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異世界流浪譚 ~傭兵と共に~  作者: ガキ坊
一章 少年期編
37/69

探索

「準備は出来たか?」


 ウォカの言葉にその場にいた全員が頷く。それを見てウォカは号令をかけた。


「よし、じゃあ出発だ」


 ウォカを先頭に子供達は周囲を警戒しながらゆっくりと地下迷宮へと入っていった。




「とうとう俺も実戦、それも地下迷宮か」

「無様を晒すことのないようにな。お前はいっつも詰めが甘いんだからさ」


 朝食時、ウォカとルーアはお互いに軽口をたたき合いながら緊張をほぐしていた。その隣では久斗がリン、キーラ、フォクシと一緒にゆっくりと、逆隣にはガリアとコニーががつがつと朝食を食べていた。


「そう言えば、今日なんだね」


 キーラがリンに問いかける。リンはフォクシへの餌やりに夢中になっていたが、キーラへは肯定の合図を返していた。


「そっかぁ。昨日一昨日と一生懸命やってたもんね。不安はあるけど、ヒサト君もいるんだし余程のことがない限り大丈夫かな?」


 久斗はその言葉に呑んでいた水を噴き出すところであった。ぎりぎり抑え込み、そしてキーラに探るような目付きを向ける。それに対してキーラは不敵な笑みを浮かべ、久斗の耳元で囁いた。


「そんな怖い目はしないの。別に詳しいことは知らないけど、リンが少し教えてくれたのよ」


――あー、そう言えばリンちゃんに言っちゃ駄目ってことを教えてなかったっけ? それにキーラさんなら口八丁で根掘り葉掘り聞いてそうだし、リンちゃんて見た感じの取っつき辛さから考えると結構扱いやすいし案外本当なのかも。


 本人が聞けば怒るようなことを思いながら、しかしそれでも訝しんでいた久斗にリンが謝ってきた。


「ん、ごめん。私が言った」


 リンは無表情であったが、申し訳なさが感じられる瞳を久斗に向けていた。リンが謝ったことで久斗は何も言うことができなくなっていた。仕方なくキーラに口止めを図った。


「それって他言無用でお願いしますね。リンちゃんもお願い。もし、漏らしていたらエストさん辺りからお仕置きされますよ」


 エストからのお仕置きという言葉にキーラは震え上がり、そして青い顔をして首がもげる勢いで頷いていた。リンもキーラの様子を不思議に思いながら頷いた。


「わかった」

「わ、わかったわ。私も命は惜しいから絶対他の人には喋らないわ」


 しかし、その言葉を聞き拾ったウォカが尋ねた。


「ん、何を喋らないんだ?」

「何でもないわよ。ただの世間話よ、世間話」


 ウォカはその返答で興味を失くし、再びルーアと軽口をたたき合っていた。それにキーラはホッとし、そして声を小さくしながら久斗に再度リンのことを頼んだ。


「ほんとにお願いね。迷宮探索って人がたくさん死んでるって言うからウォカ達が思っている以上に大変だと思うの。幼い君に頼むのは筋違いだけど頼んだわよ」


 キーラの表情は不安の色が見え隠れしており、先程の不敵な笑みが嘘であるように思えるほど弱弱しく感じられた。


「……はい」


 久斗は安心させるような強い返事ではなく、神妙に了承の意を示した。それでもキーラの顔から不安の色が消え、普段と同じ明るさを見せた。


「ふふふ、皆の帰りを、それと土産話を期待して待っているわね」


 キーラの期待に応えようと意を新たにする久斗であった。





「これが地下迷宮か。案外近いもんだな」


 傭兵団の本拠地から出発して王都から歩くこと半日で、地下迷宮の入口へとたどり着いていた。ウォカはその近さに驚いていたが、久斗、リンにとっては歩き通した半日はつらいものであった。

 一行はさっとその場で野営の準備を行い、最後の確認をしていった。その作業は初めてということもありとても入念なものとなっていた。

 そして翌日、日の出と共に起き出した一行は朝食を食べ、装備を整えた。ウォカが全員に声をかける。


「準備は出来たか?」


 その言葉にその場にいた全員が頷いた。その顔には闘志が漲っており、やる気に満ち溢れていた。それを見てウォカが号令をかけた。


「よし、じゃあ出発だ」


 ウォカを先頭に子供たちは周囲を警戒しながらゆっくりと地下迷宮へと入っていった。

 入ったばかりの入口のところでルーアが唸る。


「思ったよりも暗くないんだな」

「壁や地面が光るって聞いてたけど本当に光るんだな」


 ガリアの言葉にコニーやリン、久斗も同意していた。地下迷宮は壁や地面がぼんやりと淡い青色に光っており、前方がぼんやりと見える状態であった。ウォカはその光で十分と思い先へ進もうとしたが、コニーが待ったをかけた。


「それでも、松明は点けましょうよ。やっぱりきちんと光源を確保しておくべきよ」

「そうだな、久斗頼んだ」

「分かりました」


 ガリアが背負っていた背嚢から松明をとりだし、久斗に渡す。久斗は小さく魔法を唱え松明に火を灯した。そしてそれをルーアに渡す。


「ありがとさん」

「前、気を付けてください」


 久斗の言葉に心配するなと松明を高く掲げ、先頭を歩いていくルーア。それに続くようにウォカ、ガリアが歩き、コニーとリンがそれに続いた。久斗は後方を警戒しつつ最後尾を歩いていく。


「何も出ないな」

「そんな油断していると……、ほらお出ましだぜ」


 ウォカのぼやきにルーアが注意を促すと同時に、子供たちの前方より這いずる音が聞こえてきた。


「皆、初の魔物戦だからと言ってヘマすんなよ」


 ウォカが軽口を飛ばし、全員を鼓舞する。そして相手の姿が見えた時コニーの悲鳴が木霊した。


「きゃああああああ、何あれ、気持ちわるいいいいいい」


 前方から子供たちに近づいていたのは蟲型の魔物、その中でも芋虫型の魔物であった。叫び続けるコニーの頭をガリアが叩く。


「あいた、何するのよ」

「その悲鳴で他の魔物が近づいてきたらどうするんですか。ヒサト君もリンちゃんも既に臨戦態勢に入っています。コニー先輩も見習ってください」


 ガリアに諭され、嫌々ながらに臨戦態勢に入るコニーであったが、すぐにウォカに要望を出した。


「ウォカ、あたしあれには近づきたくないから松明持ってるわ」


 それにウォカが呆れてしまうが、ルーアは無言で松明を差し出した。そんなやり取りをしている間に久斗、そしてリンの詠唱が終わり魔法が発動した。


「……我願うは破滅の火炎、無限の炎の矢で燃やしつくさん、フレイムアロー!」

「……我願うは鋭鋒たる土、無限の土の力を今呼び寄せん、アーススパイク!」


 まずリンの魔法が魔物を地面に縫い取り動けなくする。そして続けて久斗の炎の矢が魔物を焼き尽くす。残っていたのは、辛うじて魔物の原型を取り留めていた残骸であった。


「ヒュー。これはすごいね。俺たちの出番がなかったじゃないか」

「あたしはこれで一安心よ……」

「これを見ると改めてターシャさん達の凄さが分かるな」

「コニー先輩、松明をルーア先輩に」


 思い思いの言葉を吐き出す中、ガリアがコニーへ松明の返還を勧める。コニーは慌てて松明をルーアに渡すと定位置に戻った。その最中でも久斗、リンは周りへの警戒を怠らなかった。


「よし、他の魔物が音で寄ってくる前に先に進もう」


 ウォカの号令で一行は迷宮の奥へと向かっていった。そして、歩くこと約二時間、途中で数度魔物と出くわしたが、全て訓練した連携をいかんなく発揮して撃退しつつ、一階の最深部に到着した。最深部の部屋は荘厳さと共に不気味さを感じさせる装飾が施された扉で閉ざされていた。


「この扉は……。そうか、ここが最深部か。あれ、なにがあるんだったっけ?」


 ウォカの惚けた台詞に答えたのはルーアであった。


「特に何かあるというわけではないが、次の階層への入り口がある他、魔力がたまりやすい性質らしくそれを目当てに魔物が入りこんでいるらしい」

「それって一杯いる事もあるってことだよな?」


 ウォカが凄く嫌そうな顔でルーアに確認をとる。ルーアはそれに頷いて対策を提案した。


「そうだ。だから入るときは慎重にいかないといけない。具体的には……コニー」


 ルーアに呼ばれ嫌な予感を感じつつもコニーは前に進み出た。そしてルーアから指令が下される。


「お前の気配察知は俺らの中で一番だからな。中を探ってもらえないか?」

「それあたしに断りようがないじゃない。やります、やりますよーだ。でもあたしだってそこまで優れたものじゃないからあまり期待しないでよ」


 ブツブツと文句を垂れながらコニーは扉へと近づいていく。そうして気配を探っていく。しかし、探るにつれてその顔色は段々と悪く、態度も怯えたものになっていっていた。それを心配したガリアが尋ねる。


「コニー先輩、一体どうしたんですか?」


 コニーは青い顔のままガリアに振り向き、恐怖で声を掠れさせながら答えた。


「やばいわ。これはすっごいやばいわ」


 その一言に残り五人に緊張が走る。そして代表してウォカが尋ねた。


「一体何がやばいって言うんだ? ものによっては引き返すことも視野に入れなければいけない」


 バスカーからは三層までと言われていたが、命より大切なものはないと判断しているウォカは撤退することも公言した。その言葉に一番頷いていたのは久斗であった。


「中には、中にはね」

「あぁ」


 ごくりとガリアの喉が鳴る。松明も風がないのに揺ら揺らと不安定な炎をたなびかせていた。それから伸びる影に洞窟の青さと相まって子供たちは不気味なものを感じ取っていた。


「芋虫型の魔物がいっぱいいそうなの!!」


 その言葉が叫ばれるが、残りの子供たちは一瞬何を言われているのか分からなかった。そして理解していくにつれて脱力していった。


「ぐはぁ、お前さんがそこまで怯えるから何か余程危険な魔物がいると思ったのによ。編に怖がらすなよ」

「全くですね。見て下さい、リンちゃんなんかヒサト君の背中に隠れてしまっているではありませんか」


 ウォカとガリアが注意するも、コニーは悪びれたところはなく逆に反論してきた。


「そんなのしょうがないじゃない。あたしはあれだけは駄目なの。他の魔物ならなんでも大丈夫だけどあれだけは駄目。あのぐにぐに感が……いやああああ」


 ウォカはコニーをほったらかしにして残りの四人と相談することにした。


「コニーはもう放置でいいだろ。どうせ芋虫型相手だと役に立たないんだし、松明でも持たせておこう。それで俺たちはどう対処するかだな」


 真っ先に意見を述べたのはガリアであった。


「ウォカ先輩やルーア先輩には申し訳ないのですが、ここは今回もヒサト君とリンちゃんを頼るというのはどうでしょうか?」

「というと?」


 ルーアが具体案を問う。


「ええ、ヒサト君は確か火の中級魔法まで使えるんですよね?」

「はい。ただ少しだけですけど」

「少しでも使えるのは凄い事ですよ。で、さらに聞きますが広範囲殲滅型の魔法は習得できていますか?」


 広範囲殲滅型という言葉でウォカとルーアにもガリアが何をいいたのかが理解できた。そして理解できたが故に久斗に期待を込めた目を向ける。久斗は気負いなく返事した。


「一応使えることは使えます。でも皆さんを避けて使えるほど器用には扱えませんよ」


 久斗の返事に問題ないとウォカは判断し、久斗に告げる。


「いや、今回は後方から放つのではなくて、入った瞬間に放ってもらうことになるからそれは大丈夫だ。放ち終わったら後ろに下がってくれればいい」


 久斗はそれを聞き、それならと快諾した。そんな久斗をリンが心配の色をはっきりと灯した瞳で見つめていた。しかし、迷宮の暗さからそれを読み取った者はいなかった。

 その後、魔法を放ち終わった後の段取りも決まりルーアはコニーへと松明を渡す。そしてウォカと共に扉に手をかけた。


ギイィィィィ


 不気味な音を立てながら荘厳な扉は観音開きで、両側がどんどん開いていった。そして広がった光景に再度コニーは絶叫していた。


「きゃあああああああ、一杯いるうううう、もういやああああ」


 扉の先は広間となっており、そこには数十体の芋虫型の魔物がもぞもぞと(ひし)めいていた。久斗含め一同が呆気にとられる中、リンが叫ぶ。


「ヒサトお兄ちゃん、魔法!」


 リンの普段の無感動な声からは考えられないほどの焦りを含んだ声に、久斗は気を取り戻した。そして途中まで詠唱していた魔法を完成させる。


「……炎の乱舞を呼び給いし我に力を与え給え、フレイムストーム!」


 その魔法が発動すると同時に()()炎が渦となり、広間にいた魔物を焼き尽くしていく。その火が乱舞する光景に魅入るウォカやルーア、ガリア達であったが、魔法が収束し、炎が消えると慌てて魔物の状態を確認した。

 しかし、魔物は久斗の高魔力で放たれた炎の嵐により全て燃やしつくされていた。更には淀んでいた魔力も焼き尽くしており、広間には清浄な雰囲気が漂っていた。


「これは先程の魔法よりも凄いな。俺たちの出番なんてほんとにないじゃないか」

「これはあまりヒサトに頼りすぎると俺たちの成長にならんな」


 ウォカとルーアが話しあう中、リンが久斗の服を掴み顔を背中に押し付けていた。


「ちょ、ちょっとリンちゃん」


 久斗が呼びかけるも、リンはイヤイヤするように顔を横に振るだけで何も答えなかった。その様子にコニーは先程までの醜態を無かったことにするようにニヤニヤと久斗を冷やかしていた。


「おーおー、色男の子はつらいね。リンちゃんもよっぽど心配だったんだね」


 その光景にガリアはため息をついて、周囲の警戒に戻る。暫くしてウォカとルーアが全てを確認して久斗達が集まっている広間の入口に戻ってきた。


「全て焼け死んでいた。匂いすらしないってのは余程高温だったんだろうな」

「まぁ普通火の魔法と言えば赤色だからな。ヒサトのは青色だったろ。あの色って高位魔法師とかがたまに出すらしいけど威力は段違いと聞くぞ」

「空気も何処か澄んでいる気がするしな」


 魔物が全て燃え尽きているという報告に一番安堵していたのはコニーであった。そして次の階層へ行こうというところで子供たちに声が掛けられた。


「ふう、もうここまで来ていたのか」

「あまりはしゃいで進みますと思わぬ落とし穴に嵌りますわよ」


 その声はターシャとエレインのものであった。二人の後ろには大剣を背負ったアルムと短剣を腰に二振り提げているジェシカの姿もあった。


「ターシャさんにエレインさん、それにジェシカさんまで。一体どうしたのですか?」


 ウォカが驚きの声を上げるとエレインがやれやれと肩を竦めながら理由を答えた。


「あらあら、もうお忘れになっているんですの? 団長からあなた達のお守を承っているのですわ。姿が見えると頼ってしまうでしょうから隠れていただけでしてよ」

「エレインの言うとおりだよ。あたし達は君らの保護者ってところね。手を出すつもりはないけどまぁ一階層を突破したみたいだし、声をかけたのよ」


 二人の言い分に渋い顔を見せる子供たちであったが、その顔には安心の色も見て取れた。そこにアルムからの注意が飛んできた。


「ターシャ殿も言っていますが、私達は手を出すつもりはありません。今ほっとしていたら全滅するかもしれませんよ」


 その言葉ですぐさま緊張感を取り戻す子供たち。それをアルムは満足そうに見ていた。


「すいません、つい気が弛んでしまいました。俺たちは今から二階層に挑みますが、安心して見ててください」

「はい、いってらっしゃい。頑張ってね」


 ウォカが一同を代表して挨拶をして、ターシャからの声援を背に子供たちは周囲を警戒しながら二階層へと足を踏み入れていくのであった。

読んで下さりありがとうございます。


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