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異世界流浪譚 ~傭兵と共に~  作者: ガキ坊
一章 少年期編
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覚悟

 いきなり飛び込んできたターシャに驚きの表情を見せる三人。それに構わずターシャは久斗に近づき、がしっと腕を掴むと、部屋の外に行こうと引っ張った。


「タ、ターシャさん。一体どうしたんですか?」


 引っ張られ連れていかれようとしている現状に戸惑っている久斗がそう聞くと、ターシャは一言だけ言い放った。


「ここでは答えられないわ」


 キーラはその言葉に自分やリンが知ってはいけないことであると察し、外に出ていく久斗に対して手を振った。しかし、リンのほうは理解できずフォクシと共に久斗についていこうとした。慌ててキーラが声をかける。


「ちょっとちょっと、リンちゃん何処行くのよ」

「久斗お兄ちゃんに付いていく」


 リンの言葉にフォクシもそうだそうだと頷いていた。キーラは咄嗟にリンの手を取ると、ついていかないように引っ張った。


「リンちゃん、行っちゃ駄目よ。ここで少しだけあたしとお留守番してよ、ね?」


 リンは手を大きく振るも、九歳の力では振り払うことができず扉が閉まるのをじっと見つめていることしか出来なかった。フォクシは諦めたかのようにぐったりと体の力を抜いてリンに抱かれたままになっていた。





「あ、あの、ターシャさん。何処まで行くんですか?」


 ずっと手を引っ張られている久斗は、自分がどこに連れていかれるのか不安になり尋ねてみた。しかし、ターシャは何も答えず険しい顔のまま、ずんずんと廊下を進んでいく。そのまま暫く歩いていたが、ある部屋の前で足を止めると扉を叩くことなく開け放った。そして部屋の主の許可なく勝手に押し入っていった。


「ターシャさん、勝手に入るのは」

「いいのよ。今この部屋を使ってる腹黒は当分帰って来ないから。ここなら話を聞かれる心配がないから(ようや)く話ができるわ」


 久斗の言葉を遮り、ターシャはそう呟いた。そして真剣な表情で久斗を見つめると、少し頬を赤くしながら口を開いた。


「久斗君。良く聞いてね。実は」


 そこまでターシャが話した時、突然扉がバンと蹴破られた。ターシャが焦って入口を見やると、そこには足を上段に振り抜いているエレインの姿があった。


「ふ、ふ、ふ。抜け駆けなどさせはしませんわよ」


 久斗はエレインの登場に目を丸くしていたが、エレインの台詞に首を傾げた。


――エレインさんのいう抜け駆けって一体何のことだろう……。


 そんな久斗の疑問を余所に、ターシャとエレインは舌戦を繰り広げていた。


「だから! そんなんじゃないって言ってるのが分からないの!?」

「どこからどう見てもそういった雰囲気ではなかったじゃないですか!?」

「あああ、あたしがいつ久斗君に告白するって言ったのよ。頭に蛆でも湧いてるんじゃないの」

「ほら見なさい。(わたくし)は何をとは一言もいっておりませんのに、『告白』なんて言葉が出てくる時点で犯行を認めたようなものですわ」

「それは、あなたが『抜け駆け』とか言うからでしょ!!」


 旅の途中では良く繰り広げられていた舌戦に懐かしさを感じ、久斗は思わず笑ってしまっていた。


「ふふ、ふふふ」


 その久斗の笑い声は二人の耳にも届き、二人は恥ずかしげに久斗を睨んだ。


「久斗君。君は何で笑っているのかしら」

「久斗様。いくら貴方様であっても笑うのはひどくありませんか」


 顔を赤くしながら久斗を睨みつけて近寄る二人に、久斗は慌てて弁解を始めた。


「い、いえ。なんだかここに来るまでの道程(みちのり)のことを思い出しまして。それでつい最近のことなのに懐かしく思っちゃって……」


 弁解の声は段々と小さくなっていき、最後は声にはならなかった。その両頬には涙が幾筋も伝っていき、最後は床に敷かれていた絨毯に雨粒のように落ちていった。

 いきなりのことに固まってしまう二人であったが、エレインはすぐに立ち直り久斗に駆け寄って抱きしめた。


「地下迷宮での事でしたらもうお忘れになったほうがいいですわ。いつまでも死者のことを引き摺っても何も良い事はありません。それに彼については久斗様の落ち度ではありませんわ」


 優しくあやしていくエレインの様子を、ターシャは後ろから憮然とした態度で見ていた。そして久斗が泣き止んだところで、注意した。


「久斗君。君のその優しさは美徳だけど、時には残酷な選択をしないといけなくなる時だって出てくるわ。慣れろ、とは言わないけど、前にも言った『覚悟』をしておきなさい」


 その忠告に久斗がこくんと頷いたのを見ると、ターシャはため息と共にエレインへの恨み事を漏らした。


「はあ、全くもう。エレインが余計なことをするから。事態は一刻を争うっていうのに」


 その言葉にエレインが再び噛みつこうとしたが、時間がないとの言葉に思いとどまった。そしてターシャに先を促した。


「その言葉、後で覚えていなさい。それで一体全体何を言おうとしていらっしゃったの?」


 エレインに促されたターシャはハッとすると、扉をしっかりと閉めた。そして、真剣な表情に再度戻して久斗に向けて口を開いた。


「そうだったわ。久斗君、よく聞いてね。実は王都に向けて魔物の群れが侵攻してきてるの」

「ええ!!」


 エレインは既に聞いていたために驚くことはなったが、久斗はいきなりのことに思わずといった(てい)で声を上げていた。


「驚くのも無理はないけれど、事実よ。それで、団長から伝言があるの」

「団長から、ですか?」

「ええ、そうよ。ここを任された責任者が聞いていたらしくて、何故かあたしに伝えるよう言ってきたのよ」


 ターシャは文句を口にしていたが、満更ではない表情であった。その表情にエレインが目を尖らせるも、重要な話であることを自覚していたために自制を働かせた。それを露とも知らずにターシャが話を続けた。


「それで、伝言なんだけどね。『もし、王都が襲われたらお前は一番先に逃げろ。護衛は今回一緒に地下迷宮にもぐった人員だ』とこれだけね」

「で、ターシャさんが慌てていらしたのですから王都が襲われかけていると、そう言いたいのですね」

「当たり。たまたま東門のほうに顔を出したら避難が始まっていたのよ。で、久斗君はどうしたい?」

「え?」


 ターシャの問いかけを久斗は理解できなかった。そしてついつい聞き返していた。


「あの、それ僕が決めるんですか?」

「そうよ。あたし達はあくまで護衛なんだから決定権なんてないのよ」


 ターシャの言い分に頭がこんがらがりながらも伝言内容を思いだしそれを口にする。


「でもでも、団長からの伝言だと逃げないと」

「戦えない人達をほっぽり出して久斗君は逃げたいのかな? もしもこの王都に君の捜している子がいたらどうなるかしら?」


 絶句する久斗にエレインが慈愛の表情を湛えながら優しく諭した。


「久斗様。ターシャの言っていることはある意味で正しいですの。ですが、今回のような場合は逃げても問題ありませんのよ。私達傭兵という職業に就く者の指針は戦えない人々に剣を捧げるといった騎士達のものではありません。根底にあるのは自己主義なのですわ。だから貴方様も好きに動かれて構わないのです」


 エレインはそれだけを言うとターシャの横に控えた。久斗はターシャの言葉、エレインの言葉を受け止め、考え出そうとした。しかしその時間さえ取ることは出来なかった。


ガシャアアアアン


「何!!」


 三人の視線が窓へ向けられる。窓の硝子を割って押し入ってきたのは小型の魔物であった。その背には二対の羽が生えており、口は鳥のように尖った嘴になっているが姿形は人のそれであり、さらには体全体が石でできていた。目の部分には紅く光る宝石が埋め込まれており、その光は明らかに久斗を標的として照らしていた。


「く、ガーゴイル! なんでこんな中位の魔物が既に王都に入り込んでいるのよ」


 石像型の魔物にターシャはそう叫ぶと、久斗を庇うように魔物との間に立ち塞がった。そして、その後ろではエレインが魔法の詠唱を開始していた。

 ガーゴイルはエレインの魔法による魔力を感知するや否や、久斗に躍りかかった。久斗が対応する前に鋭い爪が久斗を貫こうとするが、それをターシャが常に腰に提げていた短刀で弾き飛ばした。


「グ、ググ」

「エレイン、あたし達を巻き込まないでよ!」


 エレインが魔法を放つ気配を感じたため、ターシャは急いで大声で怒鳴る。それにエレインは噛みつきながら魔法を放った。


「あの時の(わたくし)とは一味も二味も違いましてよ。いきますわよ、フレイムニードル!!」


 エレインが魔法名を叫ぶと、周囲に炎で出来た長さ五センチほどの針が次々と浮かび上がりだした。その数は百本は下らないほどであった。ターシャはガーゴイルの繰り出す爪撃を弾いていたが、背後で発生した熱量に血の気が引き、久斗を抱きしめてさっと横に飛びのいた。その行動に青筋を立てながらエレインは叫ぶ。


「行きなさい! ニードルシャワー!」


 上にかざした手を勢いよく振り下ろし叫ぶエレイン。それに呼応してエレインの周囲に浮かんでいた炎の針がまたたく間にガーゴイルの体へと殺到していく。その炎の針は石で出来ていたガーゴイルの体を貫き、内部で爆発する。着弾する度に体に小さな穴があいていくガーゴイルは苦悶の泣き声を上げる。


「グ、グガガガ」


 爆発の衝撃で体が揺さぶられ動くことすらままならないガーゴイルの瞳の光は、しかし常に久斗を照らし続けていた。

 全てが着弾するのに一分もかからず、エレインの周囲にあった炎の針が全てなくなった頃にはガーゴイルの体は砕け散っていた。残っていたのは頭と手、それに足や翼といった部分だけであり、瞳の光も消え失せていた。それを見て、ターシャやエレインは生命活動が停止したものと思い、構えを解き気を逸らした。その瞬間に久斗の声が部屋に響く。


「っ! まだです!」


 その言葉に慌てて視線を戻した先にガーゴイルの手と頭が浮き上がり、久斗に向かって飛んで来ていた。その進行方向にはターシャがいたが、ガーゴイルの動きはそれを全く気にしていないものであった。そのため、ターシャは思わず両手を交差させて身を守ろうとした。


「ターシャさん、それでは」


 駄目ですわ、と言おうとしたエレインは目の前に繰り広げられた光景に驚き、息をのんでしまった。


――もう、僕の前で倒させはしない!


 その思いを胸に久斗が無詠唱で魔術を行使していたのであった。




 ターシャは背中で久斗が動いた気配がしたかと思った時には、既に目の前に飛び出している姿があったことに驚いた。更にその瞬間からターシャは時間を引き延ばしたかのように、全てのものがゆっくり動いて見えていた。そのゆっくり流れる時間の中で全てを見届けていた。

 久斗は何もない左腰にあたかも武器を提げているかのように左手で鞘を持つような構えをし、そこに前に出たときの前傾姿勢のまま右手で柄を持つ仕草をした。

 そして、飛んで来ていたガーゴイルの頭と手に向けて裂帛の気合と共に、腕を弧を描くように振り上げる。その時、何もなかった久斗の手の中には光り輝く刀が握られており、その刀は(あやま)たずガーゴイルの頭と手を切り落とし、斬線に残っていた光の刃がそれらを粉々に打ち砕いていた。

 そして唐突にターシャの時間の流れが戻った。


「あ、ありがとう」


 ターシャはそれだけを言うとぽーっとした表情で久斗を見つめていた。久斗の手には未だに光り輝く刀が握られていた。久斗は血振りの仕草をすると腰に存在している鞘へと納刀する。その動きにターシャはまた見惚れてしまっていたが、すぐにエレインが久斗へと抱きついたことで正気に戻った。


「久斗様~。凄いですわ。その武器は一体どこからお出しになったのです?」


 エレインにそう言われて初めて気付いたかのように驚く久斗。キャッキャとはしゃぐエレインと驚きながらも満足気な久斗、その様子を眺めながらターシャの心は穏やかではなかった。


――どうしよう、どうしよう。あんなカッコいいところ見ちゃったら……。ああん、あたしはエレインとは違うのよ。違うんだったら。


 一人悶々としていたターシャであったが、そこに久斗がおずおずと話しかけた。


「あの、ターシャさん」

「うひゃい」

「うひゃい?」


 ターシャの返事が普段からは考えられない可愛い声で返事をしたことに、久斗とエレインは怪訝な表情で聞き返した。それに顔を真っ赤にさせながらターシャが誤魔化すように大声を張り上げた。


「だ、だから何?」


 その声に首を傾げていた久斗が聞こうと思っていた事を口にした。


「僕、決めました。逃げません! 逃げたら多分僕はずっと逃げ続けちゃいますから……」

「久斗様……」


 エレインが感動から体を震わせる。そしてターシャもその言葉に未だ顔を真っ赤にしながら頷いた。


「それはそうと、ターシャさん。あのガーゴイル、まるで久斗様だけを狙っているように見えましたわ」

「それはあたしもそう思うわ。魔物に優先順位なんてないと思うんだけど、そうとしか思えなかったのよね」


 ターシャとエレインの二人は頭を悩ましたが答えが出る事はなく、深刻な表情で黙り込んだ。


「それで、僕は、僕達はどう動いたらいいのでしょうか?」


 二人は久斗に声をかけられたことで意識を切り替えた。


「そうね、とにかく装備を整えて東門に行くしかないわね。行くのは」

(わたくし)とターシャさんに、後はジェシカにアルムさんも来ると思いますわ」


 二人がそう話していると、扉が音を立てて開いた。咄嗟に身構えて扉を見やった二人は入ってきた人物に目を丸くする。


「リンちゃん。どうしてここに? 部屋にいたんじゃないの? それにフォクシまで」


 ターシャが尋ねると、フォクシを抱きしめていたリンは首を横に振って意志の灯った強い瞳でターシャやエレインを見つめた。そして、おもむろに口を開いた。


「私も行く。久斗お兄ちゃんだけにはさせない」

「コン!」


 抱かれたままのフォクシも、そうだと一声鳴く。そんな二人(一人と一匹)に慌てて声をかけたのは久斗であった。


「ちょ、ちょっと待って。リンちゃんまで行くことはないんだよ」


 しかし、久斗の言葉にリンが頷くことはなかった。代わりにポツリと呟く。


「もう、久斗お兄ちゃんを一人にさせない」


 リンの脳裏には帰ってくるときの寂しげな背中が去来していた。その姿に両親を亡くした自分と重ねていたのであった。それ故に頑なに付いていくことを主張していた。

 久斗が困り果てて頭を掻いていると、ターシャが助け船を出した、リンに対して。


「まだ幼くても、あのミノタウロスと戦ったんでしょ? なら大丈夫よ。それに久斗君が同じ立場になった時に大人しくしていられる?」


 その言葉になにも言えなくなった久斗にターシャが続ける。


「皆で助け合うのが仲間なの。リンちゃんだけ仲間外れは駄目よ、ね」


 そう諭された久斗はリンに向き合うと真剣な表情で告げる。


「お願いだから無茶はしないでね。もう、居なくなるのは嫌なんだ……」


 久斗の言葉にリンはしっかりと頷くと強い口調で答えた。


「お兄ちゃんは私が守る」


 二人のやり取りを見守っていたエレインは不意にターシャに近付くと囁き声で話し掛けた。


「よく了承しましたわね。(わたくし)はてっきり反対するものとばかり思ってましたわ」

「あたしも最初はそのつもりだったんだけど、逃げたからといって大丈夫という状況でもないじゃない。だったら、ね」


 エレインと同様に囁き声で返したターシャの考えに、溜め息を一つ吐くと諦め顔で一人ごちた。


「どうなっても知りませんからわよ、全く……」

「なるようになるわよ」


 エレインの独り言にあっけらかんと答えたターシャは、手をパンパンと叩き、久斗達に指示を出す。


「さ、時間はないわ。二人は出発の準備をしてきてね。あたし達はアルムとジェシカを呼んでくるわ。集合は寮の入り口よ」

「はい!」

「コン!」


 子供二人と一匹は元気よく返事をして部屋を飛び出していった。それを苦笑しながら見送った大人二人も準備のために部屋を後にした。

 

読んで下さりありがとうございました。


正直、こんな十歳と九歳はいないと思いますが経験が精神を成長させたと思っておいてください(汗

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