんだから今日はこれで終わりか?」


 暫く誰も喋らなかい時間が流れたが、ルーアが気まずそうに尋ねるた。それに、久斗は険しい顔をして首を振った。


「いえ、まだ話はあります。詩音が今日の去り際に言ったことです」

「何を言われたんだ?」


 ウォカが聞くと久斗は険しい顔のまま答えた。


「彼女は『今夜一晩の安息』と言っていました。つまり、明日何かが起こるはずです。その何かは分かりませんが……」

「うーん、今日の事を考えるとその子絶対良くないことを企んでるわよね」


 キーラがそう言うと、久斗は暗い顔をして頷いた。


「はい、彼女は僕を連れていくと言っていましたから、合わせて考えると何かこの街に混乱を齎そうとしているのだと思います。そして、その混乱の隙に連れていくつもりなんでしょう」


 自分のせいで街に迷惑をかけることになりそうなのが久斗はつらかった。暗い顔をして俯く久斗を慰めようと数人の女性陣が立ち上がるが、その前にジェシカが抱きしめていた。


「はいはい、誰も久斗のせいだとは思ってないからね。それに元々明日はここの知事を逮捕するために必要な準備をするつもりだったんだから、そのついでに対処すればいいのよ。ね?」

「……はい、そうですね。ジェシカ姉さんの言う通りですね」


 若干の暗さを残してはいるが、久斗は護るという決意を持って顔を上げる。そして、その後傭兵団の面々にそれぞれの仕事を割り振り、最後に縋るように頭を下げた。


「どうか、よろしくお願いします」

「任せな!」


 異口同音に発せられた返事を久斗は心強く思うのであった。





「ふんふふーん、ふんふふーん」


 少女はご機嫌さを示すかのように鼻歌を歌いながら屋敷へと戻って来ていた。乗っていたガーゴイルは自らの影の中に収め、玄関の扉を開ける。


「お帰りなさいませ」


 そこには執事服に身を包んだ初老の男性が立っていた。少女はその男性を見ると鼻歌を止め、嫌悪感を丸出しに顔を歪めた。


「なに? 文句あるの?」

「いえ、滅相もありません。ですが部下の者より、お嬢様が例の秘書とお会いになってそのまま飛び去って行かれたとの連絡が入りましたので、こうしてお待ちしていた次第でございます」


 初老の男性は言い終わると一礼する。しかし、少女は男性を無視して屋敷の奥へと向かっていった。男性はそれを全く気にも留めず、すぐさま少女の後ろに付き従う。


「それで、例の秘書はお嬢様に何の御用があったのでしょうか?」

「何だったかしら、確か冒険者ギルドがここの知事を捕まえるとかどうとか」

「それで、お嬢様は何と?」

「ふん、明日、この街を恐怖に(おとしい)れるからその隙に逃げなさいと言っておいたわ。ああ、秘書はあたし達に付いて来てくれるそうよ。もうあの知事には飽き飽きなんだってさ」

「左様でございますか。(わたくし)共は何を致しましょうか?」


 そこまでずっと歩いて会話をしていた主従はある部屋の扉の前でピタリと止まった。そして少女は男性に振り返ると嫌味たらしく言い付けた。


「あんた達は適当にしておけばいいわ。明日はあたし一人でするから、助けなんていらない。分かったらどっか行って! 私はもう寝るから邪魔しないでね」


 精一杯睨みつけるとそのまま扉を乱暴に開けて部屋に入った。男性はその後に再び乱暴に閉められた扉に一礼してから来た道を引き返した。

 そうしてザルツブルグの夜が明けるのであった。

読んで下さりありがとうございます

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