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異世界流浪譚 ~傭兵と共に~  作者: ガキ坊
一章 少年期編
44/69

懊悩

 王都外周部にある城壁で見張りをしていた兵士の一人が、異変に気付いた。


「ん? なんだあれ」


 太陽も沈みきり闇の帳が下りていたころ、遠目から分かる輪郭は見分けがつかないほどぼやけたものであった。そのため、兵士にはそれが何のかは初めのうちは分からなかった。しかし、轟音を鳴らして王都へと近づいてくるその物体がはっきり見えてくるに従い、兵士の顔は青ざめていった。


「おい、あれを見ろ!」

「あん? またいつもの騙しか? 毎度毎度飽きな」

「違う。今度は本当だ。城に知らせろ! 早く!!」

「おいおい、冗談が大分上手くなったじゃ……、な、なんだありゃあ」


 呼びかけられていた兵士はそこまで必死になるならと城壁の外をへと目をやるとそこには大量の粉塵とともに王都へと押し寄せてくる魔物の群れがあった。他の兵士も目を丸くしたまま動きを止めてしまう。


「だから言っただろうが! くそ、俺は城に伝えるために伝令兵の所までいくからな」


 呼びかけていた兵士は埒が明かないと、自ら城壁内にいる伝令兵の所へと走りだした。その頃には別の場所にいた他の兵士も気付きだし、城壁の上は俄かに騒がしくなっていった。





「王、アウグス王。お待ちください」


 寝所へと向かうアウグスティス三世はその呼び声に足を止めた。そして振り返るとそこには宰相が急ぎ足で近づいて来ていた。普段から冷静に行動する印象が強い宰相が走っていることに王は眉を(ひそ)める。


「どうした。騒々しい。それに普段からあれほど走るな、慌てるなと口を酸っぱくしているお前が走るとはまさか明日は雪でも降るか?」

「はぁはぁ。王、御冗談を言われている場合ではありません。先程城壁から伝令が届いたのですが」

「どうせ、魔物の群れに騎士団が勝ったとの報告であろう。こんな時間に情報を伝えてくるあの総長には腹が立つ上に、調子づかせるのは癪に障るが喜ばしい事ではあるな」


 王は宰相の言葉を遮り、億劫さを隠しもせずいらいらした様子で吐き捨てる。しかし、宰相は顔を強張らせたままアウグス王へと間違いを指摘する。


「違います。私は城壁からと言いました。王の仰るように総長からであれば騎士団と言います。いいですか、気を確かに持って下さい」


 宰相の言うことに怪訝な顔で頷く王。その王に宰相は告げた。


「魔物の群れが王都に迫っています。あと十分もしないうちに第一陣が外壁に到達するそうです」

「な、なんじゃと! 騎士団はどうなっている? まさか負けたというのか!?」


 宰相は首を横に振り、魔法で伝えられたことを答えた。


「いえ、騎士団は数万の魔物の群れを撃破し掃討しているとのことです。こちらにやって来ているのはどうも地下を用いて騎士団を潜り抜けてきたようです」

「なんじゃと……。今の王都には必要最低限の数しかおらん。どうすればいいのじゃ……」


 王は顔を青くして、うわ言のようにブツブツと呟いた。そこに宰相が一つ提案を申し出た。


「王よ、どうか今こそ()()を使うことをお許しください」

「なっ! あやつらを使うじゃと。確かにあやつらなら魔物の群れにも対処できようが。しかし、諸外国に存在を知られてしまうと……」


 宰相は王へと詰め寄り、顔を険しくして強く言い聞かせる。


「迷わされますな。この国が滅びてしまっては元も子もありません。それに傭兵達が直に駆け付けてくれます。その後は彼らに任せれば良いではありませんか」

「ううむ、そうじゃの。分かった、そちの良いように差配せよ」

「はは!」


 宰相は王に略式の敬礼をすると、急ぎ足に執務室へと去っていった。王はその背を見つめていたが、ふっと遠い目をして独りごちた。


「まさか、彼らを使う日が来るとはの。諸外国に知れてしまうとは御先祖に顔立ち出来ぬな。しかしこれも運命か……」


 そして、ふらふらと自分の執務室へと戻っていった。





 王都の外壁にある東門近くに続々と兵士が集まる様子に、付近の住人は不安を募らせていた。何か不吉なことが起こるのではないか、と。

 殆どの兵士たちも怯えた表情で部隊長を見つめていた。篝火が焚かれ、辺りには火の爆ぜる音が微かに響いていた。そんな中既に集まっていた兵士達の一部が自分達の上司である部隊長に質問を投げかけていた。


「隊長、突然の集合ということですが一体何があるんですか?」

「我々がここに集まるということは騎士団はどうなったのですか?」

「外壁の上も騒がしいですし、住民も不安がっています」


 しかし、部隊長達はそれら部下の問いかけに答えることはなかった。ただ、緊張と恐れが入り混じった表情で口を真一文字に結んでいた。そこに伝令兵が駆け寄ってくる。


「伝令、各部隊は住人の非難を開始せよ、とのことです」


 伝令兵が魔法で伝えられた命令を部隊長に告げる。伝令兵は他にもぼそぼそと部隊長の耳元で呟いていく。兵士たちは「非難」という言葉に驚き、部隊長を見つめていると、彼は重い口を開き事態を説明しだした。


「先程、王都の外に魔物の群れが迫っていることが確認された。防衛部隊が出るとのことだが、東側の住人を一度避難させる。食べ物などは後で国が用意すると伝え、着の身着のまま移動させるんだ。

 いいか! これは訓練ではない。俺たちが避難させる時間が長引けばそれだけ防衛部隊の負担は増加する。つまり事態は刻一刻を争う。迅速に行動せよ」


 兵士たちは土色になった顔で、しかし足早に二人一組となって散っていった。他の部隊でも同様の事が繰り返され、東門に集まっていた兵士たちが一斉に非難のために各家を訪ねていった。






 少し時間が遡り、太陽が沈みかけ、その光で全てを紅く染めていた頃。穏やかな時間が流れている西門に久斗達は戻って来ていた。その表情は優れず、また久斗に対してリンを除く子供達はよそよそしい態度でさらに距離を空けて歩いていた。


「やっと戻ってきましたわね」

「まっすぐ本拠地に戻ろうか」


 エレインとターシャがそう話しあっている横で、子供達はほっと一息ついていた。


「やっと戻ってきたな」

「ああ、全員で戻りたかったな」


 そうお互いに呟くウォカとルーアにコニーが噛みついた。


「何で、何でそんなことが言えるの!? 貴方達があそこで引かなかったからそうなったんじゃない! 返してよ、ガリアを返して!」


 突然の叫びに周囲にいた人々が奇異の視線を送る。それに気付かずにコニーは叫び続けた。


「なんでよ、なんであそこで帰ろうとしなかったの! それに」


 視線を久斗へと移し、憎悪すら籠っている眼で睨み怒鳴った。


「君だって本当の実力を隠して! 君がちゃんと正直に言っていればガリアだって死ぬことはなかった。君が」

「はいはい、そこまで。コニー、ガリアが死んだことが悲しいのは皆一緒なのよ。それにこんな往来で言うことでもないわ」


 ジェシカが止めたことで、コニーはハッとすると周囲を見渡し、ばつの悪そうな顔で俯いた。しかし、子供達の間には気まずい雰囲気が流れ、特にコニーと他の子供達の間に横たわる溝は深く感じられた。そんな子供達の様子に、ターシャ達大人組は頭を悩ませた。


「とにかく早く戻りましょう。どうにも王都の空気がおかしいです」


 アルムがそう告げると、ルーアが首を傾げた。ウォカや久斗もきょとんとした顔をしていた。そこにターシャが同意を返す。


「そうね、普段より静かなのは気になるしね」


 そう言ってターシャは目の前にだらだらと続く街道に目をやった。太陽は地平線の彼方へと去っていっている時間、普段は仕事帰りや夜の仕事に出向く人々が行き来している往来に人の姿はまばらにしか見受けられなかった。


「多分、王都に何らかの事件があったのだと思うわ。それを知るためにも急いで行くわよ」


 ターシャ達を先頭に一行は駆け足気味に本拠地へと戻っていった。




 本拠地はがらんとしており、残っている人達は皆非戦闘要員だけであった。ターシャやエレインは団長であるバスカー達が自分達に黙って事に当たっていることを確信した。そして、事情を聞こうと居残り組の責任者である人物を捜すことにした。その間、子供達は、心身を休めるようジェシカに言い渡され、重たい足を引きずり自室へと戻っていった。

 ウォカ、ルーア、久斗の三人は同室であったため、一緒に部屋へと戻ったが、三人の間に広がる雰囲気は重く、誰も口を開くことはなかった。しかし、自室へ辿り着くと、ウォカが久斗に話しかけた。


「なぁ、久斗」

「はい、なんですか?」


 久斗はウォカから話しかけられたことに内心びくびくしていた。そして紡がれた言葉は久斗に衝撃をもたらした。


「すまないが、ちょっと俺ら二人だけにしてくれないか? 心の整理も追いついていないんだ。コニーが言おうとしていたことは俺たちも思っていることなんだ。頼む」


 頭を深く下げるウォカに久斗は表情を暗くする。そこにルーアがウォカの頭を(はた)いて声をかけた。


「別に久斗が憎いとかそういうのじゃないんだ。ただ、本当に今は何も考えられないんだよ。お前のこと、ガリアのこと、コニーのこと。今は時間が欲しい。俺からも頼むよ」


 年上二人が頭を下げたことで久斗は仕方ないと悟り、何も言わずに(きびす)を返した。年長の二人は久斗の背中に複雑な感情を抱いた状態で見送った。そして部屋の中に入ろうと扉を開けると中からフォクシが飛び出し、二人が何か言う前にあっという間に久斗を追いかけて走り去っていった。




 行き先も何もない状態で久斗は本拠地の寮をふらふらと歩いていた。


――騙していたわけじゃないのだけど、やっぱり避けられちゃった。コニーさんなんて僕を見る目が化け物を見る目のようにしか思えなかったし……。寂しいな。

「あれ? そこにいるのって久斗君?」


 肩を落として歩く久斗に声をかけたのはキーラであった。


「やっぱり久斗君だ。戻ってたの? ずいぶん早いね。あ、ということはリンちゃんも戻って来ているのかな」


 気さくに接するキーラに久斗は涙をぽろぽろと流しだしていた。それを見て、キーラは慌てふためいた。


「ちょ、ちょっと。何で泣くのよ。あー、もう、ほら男の子なんだから泣かないの」


 久斗の両頬を伝う涙を持っていた手巾で涙を拭っていく。そして、自室へと戻るよう勧めるも頑として首を縦に振らない久斗に困り果てたキーラは仕方なしに自分達の部屋へと連れていくことにした。その時、フォクシが軽快な足音を立てて駆けより久斗の足に纏わりついた。


「あら、フォクシ、あなたも慰めるのを手伝ってくれるの?」


 キーラは助かったとばかりに安堵のため息を吐いた。そして、フォクシと久斗を伴い、自分の部屋に向かって歩き出した。歩いている間も泣きやまない久斗に困惑しつつも連れて戻った部屋では、リンが手持無沙汰に寝台に腰かけ足をプラプラさせていた。


「あ、やっぱり。リンちゃんも無事に戻って来ていたのね。よかったわ」


 声を明るく弾ませ、リンに呼び掛ける。リンのほうはキーラに会釈一つ返すと、フォクシに気付いた。フォクシはリンの存在に身構えようとしたが、リンはさっとフォクシの元まで走り抱き上げに成功していた。そのやり取りにキーラは苦笑しつつ久斗を中へと誘った。フォクシに気をとられて全く気付いていなかったリンは久斗をじっと見つめた。


「ねえ、久斗君。一体地下迷宮で何があったの?」


 部屋に備え付けてある椅子を持ち出し座らせた後にキーラはそう久斗に問いかけた。しかし、久斗は答えることなく、項垂れたままであった。しかし、答えは別の人物から(もたら)された。


「ガリアが死んだ」

「え? リンちゃん今何て言ったの?」


 ぼそりと呟いたリンの声にキーラは聞きとることができず聞き返していた。リンは再度同じことを呟いた。


「ガリアが死んだ」

「そんな……。久斗君が付いていても駄目だったの?」


 キーラは信じられないとばかりにリンに尋ねた。リンは端的に理由を述べた。


「その時、久斗お兄ちゃんはミノタウロスと戦ってた。勝手に逃げた後のことは知らない」


 キーラはミノタウロスという極めて危険な魔物と戦っていたということに驚きの表情を見せたが、すぐに「勝手に逃げた」という部分でしかめっ面に変わっていた。そして、キーラは一つ深呼吸をすると考えをまとめた。


――多分だけどミノタウロスとの戦いで、彼の秘密が他の人にばれたんでしょうね。先に言っておくなんてことは多分団長たちが許さなかったから仕方ないのでしょうけど、それでガリアが死んじゃったのならコニー辺りがかなり怒っているんじゃないかしら。となるときつい物言いをした可能性が高いわね。相手は十歳なのに何を考えているのやら。とりあえずこの子を慰めないと、ね。


「ねえ、久斗君。お姉さんの予想だけど、属性のことは秘密にしてたの?」


 キーラの問いかけにこくんと頷く久斗。それを見て、キーラは言葉を続けた。


「じゃあ、そのことでコニーやウォカ達に色々言われた?」


 肯定も否定も返さない久斗に、キーラはうーんと悩む。そして別の質問を久斗に行った。


「それじゃあ、ガリアが死んだことに責任を感じてしまってる?」


 今度はピクリと肩が動いた。その反応を目敏く捉えながら更に質問をかぶせた。


「それともウォカやルーア達からよそよそしく扱われて寂しかった?」


 更に体をぶるっと震わせる久斗。その二つの反応からキーラは自分の考えが(あなが)ち間違っていないことに確信を抱いた。そして久斗を包み込むように抱きしめる。


「いいのよ。君が責任を感じる必要はないわ。リンちゃんが言っているようにガリアが勝手に逃げたのならそれはガリアの責任。地下迷宮での単独行動がどれほど危険かはあいつだって知っていたはずだもの。それに、貴方は化け物じゃないの。あたし達の仲間。だから、ね。久斗君がそんな風に塞ぎこんでいちゃあたしもリンちゃんも皆悲しいわ」

「う、グス、グス。ウワアアアアアアン」


 久斗は次第に嗚咽を漏らし始め、盛大に泣き始めた。キーラはあやすように頭をぽんぽんと優しく叩く。

 リンは無感動に久斗が泣いている様子を眺めていた。フォクシのほうは久斗に駆け寄ろうともがいていたがリンの抱きしめから逃れる事が出来ず、憮然とした表情でその様子を見つめていた。

 そうして、暫くの間泣き続けていた久斗であったが、恥ずかしそうにくぐもった声を出した。


「あ、あの。キーラさん、もう大丈夫ですから。その、あの」


 それは鼻声ではあったが、しっかりとした口調であったためキーラは大丈夫かな、と判断を下し久斗から離れた。泣き腫らした眼は真っ赤になっており、また恥ずかしさから顔も真っ赤にしていた久斗にキーラは声をかけた。


「ん、なら良かったわ。お姉さんの胸を貸した甲斐があったわ」


 キーラはあっけらかんと笑ったが、後ろでリンが自分を射抜くように見ていた事に久斗は肩身の狭い思いをしていた。その後、リンを交えて三人で地下迷宮で何があったのかを詳細に話し始めていった。


「はあ、そりゃ大変だったわね。ガリアには悪いけど本当二人とも無事に帰って来てくれて良かったよ。フォクシだってずっと待ち焦がれていたんだしね」


 キーラがフォクシの頭をすっと撫でるが、フォクシはつんと澄ました表情であった。キーラは苦笑しつつ、手を引っ込める。


「この仔は君らがいない間ずっとあたしが世話していたのにね。結局全然懐いてくれなかったわ。そういう意味ではリンちゃんには脱帽ね」


 その言葉にフォクシを抱き締めているリンはきょとんとし、久斗は明るい顔を見せるのであった。

 その時には夜の帳が下りており、空に浮かぶ星星が煌めき始めていた。

 夕食の時間には少し遅れていたが、久斗とリンは疲れ果てていたため食堂へ行くのも億劫になっており、仕方なくキーアが取りに行こうと立ち上がった時であった。


「久斗君いる!?」


 ターシャがリン達の部屋へと飛び込んできたのであった。

 

 


読んで下さりありがとうございます。

戦闘シーン行けると思っていたら思ったよりも進まなかった……。期待されていた方々にはまことに申し訳ないです。

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