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異世界流浪譚 ~傭兵と共に~  作者: ガキ坊
一章 少年期編
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防衛

「くそ、この魔物野郎が」


 ガキン、と甲羅を打つ音が鳴る。しかし、魔物はその攻撃を意に介さずに街中に向かって突き進もうとしていた。周りの兵士がそれを止めようと剣で斬りかかり、槍で突いて、斧で断ち割ろうとする。しかしどの攻撃も魔物には効果がなく、逆に進路上にいた兵士が踏みつぶされていく。

 魔物の大きさは体高三メートル、全長八メートル。形状は亀を彷彿させるもので、特に甲羅の硬さは特筆に値するものであった。甲羅以外の表皮も非常に頑丈であるため、兵士は攻めあぐねていた。


「応援はまだなのか。このままでは王都が蹂躙されるぞ!」


 一人の兵士が叫ぶと、その兵士へと別の魔物が襲いかかる。

 既に魔物は東門を打ち壊し、王都へと侵入を果たしていた。外壁にいた兵士は壁上から弓や魔法で攻撃を加えていたが、多勢に無勢の状態で突破を許してしまっていた。しかし、その兵士らが稼いだ短い時間により、避難誘導はほぼ終える事が出来たのであった。そして今は王都へと侵入を果たした魔物の対応に追われていた。


「はっはっはー。こりゃなかなか狩り甲斐がありそうじゃないか」

「ルーク、油断は禁物だ」

「そうは言うけどさ、こんなの雑魚ばっかだよ。ビジョップ」


 兵士たちが必死になって戦っているところにふらっとやってきた三人は軽口を叩き合っていた。その三人に一匹の猿型魔物が襲いかかるが、ルークと呼ばれた人物に弾き飛ばされ、それ以後動くことはなかった。それを見ていた兵士は応援が来たことを察する。


「王城からの応援の方ですか?」

「ん? ああお前がここの部隊の隊長だな。俺らが来たからにはもう下がってくれていいぜ」


 ルークがけらけらと笑いながら言うと、その頭にビジョップの手刀打ちが落とされゴッという音がなった。ルークは頭を抱えて悶え、それをもう一人の短めの髪をした女の子が指をさして笑っていた。


「ルーク、馬っ鹿みたい。調子乗っているかキャウ」


 しかしその女の子の頭にもビジョップの手刀打ちが振り下ろされ、ルーク同様に頭を抱えて悶えだした。その様子に呆気にとられていた部隊長にビジョップが頭を下げる。


「躾の行き届いていない子らで申し訳ない。ただ、私達は貴方がたを気遣って戦えるほど優秀ではないので一時退避してもらえればと思う」


 ビジョップの丁寧な態度に下がっていいものかと悩む部隊長にルークが助け船を出した。


「おーいてー。そこの隊長さんよ。俺たちゃ王国軍の秘密兵器なんだ。大丈夫、王都は必ず守ってやるさ」


 おちゃらけた言い方であったが、その目は真剣そのものであり冗談で言っているようには見えなかった。そう思った部隊長は一つ頷くと笛を吹き声を張り上げる。


「よし、ここは彼らに任せて一時撤収。漏れてきた魔物を全力で落とすぞ」


 応、とそれぞれの兵士から声が上がる。そして、魔物を牽制しつつじりじりと下がりだす。それと入れ替わるかのようにビジョップが魔物の前へと悠然と歩いていく。頭を押さえながらのルークに女の子もそれについて歩いていた。

 その場にいた様々な魔物達はそのビジョップ達の様子に、得体の知れないものを感じ、すぐには襲いかからなかった。

 そんな魔物達の様子にルークが頭を擦っていた手を魔物達に向けて伸ばし、軽い口調で死を宣告する。


「じゃ、消えろ」


 その宣告が終わると同時に、手のひらから極細の水の針が無数に飛び出し、魔物達の頭を貫いていった。兵士が数人掛かりでも全く歯が立たなかった亀型の魔物ですら例外ではなく頭を貫かれていた。

 それを遠目に見ていた部隊長は、魔物の動きが止まったことに何かの前触れか、と思い身構える。そこにルークが声をかけた。


「んじゃ、あの事は任せたぞ」


 部隊長は何のことか分からず戸惑っていたが、一体の魔物を女の子が蹴飛ばし転がしたことで、動かないのは死んでいるからなのだと察する。そして、畏怖の眼差しを三人に向けてしまっていた。部隊長の周りにいた兵士達も同様に畏怖の眼差しを向けていた。

 三人は兵士達のことを全く気にせず、東門へと向かっていった。そして姿が消えたところで兵士の一人が深いため息を吐いた。それを合図に部隊長が命令を下す。


「あの三人なら王都も守れよう。我々はこれら魔物の処理をする班と討ち漏らした魔物がいないかを捜索する班に分かれる。いいか、まず……」


 そうして部隊長の命令に従い、各々の兵士は三人の姿を頭から消し去り、自分のすべきことに専念していった。




「じゃあ次はこっちよ」


 ターシャの誘導に残りの五人と一匹が頷く。そして、兵士を避けるように王都の裏道を走っているとエレインがそれを発見した。


「っ! 久斗様、あそこですわ」


 エレインが指差した横路の先では数人の兵士が獅子型の魔物を槍で牽制していた。その後ろには逃げ遅れていた寝巻き姿の都民の姿もあった。兵士は必死に守ろうと槍を突き出していたが、しかしその姿勢は腰が引けており、魔物のほうも獲物をいたぶるように唸り声をあげるだけであった。


「あれは、グランレオ! ミノタウロスと同等の強さを持つ魔物ですよ」

「ということは、あの兵士さん達は遊ばれているということね。助太刀は?」


 アルムが敵の正体を見抜き、ジェシカがどうするかを聞く。それに答えたのは久斗であった。


「もちろん、助けます!」


 その久斗の答えに大人組の四人は気を引き締め直した。久斗の隣にいたリンはフォクシと共に背後を警戒していた。


「全力でいきます! 其は久遠の彼方より出でし……」


 久斗が魔術の詠唱に入ると、魔物――グランレオは異常な魔力量を感知し、怯える兵士を余所に久斗達のほうに眼を向ける。その眼から放たれる威圧感にターシャやアルム、ジェシカ、エレインは体を震わせた。しかし、詠唱を続ける久斗が一切気にしていない様子が魔物の自尊心を傷つける。


「グゥゥガアアアアアア」


 辺り一帯に響き渡る魔物の咆哮であったが、既にターシャ達は立ち直り咆哮を意に介さずに行動に移った。ターシャは弓、エレイン、ジェシカは魔法を使いグランレオに攻撃を与えていく。グランレオはその攻撃を機敏に避けると久斗に突っ込もうとする。

 しかし、久斗が詠唱を完成させるほうが早く、グランレオは魔術を浴びることとなった。


「我の糧を用い我が敵を消し去らん、アークレイ!!」


 久斗が両手を前に突きだすと、その右手からは白い光が、左手からは黒い光が直線状に放射された。そしてその黒白の光はその進路上で混ざり合いながらグランレオに直撃する。グランレオの体は光に触れた瞬間に砂のようにさらさらと崩れていき、最後には何も残っていなかった。


「なんていうか、久斗君の魔術ってもう卑怯の域にある気がするわ」


 ターシャの呟きにジェシカが同意していると、グランレオと対峙していた兵士と都民がやって来ていた。


「あの」

「ええ、なんでございましょうか?」


 エレインがその豊満な胸を張って相手をしたことで兵士の鼻の下は伸びていた。すかさずターシャがエレインの頭を叩いていると、アルムが兵士の相手をしに前に出た。


()()は放っておい……忘れておいてください。それでどうしましたか?」


 アルムが言い直したところで苦笑していた兵士は、アルムの問いかけにいきなり頭を下げた。後ろに控えていた兵士や都民も同様に頭を下げる。


「え、ええ?!」


 混乱する久斗に兵士は感謝の言葉を述べる。


「ありがとうございました」

「ありがとうございました!」

 

 先頭の兵士がお礼を述べると、後ろに控えていた兵士が一斉にお礼を述べる。久斗がそれに目を丸くしていると、頭を上げた兵士が嬉しそうに自分の気持ちを伝えた。


「あの魔物は明らかに私たちでは相手をすることができませんでした。おかげで命拾いしましたし、また守るべき人達を守ることができました」


 その兵士の言葉に久斗は心が温かくなった。その温もりは久斗の傷付いていた心をゆっくりと癒していた。


「あたし達は最後の手伝いをしただけよ。後ろの人々を守ったのは貴方達よ」


 ターシャがそう言うと後ろに控えていた都民が同意の声をあげる。


「彼女の言う通りです。あの魔物に出くわしたときに盾になってくださったではありませんか」

「それは、我々の職務でして……」

「職務でも勇敢に立ち向かって下さったのにはかわりありません」

「いや、しかし……」


 久斗から見て可笑しなやり取りを繰り広げようとしていた兵士と都民に、ジェシカが声をかける。


「とりあえず、ここはまだ危険ですから避難してください。こちらの道でしたらまだ安全のはずです」


 兵士がハッとすると、再度傭兵団の面々にお礼を言い都民を誘導しながら避難していった。

 それを見送っていたターシャやエレインであったが背後からドサッと何かが崩れ落ちる音に振り替える。そこには倒れ伏している久斗の姿があった。


「ちょっと! 久斗君大丈夫!?」

「久斗様!!」


 他の面々も急なことに驚き駆け寄った。リンは泣きそうな表情で抱きついており、フォクシはおろおろと久斗の周りを右往左往していた。


「リンちゃん、少し離れて」


 ターシャはリンを引き剥がし、久斗を抱き起こす。久斗の顔色は青くなっていたが、呼吸は乱れておらず苦しそうな表情ではなかった。その状態に、エレインとジェシカはピンと来るものがあった。


「この症状は魔力欠乏じゃないかな」

「ええ、(わたくし)もそう思いますわ」


 その時、久斗が呻くように呟いた。


「これが、魔力、欠乏ですか」

「久斗様、無理をしてはいけませんわ」


 すかさず、エレインが手を握る。リンは再度抱き付いていた。他の面々も安心すると同時に心配げに久斗を見つめた。その中でターシャが確認するように聞いた。


「ここに来るまでも使っていたから、消耗はしているでしょうけど、直接の原因はさっきの魔術ね?」


 ターシャの推測にエレイン達は本拠地からここに来るまでに遭遇した魔物との戦いを思い返していた。

 そこでは久斗が積極的に動き、大半の魔物を魔術で仕留めていた。更にはターシャ達にオールアップを掛けるなど八面六臂の活躍を見せていた。しかし、膨大な魔力量のために全く負担になっていなかったように見え、実際にエレインが問いかけたときも問題はなかった。

 それに対して今回は一発の魔術で倒れ伏していた。そこから導かれたターシャの推測に久斗は頷く。そこでアルムは一旦移動することを提案する。


「久斗君を抱えたままでは、私達も動けません。一先ず彼が休めるところまで行きましょう。それに、どうも王国軍は盛り返しているみたいですし」


 最後は自信なさげであったが、残りの面々もそれを感じていたため、異を唱えることはなかった。そうして久斗達は一旦本拠地に後退するのであった。

読んで下さりありがとうございます。


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