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異世界流浪譚 ~傭兵と共に~  作者: ガキ坊
一章 少年期編
27/69

現状

 事件から二日後、「風の旅団」は王都へと出発した。

 二日後になったのは、リンが正式に「風の旅団」についていくことになったため、生活用品を揃えることや、今まで暮らしていた家の処分などに時間を取られていたからである。

 

 王都へ向けて出発する当日、馬車が宿屋の前に並び準備が全て整った状態になったところで、エストは宿屋の主人への挨拶に伺っていた。


「どうもお世話になりました。今回は多大にご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ありません。ですが、またできれば次回もここに逗留できればと思っております」


 そうエストが慇懃に挨拶を述べると宿屋の主人は首と手を大きく振った。


「いえいえ、こちらこそお嬢様方のお手伝いのおかげでいつもよりも楽しくお世話することができました。それに、建物の破損につきましては修繕費を支払って頂いておりますし、新調することが出来たのですから、こちらこそお礼申し上げます。ありがとうございます」


 主人は深々と礼をする。それを見て、エストは慌てて主人を起こした。


「ご主人、顔を上げてください。ご迷惑をお掛けしたお詫びなのですから、そのように(かしこ)まらないでください。建物につきましては我々が襲撃を許してしまったせいなのですから、修繕費はお支払いするのは当然です。それに、あの三人にも、こちらで奉公させて頂けたのはいい経験になったと思います。こちらこそお礼を申し上げないといけません。ありがとうございます」


 そのようなエストと宿屋の主人のお礼を述べあう会話に、傍で見ていた三人娘はものすごく嫌そうな顔をしていた。

 久斗とジェシカはそんな三人を宥めながら馬車に乗り込んでいたが、リンはフォクシを抱きながら、我関せずとばかりにさっさと馬車に乗り込んでいた。


「よし、それじゃ出発だ」


 全員が乗り込んだのを確認したバスカーの号令の下に順番に出発していく馬車の群れ。それをエルリッシュの人々は名残惜しみながら見送るのであった。




 王都までの道中において久斗とリンは馬車内でエレイン、ジェシカからの講義を受け、休憩中にはターシャ、アルムからの実技指導を受けていた。

 

「ほら、久斗、リンちゃん。この言葉はこう書くの」


 ジェシカからは字の読み書きも含めた基本知識。


「ええ、それで大丈夫ですわ。では次の魔法の詠唱に移りましょうか」


 エレインからは魔法の手ほどき。


「ほらほら、久斗君。そんな打ち込みじゃ誰も倒せないわよ」


 ターシャからは実戦を想定しての立ち合いも含めた訓練。


「リンちゃんは、まず素振りから始めましょうか」


 アルムからは基礎訓練を重視した取り組み。

 

 リンの指導については久斗と同じにすることに多少の反対はあったが、結局他に良い案が出なかったため、久斗担当の四人が担当を兼任することとなった。初めリンは不服そうにしていたが、フォクシが久斗についていくため渋々、従っていた。

 こうして、王都までの道のりにおいて、久斗とリンの二人は四人それぞれから今後必要になるであろう技や知識を学んでいった。

 久斗自身、馬車内で退屈を紛らわせることが死活問題であるとエルリッシュに着くまでの旅路で学んでいた。そのため退屈にならないという理由からまじめに取り組みを頑張っていた。さらに、リンの存在は身近な好敵手という認識を無意識ではあるものの久斗に植え付け、結果として彼にとって良い刺激となっていた。

 リンもまたフォクシの件から久斗を敵視していたがために、久斗の存在は倒すべき目標として良い刺激になっていた。

 



 そのような二人の切磋琢磨を、バスカーとエストは少し距離を置いて見守っていた。


「最近は二人ともよく頑張ってるようだな」

「はい、二人ともお互いに相手がやる気を引き出しているようでして、非常に真面目に訓練も講義も取り組んでいるそうです」


 その報告にバスカーはつい面白い、と小さく呟いていた。エストは思わず問いかけていた。


「面白い、ですか?」


 呟きを聞かれたとは思っていなかったバスカーは少し驚きながらも理由を述べる。


「あぁ、人生何がどう作用するか分からんもんだなぁと思ってな。考えてみろ。リンなんてエルリッシュに着くまで影も形もなかったんだ。それが今は久斗の良き競争相手だ。……まぁ久斗にはそんな意識はないみたいだし、リンのほうはどうもフォクシ絡みで好敵手というよりかは邪魔ものといったところだがな」


 リンのフォクシへの執着(しゅうちゃく)はただならぬものがあることは団員全員が知っていた。それ故、エストは苦笑するほかなかった。

 

「それと、今さらではあるが、傭兵ギルドの嬢ちゃんもそれなりに慣れてきたみたいだな」

「ええ。まぁ慣れたと言いましても主に久斗君が相手の時のみで、他の団員が相手になりますとまだ少し距離を感じさせる対応になるみたいです」


 肯定はしながらも、条件付きという内容にそれはそうだろうとバスカーは思っていた。そしてその理由を口にする。


「まぁ、あれだけ久斗にべったりだったら、他の者とはあまり関わらんだろうな」


 くくく、と笑っているバスカーにエストは呆れてしまう。そして現状における問題点を指摘する。


「ですが、今のままですと彼としか連携が取れなくなってしまいかねません。そうなったら困るのは久斗君ですから何とか対処したほうが良いのではありませんか?」


 しかし、バスカーはあまり気にせず楽観的な推測でお茶を濁した。


「いやいや、久斗にべったりということはだ、ターシャやエレインとも常に顔を合わすことが多くなるんだからそのうち何とかなるさ」


 エストはその答えにそれでは不十分だと思い、不満そうな顔を見せる。バスカーはそれを無視して次の報告を促した。


「んで、久斗の魔法についてはどれくらい進んでるんだ?」


 次を促され、エストは気持ちを切り替えて、報告を続ける。


「はい、エレインからの報告によりますと五大属性の初級に分類される魔法はほぼ使いこなせつつあるようです」


 エストの報告にバスカーは目を剥く。


「もう初級を制覇したというのか?!」

「はい、ただ使いこなせるといいましても、初級に当たるものだけのようです。また、戦闘時に上手く使えるかどうかは不明ですので、『何もない状況で』という条件が付くようです」


 エストの説明を聞いても驚きが収まらないバスカーは久斗に対してほんの少しだけ「恐怖」を感じていた。しかし、口に出したのは称賛であった。


「それでも飲み込みの早さは異常なほどだな。全く末恐ろしいとはまさにこのことだな」


 エストはバスカーの「恐怖」には気付かずにその称賛に同意する。


「ええ、正直なところ、剣士としてよりも魔法師として大成しそうな状態です。このまま魔法の道を進むだけでも充分やっていけると思いますね」


 エストの意見にバスカーはうんうんと頷く。しかし次のエストの更なる報告を聞いて考えを改めることとなる。


「ですが、ターシャからの報告によりますと、剣士としても非凡な才能を持っているとのことです」

「あのターシャが非凡と(たた)えるか……。一体どういった点で非凡と言ってるんだ?」


 バスカーはターシャからの非凡という評価に少々の疑わしさを感じていた。ターシャは団内でも有数の短剣使いであり、年齢のことを考えれば将来は傭兵の中でも有名になれるほどの才能を秘めているとバスカーは考えている。そのため、その才能が認めるほどのものというのは予想していなかったのである。


「はい、ターシャから聴取したところ、まず努力の量、つまりは鍛錬量があの年齢にしてはあり得ないとのことです」


 意外な部分での指摘に首を傾げるバスカー。


「鍛錬量……。一体どんな鍛錬をしているんだ」

「はい、鍛錬自体は普通ともいうべきものですね。走りこみ、素振り、立ち合いなどです。しかし、その鍛錬量は……」


 エストの報告が言いづらさから止まったことにバスカーは気付いた。一体どういった報告がきていたのか気になり続きを促す。


「鍛錬量は?」


 そのバスカーの促しに、エストは気を取り直して説明を続けた。


「鍛錬量は我々の鍛錬量とほぼ同じかそれ以上とあげられています」


 その内容にバスカーはまたもや目を剥いていた。久斗は聞いた話によるとまだ十歳であり、体も成熟しきっていないのは目に見えて分かることであった。そのため、無茶な鍛錬は体がついていかず、体を鍛えるどころか逆に壊す結果となる。それを分かっていたからこそエストの報告が信じられなかったのであった。


「おいおい、それはあれか? ターシャと同じ鍛錬量を毎日こなしているって言うのか?」

「信じられないかもしれませんが、私も疑い確認をとりましたところ真実でした」


 報告が正しいならばその鍛錬量を指示した者に対して注意、下手をすれば処分を下さなければならないと判断したバスカーは目を鋭くさせて雰囲気を一変させる。


「それはターシャの指示か? それとも他の団員か誰かなのか?」


 その答えはどちらでもなかった。


「いえ、どうも最初は久斗の独断だったようです。ターシャは自身の鍛錬がありますから、ずっと見ているわけにもいきません。ですので気付かなかったと証言しています」


 その答えにバスカーは意外な思いを持ったが、すぐに久斗の願いを考えれば当たり前かと思いなおした。


「久斗が無茶ねぇ……。体は壊してないんだな?」

「ええ。いつもの雑務については問題なしと、別の団員からの報告を得ていますので体調を崩していないのは確かだと思います」


 普段の作業はきちんとしているというエストの答えにバスカーは自分の考えが(あなが)ち間違っていいないのではないかと判断した。


「ふむ。だとすると独断専行したのは焦ってるからかもな」

「……焦るとは?」


 エストはバスカーの言葉に首を傾げる。


「ほら、あいつはもう一人こっちに来たと思われる子を捜すのが目的だろ。なのに、捜し人の居場所どころか手がかりすら入ってこないから、やきもきしてるんじゃないか?」


 バスカーの理屈に納得の表情を見せるエスト。しかし、その表情にはまだ疑問が残っていた。


「確かに言われてみるとそうですね。ですが、それについては一応ここに来るまでの村で依頼という形で捜していますし、ここエルリッシュではギルド自体が手を貸してくれるみたいですから時間の問題ではないかとは思いますが?」


 エストの疑問をバスカーは否定する。


「確かにこの国だけならそれでいけるかもしれんが、別のところにいたとしてもおかしくはあるまい。そもそも同じ場所というならネルバの森で既に見つけているさ」

「それは……。ですが、団長の言う通りであれば今はどうしようもありませんね」


 バスカーの言葉に顔を暗くするエスト。バスカーはその鬱な雰囲気を断ちきるように結論を述べる。


「そうだ。だけどまぁ、久斗のその気持ちが悪い方向に影響していないならしばらくは様子見だ。それに……」

「それに?」

「いや、これに関しては王都に着いてからだな」

「わかりました」


 今聞くべきではないと判断したエストは話を戻す。


「久斗君の非凡さにつきましては、あとは単純に剣筋がいいというものです。これは御爺さんが古武道というものを嗜んでいらっしゃったとかで、その影響があるみたいです。久斗君に関しましては以上となります」

「ご苦労さん。じゃあ次の事案については?」

 

 久斗関連の内容が終わり、バスカーは一先ずその苦労を(ねぎら)うが、すぐに次の案件を促す。


「はい、次はリンさんについてです」

「リンか。登録はエルリッシュで済ませているんだったな」

「はい、そこでの魔力検査では彼女は珍しいことに闇属性と地属性に適性があるようです」


 その報告に目を細めるバスカー。その様子に一体どうしたのか問いかけるエスト。


「今の報告で何か気になるところがありましたか?」

「いや、なぜあいつらが両親を殺してまで誘拐したのか気になってたからな。その理由が今の魔法適性に絡んでいるかもと思ったんだ」


 バスカーの指摘はエスト自身も考えていたことであった。


「今はもう壊滅してしまったせいで分かりませんがその可能性は大いにあり得ると思われます」

「やはりか。まぁ今は済んでしまったことだ。それで彼女の適性は分かったが、修練のほうはどうだ?」

「意外と好調のようです。……特にフォクシに使うための魔法を熱心に覚えているようです」


 フォクシのために覚えるという団内でのリンの行動基準そのものを示している内容に二人は頭が痛くなっていた。


「で、そのフォクシ様は懐く気配はあるのか?」


 リンの努力が報われることを祈って聞いたことであったが、現実はバスカーの予想通りであった。


「いえ……。全くと言っていいほど懐いていません。彼女どころか他の団員、例えばターシャ達ですら懐いていません。現状久斗君のみに懐いていると言えますね」

「まぁ、久斗に懐くのは召喚獣なのだから当たり前と言えば当たり前なんだが。俺たちは召喚魔法の使い手と話したことがないからな。そこらへんどうなっているかさっぱりなのがつらいな」


 召喚魔法の使い手と行動を共にしたり、逆に敵対したりしたことはあったが、親密な仲になったことは一度もない。それ故に召喚獣に対しての知識が不足していたのであった。


「しかしフォクシについてはどうしようもないからな。とりあえずそのうち懐いてくれることを祈っておこう。それで魔法については分かったが、鍛錬についてはどうだ?」

「そちらについては彼女も家で嗜み程度ではありましたが武器の取り回しを習っていたとのことでして、今は槍を使って鍛錬しているみたいです」


 バスカーはてっきりターシャと同じように短剣を使うと考えていただけに槍という選択には意表を突かれていた。


「槍、とはまた……。使いこなせているのか?」

「こちらはアルム殿からですが、現状基礎訓練だけでもう(しばら)く様子を見ないことには判断できないとのことです」


 顎に手を置き、しばしの間考え込むバスカーであったが、エストがそれを中断させた。


「『下手な考え休むに似たり』ですよ。この件につきましてはアルム殿の言うとおりに致しましょう」

「それもそうだな。後はまだ何かあるか?」


 バスカーは言われたことにひどい言い草だと苦笑しながら、他に報告がないか確認を取る


「いえ、リンにつきましては他には特にありません」

「そうか、ご苦労さん」


 バスカーはエストの功を再度(ねぎら)い、その後、別の案件について話を進めていく。彼らの夜はまだまだこれからであった。

読んで下さりありがとうございます。


何故か執筆しているうちにまたもやおっさん(青年)の会話だけになってしまいました・・・。ごめんなさい

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