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異世界流浪譚 ~傭兵と共に~  作者: ガキ坊
一章 少年期編
41/69

来襲

 久斗達が地下迷宮へ出発したのと同時刻。


「ふむ、まだまだ修練が足らんな」

「は、はい。ありがとう、ござい、ます。副団長殿」


 王宮第三騎士団副団長を務めるガイウスは青空の下、修練場にて部下の鍛錬の相手をしていた。相手の騎士は息も絶え絶えであったが、ガイウスは気にせず、次の相手を呼ぶ。


「次! リチャード……」

「副団長、大変です!」


 その時、騎士が修練場へと飛び込んで来た。その人物は息を整えることもなく、自分達の副団長へと連絡事項を伝えた。


「ま、魔物の群れがこちらへ向かっています!」


 周囲の騎士たちがどよめく。そこにガイウスの叱責が飛んだ。


「黙れ、お前たちは栄えある王宮騎士団であろう。うろたえるな!」


 そして、伝令に来ていた騎士に他の情報がないかを尋ねた。


「お前も、それだけで来たのではあるまい。他に伝えることは?」

「はっ。騎士団長閣下より伝言です。第二作戦室に対策を練るとのことで、副団長閣下にもおいで願うよう言われております。また、他の団員については鍛錬を即刻中止し、所定の待機場所にて指示を待てとのことです」


 騎士は背筋を正すと、伝言内容を述べていく。それを聞いたガイウスは大声で訓練中の団員に命令した。


「お前ら、聞こえていたな。今すぐ訓練を中止し、待機場所にて装備品などの確認を行え。わかったな」

「はっ」


 訓練中の騎士達は命令に従い、駆け足で自分達の待機場所へと移動していった。それを尻目にガイウスは伝令に来た騎士に伝言を頼んだ。


「あー、お前はすまんが『風の旅団』本部に行って、同じことを伝えてきてくれるか?」


 その命令に騎士は戸惑った。民間人に伝えてよいのかと考えたのである。それを察したガイウスが声をかける。


「責任は俺がとる。お前はバスカーかエストに伝えるだけでいい。伝え終わったら正規の仕事に戻れ」

「はっ」


 騎士は敬礼すると、足早に訓練場を出ていった。ガイウスは空を見上げるとぽつりと呟く。


「とうとう来たか。だが俺たちは負けない。見ててくれ」


 誰にともなく呟いたその言葉は風と共に空へと消えていった。






「なぁに! とうとう来たか」


 騎士は第三騎士団副団長からの伝言を伝えた相手の反応を訝しんだ。バスカーが驚くというより待っていたというべき態度であったからである。しかし、深く考える前にエストからお礼を伝えられ、城へ戻るよう促された。


「連絡御苦労さまです。副団長閣下によろしくお伝えください。本来であればこちらでご休憩して頂くべきなのでしょうが、事態が事態ですので城のほうへ戻られたほうがよろしいかと存じますが」


 騎士はエストの言葉にはっとすると敬礼をした後に城へ戻る旨を告げた。


「お気遣いありがとうございます。では、私はこれより城へ帰還いたします。どうかご協力のほうお願いします」

「はい、我々も王都に住む者でございます。微力ながら王都防衛へ貢献する次第です」


 エストが王都防衛に参加することをはっきり口にしたことでほっとすると失礼します、と挨拶をして部屋を出ていった。エストは騎士が扉を閉めた後にバスカーへと苦言を呈した。


「団長、あれでは私達が何か知っていると白状しているようなものです。最悪の場合犯人扱いされますよ」


 エストの叱責にバスカーは悪びれることなく平然としていたが、エストがさらに足をダンと踏み抜くと態度を改めてエストに謝った。


「ぐ、すみません。いご、きをつけます」


 エストはジト目でバスカーを睥睨していたが、そんなことをはしていられないとばかりに頭を振ると、これからのことについて相談を始めた。


「これから私達はどう動きますか?」


 バスカーは少し考え込んでからエストに告げる。


「俺たちが今すぐ動いてもどうにもならんだろう。ただ、この時期に暗躍している奴らがいるはずだからそれの尻尾くらいは捕まえておきたいな」

「それでしたら、団員のうち諜報関係に長けた者を選んで事に当たらせましょうか?」

「そうだな。残りの団員には緊急指令を出して、全員集めておこう」


 バスカーの言葉に頷くとエストはそのまま部屋を出ていった。残されたバスカーは窓の外に見える蒼穹に染まる空を見上げながら強い意志を感じさせる声で呟いた。


「お前達の好きにはさせんぞ……、クトゥーフ」





「だから! 今はそんなことをしている場合ではない。この王国の興亡を決める戦いになるんだぞ。お前達だってこのままみすみす王都を蹂躙されるようなことを許せるはずないだろう!」


 ガイウスは第二作戦室に集まった幹部にそう怒鳴ると、騎士団総長のほうを振り向き再考を求める。


「総長。あなたさえ認めてくださるなら問題なく対処できるはずです」


 王国騎士団の統括を担う総長を務めるルキウス・アーレウスは目を瞑り黙ったままガイウスの叫びを聞いていた。そして、ガイウスの主張が終わると重い口を開いた。


「くだらん」

「は? 今なんと仰いましたか」


 ガイウスはルキウスの言葉を理解できずに聞き直していた。


「くだらん、と言った」


 ガイウスを見つめながら言い放ったその言葉に、ガイウスは青筋を立てて理由を尋ねた。


「そう仰る理由はなんですか?」

「王都防衛は我々の責務である。何故、傭兵などという屑どもの力を借りねばならん。やつらなぞ初めの露払いでもさせておけばよい」


 その総長の言葉に頷きを以って賛同を示す幹部達。ガイウスはそれを見て、王国騎士団の腐敗を感じ取っていた。


「では、何があろうと傭兵達と共同作戦を展開することはないと?」

「くどい、もう決まったことだ。貴様も栄えある騎士団の一員なら自らの力で王国を守るがよい」


 しかし、ガイウスはそれでもなお、言い募ろうとする。


「ですが、魔物の規模は」

「くどいと言った。……貴様はこの場にいるのに相応しくないようだな」


 ルキウスはそう告げると、手を挙げる。それにルキウスの背後に控えていた騎士二名がガイウスの手を掴むと部屋の出口へと向かう。


「さぁこちらへ」

「ええい、放せ。貴様たちはそれでいいのか? 万が一のことを考えないのか?」

「それは総長がお決めになる事です。私達が考える事ではありません」


 ガイウスは騎士二名に引きずられるようにして部屋の外へと連れ出される。そのガイウスにルキウスは最後の声をかけた。


「貴様はこの事態が収束したら降格する。それまでに騎士にもなれない屑共と手を組むなどという汚らしい考えは捨て去っておくのだな」


バタン


 ガイウスが床へと投げ出されて転がされるのと同時に扉のしまる音がした。ガイウスが慌てて周囲を見渡すと、ガイウスを引っ張って来ていた二名の騎士の姿はなく、扉のうちから鍵をかける音がした。


「くそ、誇りと驕りを勘違いしやがって。貴様らだけで相手ができるわけがないだろうが」


 ガイウスは転がった姿勢のまま悪態を吐くと、おもむろに立ち上がり自室へと向かった。その瞳にはある種の決意が漲っていた。




「おい、マルク。出発の準備をしろ」


 マルクと呼ばれた青年は仕事中にガイウスが戻ってきたことに驚き、何があったのかと問い質した。


「閣下。今は第二作戦室で例のことについて会議中だったのでは?」

「ふん、あんな老害どもは事態の把握もできておらん。今は危急存亡の秋だというのに要らぬ驕りを持ち出してやがって」


 ガイウスが悪態を吐く様子から何があったのかを理解したマルクは備え付けの給湯室に行き、お茶をいれてガイウスに差し出した。


「あの総長達が堅物なのは副団長もご存じではありませんか。あれらにできない柔軟な考えを思いつく事が副団長の仕事ですよ」


 ガイウスはマルクの入れたお茶をひったくると、飲みながら入ってきたときに叫んだ内容を再度言葉にした。


「マルク、お前のお茶は美味いし、落ち着きもした。だがな、俺がお前に言ったのはお茶を入れる事ではなくて出発の準備だ」

「はいはい、わかっておりますよ。給湯室に行きました時についでにサヴィラにも連絡しましたので、もうすぐこちらにやってくると思いますよ」

「ふん、ならいい」


 マルクの言葉が終わり、ガイウスが茶を一飲みしたところで扉が軽く叩かれる。


「だれだ」

「サヴィラです」

「入れ」


 扉を開け、室内に入ったサヴィラはガイウスに敬礼した。その後ろにはメリルも付いてきておりサヴィラ同様に敬礼をした。


「サヴィラ・セピニオス、メリル・ストレット両名参上いたしました」

「御苦労。これから例の傭兵どもに会いに行く。準備をしろ」


 突然の呼び出しに装備をそのままにやってきた二人は、今から傭兵に会いに行くという言葉に困惑を隠せなかった。そこにマルクが事情説明を行った。


「どうも総長閣下は我々騎士団だけで事に当たるとお考えのようですが、我々第三騎士団は無理と判断し、今から秘密裏に向こうに要請しに行くつもりです。それについて来てもらいたいのですよ」


 「秘密裏」という部分に二人は首をかしげる。自分達まで付いていけば衛兵からすぐばれてしまうのではと思ったからである。しかし、直後にガイウスがマルクの言葉を訂正した。


「秘密裏じゃない。堂々と行くんだよ。どうせ今回の事件が終われば俺は降格らしいからな。それならやりたい放題してやるつもりだ」


 マルクは降格という言葉に驚いた。残りの二人も驚いたが、ガイウスは全く気に留めず、マルクに準備を急がせる。


「だからほれ、もう装備をしてきたんなら丁度いい。マルク、後はお前だけだ。さっさとしろ」


 マルクは肩を(すく)めると、机の上を片し座っていた場所の後ろに掛けられていた外套を羽織ってガイウスに告げる。


「はい、準備は整いました」

「よし、なら行くぞ」


 ガイウスはそれだけ言うと一秒も無駄にできないとばかりに早足で部屋の外へと出ていった。それにマルクは平時と変わらぬ表情で付いていき、残った二人は慌てて付いていくのであった。





「はぁ? 連携しないって言うのか?」


 ガイウス達は城を抜け出した後に、真っ直ぐ「風の旅団」本拠地へと赴き、バスカー、エストに面会を申し出ていた。バスカー達はすぐに面会し、現在はバスカーの執務室にて、途中までではあるが騎士団の意向を伝えていた。

 その意向にバスカーが理解できないとばかりに顔をしかめて大声を上げる。その横でエストも同様の顔を顕わにしていた。

 

「そうだ。それが総長閣下の決定だ」


 それに対してガイウスは自室で悪態を吐いていたのが嘘であるように騎士団の決定を粛々と伝えていく。そのガイウスの態度に不審な色をみせるサヴィラとメリルであったが、それを察したガイウスに睨まれるとすぐに真面目な表情を見せていた。それをエストは白けた目で見ていたが、マルクが苦笑して見せると仕方なしとばかりに首を振り、表情を正した。


「で、それだけを伝えるならお前さんらがそんな揃ってくることはないだろう。一体何を企んでいる?」


 自分の頭上を介して行われていた遣り取りを無視してバスカーが問うと、ガイウスが答える前にマルクが口を開いた。


「いえいえ、企んでいるなんてそんなことはありませんよ。ただ、私達としましては流石に戦力不足が予想されますので貴方方を筆頭とした傭兵の方々に手伝って頂ければと思いこうして参上しました」


 その言葉にガイウスが耳を真っ赤にして睨むがマルクは平然としていた。それにバスカーとエストが苦笑していたが、矛盾点を口にした。


「お前さんらは手伝ってほしいというが、騎士団としては独自でやるんだろ。一体どっちがほんとなんだ?」

「またまた、我々がここにいる時点で答えを知っていらっしゃる癖にそんな意地悪なこと聞かないでくださいよ」


 マルクがへらへらと笑いながら答えると、ガイウスが我慢できないとばかりに叫んだ。


「マルク! いつまで化かし合いなんかしている。さっさと用件を端的に述べろ」

「……と、うちの頭が怒っていますので簡単に言いますと、騎士団とは別で我々と行動を共にしてもらいたいのですよ」


 バスカーとエストはマルクの発言にさもありなんと頷く。そしてすぐに答えを返した。


「こっちは構わねぇぞ。というか既に何人かの団員を動かして情報収集に当たらせている」


 そのバスカーの発言にガイウスが鋭い目付きで問い詰める。


「どこまで掴んでいる?」

「まぁお前さんらと変わらんさ。旅団には空を飛べる奴はいないんだからな。ただ」

「ただ?」


 ガイウスが続きを聞くと、驚くべき情報が知らされた。


「東から来ている魔物の数は大雑把に見積もって五万は下らないだろう。下手をすると十万を超える」

「なっ」


 教えられた魔物の数にサヴァラ、メリルが驚き声をあげる。慌てて口を塞いだ二人であったが、しかしガイウス、マルクの両名はだまったままであった。そしてガイウスが苦り切った表情で確かめる。


「それは事実だろうな」


 バスカーは沈鬱な態度で肯定を返した。


「団員を物見に行かせて得た情報だ。それも一人じゃなくて五人くらいを派遣してな」

「……厳しいな」

「ああ」


 その発言を最後に執務室は無言に包まれる。そして暫くの時間が流れた後にガイウスがポツリと呟いた。


「そうだ、お前のところのあの少年の魔術なら大群相手にも」


 その台詞をバスカーは自分の言葉をかぶせて遮った。


「あいつなら今は地下迷宮に行かせている。戻ってくるのは早くても三日後くらいになるだろう」

「三日後など、すでに王都が襲撃されているではないか! 何故行かせた!?」


 ガイウスはバスカーに食って掛かる。マルクを含め、騎士団側の者は皆何をそこまで固執しているのか分からず慌てて止めようとした。しかし、それより先に手で遮り、押しとどめたのはエストであった。


「言いたいことは分かりますが、彼はまだ未成年、それも子供ですよ。まだまだ未熟なのですから戦いというものをもっと経験させねばなりません。そのための派遣です」


――もっともそれだけが理由ではありませんが……。いざというときはそこから逃げてもらわなければなりませんしね。


 エストが黙ったことで更に噛みつこうとしたガイウスであったが、再度投げられたエストの言葉に自制した。


「彼は参加できませんが、今回の件につきましてはすでに傭兵ギルドから了承を得ています。つまり貴方がたに協力するのは私達『風の旅団』だけでなく、王国中の傭兵団だと思ってください。すでに各主要都市に有名な傭兵団が派遣されていますし、冒険者が各村からの護衛を手伝ってくれています」


 そのエストの言葉にガイウスは自分達の不甲斐無さを感じ取っていた。騎士は王国の剣であり盾である。それなのに王都のことだけを考え各都市や村のことなど頭になかった。しかし、傭兵や冒険者は自分達の代わりに動いてくれていた。総長が口にした「屑」という言葉は一体どちらなのか。そういった考えが次々と頭に浮かびあがってきていた。


「そうだ、東の『サゴラサ』はどうなっているんだ」

「騎士団が何故情報を掴んでいないのかはわかりませんが」


 ガイウスやマルクはその理由に思い至るものがあったが、エストの続きを聞くことを優先した。


()()()なことにサゴラサにも襲来はしているみたいですが、ほとんどはそのまま素通りしているみたいです。要は狙いは王都ということでしょう」


 ガイウス含め、騎士団側一同はほっと胸を撫で下ろす。それを見て、エストは実際の対策について話を移した。


「では、実際に騎士団がどう動くのか分かる範囲で教えてください。それから対策を練っていきましょう」

 

 ガイウスはエストの言葉に賛意を示し、ぽつりぽつりと語っていく。そして限られた時間の中でバスカー達は魔物襲来に備えて対策を講じていくのであった。

読んで下さりありがとうございます。


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