相部屋
何故かおかしな方向に話が・・・なんていうか今までのイメージを壊していたらすいません。
「そうか、あいつらは帰ってきたのか」
男は装飾もない実用性のみを追求した無骨な椅子に座りながら部下の報告を聞いていた。
「はい、本日の昼ごろに検問を通過したとの連絡がありました」
「ギルドのほうから連絡は来たか?」
「いえ、そちらのほうはまだありません。恐らく、本日到着したようですから、疲れを癒すためにもゆっくりしているのではないでしょうか? 庶務手続きにつきましては明日以降に行うのではないかと思われます」
「……」
男は部下の報告を聞くと暫く目を閉じたまま黙っていた。それに合わせ部下も同様に黙り込む。
カチコチカチコチ
部屋の中に備え付けられている時計の振子の音だけが部屋を満たす。そうしてしばらくすると、男は目を開き部下に指示を出した。
「とりあえずはギルドからの連絡を待とう。エルリッシュでの件についてはその時で構わない。お前は例の件の準備をしておいてくれ」
「はっ」
部下は男に敬礼をしてから部屋を退室していった。それを見送った男は椅子に深くもたれ掛かると誰にともなく呟いた。
「あいつらが戻るということは……。もうそんな時期か。また、アレが来るのか」
その呟きは誰かに聞かれることなく時計の振子の音に掻き消されていった。
「おいおい、ヒサトって召喚獣がいるのかよ」
「すげぇな。名前なんて言うんだ」
「見た目そのままなんだけどフォクシって言うんだ」
久斗は自分に割り当てられた部屋でこれから共に過ごす二人の子供達と談笑していた。フォクシは名前を呼ばれた時は顔を上げるも、特に用事がないと分かると自分用に作られた寝床で寝そべっていた。
「しかし、もう実戦も体験してるなんて驚いたぜ。なぁウォカ」
ウォカと呼ばれた子供は呼び掛けてきた男子に同意を示した。
「全くだ。俺らだって危ないからと言われて何の実戦もやらせてもらえないってのにな」
久斗は自分も同じであると訂正する。
「ルーアもウォカも大げさだよ。僕はほとんど何もしてないんだって。全部ターシャさん達が倒しちゃってたんだ
よ」
ルーアと呼ばれた男子は久斗の言葉にかぶりを振る。
「いやいや、その実践の空気つうのか? そういったものに触れているだけでも全然違うのだって。それに……」
「それに?」
「あの瞬速の美姫と呼ばれるターシャさんに、炎穿の王女として名高いエレインさんの雄姿を見られたなんてなんて羨ましい!」
聞いたこともない二つ名に少し吃驚する久斗を余所にルーアとウォカの話しは続いていく。
「あの瞬速の美姫の冷たい目で見られる時のゾクゾクする感じがまた」
「俺はあの特製の炎の矢で穿たれたい」
「おいおい、何言ってんだ、それ死ぬぞ」
その後暫く、二人は久斗が知らないターシャ、エレインの姿を肴に大盛りあがりを見せるが、久斗が黙っていることに気付き、怪訝な顔を見せる。
「ん、どうした?」
「お前も一緒にいたんだからよく知ってるだろ?」
久斗は首を振り、否定を示す。そして自分が知っている二人の姿を語る。
「ううん、僕が知っている二人は……」
全てを聞き終えたルーアにウォカは目を丸くして口をポカンと開けていた。
「……それ、本当かよ。あり得ねぇよ」
ルーアがようやっとのことで、自分の思いを口にする。ウォカも信じられないとルーアの言葉に頷く。しかし、久斗の謝るような表情に真実であると分かり、ルーアは項垂れ、ウォカは天を仰いだ。
「俺の瞬速の美姫が……」
「あの炎穿の王女がそんな……」
うちひしがれる二人になんと声をかけたら良いか分からない久斗がおろおろしていると、扉が叩かれ久斗を呼ぶ声が聞こえてきた。
「久斗君いる?」
その声に真っ先に反応したのは久斗ではなく、うちひしがれていた二人であった。
「この声は麗しのターシャさん! はいはい、今開けます」
ルーアは主人に呼ばれた犬のように愛想の良い声を出して扉に駆け寄り扉を開けた。するとそこには、ターシャだけではなくエレイン、アルムの姿もあった。
「あら、君は……。確かルーカ君だったかしら?」
「はい! ルーカと言います。麗しのターシャさんに会えて光栄です」
「あ、ありが、とう。そ、それでね」
ターシャはルーアの興奮した態度に若干気圧されながら用件を伝えようとした。その時、ルーアの頭を叩く者がいた。
「何でお前は自分の名前を間違えたままにしておくんだよ」
「痛いなウォカ。ターシャさんに覚えてもらったんだから改名するに決まっているだろ」
二人のやり取りからターシャは自分が相手の名前を間違っていたことに気付き、謝罪する。
「あの、ごめんね」
「いえ、ターシャさんが謝ることはありません。僕はウォカ、こちらはルーアです。どうかお見知りお……ん?」
何かを見つけた様子に訝しむその場にいた一同。そんな周りの様子は全く気にせず体を震わしだすウォカにターシャが声をかけようとした瞬間。
「エ、エレイン様だー!!」
突然の大声に顔をしかめるターシャを無視してエレインに駆け寄る。当の本人は鬱陶しそうに不機嫌な顔を見せていた。
「スゲェ、本物だ。あ、あの」
「あなたはお呼びではありませんわ。さっさと久斗さ、ごほん、久斗君を呼んできなさい」
エレインは久斗様の件でターシャ、アルムに睨まれすぐに言い直したため、この時はウォカとルーアに感づかれることはなかった。
「はい! ただいま」
とりつく島もない対応であったが、ウォカは命令された喜びから早く久斗を呼ぼうと部屋へ飛び込もうとした。しかし、そこに当人が顔をだしたため、二人はぶつかり扉の前で転がることとなった。それを見て血相を変えたエレインは思わず怒鳴りつけていた。
「あなた、久斗様に何をしますか!」
ターシャはその怒りように額に手を当て空を仰いでしまう。アルムは我関せずといった体をとっていたが、目が不愉快さを示すように細められていた。
横でターシャになんとか話しかけようとしていたルーアはエレインの台詞に思わず久斗を見た。怒鳴られた当人であるウォカも久斗を見て、二人揃って久斗を指差す。
「久斗」
「様?」
そしてお互いに顔を見合わせると驚きの声を上げた。
「えぇぇぇぇぇぇ!」
その後は二人の声に釣られた周りの部屋の子供も出てきたためちょっとした騒動となり、ターシャとエレイン、アルムはどさくさに紛れて久斗を連れ出して逃亡を図った。
「はぁはぁ、も、もうここまで、きたら、大丈夫よね」
「え、えぇ、そう、ですわね」
「まった、く、いい加減に、して、くださいよ」
四人は食堂まで逃げ込んでいた。全員が全力疾走したために息も切れ切れであった。追手が来ていないことはターシャが確認したので、一同は少し休憩をとることにして、食堂の一角に座り込んだ。
「はぁ、エレインあんたのせいよ。全く子供の前で『久斗様』何て言ったら駄目だってあれほど言ったのに……」
ターシャの駄目だしにエレインはむきになって反論した。
「久斗様を吐き飛ばしたのですのよ。そんなの許せるわけないじゃありませんか!」
しかし、その反論にターシャ、アルムは冷めた目を向けながら論破する。
「だからといって『久斗様』と呼んでいいと思ってるの? 団内でも人気のあるあんたがそんなこと言ったら大騒動になるのは分かってるから止めてたのに、意味がないじゃない」
「全くです。あなたは前回の反省が活かせていないのではありませんか? 久斗君の命が危ないというのであれば別ですが、今回は不問にすべきでした」
「うっ、くぅぅぅ」
ターシャの正論に何も言うことができずエレインは久斗に泣きついた。その豊満な肉体に覆いかぶさられるようにして抱きしめられた久斗はあることが気になり慌ててしまった。
「ちょ、ちょっとエレインさん、胸、胸が当たってますから。は、離れてください」
エレインは久斗の言うことが聞こえていない振りをして離れなかった。久斗はエレインが離れないことから、恥ずかしさのあまり押し返そうとするも子供の力ではエレインを押し返すことは出来ずに抱きつかれたままとなった。
その二人の様子を見ていたターシャは表情こそ取り繕っていたが、内心はモヤモヤした気持ちで一杯であった。そしてそのモヤモヤに流されるままに、アルムが食ってかかる前にエレインを掴みあげていた。
「エレイン、いい加減に離れなさい。久斗君も困ってるでしょ」
「ちょ、ターシャやめなさい。私は猫じゃありませんのよ」
「なら、いい加減抱きつくのはやめなさい。ほら行くわよ」
エレインは渋々ターシャに従い、久斗から名残惜しげに離れた。その隙にアルムが久斗に近寄り色々と世話を焼こうとしていた。ターシャはそれをちらと見てまたもやモヤモヤした気持ちになったがその気持ちに蓋をして、エレインを引っ張りながら久斗に一声かけて自分の部屋に向かっていった。
「今からあたしの部屋に行くわよ」
先を歩くターシャの後ろ姿に久斗は感謝しながら立ち上がり、アルムと共に彼女を追いかけいくのであった。
「それで何の用事だったんですか?」
ターシャの部屋に案内され、出された紅茶やお茶受けに手をつける前に久斗は目的を尋ねた。
「ん、明日以降の訓練や仕事の確認をしておけって団長から言われたの。それで確認に行ったんだけど……」
ターシャはそこまで言うとエレインのほうに白い目を向けたが、エレインは素知らぬ顔で紅茶を啜っていた。小さくため息を吐くと自分も紅茶を啜り、話を続けた。
「ほんとはあそこですぐ終わらせるつもりだったんだけど、駄目になったからこっちに来てもらうことになって、ごめんね」
ターシャに謝られて、どぎまぎしつつ頭を横に振り笑顔を見せた。
「いいえ、こちらこそ気を使ってもらってありがとうございます」
エレイン、アルムの両名は久斗の笑顔に恍惚とした表情を浮かべていた。そんな両名に突っ込みをかけようとしたターシャも久斗の笑みに一瞬見惚れてしまっていた。そして、そんな自分を誤魔化すように咳ばらいをし、話を戻した。
「ごほん。……それでどうするつもりなの?」
「えっと、明日は確かエストさんに何処か連れて行ってもらうことになってます」
久斗の返事を聞いた三人から瞬時に黒い念が漏れだした。しかし、久斗がびくっと怯えるとその念は一瞬で消え去っていた。久斗は一体何が起こったのか分からなかったが、聞くのも怖かったために気にしないことにした。
「そう、エストと、ね」
――エスト……、いつか締めあげないと駄目ね。
「まぁ、エストなんかと」
――今度会った時は容赦しませんわ。
「ギルド職員を差し置いて……」
――月のない夜はまだですかね
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エストは一瞬寒気を感じ、体を震わせた。
「なんだ? もうすぐ晩春なんだがまだ寒いのか?」
それを見咎めたバスカーは問いかけるが、エスト自身も不思議な顔をして首を捻っていた。
「い、いえ。今一瞬だけなのですが寒気を感じただけですね」
「ふーん。まぁ他の傭兵団の奴らがやっかみでもしてたんじゃないか? がっはっは」
「だといいんですけどねぇ」
・
・
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「まぁ明日の予定は分かったわ。それで仕事や訓練のことはどうするつもり?」
「旅の間にしていたことができないかと思ってるんですけど、一体どういった仕事があるのかわからないです」
久斗の疑問にはエレインが答えた。
「今までの旅の間と仰いますと、洗濯と炊事となりますわね。ですが、ここの炊事は専門の者がおりますので配置されることはないと思いますわ。洗濯につきましては日々かなりの量が出ますから人手はあって困ることはない状態のはずですわね」
「と、いうことは洗濯に回ってもらうことになるわね。それでいいかしら?」
「はい」
ターシャの確認に久斗は特に問題はないだろうと考え頷いた。
「じゃあ、それについてはあたしのほうから団長に報告しておくわ。それじゃ訓練のほうはどうするの?」
「ぜひしたいです」
久斗はターシャの問いかけに間髪いれずに答えていた。
「では、それにつきましては旅の間と同じ鍛錬でいいと思いますわ。ついでにリンも一緒にさせましょう」
エレインの提案にターシャは考え込む。
「……確かにそれはいいかもね。あの子もフォクシと一緒にいればやる気を出すでしょうし」
その後、ターシャとエレイン、アルムの三人を中心に久斗とリンの鍛錬項目が決められていき、全てが決まると久斗は自室へと戻ることとなった。ジェシカにはターシャのほうから決定事項を伝えておくと言われ、素直に自室に戻る久斗をエレイン、アルムが寂しげな眼で見送っていた。
二人の視線に気付くことなく自室に戻った久斗であったが、そこで待ち受けていたのは同室のルーア、ウォカの二人であった。
「お、か、え、り。ヒサト、よく戻ってきたな」
「あぁ、洗いざらい吐いてもらうぞ」
二人は久斗の腕をとり、部屋の中央まで連れていくとそこに置かれていた椅子に座らせ縄で椅子ごと捲いていく。身動きできない状態になり、一体何をされるのかと戦々恐々としていると、まずルーアがターシャとの関係を問い質した。
「お前とターシャさんの関係は?! さぁ早く言うんだ」
「エレインさんがなんでお前を『様』づけにするんだ?! 答えろ」
それらの問いを皮切りに次々と質問を浴びせる二人に顔を引きつらせながら久斗は質問された内容に答えるために今までのことを全て話していた。そしてその話が終わる頃、キーア、ウォカは床に崩れ落ちていた。
「ま、まさか、あの水神の巫女でさえ、籠絡しているとは……あり得ない」
「その、アルムって人も美人だったぜ。世の中不公平だ……」
久斗は特に何も言うことはせず、縄をほどいてもらえるまで静かに待つのであった。
読んで下さりありがとうございます。




