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異世界流浪譚 ~傭兵と共に~  作者: ガキ坊
一章 少年期編
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強襲

 先日同様、久斗の光魔法ライトと闇魔法ダークの併用により入口の冒険者、傭兵達をやり過ごした五人と一匹は急ぎ足で宿屋へと戻っていた。そのまま何事もなく宿屋に辿り着いた彼、彼女達は宿屋の入り口でへたり込んでしまった。そこに、バスカーが飛んでくるかのようにやってきた。その後ろにはエストも小走りに付いてきていた。

 すでに他の団員から事の次第を報告されていたバスカーであったが、実際に彼らの無事な姿を見て、ほっと胸をなでおろしていた。


「お前ら、無事だったか。襲われたと聞いてびっくりしたぞ」


 バスカーに遅れてやってきたエストもよかったです安堵の表情を浮かべながら、他に何もなかったかを確認する。


「お帰りなさい。御無事で何よりです。……街中では大丈夫でしたか?」

「特には、ね。ただ何人か尾行がついて来ていたから、ここにいるのは多分ばれたでしょうね」


 五人を代表してターシャがそう答える。尾行という言葉に心配そうな顔を向ける久斗であったが、そんな彼を安心させるかのようにターシャはしゃがみ込んで目線を合わせながら話しかけた。


「尾行なんて捲いてもすぐにくっついてくるものよ。それにここがばれたとしても何も問題はないわ。あたし達『風の旅団』はそうそう簡単に手を出せる集団じゃないのよ」


 ターシャの言葉にバスカーも得意げに補足した。


「そうだぞ、俺らにかかりゃそこらへんの有象無象なぞ相手になるかよ。がっはっはっは!」


 しかし、それでも久斗が不安そうな顔をしているところで奇妙な音が響き渡った。


ぐう~~~。


 その音の発生源であるフォクシはばつの悪そうな態度で誤魔化すかのように久斗の足にすり寄った。それを見た全員がぷっと笑いだしていた。


「くくく、そりゃもう夕飯の時間に近いからな。腹が減っても仕方ないか」

「ええ、別段今すぐ話さなければいけないこともありませんし、ていまずは夕食にしましょう」


 笑いながらもエストがそう言うと、まず五人は汚れた服を着替えるために自分たちの部屋へと移動した。

 久斗が着替えを用意している間にターシャやエレインは既に服を脱ぎだしていたため、久斗は顔を赤くして、慌てて着替えをとるなりバスカー達の部屋に逃げ込んでいた。その様子に女性陣は半分は残念そうな顔を、もう半分はほっとした顔を浮かべていた。


 着替えが終わり夕食も食べ終えた五人はそのままバスカーとエストの部屋へと赴いた。


「あぁ、もう来たのか。別に風呂に行ってからでもよかったんだぞ?」

「久斗君のこともありますので、そこまでのんびりしていることは出来ません」


 再度、一同を代表してターシャがそう答えるとバスカーは苦笑してしまっていた。しかし、次の瞬間には表情を引き締めていた。その様子にその場にいたエストを除く他の者もその緊張感から姿勢を正していた。


「では、詳しい報告を聞こうか。一応お前さんらを遠くから見張らせていた団員からは報告を受けているが、実際にやり合ったのならその分、分かったこともあるだろう」


 それぞれターシャから順に、エレイン、ジェシカ、アルム、そして久斗と襲われたこと、そしてその中で気付いたことなどを報告していく。それらを聞き取りながらバスカーの顔はどんどん険しくなっていった。横のエストも渋い顔をしていた。


「それはちょいとばかりやっかいだな」

「ええ、まさか遺体が発火するなど……。証拠隠滅にしても徹底的ですね」


 ターシャやアルムが仕留めた相手は事切れると同時に発光、さらには火の手が上がったため回収不可能となっていた。そして仕留めきれなかった相手については別の団員が尾行していたが、遺跡の奥に逃げ込まれてしまい見失ってしまい、逃げ切られていた。

 標的の追跡が不可能になったことは報告を受けていたため、他に何か目ぼしい情報がないかと期待していたが故に、何も収穫なしというのはバスカー達にとって残念なことこの上なかった。

 しかし、気落ちしていても仕方ないと、バスカーは頭を切り替えてこれからどうするかを考えだした。

 その時である。


ガタン、バタン。ガシャーン。


 階下で物が割れる音や壊れる音などが聞こえてきたのだった。


「そっち行ったぞ!」

「一人で立ち向かうな、陣形を組むんだ!」


 続けて、団員達の怒号のような叫び声も聞こえてきていた。

 思わず顔を見合わせる久斗達であったが、その中でエストは殺気を感じて転がるように立っていた場所から避ける。すると……。


 ガシャーン。


 次の瞬間に窓が割れる音と共に何かがそこに飛び込んできた。



「っちい! 久斗、それにターシャやエレインお前らはいったん部屋の外に出ろ! 流石に狭すぎる!!」


 飛び込んできた相手に向かって護身用の短剣を振り抜いて攻撃を仕掛けながら指示を飛ばすバスカー。

 その指示が出された時には既にターシャ、アルム等の四人は扉に向かって駆け出していた。しかし、部屋から出ようとした瞬間、扉が吹き飛び、ジェシカの体に向かって飛んできていた。ジェシカはその扉に倒され下敷きとなる。


「ジェシカ!!」


 扉にのっかったままの相手はそのまま扉ごとジェシカを刺そうと剣を逆手に構えようとしていた。しかしその目論見はすぐさま横合いから放たれたターシャの蹴りによって阻まれる。蹴りを避ける際に扉から降りていたため、ジェシカは圧力がなくなった扉を弾き飛ばして、すぐに起き上がる。その間にターシャは自身に風の補助魔法をかけ、速度を上げた上で相手に裂帛の気合を乗せた鋭い上段蹴りを叩きこんでいた。


「この、邪魔!」


 男はその上段蹴りをまともに喰らい、板でできた壁を突き破りながら隣の部屋へ弾き飛ばされる。突き破った衝撃により気絶してしまいピクリとも動かなかった。


 ターシャが相手を蹴りで吹き飛ばそうとしていた頃、開け放たれた入り口からは三人の目出し帽を被った男たちが順次侵入してきていた。その男たちに向かっていったのはアルム、エレインであった。


「はぁ!!」


 アルムはターシャ同様に勢いよく上段蹴りを放つ。しかし、相手方も補助魔法をかけていたため、腕を交差して難なく防御してみせていた。そして、その上段蹴りの隙を見逃さずにアルムに襲いかかったのは残った二人の男たちであった。

 だが、そのうち一人にはエレインがナイフを放ち、もう一人にはフォクシが噛みついていく。


「ぐっ!!」


 ナイフは狙い過たず足に突き刺さり、もう一人の足にもフォクシの噛みつきが成功する。そうして動きの鈍った二人に、久斗が咄嗟に唱えた火の補助魔法であるパワーアップが掛けられたアルムの回し蹴りが放たれる。


「ぐは」


 その回し蹴りをまともに浴びた二人は扉のなくなった入口から外に向かって弾き飛ばされていく。続いて、その二人に対してエレインは追い打ちをかけるために炎の攻撃魔法を放っていく。


「我願うは破滅の火炎、無限の炎の矢で燃やしつくさん、フレイムアロー!」


 炎の矢は狙い(あやま)たず男たちに命中する。男たちは一瞬で火達磨となり、床をのたうち回った。残った男のほうも補助魔法を受けたアルムにより投げ飛ばされる。そして、壁に当たるとそのまま気絶した。


 ターシャやエレイン達が相手を返り討ちにしていた時、バスカーは初めに飛び込んできた相手と相対していた。相手は短剣を構えており、その短剣はエストが戦闘の始めに唱えたライトの明るさの中でけばけばしい色をしていた。それを見たバスカーは危険な毒が塗られていることを看破していた。


「おいおい、なんで俺の相手だけこんなヤバそうなんだよ!!」


 相手からの短剣による連続突きを自身の護身用の短剣で上手に捌きながらぼやくバスカー。相手は全ての攻撃を捌かれたために少し体勢を崩していた。その隙は致命的な隙となりそれを狙ってエストの魔法の矢が放たれる。


「我願うは破邪の閃き、無限の輝きを(もっ)て悪を滅さん、ブライトアロー!」


 詠唱が終わると同時に光の矢は一瞬にして敵を貫き、絶命させていた。その後、遺体は発光したかと思うと一瞬で燃え上がり、残っていたのは灰だけであった。


「こいつぁ……。まさか燃えちまうとはな。……てことは昼間の一件と同じ組織ってことか」


 ターシャやエレイン達も無事相手を退けたことを横目で確認したバスカーは当面の脅威が退けられたことに胸を撫で下ろしていた。同じように内心で安堵のため息を吐いていたエストであったが、すぐさまターシャによってぶち開けられた壁から隣の部屋へと入っていき男に近づいていった。また、ターシャやエレイン達も入り口付近に投げ飛ばされていた男に近づいていった。

 その後、隣の部屋からはエストが、入口からはターシャが気絶していた男達を拘束して、バスカーの部屋の中央へと引きずりながら戻ってきていた。男達の腕には魔法対策としての封呪を施した腕輪がはめられていた。部屋の真ん中に投げ捨てた後、部屋にあったシーツなどで簀巻きにしていく。


「下も片付いたようだな」


 そうバスカーに言われて久斗が耳を澄ませると、先ほどまで聞こえてきていたざわめきが全くなくなっていた。


「団長、賊は仕留め、うわ! なんだこれ、団長ご無事ですか?!」


 報告のために上がってきた団員は廊下から部屋の惨状に気付き、駆け寄ってくる。そんな心配する団員に対してバスカーは気楽に答えていた。


「おおう、大丈夫だ。エストやターシャ達が全てのしてくれてな。出番がなかったわ、がっはっは」


 出番がなかったというのは嘘八百だとその場にいた全員が分かっていたが、誰も口に出すことはなかった。報告にきた団員も団長は大層暴れていたのだろうと予測できてしまい呆れ果てていた。

 その後、その団員から状況を聞いたバスカーは片付けを命じて、自分たちはあえて穴をあけてしまった部屋のほうへと移動することにした。

 久斗は団員からの報告で団内で死亡した者がいないことにほっとしていた。それと同時に「風の旅団」の凄さをしみじみと感じ取っていた。


「しかし、まぁ釣れたというべきか何というべきか……」

「宿のほうには後で弁償しなければいけませんね。はぁ、それだけで今回の報酬がなくなってしまいそうで頭が痛いですよ」


 エストが珍しく泣き言を漏らす。バスカーも同様の想いであったが、気を取り直し、捕虜にできた男二人の頬をぱしぱしと叩き、目を覚まさせる。


「おい、起きろ」


 頬を強めに叩かれた男たちは目を覚ますと同時に自分たちの置かれている状況を即座に理解した。そして自分たちの腕に封呪の腕輪がはめられていることに舌打ちをする。


「さてと、お前さんらは優秀だな。すぐに自分たちの立場を理解するんだからな。だったらこれから俺らがすることも分かってるだろ? とりあえず、吐けることを軒並み吐いたら対応も考えてやろう。どうだ?」


 バスカーがそう言うも、男達は黙ってバスカーを睨みつけるだけであった。その様子に一つため息をつき、エストに手振りで久斗やターシャら五人を退室させるよう指示する。これから何が行われるか理解した女性陣は素直に久斗の手を引いて出ていった。


「さて、洗いざらい吐いてもらおうか」


 感情を排した声を出しながらエストにいくつかの指示を出していく。その様子に男たちは震えながら自分たちの未来を悟り覚悟するのであった。




「いやぁ、しかしまさかその日のうちに再襲撃されるとは思わなかったわね」

「全くですわ。ですが今回は二人ほど捕虜にできましたし、何かしらの進展は望めそうですわね」


 日頃のいがみ合いはまるでなかったかのように楽しそうに談笑するターシャとエレイン。そのような珍しい光景に久斗は目を丸くし、ジェシカは苦笑していた。

 アルムはそんな二人の様子をどことなく観察していたが、久斗の足元で寝転んでいるフォクシのところへしゃがみこむと頭を撫でながら話しかけた。


「それにしても、フォクシ、あなたなかなかやるじゃないですか。今日は助かりました、ありがとう」


 急に頭を撫でられて、きょろきょろと左右を見渡すフォクシであったが、撫でている相手がアルムだと分かるとふんと鼻を鳴らし、また何事もなかったかのように寝転がった。


「フォクシ、あなたいい度胸してるじゃない」


 無視された形となったアルムはこめかみを引くつかせながらも、何とか怒りを抑えていた。先ほどの戦闘での助勢がなければ、もしかしたら自分は危うかったかもしれないとの思いがあったからである。

 フォクシからすれば、あそこで彼女を助けたのは自分の主である久斗を助けることに繋がっていたために行っただけであり、別段アルムだから助けたというわけではなかった。それが態度に出ていただけであった。


「ほらフォクシ、アルムさんを無視したら駄目だよ」


 久斗はそう言いながらフォクシの頭を撫でる。


「クゥゥン」


 今度は嬉しそうに目を細めながら甘えるような声をだすフォクシ。その態度の違いにさらに怒りを募らせるアルム。


ーーフォクシって、久斗にしか懐いてないのよね。名前自体も久斗がそう呼んだから頷いただけで別になんでも良かったのかもしれないわね。やっぱり召喚獣ってことなのかな。……ということはあれって無駄な努力にならないのかしら?


 ジェシカは内心そう思いながら、アルムとフォクシの間をオロオロしながらもなんとか仲を取り持とうとする久斗の姿を生温かい目で見守るのであった。




 同時刻、某所。


「何! 失敗しただと!!」

「あれだけの手足(てだ)れを投入したんだぞ!」

「全員やられたというのか!?」


 集まった幹部は襲撃失敗の報告に慌てふためいていた。彼らは自分たちの思惑がすんなりいくと考えていた。それ故に「失敗」という二文字は彼らにとってあり得ないものであったため動揺していた。

 しばらくすると、場の騒ぎは次第に責任の擦りつけ合いに発展していった。そうした喧々囂々(けんけんごうごう)とした場を、前回と同じようにただ眺めるだけであった男は不意に立ち上がると、左右に控えていた女性を連れて何も言わずにその場を後にした。

 それに気付いた幹部は誰一人おらず、そのまま罵詈雑言の嵐は続いていくのであった。


「よろしいのですか?」


 男に連れ添っている女性のうち片方がそう問いかけた。


「構わん」


 男は短くそれだけを答えた。問いかけた女性のほうはそれで納得し、それ以上は何も言わなかった。

 その代わりにもう片方の女性が男に問いかける。


「彼らは如何致しましょう?」

「放っておけ」


 またも男は短くそれだけを答えた。そして、女性のほうもそれだけで納得し、それ以上喋らず、黙って男につき従うのであった。

 

 その後、幹部達が気付いた時には彼ら三人の姿はエルリッシュから消え去っていた。

読んで下さりありがとうございます。


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