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異世界流浪譚 ~傭兵と共に~  作者: ガキ坊
二章 諸国巡遊編
56/69

盗賊

 月が雲に隠れ辺りが闇に閉ざされた時、洞窟に向かって忍び足で近付く者がいた。


「情報通りだな。見張りは二人、いや、二人と一匹か?」

「へい、馬鹿でかい狐が一匹増えてやすね」


 小さく声を漏らした男に横で空魔法を使った男が答える。それを聞いて男は顔を歪めるが、横の男は毛皮がいくらで売れる、久し振りに肉が食える等と少し興奮していた。それに気付いた男は剣を持っている手で殴って黙らせる。


「つ!! 頭、幾らなんでも柄は痛いでやんすよ」

「お前は石頭なんだから大丈夫だ。それより」


 頭と呼ばれた男は自分の後ろへと目をやる。そこには二十人ほどの男達がボロボロの弓や錆びた剣などを手にぎらついた目をして待機していた。


「てめえら、準備はいいな?」


 各々が手にした武器を掲げて肯定を示す。それを見てニヤリとした頭は号令を下す。


「さあ、仇討ちだ、皆殺しにするぞ!!」

「オオー!!」


 男達は今度は気合いを入れるために声を張り上げる。そして、そのまま勢いに乗って洞窟まで駆け出すのであった。





「久斗様、先程から」

「うん、狼とかそういう類いかなと思って、様子見しているんですけど……。これはどうも違うみたいです。エレインさん、中に知らせてきてもらっていいですか?」


 久斗は申し訳なさそうにしてエレインに頼む。


「全然構いませんわ。では少し失礼します」


 久斗からの頼みごとに嬉しそうに顔を綻ばせてエレインは洞窟の中に入っていった。微睡んでいるフォクシを横に一人残った久斗は男達がいた方向に顔を向けて一人ごちる。


「仕掛けてこないのは様子を見ているのか、それとも僕の考え違いなのか。どちらにしても妨害工作はしておこうかな」


 そして、目を閉じて静かに詠唱を始める。


「我願うは大地の隆盛、其の身を今変幻させ彼方より来る者を妨害せよ。アースプロトゥルージョン」


 その後、静かに大地は形を変え、男達がいる所から久斗達がいる洞窟までの道は勾配のきつい悪路となっていた。それを魔力の流れから理解していた久斗は小さく手を握りこむ。


「よし。これで」


 自分の魔法の結果に満足して、焚き火にあたった時、遠く離れたところで男達の声が木霊してきた。


「あれ? 今の声は……やっぱり今日の盗賊かな」


 軽い口調で言う久斗であったが、その顔は険しさを湛えていた。


「久斗君、お待たせ」


 そこにターシャからの声がかかる。久斗が首を捻って振り返るとそこには武装したターシャ、アルム、エレイン、ジェシカ、そしてリンの姿があった。さらに、男達の怒声に起きたフォクシも臨戦態勢を整えていた。


「今、妨害に道を悪路に変えましたので、もう暫くは大丈夫だと思います。人数は感知している限り二十人弱と多目ですので気を付けてください。それと、必ず生きて戻ってきてください」


 久斗が相手の人数を教えるのと同時に自分の気持ちを口にする。それを受けた一同は喜んだり、自信満々に鼻を鳴らすなどそれぞれ違った反応を見せたが気持ちは同じであった。


「それじゃあ、ざっくりと指示だけ出すわね。まず、エレインとジェシカは少し離れたところで待機して相手が近づいてきたら魔法で迎撃。護衛にリンちゃんよろしくね」


 名前を告げられた三人はこくりと頷く。それを見たターシャは残りの者にも指示を出す。


「久斗君とアルムは、っと、はいはいフォクシもね」


 フォクシに服を引っ張られ苦笑して付け加える。


「三人は魔法で迎撃後に突撃、一度相手の後ろまで出てから相手の()を潰してね。その後は三人で連携して各個撃破、いける?」


 ターシャが挑戦的に聞くと、アルムは口の端を上げ、フォクシは威勢よく一鳴きする。久斗はただ頷くだけであったが、その目には闘志が見てとれた。


「あたしはここで指示を出すわ。いい? 大切なのは数を悟らせないことよ。そして、喧嘩を売った相手が誰だったのかを思い知らしめましょ」


 最後に獰猛な笑みを見せるターシャに一同は同様の笑みを浮かべて解散した。





 ターシャ達が作戦を簡単に立てている時、洞窟内ではジャマンや彼の護衛対象であるザラック、それに久斗達の護衛対象であるリーダス達がそわそわと落ち着きをなくしていた。


「なあ、本当に女性だけで大丈夫か? 俺は怪我もないしでるべきじゃないか?」


 護衛対象達の気持を理解しているジャマンは慌てる素振りの見えないウォカ達に三度目の確認を行う。


「いや、だからターシャさん達が出たら大丈夫ですって」


 ウォカは少し呆れを含んだ声で答える。それでもジャマンは言い募る。


「いや、しかし。相手は多人数なんだ。少しでも人手があったほうが」

「だから大丈夫だって。おっさんも本当にしつこいね。だったらここに敵が侵入してきたら撃退お願いするよ」

「う、むう」


 しつこいと言われ、仕方なしに黙り込むジャマン。その心には不満が渦巻いていたが、一つ疑問があった。それを聞こうか聞くまいか考えいてたが、することが無い事もありウォカに尋ねることにした。


「君達は不安ではないのか? 自分より年下の少年少女に女性だけで奴らの相手することに」


 ウォカはちらりとジャマンを見ると、少し考えてから口を開いた。


「……俺はヒサトに命を救われているし、あいつの凄さもこの三年間で身に染みて理解してる。そこにあのターシャさん達の連携力が加わったら正直どんなのが相手でも問題ないように思うよ」


 ターシャ達が聞けば全力で否定する内容にジャマンは真偽がはっきりしないと頭を悩ませた。そんなジャマンに今度は逆にウォカが尋ねる。


「それよりさ、なんであんたはそんなに戦いたがるんだ? 楽なほうに流れるのが冒険者じゃないのか?」


 ウォカの偏見の入った指摘に、ジャマンは呆れ果てる。


「そんなのは冒険者じゃなくてもどんな所にでも一人や二人はいるさ。それにしても、俺はそんなに戦いたがっているように見えるか」

「ああ、多分ヒサトやターシャさんはそれが分かってたから呼ばなかったんだと思うぞ」

「そうか……」


 ジャマンはそれだけを口にするとすっかり黙り込んでしまう。そして静かに怒りを感じさせる声で誰に向けることなく語りだした。


「今日の襲撃で死んだのは俺の昔からの仲間さ。もう十年は共にしてきた奴らだった。それが今回の依頼では依頼人の要求する人数に足りなかったから追加募集をしたのさ。それが後ろで休んでいる奴らであり」


 そこで区切ると、憎しみの籠った声で言う。


「あいつらの仲間だったのさ。せめてもの仇打ちに騙したあいつだけでもこの手で始末したかった」


 そこまで一息に言うと、大きく深呼吸をして落ち着きを取り戻した。


「まあ、そういう気持ちがあったのは確かだ。それに俺が言った女性だけに任せるというのも気になる点なのは変わらない」


 しかし、それを聞いてもウォカの対応は変わらなかった。


「おっさんの事情は分かったけどさ。それでも敢えて言うと、ここでじっとしておいてくれ、だね」

「そうか。まあ、今日はそちらの指示に従うと明言したんだ。精々ここに侵入してきた奴でも切り捨てるさ」


 そして、剣を持ったまま入口の付近で仁王立ちをするのであった。





「くそ、なんだこの坂は。昨日まではなかったぞ!」

「足元も石や穴がいっぱいあって歩きにくいぞ」

「一体全体誰の仕業だ。くそ、絶対殺してやる」


 男達――盗賊達は悪態を吐きながらも悪路を出来る限りの速さで駆け抜けた。そして、焚き火の明かりが見えるところまで近付いた。


「野郎ども、後はあそこに入って俺たちの兄貴の仇を討つんだ! 行け行けー!!」


 剣を振りまわし号令をかける盗賊達の頭。その号令に更に気勢を増した盗賊達が駆け寄ろうとしたその時、横合いから魔法が唱えられた。


「我願うは破滅の豪炎、その全てを滅する炎を以って灰燼に帰さん、フレイムシュート!!」

「我願うは清澄(せいちょう)なる激流、その全てを裁断せし水の刃を以って木っ端微塵に帰さん、アクアカッター」


 フレイムアローの炎の矢より倍以上大きい炎の球と、それを囲むように透明で厚さが殆どない水流が幾重にも重なって盗賊達に襲いかかった。

 炎の球は先頭を走る盗賊二人の間を通る。その時にその二人に掠り、後ろにいた盗賊に直撃した。直撃した者は一瞬で焼き尽くされ骨すら残らなかった。また炎の球が掠った者もその部分から火が体全体に回り一瞬で焼死していた。

 水の刃は炎の球が掠った男の横にいた者達に直撃し、その体を細切れにしていた。更には直撃した者の後ろにいた者も勢いが弱まっていた水流に体を切り裂かれ戦闘不能に陥っていた。

 たった一発の魔法で実に九人が死亡、若しくは戦闘不能になっていた。


「お、怯えるな! こんなものはただの虚仮脅しにすぎん。気にせず行けー!」


 盗賊達の頭は声が若干震えていたが必死に手下たちを鼓舞した。夜間、それも月が隠れた時であり、フレイムシュートの炎も一瞬で消え去っていたために味方の惨状を盗賊達が理解することはなかった。それ故に、盗賊達の頭の稚拙な鼓舞に乗せられて盗賊達は洞窟へと駆けていった。

 しかし、そこに闇魔法で隠れていた久斗とアルム、そしてフォクシが襲いかかった。


「ぎゃあ」

「ぐは」

「ぶぎゃ」


 久斗は手近にいた盗賊を抜刀術で一気に切り捨てていた。その刀は三年前に王都で召喚した物でその時はガーゴイルの石の体を易々と斬っていたが、今回も盗賊の体を何の抵抗もなく切り裂いていた。

 横にいたアルムは大剣を上段に構えたまま盗賊の一人に近づき、近付いた勢いのまま大剣を振り下ろした。盗賊は左の鎖骨から股間に向かって切り抜かれ絶命していた。

 フォクシはその鋭い牙を以って、アルムが相手をしたのとは逆側の盗賊の喉笛を噛みちぎった。

 三者三様のやり方で前を走っていた盗賊を殺害した後、そのまま悲鳴が上がって混乱している盗賊達の脇を駆け抜ける。そして一番後ろで喚いている盗賊達の頭に近付いた。


「な、なんだ。今の悲鳴は。ええい、大丈夫だ、あれは奴らの悲鳴だ。進め進め」


 悲鳴が上がっても足を止めさせない頭は、久斗達が近付いていたことに気付き足を止めた。


「な、なんだ貴様ら。俺に楯突くのか! 俺様は偉大なるグレーシャ盗賊団の」

「別に名前に興味はありません。さようなら」


 名乗り上げようとした盗賊達の頭に久斗は冷酷に告げ、相手が言いきる前に居合切りを一閃させる。それは過たずに盗賊達の頭の首を切断し、名乗るために一歩前に出ていた勢いから首から上がコロンと地面に転がった。そして、噴水のように血が噴きあげる。久斗はすぐに後ろに下がり血の雨を回避する。


「なんだか呆気無いですが、後は彼らだけですね」


 情けを捨ててきたかのように、感情の色が見えない声を出す久斗。しかし、その心は苦悩に満ちていた。アルムは三年の付き合いからその気持ちを理解していたが特に何も言うことはなかった。

 その後すぐに久斗はターシャに連絡を入れる。


「ターシャさんこちらは終わりましたので殲滅戦に入ります」

「了解よ。念のためにエレインとジェシカに魔法の準備をさせておくから厳しかったらすぐに下がるのよ」

「分かってます。じゃあ一旦魔法を切りますね」

「無事に帰ってくるのよ。それと、あまり気にしないようにね」


 ターシャのその言葉を最後に通信用の空魔法を切って久斗の脇で警戒している二人(一人と一匹)に声をかける。


「聞こえていたと思いますが今から殲滅戦に入ります。アルムさん、フォクシ、よろしく頼みます」


 呼ばれた二人(一人と一匹)は盗賊達に向き直り、無言で武器を構え姿勢を整える。それを気配で察した久斗は号令をかける。


「では……行きます!」


 その声を合図に三人は慌てふためいている盗賊達に突撃していった。そして蹂躙が始まった。

 久斗が刀を振るう、アルムが大剣を()ぐ、フォクシが爪や牙で切り裂く。三人の連携は盗賊達を更に混乱の渦へと叩きこんだ。


「うわ、こいつらな、ぶぎゃ」

「おい、どうし、ぎゃああ」


 盗賊達の中には悲鳴が上がった瞬間に松明を灯そうとする者もいたが、しかしそういった機転のきく者は真っ先に久斗達に狙われた。


「おい、火を点けろ。こ、ぐは」

「ちくしょう、見えねえ、何処にいやがる!」

「うわ、俺は味方だ。斬るな斬るな!!」


 そうして、三人の猛攻は盗賊達に反撃の隙を与えず、一人一人確実に始末していっていた。そして、悲鳴が上がらなくなった時、生き残っている盗賊の姿はなかった。


「久斗君、もう辺りに盗賊達はいませんか?」

「ちょっと待って下さい……ああ、一人離れたところに隠れてますね」


 アルムに問われた久斗は構築していた探知結界を使い、自分たち以外の者がいないかを割り出した。そうして引っ掛かったのは少し離れたところにある岩陰に隠れている者であった。


「では、そいつは生け捕りましょう。他の仲間の事やジャマンさん達の事が分かるかもしれません」

「……そうですね。一旦捕まえましょうか」


 アルムのジャマンを疑っているような発言に、久斗は一瞬顔を(しか)めるが、すぐに気を取り直してアルムの提案に頷き、ターシャに連絡を入れる。


「ターシャさん」

「久斗君、終わったの? じゃあエレイン達を呼び戻すわね」

「それもあるんですが、一人離れたところで隠れていますので生け捕りにします」

「あら、そうなの? じゃあ、お願いね。無理だと思ったら始末して構わないから」


 久斗は最後の台詞に乾いた笑いを返した。その後、通信魔法を切りアルムにどうするかを聞いた。


「生け捕りにするとして、どうやるのですか?」

「一番簡単なのは気絶させることです。一応私もギルド職員をしていた時にやり方は習っていましたし、使ったことも一度や二度ではありませんので、腕が鈍っていなければ大丈夫でしょう」

「分かりました。あっ! 早めにいきましょう。逃げようとしてるみたいです」


 それを聞いたアルム、それに黙って二人のやり取りを見ていたフォクシは先導する久斗の後ろを急いで追っていった。






 ざっざっと足音が聞こえてきたことで隠れていた盗賊はびくっと肩を震わした。


「ひい、あの化け物たちが追ってきたのか? でも、こんな真っ暗なんだ。今のうちに逃げるが勝ちだ」


 そう一人ごちて、来た道を悪戦苦闘しながら戻っていく。しかし、後ろから聞こえてくる足音はずっと付きまとい、更には音も大きくなっていた。


「な、なんで、はぁはぁ、なんで追ってこれ、るんだよ」


 盗賊は暗闇の中、自分をまっすぐに追いかけてくる敵に恐怖を抱いていた。何度も窪みや段差に足を取られ転がりながらも逃げる盗賊。それでも追いかけてくる足音に盗賊は自分が嘲笑われている気がしていた。


「見つけた!」

「ひい、こ、殺さないで」


 久斗が声を発すると盗賊は怯えてその場に縮こまった。その結果、すぐに久斗達は盗賊に追いつくことができた。


「こ、殺さないで、殺さないで」


 うわ言のように何度も繰り返すが、アルムは無表情のまま盗賊に近づく。久斗は一瞬止めようとしたが、生け捕りを提案したのがアルムなのを思い出し、経過を見守ることにした。


「た、頼む、ころ、ころ、殺さないで」


 がくがくと震えて何回も同じことを言う盗賊の首にアルムは手刀を叩きこんだ。すると、盗賊はうっ、と呻き声を漏らして地に倒れ伏す。見事に気絶させたアルムに久斗は拍手を送った。


「一撃ってすごいですね」

「習えばだれでも出来ますよ」


 久斗に称賛されたアルムは恥ずかしげに頬をぽりぽりと掻いた。そして話を逸らすように盗賊に目をやる。


「暫く起きないと思いますが、起きた時に何かされると厄介ですね。どうしましょうか」

「何かで縛っておくのが良いのでしょうけど……。服で縛りますか」


 服で縛るという言葉にアルムは久斗のある姿を想像してしまい、鼻から血を少し垂らしてしまっていた。それを見咎めた久斗が顔を赤くして突っ込んだ。


「ちょ、ちょっと何を想像してるんですか。この人の服を脱がして縛るに決まってるじゃありませんか」

「そ、そうですよね。ちょっと失礼します」


 そう言って鼻を摘まんで下を向く。その間に久斗は男の服を脱がして手足を縛りあげた。(ようや)く鼻血が止まったアルムは久斗にすまなさそうに頭を下げて男を担ぎあげようとした。その時、アルムの服をフォクシが引っ張った。


「ん? 運んでくれるの?」

「ケーン」


 肯定を示すように一鳴きするとアルムに背中を見せる。アルムはその背中に男を落ちないように乗せる。フォクシは、何度か体を揺すり、具合を確かめてから久斗のほうを見つめた。


「じゃあ、戻りましょうか」


 久斗の一言で、一同は少し足早に洞窟を目指すのであった。

読んで下さりありがとうございます。

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