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異世界流浪譚 ~傭兵と共に~  作者: ガキ坊
二章 諸国巡遊編
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復讐

「こいつは!」


 洞窟に戻り、中にいた人達も呼んで捕らえた盗賊を確認した時、ジャマンは叫んでいた。


「どうしましたか?」


 不思議そうに尋ねる久斗にジャマンは憎しみの込められた声で答えた。


「こいつはザラックが募集した時にいた奴だ。こいつのせいで俺の仲間は……」

「そ、それは俺が悪いんじゃない。お頭に言われて」

「そんなこと関係あるか! ヒサト殿、すまんがこいつの始末は俺にさせてもらえないか?」


 ジャマンは必死に頭を下げる。その足元ではジャマンの一喝で怯えている男が久斗にすがるように見つめる。久斗はどうしようか悩み、ジャマンに時間を貰えないか確認した。


「その、今すぐというのはさすがに無理です。この人には他に仲間がいないかどうかや、襲撃の理由を聞かないといけませんし」


 久斗は無理かなと思って聞いたことであったが、ジャマンは承諾した。


「それは勿論そうだろう。色々聞いた後で構わん。要は始末を俺自身の手でつけたいという我が儘なのだからな」


 そう言いながらもジャマンは男に憎しみの視線を向けていた。男はガタガタと震えてジャマンと目を合わそうとしなかった。

 男の今後を先に言ってしまうと何も喋らなくなると考えた久斗は、フォクシに見張りを頼んで一同に少し離れた所に移動することを提案する。一部の人間は首を捻ったが、ターシャやリーダスが頷いたことで一同は男から離れた所に移動した。

 そこで、まずターシャがリーダスに質問した。


「リーダスさん、この国では盗賊を捕まえた時、どうするべきかご存知ですか?」


 リーダスは少し考える素振りを見せた後に思い出しながらゆっくりと答えた。


「むむ、そういう場合ですと基本は役人に引き渡しですな。その後は大体が死刑のようですが」

「渡した場合に何か報奨とか出ますか?」

「それは確か出たはすですぞ。何せ国を弱らせる膿みたいな奴らなのですから」


 最後のところでリーダスは男の方に汚いものを見る目を向ける。ザラックも発言こそしなかったが同意を示した。その目には命を狙われたことによりジャマン同様に恨みが籠っていた。


「ということは報奨がもらえるかどうかの違いだけなのね。久斗君、この傭兵団の頭は君なんだから君が決めなさい」


 ターシャはどちらでも良いと言いたげな声音で告げた。残りの団員も同様に頷く。それを確認した久斗は目を瞑り、腕を組んで考え込んだ。それを一同が固唾をのんで見つめた。そして、数秒後に久斗は一つの決断を下し、それを口にした。


「分かりました。情報を得た後はジャマンさんにお任せします」

「そ、そうか。ありがとう」


 ジャマンに引き渡すといった時の久斗は顔色が悪かった。しかし、それに気付くことなくジャマンは顔を明るくして久斗の手を握る。その喜びように久斗は憂いを帯びた笑顔を見せるのであった。

 その後、一同は男の元へと戻り、ターシャが中心となって尋問していった。その結果、仲間はいない、隠れ家はここからザルツブルグまで少し進んだところにある、再襲撃は一度目に殺された全頭領の仇打ちと様々なことが判明した。

 尋問が終わる頃には既に太陽が大地に顔を出し、動物たちが活動しだしていた。眠い目をこすりながらターシャとアルムは尋問結果を訓練のために起きてきた久斗に伝えると、すぐに馬車に乗り込み夢の世界へと旅立つのであった。


「そういうわけですので、今日は盗賊達の根城に寄ってから行くことになります。リーダスさん、ザラックさん、日程のほうは構いませんか? すでに一日予定より伸びていますが」


 朝食時に久斗がそう提案し、依頼主であるリーダス、ザラックの両名に確認を取った。そこでザラックは快く許可を出したのだが、リーダスは渋い顔を見せた。


「さすがに日程がこれ以上伸びるのは私共としましては困りますな。いや、久斗殿の仰ることは私も理解しております。ですがそれを踏まえたうえで反対せざるを得ないです」

「そう、ですか。うーん、どうしよう」


 リーダスが反対したことで悩み始める久斗にジャマンが提案する。


「なら、俺たちの馬車を使っていけばいい。人員はそちらに任せるし、ザラック殿の荷物を移し替えないといけないが、な」


 最後は肩を竦めて言うジャマン。しかし、その提案に久斗が飛び付くことはなかった。


「それでもいいんですけど、結局二隊に分けるってことですよね。それが少し心配でして……」

「何、それほど心配することはないよ。ここに巣くっていた盗賊が君たちの手で一網打尽になっているんだ。今この街道ほど安全なところはないよ」

「……では、お言葉に甘えまして僕達の団から数人馬車をお借りして向かうことにします」

「ほっほっほ。それが良いですよ」


 からからと明るい口調で言うリーダスに久斗は頭を下げるのであった。




 出発前、「彷徨い人の泊まり木」の団員やジャマン達冒険者が荷物を移し替えている横で久斗はジェシカに別行動してもらう旨を告げていた。


「ふむふむ。じゃあ、あたしとエレイン、それにウォカとコニー、キーラの五人で向かえばいいのね」

「はい、指揮はジェシカ姉さんがとってください。人数が少なくてすみませんがお願いします。」

「ははは、このジェシカ姉さんに任せなさい」

 

 ジェシカは胸を一つ叩き快く引き受けるのであった。そして、久斗の頭をぐりぐりと撫でまわした。


「その代わり、きちんとリーダスさん達を護衛するのよ。朝食の時にあんな風に言ってくれてたけど、別に心細くないわけがないんだからね。いい?」

「わっぷ。もう分かってますよ。本当いつまで子供扱いするんですか」


 久斗が手を払いのけながら不満げに言い返すと、ジェシカはにんまりと口を曲げて囁いた。


「つまり、久斗君は私達に女性の喜びを教えられるほどになった、と。そう言いたいわけね」


 濃艶な目線を久斗に注ぎながらからかうように言う。それを聞いた久斗は顔を真っ赤にさせて手を横に振りながら後ずさった。


「い、いえ、決してそんなことは」

「えー? でも、もう子供じゃないんでしょ。大人、つまりはそういうことじゃないの?」


 くすくすと妖艶な笑みまで見せるジェシカに、久斗はたじたじになっていた。そこにターシャとエレインの怒声が響いた。


「ちょっと! あたし達が荷物を入れ替えているところで何してるのよ。あなた達も早く動きなさい」

「ターシャの言うとおりですわ、ジェシカ! 久斗様を誘惑しないでくださいな」


 しかし、ジェシカは余裕たっぷりの顔で言い返す。


「別にさぼってるのでも、誘惑してるのでもないわよ? ただ久斗君が大人になりたいと言うからその手解きをしてあげようとしただけ。なんならあなた達がすれば?」


 ターシャ、エレイン共にジェシカの言い分に思わず久斗を見つめてしまっていた。その肉食獣が獲物を狙うが如き目線に久斗は今すぐこの場から逃げたくなった。


「あ、あの。僕、移し替えに混ざってきますね」


 貞操の危機を感じ、早口に言って去ろうとした久斗の手が掴まれる。ターシャが右手、エレインが左手であった。さらに、二人は久斗を自分達の方に引き寄せて、耳に息を吹き掛ける。


「何処行こうというのかしら? 大人の階段を登るのでしょう」

「あちらにはアルムもいますし、陣頭指揮はジャマンさんがしていますわ。それに、久斗様の願いを叶えるのは(わたくし)の至上命題ですわ」


 顔をこれ以上赤くならないというくらい真っ赤っかにして久斗は状況の打開をなんとか出来ないか考えた。しかし、両手を掴まれている上に、相手は女性なので乱暴にすることが出来ず、途方に暮れていた。


「あーー! また久斗お兄ちゃんにいかがわしいことしてる。離れなさーい!!」


 その時、リンが三人の状態に気付き、目を釣り上げて大声を上げる。そして、大股に近付くと久斗を二人の手から奪い、抱き締める。


「もう、目を離すとすぐこれなんだから。久斗お兄ちゃんに近付かないで」

「り、リンちゃん。その、あの」


 リンは久斗が話し掛けても一切無視してターシャ達を睨む。更には横にいたジェシカにも苦言を呈した。


「ジェシカお姉ちゃんも見てないで止めてよね」

「あら、ごめんなさい。急なことで何も言えなかったのよ、ね」


 ジェシカが両手を合わして掲げると、ターシャとエレインから白い目が向けられたが、ジェシカは全く気にしていなかった。そんな三人のやり取りを見ていたリンは久斗に抱きついたまま更なる苦言を呈した。


「大体今は皆で荷物の移し替えしているんだから手伝ってよね。副団長なら率先して動いたらどうなの」


 威嚇するように注意するリンにターシャは鼻で笑い返した。


「ふふ、私には非常に大切なお仕事があるの。リンちゃんこそ大人しく荷物の移し替えに行きなさい」


 久斗には抱きついているリンに虎、対峙しているターシャに龍の幻影が見えていた。両者は暫くにらみ合いを続けていたが、ふいに二人とも久斗のほうへと振り返った。


「久斗お兄ちゃん、お兄ちゃんは嫌なんだよね?」

「久斗君、ここは素直になるべきよ。さあこっちに来て」


――なんでこの場面で僕に振るかな……。リンちゃんの言うとおり荷物の移し替えに行くべきなんだけど、やっぱりターシャさん達の……って、いやいや僕は何を考えてるんだ!


 十三歳と性に興味が湧いてくる年頃の久斗としてはターシャ、エレインの誘惑は抗いがたいものがあった。しかし、目の前にいるリンの潤んだ目が理性を呼び起こしていた。


「ターシャさん。僕は」

「やっぱりそうよね! 最近はよくみんなの、特にエレインの胸に視線が行くもの。興味あるのよね。悔しいけど」


 最後のは聞こえないようにポツリと言う。ターシャの隣で誇るようにエレインは胸を反らしていた。しかし、久斗はゆっくりと首を振った。


「いえ、僕は荷物の移し替えに行ってきます。ごめんなさい」

「あ、久斗お兄ちゃん、私も行く」


 久斗はぺこりと頭を下げると、踵を返して馬車のほうへと向かっていった。それに合わせて抱きついていたリンは一旦離れて、すぐに久斗の後ろを付いて歩いていった。その場に残されたターシャにジェシカが笑いを(こら)えながら声をかけた。


「ぷ、くく、そうよね。彼は興味あるもんね。ぷくく」

「ジェシカ、悪趣味ではありませんか? それにしても、まさかターシャにそこまでやる気があるとは思いもしませんでしたわ」


 エレインはジェシカを(たしな)めつつも、ターシャに好奇の視線を送った。当のターシャは拳を強く握りしめわなわなと肩を震わせていた。そしてポツリと呟く。


「いい度胸してるじゃない、あの子。ここまで虚仮にされたのは久しくなかったから新鮮だわ。こうなったら、とことんやり合ってやろうじゃない」


 その呟きを聞いていたエレインとジェシカが慌ててターシャを(なだ)めた。


「ちょ、ちょっとターシャ。いくらなんでも、それはどうかと思いますわよ。少し落ち着いたらどうですか? 久斗様だって()()出来ない、と言っただけですわ」

「そうそう、あたしも悪乗りしたのは悪かったと思うけど、いくらなんでも、ね。相手は団長でもあるんだし、そうカッカしないほうが」


 ターシャは二人をぎらりと睨む。そして怒りが誰に対してなのかを明らかにした。


「久斗君じゃないわよ。リンよ、リン」


 ターシャの台詞に二人は顔を見合わせた。それを気にせずに続ける。


「あの子最近久斗君にべったりだけど、馬車での挑発に飽き足らず今回も馬鹿にしてきたんだもの。ここらで一回お仕置きしてやらないと」

「でも、今回はあの子の言う事も正しかったと思いますけど?」


 エレインが言うと、ターシャは憎々しげに指摘した。


「あの子、久斗君から一度離れた時にこっちを見たのよ。気付いていた?」

「いえ、知りませんでしたわ」

「あたしも」


 二人は首を傾げて答えた。ターシャはさらに続ける。


「その時にね、こう、見下すように勝ち誇ってきたのよ。それも鼻で笑ってね」

「あー」

「あー」


 エレイン、ジェシカの声が重なる。確かにそれは非常に悔しいと二人は想いを共にした。


「確かジェシカとエレインは盗賊の根城に行くのよね?」

「ええ、そうよ。元々はそれについての話だったのよ」


 ターシャの問いにジェシカが頷く。それを聞いてターシャはエレインに通告する。


「エレイン、あなたには悪いけど、今夜決行するわ」


 何を、とジェシカは思ったが、エレインにはそれで十分に通じていた。通じていたが故にエレインは驚愕の色に染まっていた。


「ほ、本当にやる気ですの? でしたら(わたくし)も」

「あなたは盗賊の根城に行くんでしょ。無理よ、今回は諦めなさい」


 二人のやり取りから何をするのかを何となく察したジェシカは溜め息を吐くのであった。






 その後、荷物の移し替えが終わった一行は二手に分かれて移動を始めた。

 片方はザルツブルグを目指す本隊。もう片方は襲撃してきた盗賊達の根城を目指す分隊であった。分隊は指揮を執るジェシカにエレイン、ウォカ、コニー、キーラの五人の他、捉えた盗賊も連れていくこととなっていた。残りの人員は全て本隊に配分された。


「じゃあ、気を付けていって来て下さい。何かあったら最優先は命ですから。名誉や物品は幾らでも取り返しができますから……」

「分かってるわよ。それより久斗君も()()()気をつけてね」

「? はい、分かりました」


 出発前にお互いに気を付けるよう声をかけてから出発した。盗賊の根城の後にザルツブルグを目指すために早めに移動する分隊の馬車を久斗は御者席から憂いを湛えた表情で見送った。隣にいたルーアがそれに気付き尋ねる。


「どうしたんだ? 何か心配ごとでもあったのか?」

「いえ、そういうわけじゃないんですが……」


 普段とは違い、溌剌とした元気がない久斗にルーアは首を傾げたが、問題があれば言ってくるだろうと思い、黙って馬を進ませていった。

 そうしてその日は特に魔物や盗賊に襲われることなく宿泊予定地へと辿り着いた。そこに天幕を組み立てた久斗は、残っていた治療を終わらせるために三人の天幕を訪れた。


「こんばんは、昨日の続きをしに来ました」

「うーい、入ってくれ」


 許可をもらった久斗が中に入ると大分寛いだ三人とごそごそと自分の荷物を漁っているジャマンが出迎えた。そして、ジャマンは久斗と入れ替わるように外へと出ていった。


「ジャマンさん、どうしたんでしょうか?」


 久斗が何の気なしに尋ねると三人のうちの一人が首を振った。


「さぁ、あの人も仲間が殺されてから何だか近寄りがたくなってるしな。多分外で休憩してるんだろ」

「はあ」


 ジャマンの行動に首を傾げたが、久斗はここに来た目的を思い出して気合いを入れる。


「じゃあ、昨日の続きをしますのでこちらに並んでください」

「すまないな。この借りは必ず返す」

「あはは。気長に待ってますね。では、いきます。我願うは……」





 久斗が三人の治療をしている頃ジャマンは宿営地の近くにある岩場に腰をかけて空を見上げていた。


「こんなところで何をしているんですか?」


 そのジャマンに女性の声が掛かる。しかし、ジャマンは慌てることなく空を見上げたまま返事をした。


「ここにいたら悪いか? まあ、お前さんは俺を疑っていたみたいだから気にはなるわな」

「それを知っていながらここに来たということは誘ってたのですか?」


 女性は自分の胸の内を悟られていた事に微塵も動揺せず問い返した。それにくくく、と笑ってからジャマンは答えた。


「それだったら俺はこんな無防備じゃなかったろうさ。単に一人になりたかっただけだよ。あいつらの世話は今は団長殿がやってくれてるからな。そんなことよりよ」


 視線を空から女性に動かしてジャマンは可笑しそうに言う。


「さすがに今日団長殿に夜這いをかけるのはまずくないかい?」

「なっ! あ、あなたに言われる事ではありません!!」


 先ほどとは違い、盛大にうろたえる女性にジャマンは続けた。


「団長殿は今は心が別の所に向かってるさ。ここぞという時にそっぽを向かれて傷つくのはあんたらさ。それにそんなことは既に知ってるんだろ」

「……」

「まあ、俺がとやかく言うことじゃないな。とりあえずもう少し一人にしておいてくれ」


 女性が無言で宿泊予定地へ帰ろうとした時、ジャマンがどうでもよさそうに言葉を付け足した。


「ああ、そうだ」


 女性の足がピタリと止まる。それを見ずにジャマンは続けた。


「その団長殿なんだが、俺が復讐すると言った時に顔色が非常に悪かった。多分何かが引っ掛かってるんだろう。配慮してやってくれ」


 その後、女性は返事をすることなく足音を隠しもせずに戻っていった。足音が聞こえなくなった時、ジャマンは囁くような小さな声を漏らした。


「みんな、俺はまだそっちにはいけない。こっちでする事が残っているからな。もうしばらくだけ待っててくれ」


 空では返事をするように星が幾重にも瞬き、月が優しくジャマンを照らすのであった。 

読んで下さりありがとうございます。

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