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異世界流浪譚 ~傭兵と共に~  作者: ガキ坊
一章 少年期編
22/69

結果

 久斗達がご飯を食べているころエルリッシュの冒険者、傭兵達の間で、とある子供が五大属性のうち風を除く四つの属性を使っているという噂が急速に拡大していた。遺跡で魔法の修練を行っているということまでは噂にならなかったゆえに、数多くの冒険者のクラン、もしくは傭兵団がその子供を捜し出そうと街中を東奔西走していた。

 そんなことになっているとは露とも知らずに、昼食を食べ終えた久斗はジェシカとともに残った特殊属性の検証を行っていた。


「じゃあ、今度は特殊属性になるけど、やっぱり光属性からね」

「光属性の生活魔法って夜中での作業で便利そうですよね」

「エストなんかは結構それで夜遅くまで仕事をこなしてるって話よ。便利すぎるとそれはそれで大変みたいね」


 二人の脳裏には夜中ですらせっせと団内での処理しなければならない案件などをこなしているエストの姿があった。そして、お互いに想像したことがつぼにはまりついつい笑ってしまっていた。そうして、一頻(ひとしき)り笑った後で、光属性の魔法の詠唱にはいる。


「じゃあ、はじめて」

「はい! ……我願うは煌々たる光、無限の光を今呼び寄せん、ライト!」


 次の瞬間薄暗かった遺跡の広間は眩しいくらいの光に包まれていた。先ほどの五大属性の時に気をつけていた魔力量の調整をすっかり忘れていたためである。すぐさま、ジェシカから取り消しの指示が飛んでくる。


「ま、眩しい。ちょっと久斗。一旦それやめなさい」


 そう指示されても、いつかの時と同様に消し方が分からず、右往左往することとなった。

 目も開けられないほどの光のなかで久斗が困惑していることを気配で察したジェシカはすぐさま、消し方を教えていく。


「あぁん、もう。久斗、よく聞くのよ。まず、自分で作った光球は感じ取れるわよね?」

「は、はい」

「じゃあ、その光球に自分の魔力を伸ばして、それを使って吸い取るイメージをしなさい。実際にその方向に手を向けるとやりやすいわよ」


 その指示に従い、光球へ手を向ける久斗。そして自分の魔力を伸ばし光球の魔力に接続した。さらにはそこ魔力の糸を使い、光球から魔力を抜き取りだした。すると、光球から発生する光はだんだんと弱まり、ついには光球そのものが消えていた。

 瞼を閉じても突き刺さる光のせいでまだくらくらする頭を押さえながら、ジェシカは久斗に近寄った。そして、


「久斗、きちんと魔力量を調節しないとだめでしょ! 今回は単なる光だったからよかったけどこれが、五大属性の火とか、風とかだと洒落にならないことになってたわよ」


 その叱責に久斗は宿泊地点でのブリーズの一件を思い出し、青ざめる。その様子に薬が効きすぎたかとかえって心配するジェシカだったが、心を鬼にして今回の失敗について駄目出しをしていく。


「久斗、確か野営地でも同じことしたんでしょ。あの時はターシャとエレインがいて、二人ともぎりぎり無事だったと聞いているわ。今回も誰も怪我しなかったでしょうけど次もそうとは限らないのよ。きちんと意識していくこと! いいわね」


 叱られたことでしょげている久斗に、仕方ないとばかりに肩をすくめて今度は優しく語りかける。


「次からきちんと気をつければいいのよ。さぁ凹んでいる時間はないわよ。ちゃっちゃと次の属性を試しましょ」


 いつもよりも明るめの声を出して、久斗を鼓舞する。その優しい手つきと励ましにより、のろのろとではあるが次の闇属性の魔法の準備を進めていく久斗。まだまだ子供であることをジェシカはその姿から痛感していた。


ーーこんな子供であっても、全属性が使えるというだけで狙われるんだもんね。まぁそれを意図して誘導している私達は最低の大人ということになるわよね 


 内心で自虐の笑みを浮かべながら、久斗を見守るジェシカ。その心には久斗への愛情が確かに存在していた。


 久斗がのろのろと詠唱準備に入っている間にも、広間の外には冒険者クランの代表や傭兵団の人間が続々と集まっていた。そして、ほとんどの人は先ほどの光の洪水とも言うべき明るさに飲み込まれていた。そのためか、一度戻っていく者もそれなりの数でいたが、大半の者はそのまま観察を続けていた。そしてその数はどんどん増えていっていた。そんな彼らが覗き見している前で次の属性の魔法が発動されていた。


「……我願うは遮断せし闇、無限の闇を今呼び寄せん、ダーク!」


 その詠唱が終わると同時に今度は久斗とジェシカの周りが光すら通さないほどの暗闇に変化していた。ただそれだけの効果しかないため生活魔法に分類されている魔法であるが歴とした闇属性の魔法であった。


「今度はまた、何も見えないわね。これかなり危険な状態だからすぐに解除して」

「は、はい」


 光属性の魔法と同様にしてダークを解除する久斗。今の魔法は一体何に使えるのかという疑問を持ったため眉間にしわが寄っていた。

 ジェシカのほうは発動したことに本当に全属性があるのではと驚愕に近い思いを抱く。それと同時にこれ以上久斗に魔法を使わすことに危機感も抱いた。しかし今は検証であることを強く意識して疑問は頭の隅に追いやった。そうして次の属性を促しにかかった。


「闇まで発動するとはすごいわね。あと二つだけど、体調とかはどう? しんどくなったりしていない?」


 先ほどのダークを例に、空間の状態を変化させる魔法は魔力の消費が著しいため、魔力欠乏症に陥りやすい。そのための確認であったが、久斗は別段疲れた様子も見せず、首を横に振った。


「特に疲れたとかはありません」


 その返事に魔力量も尋常ではないことを再確認したジェシカはさらに危機感を募らせながらも、少し羨ましそうな目を向ける。

 それに気付かずに、久斗は時間属性の詠唱を行っていく。


「……我願うは遅行せし時、無限の時を今呼び寄せん、スロウ!」


 その詠唱の発動と同時に久斗が見ている世界は止まっていた。そして、なにも動かない世界で自分も動けないことに気がついた。


――スロウというよりはストップじゃないのかな? こんな魔法で何ができるんだろう?


 そんなとりとめもないことを考えていると、世界は急に動き出していた。その急激な変化に驚く久斗。自分が解除する前であっただけに世界が動き出したことが今までの魔法と違っていたからである。

 ジェシカはそんな久斗の驚きから、もしかすると時間属性の魔法が成功したのでは、と気付いた。


「時間属性は使えたみたいね」


 表面上は冷静さを装いながらもその内心はある種の期待で一杯であった。


――まさか、時間属性までも使えちゃうなんて……。これはもしかしたらもしかするの?!


 その期待に声を若干震わせながら最後の属性を指示した。


「そ、それじゃあ最後の無属性を試しましょうか」


 しかし、ここで久斗はその指示には従わずジェシカに戸惑いの表情を送っていた。


「うん? どうしたの?」

「あの、その」


 どうにも要領を得ない態度に首を捻るジェシカ。彼女は久斗がどう言えばいいのか迷っているように見えた。その迷った様子のまま数秒がたったため、彼女は魔導書の無属性のところを読むことにした。そこに書かれていたことは想定外のことであった。


「召喚魔法って、生活魔法じゃないじゃない!」


 そのジェシカの驚きの声は広間の外にいる者たちにも聞こえてきたため、お互いに顔を見合わせる者も少なくなかった。自身の大声にしまったと後悔するも、表面上は何もなかったかのように振る舞う。


「うーん。でもまぁ最悪、横に記載されている送還魔法を使えばいいみたいだし、試しにやってみましょうか」


 無責任と取られかねない台詞に久斗はどうしようと迷うものの、一応の許可をもらったと思い、詠唱に入る。


「……我願うは守りし者、我を糧に与え今ここに呼び寄せん、サモンサーヴァント!」


 詠唱が終わると同時に先ほどのライトを思わせるようなまばゆい光が広間を満たした。しかし、ライトとは違い、すぐにその光は収まった。そして、久斗の前には可愛らしい小さな狐が座っていた。


「え?」


 戸惑いの声が二人から上がる。久斗は召喚魔法であるのなら、いかつい怪物でも出てくるのではと思っていた故に、ジェシカはまさか成功するとは思っていなかった故に、二人して似たような声になっていた。

 しかし、その戸惑いはいつまでも続かなかった。目の前の仔狐が久斗を認識するやいなや、とてとてと足元に駆け寄り、すりすりとじゃれついてきたからである。


「え、ええ?」


 久斗がどう対応しようか迷っていると、横から突然黄色い声が上がった。


「か、かわいい! きゃあ、何この生き物?!」

「クゥゥン」


 その声に驚き、仔狐は久斗を盾にするかのように隠れてしまい、全身をフルフルと震わせてしまう。それを見てさらに興奮するジェシカ。

 その後、暫くの間、久斗はジェシカの興奮をなだめ、仔狐の恐怖をやわらげていた。そうして両者が落ち着いたころに久斗は宥めている間に考えていたことをジェシカに相談した。


「ジェシカ姉さん」

「うぅん、可愛いわぁこの子。え? なに、どうしたの久斗?」

「この仔狐、どうしたらいいでしょうか?」

「あぁ、それは全くと言っていいほど考えてなかったわ」


 二人とも危険な生物ならすぐさま送還すればいいと考えていただけに、このような可愛らしい、まさに愛玩用生物の場合は想定していなかった。


「このまま、連れ帰るのってだめですか?」

「うぅん、送還しちゃっえばいいんだけど、初の召喚相手だもんね。まぁ副団長に確認を取ってからでも遅くはないでしょうし今日はこのまま連れて帰りましょうか」


 そのジェシカの言葉に嬉しそうに仔狐とじゃれあう久斗。ジェシカはその光景に心温まる想いでいっぱいであったが、広間の外が先ほどよりもさらに騒がしくなっていることもあり、そろそろ引き上げ時であることを告げる。


「それじゃあ、一応全属性に対応できるってこともわかったことだし、戻りましょうか」

「はい。でも、あの外の人達は大丈夫でしょうか?」


 騒ぎは広間にも響いてくるほど大きなものとなっており、久斗もすでに気付いていた。そしてその理由が自分であることもある程度は理解していた。

 ジェシカはその指摘に少し考え込んだ後に、久斗にできるかどうかの確認を取った上であることを伝えた。


「……というわけなんだけどできそう?」

「多分、できるとは思います。でも実際にやってみないとわからないかもしれません」

「その時はその時よ。んじゃ仔狐ちゃん、君もいける?」


 やる気十分な久斗から視線を移し、相も変わらずじゃれついている仔狐に呼び掛ける。仔狐は不思議そうな顔をしてジェシカのほうを見つめていたが、言われたことを理解すると一鳴きする。


「コォォン」


 それは了承と思われる返事であった。その鳴き声(へんじ)に笑みを浮かべながらお互い頷き合った後、二人と一匹は広間の出口に向かって歩いていった。


「お、おい。きたぞ」

「ちょ、お前ら邪魔だ! あっちいってろ」

「お前らこそどうしようもないんだから下がってな」


 お互いに押し合いへしあいしながらも久斗を勧誘しようと入口付近に集まる冒険者や傭兵達であったが、その目論見を達成することはできなかった。


ピカ!


 突然、目を閉じていても眩しいくらいの光に襲われたのである。それは久斗が出したライトの魔法であった。


「ぐああ、目がぁ、目がぁ!」

「何も見えないぞ!」

「一体何が起こってるんだ!」


 突然の光に冒険者や傭兵達は大慌てになり、その騒ぎの中を掛けていく足音に気付くことはなかった。そして光が薄れていった後には自分たちの目標は既に何処かに消え去っていた。


 遺跡の入り口迄来たところで、久斗は魔法は解除し、ジェシカに話しかける。


「なんとか上手く成功しましたね」

「うう、あの暗闇をかぶせてもまだ目がちかちかする」

「……ごめんなさい」


 久斗達はライトの魔法を出す前に自分たちにダークの魔法をかぶせていた。固定座標として設定したのは自身とジェシカ、そして仔狐の体、特に頭部である。そして、魔力量を調節し暗闇を薄くした状態でライトを使った結果、少し眩しいくらいの状態で済んでいた。仔狐は闇に覆われた時、はじめ暴れようとしたが、久斗が頭を撫でるとすぐに落ち着いた。すり抜けるときは自前の足で駆けていたが、今は久斗に抱かれて眠っていた。


「さて、それじゃ彼らが追いかけてくる前に宿屋に戻りましょ」

「はい」


 久斗達は他の人に絡まれることなく宿屋に戻っていった。宿屋に着いた時には、看板娘として働いている三人、および「風の旅団」女性団員たちが仔狐を見るやいなや黄色い声を上げて可愛がり始めた。その後、仔狐を送還するかどうかの論争の時には女性団員の恐ろしいほどの嘆願(めいれい)により、そのまま旅団で飼われることとなった。




 その夜、とある傭兵団にも遺跡で起きた騒動の噂が流れてきており、幹部の間で捜すか捜さないかで揉めていた。


「おいおい、そんな全ての属性が使えるなんてありえないだろ。大方どこかの新人が要領よく古株のやつでも騙したんだろ」

「いや、しかし実際に見たという奴はかなりの数らしいぞ。とすれば、そいつは確実とまでは言わんが多分いるということだろ」

「仮にいたとしても、既にどこかの傭兵団か冒険者が捕まえてるだろ」

「そうとは限らないだろ? それに」

「それに?」

「それに、もしうまく取り込むことができなかったとしても()()で処分しちまえば問題ないだろ」


 その()()という言葉に場がざわめいた。そして幹部の中でも年配の者が声を荒げて怒鳴った。


「おい、こんなところで言うな! どこで誰が聞いてるのか分からんのだぞ!! おい、聞いているのか!!」


 年配の幹部の注意を平然と聞き流している様子に他の幹部の怒声も飛び交いだした。それに対して、()()と発言した幹部は自前の論理を披露しだした。その結果、喧々囂々(けんけんごうごう)の場となっていった。

 そうして暫くの間、お互いの罵り合いにも近い騒ぎが続いていたが、ある時、上座に座って今まで一度も発言しなかった者が口を開いた。


「もうよい、黙れ」


 それは静かにぽつりと漏らされたような声であったが、その場にいた幹部全員がピタリと止まり、冷や汗をだらだらと流し始める。

 当人は場が静かになったことに満足したのか一つ頷き、その場における()()を告げた。


「貴様らのうち何人かでその子供を捜し出し、接触せよ。邪魔が入るようであれば消して構わん」


 それだけを告げるとその人物は立ち上がり、左右に座っていた女性を連れて退室していった。残された幹部はほんの暫くの間呆けていたが、すぐに決定に従い各々(おのおの)の担当を決めていった。

読んで下さりありがとうございます。


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