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異世界流浪譚 ~傭兵と共に~  作者: ガキ坊
二章 諸国巡遊編
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断念

 とある山中にある洞窟を前にしてジェシカを始めとした数人の姿があった。分隊として久斗達本隊から分かれて既に二日が経過していた。


「さて、ここであってるの?」

「ああ、ここが俺たちの根城だ」


 ジェシカが確認をとると、両手を背中で縛られた盗賊が肯定する。その顔には諦めの色が濃く、投げ遣りな口調だった。


「意外ときれいにしてたんだね。臭いとかもそこまで酷いものじゃないし」


 キーラが自分が思っていたよりも清潔であったことに驚きの声を上げる。それに盗賊は懐かしむように遠い目をして答えた。


「前頭領がきれい好きだったからな。厠もわざわざそっちの森に作ったくらいだ」


 盗賊はそれ以外にも、ザラック達を襲撃して久斗達に討ち取られた頭領がどれだけきれい好きで、どうやって清潔を保ったのかを自慢げに話した。


「――とまあ、こんな感じだ。だから中はまだまだ清潔なはずだぜ。もっとも、もう使う奴はいないけどな」


 最後にそう言って自嘲の笑みを浮かべるのであった。それを横で聞いていたジェシカは一つ疑問を抱いた。


──どうして、盗賊ごときがこれ程まで清潔さに気を使ったのかしら。いくらきれい好きだからってここまで出来る筈がない。だとすれば……。


 そして、自分の推測を確かめるために盗賊を問い詰めた。


「ねえ、あなたが言うその前頭領って何者なのかしら?」


 盗賊はきょとんとした顔を見せた後、頭を捻った。


「いや、俺は最初からいた訳じゃないし、それは何とも。でも、時々前頭領が街の方に出向いていたって話があったっけか」


――お尋ね者の盗賊が街に? 捕まりに行くようなものじゃない。なんだか怪しいわね。


「ねえ、今回のザラックさん達を襲ったのはその頭領が言ったの?」

「ん、ああ、そうだよ。俺たちの襲撃はいつも前頭領が情報を仕入れてきてくれてたからな。俺たちはそれに従って商隊や旅人を襲ってたんだよ」


 誇らしげに答える盗賊にエレインが怒気を孕んだ声で注意する。


「あまり迂闊なことは喋らないほうがいいですわよ。息の根を止められたくなければ、ですが」

「ヒイ」


 盗賊は震え上がって、その場に屈みこんだ。エレインやコニー、キーラがそれを蔑みの目で見ていた。ウォカは我関せずとばかりに辺りを警戒し、ジェシカは困ったといった(てい)で肩を竦めるのであった。


「とにかく、あなたの言う事が本当なら、その前頭領が街の上役と繋がりがあったと考えるべきかしらね。その行っていた街の名前は?」

「ひ、ひい、殺さないでくれ」


 ジェシカが話しかけると盗賊は怯えて懇願の声を出す。溜め息を一つ吐き、再度問いかける。


「もう、誰も殺さないわよ。それより、街の名前よ。その前頭領って人物がいつも行ってた街の名前を教えなさい」

「は、へ、ま、街の名前?」

「そうよ」

「そそ、それは俺にも、わ、分からねえよ。前頭領は、いいいつも一人で馬に、乗って、出かけてたんだ」


 がたがたと震えていたが故に噛みながらの返答ではあったが、盗賊はきちんと答えていた。それを聞いて落胆するジェシカ達。しかし、その次に喋った情報に顔を明るくした。


「で、でも前頭領は日記みたいなものを書いてたと思う。部屋に、あ、あるんじゃないかな」

「ジェシカ」

「ええ、そうね。これはぜひ中を探索してみないといけないわね」


 エレインに呼ばれ、こくりと頷くジェシカ。そしてすぐに指示を出した。


「じゃあ、エレイン、コニー、キーラの三人は中を探索して。一応こいつの証言だと何もいないらしいけど、日数も経ってるし魔物が入り込んでいるかもしれないから気をつけてね。ウォカは入り口で見張りをよろしく。あたしはこいつをもう少し問い詰めておくわ」


 こいつと盗賊を指差して言うジェシカに一同は頷いた。その後、それぞれ指示されたことを全うするために行動に移る。その間にジェシカは盗賊を座らせて話を聞いていた。


「じゃあ、今の話はターシャ達にはしていないのね?」

「あ、ああ。尋問で聞かれたことは全て正直に話したが、今の話は聞かれなかったから喋ってない。大体、前頭領のことは何も聞かれなかったしな」

「そう、分かったわ」


 洞窟の奥へと目を向けるジェシカに盗賊がぼそぼそと喋り出した。


「な、なあ。ここまできちんと案内もしたし、聞かれたことにも全て答えたんだ。助けてもらえるよな?」 

 

 しかし、ジェシカはその声に反応せずにいた。すると盗賊は必死になって頼み込んできた。


「お、お願いだ。俺はまだ死にたくないんだ。これからは心を入れ替えて真っ当に生きるからさ。なんだったらあんたらの下働きだっていい。お願いだ、助けてくれ」


 最後は蚊の鳴くような声になっていたが、ジェシカの心を揺さぶることはなかった。ただ静かにエレイン達の報告を待っていた。


「ちくしょう、()()()の言葉に乗るんじゃなかった。どうして、こんなことに……」


 盗賊はその後もぶつぶつと恨み言を吐き出し続けた。

 そうして、一時間ほど経った頃、エレイン達が洞窟の入口へと戻ってきた。


「おかえり、どう? 収穫はあったかしら?」


 ジェシカが尋ねると、三人は明るい顔を見せて、それぞれが手に持っていた者を掲げてみせた。


「そちらの方の言う通り、日記みたいなものがありましたわ。盗賊の癖に紙を使ってますわ。他には洞窟の奥に隠されていた金貨や銀貨。それと少しばかりの財宝ですわ」


 エレインが見つけてきた物を指差しながら言っていく。それが終わると、日記だけをジェシカに渡して残りの運んできたそれらを荷台に積み込みにいった。その間にジェシカは日記をぺらぺらと捲り、内容を確認していく。そして決定的な言葉を見つけ出した。


「エレイン。見つかったわよ」

「よかったですわ。それで一体どこの街の上役と繋がっていたのかしら」


 エレインがほっとした顔で尋ねると、ジェシカはそれと反対の緊張した顔でポツリと答えた。


「ザルツブルグ」

「なんですって!」


 ザルツブルグの名前が挙がるとエレインは大きな声を出してしまっていた。その顔色は真っ青に変化し、今にも卒倒しそうな様子であった。


「それに繋がっていた上役が誰かも書いてあるわ」

「だ、誰ですの?」


 エレインが恐々と尋ねると、ジェシカは苦虫をかみつぶしたような顔で忌々しげに答えた。


「今の街の知事よ」

「そんな! それでは久斗様達が危険ですわ」

「ええ、急いでこの情報を伝えないと」


 エレインはわなわなと震えると、急いで馬車へと向かっていった。ジェシカも嫌な予感から胸騒ぎが止まらず、座って未だにぶつぶつと溢している盗賊をすぐに立たせて馬車へと向かった。少ない物品を積み終えたコニーとキーラは二人の様子に顔を見合わせた。


「すぐに出発するわ。乗って! エレイン、御者をお願い」

「分かりましたわ。すぐに追いついてみせますわ」


 ウォカもすぐに呼びつけ馬車に乗せる。そうして一同は来た時の倍の速度で洞窟を後にするのであった。

 ガタガタと揺れる馬車の中でジェシカはコニー、キーラ、ウォカに事情を説明する。


「久斗君達が盗賊達を討伐したことは知られていないと思うけど危険なのは変わりないわ。なるべく街に入る前に追いつきたいところね」


 ジェシカの言い分に頷く三人。そのうちコニーが良い案が思いついたように手を打った。


「そうだわ。ウォカ」

「なんだ?」


 空魔法で馬車の移動の補助をしていたウォカは名前を呼ばれると、視線だけをコニーへと飛ばした。


「今すぐ空魔法で連絡はとれる?」

「あー、すまん。俺の力量だと連絡魔法までは……」


 ウォカはそう言って悔しそうに俯く。その頭をジェシカは優しく撫でる。


「仕方ないわ。まさか、こんなことになるとは思っていなかったもの。今は馬車の移動に力を注いで、ね」

「はい」


 ウォカはすぐに気持ちを切り替えて移動魔法の連続使用に努めた。そうして一行は久斗達の無事を祈りながら全速力でザルツブルグまでの道程を走破していくのであった。






 久斗達本隊はジェシカ達分隊と別れた後、順調に旅の日程をこなしていた。途中、一度だけ魔物の襲撃があったが、久斗とルーア、リンの三人が上手に連携し撃退していた。それ以降は襲われる事無く、残す日程も後一日となり、一同は気が弛みかけていた。


「いやー、噂通り頼もしいですな。依頼を受けて頂けて本当にありがたいことです」

「お言葉ありがとうございます。ですが、まだザルツブルクに到着していません。それまでに何があるか分かりませんから気は抜けませんよ」


 その夜、残った食材を上手に使った夕食を食べている時、リーダスは上機嫌にターシャに話しかけた。そして、誉め言葉で持ち上げるが、ターシャは愛想笑いで謙遜するだけであった。


「それでも、もう後一日でザルツブルクです。もう着いたと同じでしょう。こちらも助けて頂いた上に護衛もして頂けて本当に大助かりです」


 横合いからザラックも礼を述べる。ターシャは二人からのお世辞に溜め息を吐きたくなっていた。そこにジャマンがおどけるように茶々を入れた。


「ザラック殿。確かに俺らは役立たずだったな」


 ザラックは慌ててジャマン達に振り返り、褒め称える。


「いえいえ、何を仰いますか。こちらの方々が来て下さったから助かったのは事実ですが、それまで私を守ってくださったのはジャマンさん達ではありませんか。そんな役立たずなど」

「そう言ってもらえるのは嬉しいが、事実だしな」


 ジャマンはふっと笑うと、残っていたご飯をかき込むとそのままふらりと一人離れたところに歩いていった。


「ジャマン殿もあの襲撃で仲間が亡くなられてすっかり塞ぎこまれてしまっていますな」

「ええ。ですが、これはあたし達で力になれる事ではありません。彼自身に立ち直ってもらわないと……」


 ターシャがそう言うと、皆が無言でジャマンの背中を見つめていた。ぱちぱちと焚き火の爆ぜる音が闇夜に響く。

 その背を見つめる久斗もまた、別の思いを巡らし憂いを帯びた顔をしていた。ターシャやアルム、リンといった傭兵団の女性陣の面々はそれに気付いてはいたが、踏み込めずにいた。

 その後、特に盛り上がることもなく食事は終わり、見張りを担当するものを除いて、それぞれが思い思いの行動を取っていた。リーダスやザラックといった商人達はザルツブルグに着いてからの予定を立て、冒険者の三人はルーアを交えて簡単な賭けごとに興じていた。

 ジャマンは一人で離れた場所に移り、満天の星空を眺めていた。久斗達と行動を共にしてからは、いつも一人で見上げていた。誰も近付けず、深夜になってから静かに天幕に戻る。これを繰り返していて、その日も同じようにしようとしていた。しかし、その日はいつもと違い、ジャマンに近付く者がいた。


「なんだい、団長殿。そんな思いつめた顔をして。俺に何の用だ?」


 ジャマンが空を見上げたまま、声をかけた。それに対し、久斗は黙ったままその場に棒立ちになっていた。そうして、暫くの間二人は何も言葉を発さずに、草木が風にあおられて奏でる音と虫達の合唱による自然の音に包まれていた。

 しかしある時、それを破るように久斗が意を決してジャマンに尋ねた。


「ジャマンさん」

「何だ?」

「あの人を役所に渡すのではだめですか?」


 ジャマンは黙ったまま星空を見上げる。さらに久斗が言い募った。


「あの時は確かにあなたの手で裁くことを認めました。でも、僕は、僕は……」


 最後は掠れるような声で途切れ、久斗は俯いた。ジャマンはそれでも黙ったまま星空を見上げていたが、ふいに久斗に問いかけた。


「なあ、団長殿は同じ仲間を失くしたことはあるかい?」


 ジャマンのその問いかけに久斗は三年前の地下迷宮探索で命を落としたガリアや王都襲撃の防衛に努めた「風の旅団」団員の顔が脳裏をよぎった。


「はい、三年前ですが」

「そうか。団長殿の三年前と言えば、まだまだ本当に子供だった時だな。まあいい、失礼を承知で聞くが、それは魔物にやられたのか? それとも今回みたいな盗賊にやられたのか?」

「魔物です」

「そうか。なら思いを共有することは出来んかもな……」


 ジャマンは寂しげに言葉を漏らした。そしてポツリポツリと自身の想いを語りだした。


「あいつらと初めて依頼をこなしたのはもう十年も前のことだ。連携も糞もあったもんじゃない。その依頼は失敗に終わったんだが、あいつらとは妙に馬が合った。そのまま行動を共にするようになっていた」


 その後も、彼らとどういった依頼をこなしたか、どんな喧嘩をしたか、どうやって危難を乗り越えたか、そういったことを淡々と話していった。


「なのによ、なんでだろうな。泣いてやることすら出来ない。そんな俺でも出来るのはあいつらの仇打ちだけだ。それを止めろと、役所に突きだそうが死ぬのは変わらないのに団長殿はそう言いたいんだな」

「ジャマンさん、僕は……」


 怒りを(あら)わにして否定されるものとばかり久斗は思っていた。だが、ただ淡々と怒りの色が見えない声に、久斗は逆に戸惑った。


「団長殿が報奨金欲しさとかそういった理由ではないのは分かる。そんな思いつめた顔をしてるんだからな。欲深な奴ならもっとそれが感じられるものだ。だから俺は不思議でたまらん。何故止める?」


 久斗はぐっと拳を握り、自身の迷いを打ち明けた。


「僕が育った所では、人を裁くのは専門の人がしていました。そして直接復讐することができませんでした。だから、ジャマンさんが復讐したいと言った時、僕にはそれがジャマンさんにとって良い事だとは思えなかったんです」

「……珍しい国で育ったんだな。三年前までいた国なのかな? その国の名前が知りたいよ」


 馬鹿にする声ではなかった。珍しがっている声でもなかった。ただただ純粋な興味から出た声だった。


「その国には今は行けません」

「そうか」


 残念を滲ませた声が漏れる。久斗は構わず話を続ける。


「……それと、今日までジャマンさんの事をずっと見てきて思ったのは、あなたは復讐を果たした時生きることをやめてしまうんじゃないか、ということです」


 ジャマンはそれには何も答えなかった。肯定も否定もしなかった。


「でも、ジャマンさんの思いも分かる気がするんです。僕もターシャさんやリンちゃん、エレインさん達を同じように失ったらと思うと……」

「……」

「それでも、止めてほしいと思ってしまうんです。僕は」

「なあ、団長殿よ」


 久斗がまだ続けようとしたのを遮るようにジャマンは呼びかけた。久斗ははっとなってジャマンを見つめる。


「とりあえず、明日にはザルツブルグだ。早く寝て準備しておいた方がいいんじゃないか?」


 しかし、その口から出てきたのは今までの話を無視した内容であった。久斗はジャマンが一人になりたいことを察して、ぺこりと頭を下げてから天幕へと戻っていった。それを横目で見送ったジャマンは、久斗の足音が自然の音色に掻き消された頃に視線を星空へと戻し、涙一滴流して呟くのであった。


「みんな、すまんなあ」





 翌日、久斗が起き出し訓練を終えて馬車に戻ると、ジャマンも起き出して朝食の準備をしていた。


「お、おはようございます」

「おう、おはよう。団長殿はよく眠れたか? 俺はあいつらの(いびき)が五月蠅くてなかなか寝付けなくてな」


 そう言いながら大きな欠伸をしてしまい、恥ずかしそうに頭を掻いていた。そして、何でもない、まるで世間話のように久斗に話しかけた。


「そうそう、あの盗賊のことだがな。団長殿の好きにしてくれ。俺のことは気にしなくて構わない」

「え?」


 驚きのあまり、まじまじと見つめて聞き返した久斗にジャマンは手をひらひらさせて朝食の支度へと戻っていった。久斗は暫くの間ずっとジャマンを見つめていたが、口に笑みを浮かべて深くお辞儀をするのであった。

読んで下さりありがとうございます。

題名に困る今日この頃……。

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