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異世界流浪譚 ~傭兵と共に~  作者: ガキ坊
二章 諸国巡遊編
60/69

階位

「久斗、今戻ったわよ」


 宿屋の入り口で待っていた久斗にジェシカが明るい声をかける。


「お帰りなさい」


 久斗も嬉しそうな顔で挨拶を返した。それにクスクスとジェシカが笑う。


「確かに久斗のいる場所があたし達のいる場所だけど、お帰りなさいって。うふふ、あははは」

「ちょっとジェシカ、早く降りてくださらない? 私も挨拶がしたいですわ」


 笑っているジェシカの後ろにいたエレインがせっつく。笑いを苦笑に変えてジェシカは頷いた。


「はいはい、感動の再会の邪魔はしないわよ」


 そう言いながら馬車から降り宿屋へと入っていく。それを感動? と首をかしげて見送っていた久斗は急な衝撃に驚いた。


「ああ、久斗様の匂いですわ。もう四日も会えないというのは懲り懲りですわ」


 久斗に抱きついてうなじ辺りを嗅ぐエレインに、ターシャの鉄拳制裁がゴンと鈍い音を響かせて炸裂する。


「痛いですわよ、ターシャ!! それに、いつもいつも邪魔をしないでくださいな」

「それはこっちの台詞よ。あなたは毎回毎回会うたびに抱きついて。少しは学習しなさい」


 久斗から離して睨み合う二人をよそに久斗はウォカ達三人を労う。


「皆さんもお帰りなさい。まずは宿で一休みしておいてください」


 何事もないかのように言う久斗に、キーラが不思議そうに尋ねる。


「あれは放置しておいていいの?」


 あれと指差された二人はお互いに敵意をむき出しにして取っ組み合いを始めていた。久斗はそれを極力視界に入れないようにして答える。


「別に構いません。いつもの事ですから。皆さんもあの人達に付き合っていると疲れますからほっといた方がいいですよ」


 にべもない態度の久斗に一同は顔を引き攣らせた。それに気付いていながら久斗は気にした素振りもなく、あることを尋ねた。


「あの人はどこにいるんですか?」


 キーラはその尋ねに馬車の中を指差す。


「まだ馬車に乗っているわ。入る時に検査があって縛っていると変に疑われるから手枷は外してあるの。だから気をつけてね」

「分かりました。じゃあ僕は彼を連れていきますので、どうぞゆっくり休んでいてください。夜になってから報告を聞きますので」

「分かったわ。じゃあお言葉に甘えるわね」


 そう言ってキーラは軽い足取りで宿屋へと入っていった。コニーはウォカを一瞥してからキーラの後を追うように小走りに宿屋へと入り、ウォカは一瞥されたことに首を傾げてから久斗に手を振って中に入っていった。

 三人が中に入っていった頃、ターシャとエレインの戦いも終局を迎え、二人とも息を乱しながらその場にへたり込んでいた。そこに久斗が声をかける。


「ターシャさん、彼を連れていきますよ。早く来て下さい。エレインさんも今はゆっくりと休んでいてくださいね」

「はぁはぁ、わかった、わ。すぐ、に、行く、から」

「はぁはぁ、了解、いたしましたわ、久斗様」


 ターシャとエレインはお互いにお互いを睨みつけるとふらふらとした足取りで動き出した。

 エレインは宿屋へ入ると、中で待っていたアルムに連れられて自分の部屋に向かった。そして、宛がわれた部屋の中でアルムからある企みについて聞かされ、目を輝かせた。

 ターシャは久斗と共に馬車に乗り込むと、中でガタガタと震えて蹲っている盗賊の姿を発見した。


「なんで震えてるの?」

「いや、それを僕に聞かれましても」


 二人して困った顔をするが、何もしない訳にもいかず、ターシャが盗賊の近寄り屈みこんで声をかけた。


「ねえ、一体どうしたの?」

「ひ、ひいい。頼む頼む頼む」


 錯乱した様子に少し尻込みするが、女は度胸と自分を奮い立たせ、再度声をかける。


「ねえ、何を頼むの?」


 呼びかけるのと同時に肩に手をやると盗賊はハッとしたかのようにターシャを見つめた。そして、その両腕をがしっと掴み、懇願を始めた。


「な、なあ。頼むよ、ジャマンにだけは引き渡さないでくれ。あいつなら俺を殺すに決まっている。ならまだ役所に突き出されたほうがましだ。頼む、頼むよ」


 ターシャはその懇願に思わず久斗を振り返っていた。しかし、久斗はゆっくりと首を振ると盗賊に宣告する。


「あなたは自分がした事がどういう事なのかを分かっているようですが、でしたら尚更ジャマンさんに合わせない訳にもいかないことは分かると思います。その懇願はジャマンさんにして下さい」


 その宣告に盗賊はがっくりと(こうべ)を垂れる。ターシャは心を鬼にして冷たく言い放つ久斗に心が強く成長していることを実感した。そして、知らず知らずのうちに緩みそうになる頬をきゅっと引き締めるのに苦労することになった。


「あなたには今日の晩、ジャマンさんに引き合わせることになっています。それまで、大人しく部屋で待っていてください。さ、とにかく馬車から降りますよ」


 久斗はそう言って項垂れている盗賊を引っ張りながら馬車から降りた。そして馬車の片づけをターシャに頼むと盗賊用に取っておいた部屋に連れていった。


「では、夜まではここで待機しておいてください。もし逃げた場合は残念ですがこちらも強硬手段に出ないといけなくなりますので止めておいてくださいね」


 そして、部屋で待っていたルーアに声をかけた。


「ルーアさん、もし逃げる素振りを見せたら、これを使ってください」


 そう言って、ルーアに渡したのは小さな石であった。ルーアはそれがいったい何なのか分からず、矯めつ眇めつ調べていた。しかし、それでも何なのか分からず久斗に問い返していた。


「なあ、団長。これは一体どう使うんだ?」


 調べていた時の様子が滑稽だったために久斗は、ついつい笑いそうになる自分に耐えながら説明を始めた。


「それは連絡用に作った石です。魔力を通すと石に付与された連絡用の空魔法が発動しますので助けを呼べるんですよ」

「はー、魔力を込めやすい宝石とかじゃなくて、こんなそこら辺に落ちているような石に付与するなんて、やっぱ器用だな」


 その発言に久斗は手を振る。


「別段器用じゃないですよ。魔力があれば誰だって出来ますよ」

「いやいや。それは団長の桁違いな魔力量だから言えることだからな。ちなみにどれくらい時間が掛かったんだ?」


 久斗はキョトンとした後ですぐに答えた。


「大体、五分くらいですよ。ジェシカ姉さん達を待っている間に作りましたから」


 その回答に恐れおののくルーア。作った時間の短さもさることながらそれを簡単だと思っている様子に怖さを感じたのであった。


「はー、毎度毎度そうだが、団長と話していると常識がおかしくなっちまうな」

「それはちょっと言いすぎじゃありませんか?」


 不貞腐れてブスッとした久斗にルーアは笑いながら肩を叩いた。


「あ、あはは。すまんすまん。じゃあ、何かあればこれで連絡するよ」

「……お願いしますね」


 久斗は不機嫌さをあまり隠していない声で頼むと、大股に歩いて出ていった。





 その後、久斗は馬車を片付け終えたターシャと共に依頼達成の証を受け取りにリーダス達が泊まっている宿屋へと赴いていた。


「では、これが依頼達成の証になります」


 リーダスが差し出したのは赤色の宝石で、傭兵ギルドに依頼した時にギルド側から渡されたものであった。その石を久斗達が依頼達成の証にギルドに渡すと、リーダス側が支払っていた報奨金を受け取れる仕組みである。


「はい、確かに。……これからどうなさるのですか?」


 ターシャが石を受け取りしっかり確認すると、世間話を装って今後の動きに探りを入れる。それにリーダスは笑って答えた。


「はっはっは。これから向こうで仕入れた商品を売らなくてはいけませんからな。暫くはこの街に滞在する予定です。ですから依頼のほうはありませんぞ」


 ターシャは自分の考えが見透かされていたのを察して素直に引いた。


「いやですね、誰も依頼してくれなんて言ってないじゃないですか。でも、そうなりますと次にいつ会えるかは分からなくなりますね。どうかお元気で」

「ははは、一期一会と言いますからね。ですが、お互いこんな仕事をしていますと、そのうちひょっこり会えるかもしれませんよ。その時はぜひよろしくお願いしますね」

「ええ、その時はこちらこそよろしくお願いしますね」


 二人は朗らかに握手を交わす。それを横で見ていた久斗はリーダスに話しかけた。


「リーダスさん、どうかお元気で。それとどうもこの街はきな臭そうですから商売にも充分注意してください」

「ふむ、団長殿が仰るなら気をつけておきましょうか。団長殿もあまり気負いすぎずに、全てを抱え込むのは大人でも難しいのですから。これは団長より長く生きた取り寄りの助言です」


 リーダスは真剣な表情で久斗を見つめる。その瞳は孫を見つめるかのように温かさを秘めていた。久斗はこくりと頷き、次いで頭を下げた。


「肝に銘じておきます。ありがとうございました」


 リーダスはポンポンと久斗の頭を二度軽く撫でる。


「はっはっは。それではここらで失礼しますね。次の商談に備えて準備もありますので」


 そう言って、笑顔を崩すことなく宿屋の外へと歩いていった。リーダスが出ていった後、二人は顔を見合わせてお互いに感想を述べ合った。


「良い人でしたね」

「今回は依頼人は当たりだったのは確かね。というかあの人、久斗君の事を自分の子供か孫に思ってたわよ絶対」

「そんな、単に子供だったから色々と助けてくれてただけですよ」

「うーん、まあいいわ。それじゃああたし達も傭兵ギルド支部に寄ってから戻りましょうか」


 ターシャの提案に久斗はそういえば、と手を叩いた。


「そうですね。次の依頼についても確認したいですし」

「もう? 少しは休んでからにしないと皆文句言うわよ」


 久斗の台詞に呆れ声で首を振るターシャに久斗はははは、と苦笑してから付け足した。


「別にすぐ仕事の依頼を受けるつもりはありませんよ。でも、どんなのがあるかを見ておくのは悪い事ではないと思うんです」

「それはそうだけど。はあ、誰がこんなに仕事熱心にしちゃったのかしらね」

「誰でしょうね。それはともかく、傭兵ギルドに行きましょうか」


 楽しげにとぼける久斗に、ターシャも楽しげに話を返しながら二人は傭兵ギルドへと歩いていった。





「では、これをお願いします」


 傭兵ギルドに到着した二人は、そのまま依頼達成の受付に真っ直ぐ向かった。そして、そこでリーダスから受け取った紅い宝石を差し出す。


「はい、承りました。確認いたしますので少々お待ち下さい」


 受付の女性はそう言うと紅い宝石を持ってギルドの奥へと入っていった。そうして五分ほど待っていると女性は一抱えほどある袋を持って戻ってきた。そして、その袋を受付の机の上に置くと、久斗達に向かって話しかけた。


「確認が取れました。ドゥーオ商会からの依頼で護衛任務ですね。達成報酬のほうがこちらになります。それと依頼達成回数が規定回数に達しましたので階位を上げることが可能になりました。その際にはあちらの受付からお願いいたします」


 受付の女性の言葉に、久斗とターシャは顔を見合わせた。そして、女性から報奨金を受け取り礼を述べると、依頼を確認することなくすぐに宿屋へと戻った。





「みんな、朗報よ」


 宿に帰ったターシャはそう言って「彷徨い人の泊まり木」の団員に報告していった。皆はその報告を聞き、顔を綻ばせる。その時、リンだけは不思議そうな顔をして尋ねた。


「階位が上がったらどんないい事があるの?」


 リンに構っていたキーラやコニーは苦笑して説明していく。


「リンちゃんも今まで階位が上がった時にはいたでしょうに」

「だって、その頃は久斗お兄ちゃんばっかり見てたし……」


 リンはキーラの言い分に反論する。しかし、それにキーラやコニーがにやにやしだした。リンは二人のその態度から自分が何を口にしたのかを理解すると顔を真っ赤にさせて俯いた。


「いやー、あの頃からリンちゃんは久斗君一筋だったんだ」

「まあ、リンちゃんが入団した経緯はわからないけど、久斗君べったりで世話してくれてたものね」

「うう」


 そうして二人は思う存分リンを弄っていたが、ある時、リンが尋ねたことで風向きが変わる。


「コニーお姉ちゃんだって、ウォカお兄ちゃんとはどうなってるの?」


 ギクっとした顔をするコニーを横にキーラがリンにここに来るまでにあったことを教えていく。


「……でね、そのまま首根っこを引っ掴んで自分で用意した布団の所へ」

「うわ、うわ。コニーお姉ちゃんてすっごい積極的」

「でしょでしょ。それにね、その後も何かと」


 二人がわいわいと盛り上がっていると、コニーが顔を真っ赤にして叫びをあげる。


「も、もういいでしょ! 終わり、終わりー。この話は終わります」


 コニーの必死さに二人は呆れ笑い、そして話を戻すことにした。


「それじゃあ、ぷぷ、話を戻すことにして」


 途中一度だけ含み笑いをすると、コニーがすごい勢いで睨みつける。それを受けて表面上は真面目さを装いながら話を続けた。


「確か、傭兵団の階位が上がったらどうなるか、だったわね。色々恩恵はあるんだけど、一番分かりやすいのは依頼の種類よ」

「依頼の種類?」


 リンが首を傾げて聞き返す。それにキーラがそう、と頷いてから詳しい事を説明しだした。


「依頼と一言で言っても様々なものがあるの。今回私達が受けたような『護衛』の依頼。今までにも何回か受けた『討伐』の依頼」

「それに新しく発見された遺跡や地下迷宮に潜る『探索』の依頼に、戦争に参加する『参戦』の依頼ね」


 キーラの後を受け継いでコニーが言う。キーラは先を取るなと言いたげにコニーを軽く睨みつける。


「その四つだけ?」

「細かいものを出すとまだまだあるんだけど、主な依頼はこの四種類ね。で、ここからが本題なのだけど、今までの私達の階位じゃ護衛と討伐しかできなかったのよ」

「それが今回の階位の上昇で探索の依頼も受けられるようになったの」


 キーラに続いて、コニーが言う。その内容にリンはへー、と感心したように言葉を漏らした。しかし、リンはその探索の依頼については興味が出なかった。


「でもね、久斗お兄ちゃんの目的を考えたら探索の依頼ってしないんじゃないの?」


 久斗がどれほどの想いを懸けて幼馴染を捜しているのかを知っているリンとしては複雑ではあるが、目的に合わないものをするとは到底思えなかったのである。


「あー、まあそれもそうね」

「一応この傭兵団の目的は人探しだからね」


 二人は納得したように頷いたが、すぐに顔を上げて明るい声を出した。


「でもでも、階位が上がる特典は何もそれだけではないわ。何より、報酬も上がるはず」

「そうそう、つまりは私達への分け前も上がるということよ」


 そう明るい声を出し、分け前が上がったら何を買うかなど姦しく相談する二人にリンは、久斗お兄ちゃんが依頼人から報酬を過剰に受け取るか、なと冷めた目を向けるのであった。

階位=ランクです。表現を変更致しました。過去の者も随時変更していきます。

読んで下さりありがとうございます。

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