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異世界流浪譚 ~傭兵と共に~  作者: ガキ坊
一章 少年期編
19/69

職員

前回でアルムさんの年齢に触れてませんでしたが大体16,7歳をイメージしてたりします。

「というわけで、団長。傭兵ギルドから職員が一名出向してきますが、久斗君に付けておけばいいとのことです」


 部屋に入ってきたと思ったらいきなり説明しだしたエストにバスカーは面食らっていた。


「待て待て待て、エスト。何が『というわけで』なんだ? さっぱり分からないぞ」


 混乱の元凶(エスト)は非常に面倒くさそうな顔をしてため息をついた。


「団長、そこはきちんと理解して頂かないとこちらも困ります」

「いやいやいや。なんだ? なんでお前そんな機嫌悪くなってるんだ? もしかしてマードックの(じじい)がまた無茶振りをしてきたのか?」


 バスカーはギルド支部長であるマードックがまた彼に無茶苦茶な要求をしたのだろうかと推察した。昔からエストが気を荒げているときはマードックが関係していたからである。そして今現在エストは気が立っている。付き合いの浅い久斗やターシャでは分からないが、幼い時からずっと付き合いがあるバスカーだからこそ分かる普段との些細な違い。それを敏感に感じとっていたが、最近は別件でも頭を悩ませていたので、確証が持てなかったのである。


「ご老体は相変わらずでしたよ。本当に困った御仁です」


 エストは演技ではなく心底嫌そうな顔をしてバスカーの問いを肯定していた。


 今でこそエルリッシュの傭兵ギルド支部長という地位にいるマードックであるが、もともとは「風の旅団」に所属していた人物であり、在籍中の地位も副団長という高い地位にあった人物である。そして、エストから数えて先々代にあたる人物であり、二人の子供のころからの顔見知りでもある。それ故、昔から旅団関係者、特にエストには親愛の証という名のちょっかいを掛けてきていた。


「まぁ、お前はあの爺に特に目を掛けられていたし、そもそもあの爺の嫌らしさは団内でも有名だったからな。だからこそ、こんな特殊な街での支部長に抜擢されているんだろうが……。しかし、なんでまた久斗に職員が付くんだ?」


 バスカーの疑問は当然のものである、と理解していたエストは改めて詳しい経緯を話し始めた。そして、それを聞き終えると難しい顔をして唸ってしまった。


「むー。その全属性というものが本当ならあいつには魔法の習得を優先させたいところだな。刀についてはまぁまだ十歳なんだから力も足らんだろうし、一応あの武器馬鹿(マロイ)が木刀を作ったらしいから訓練にはそれで十分だろう。……ん? 力は子供相応なんだから魔力量も子供相応なんじゃないのか?」


 バスカーの独り言に近い発言にエストは律儀に答えていた。


「いえ。水晶の光はそれはもう見事なものでしたから、魔力量は相当なものであると思われます。それに団長、もうお忘れになったのですか? ここに来る途中の野営地で彼の莫大な魔力が暴走した跡を」


 エストに指摘されそういうことがあったか、と記憶を掘り出すバスカー。彼にとっては結局襲撃ではなかったためにあまり記憶に残っていなかったのである。しかし、エストが白い目を向けていたために、すぐに思い出せたのは僥倖であった。


「……あぁ、そういえばそんなことがあったな。確かそれがあったせいで、魔法の修練については『待った』を掛けていたな」


 エストはやっと思い出した様子に呆れつつも肯定を返した。


「はい。ですが、今回の検査で属性についても分かりましたし、魔力量もある程度の把握は出来ましたので修練で注意させれば問題ないと思います。さらに団内でも指折りの魔法師であるエレインが監督すると申し出ておりますので大丈夫ではないかと」


 エストの言葉に深く頷いた後にバスカーは自分の考えを打ち明けた。


「なら王都に戻り次第で魔法の修練をさせよう。さすがに旅をしながらでは修練も覚束(おぼつか)ないだろうし、剣術の鍛錬もしたがるだろうからな。どうしてもやりたいと本人が言うなら王都までは魔力が暴走しないかだけ監視させて、魔力の扱いを習熟させよう」


 その方針に対してエストは違った意見を示した。


「いえ、それはそうなのですが、折角ですので(しばら)くこの街に滞在して、遺跡を使って各属性を確認しつつ少しは修練させてあげてはどうでしょうか? 監督についてはエレイン、ターシャ、それに先ほど申し上げたギルド職員もつけましょう」


 エストが珍しく自分の意見に従わなかったことにバスカーは驚きを隠せないでいた。そして、驚き顔のままついついエストに真意を問いかけていた。


「何故だ? 俺たちは王国に報告の義務もあるし、団員の中には家族が首を長くして帰りを待っている奴だっている。なのに何故あいつのためにここでわざわざ足止めをしないといけない? それに遺跡なんかで修練したら他の連中にばれるだろうが」


「少し待ってください」


 エストは魔法で誰にも聞かれていないのを確認する。その後に念入りに小声にしてから自分の真意を明かした。


「それが、実はあの後ご老体に再度呼ばれまして、そこで頂いた情報の中に……」


 そしてその内容を聞いたバスカーは驚きのあまり立ち上がってしまっていた。


「それは本当か?」

「ご老体からの情報ですから十中八九真実かと」

「そりゃ、ここで少し立ち止まらないといけないな」


 早く戻りたい団員の気持ちを理解しているバスカーは非常にもどかしい気持ちになった。しかし、仕方ないと判断を下していた。


「ええ、ですからそのついでとは言いませんが、彼にも修練をさせたほうが時間の有効活用であると思います」

「そう、だな。たださっきも言ったが遺跡でやって大丈夫なのか? ほら前みたいな暴走があって遺跡が崩れでもしたら大変な騒ぎになるぞ」


 エストは大変な騒ぎどころではないなと心中で呟いたが、口から出た言葉は別のもであった。


「そのためのターシャ、エレインです。それにギルド職員もそれなりの実力はあるようですから何とかなるでしょう」

「あぁ?」


 他人任せなところに違和感を感じるバスカー。しかし、バスカーはその違和感をすぐに意識の端に投げ捨てた。


「あー、あいつらだったら問題ないだろう。あいつらのあの性癖だけは驚いたが嬉しがるやつにやらせたほうがこっちも楽だ。それに今更他の奴を付けたらエレインだけでなくターシャも怒るだろうしな」


 その発言にエストは悟りきった表情になっていた。


「それはもう十分すぎるほど分かっています……。それと遺跡で行った場合、他の人にばれるかということですが」

「何か対策があるのか?」


 バスカーは何かしら対策を練ってきたのかと安堵した。しかし、エストの答えは違っていた。


「もう探索されつくした区画であればあまり人も来ませんから大丈夫でしょう」


 その楽観的な考えに呆れ果ててしまった。しかし次の小さな一言を聞き逃すことはなかった。


「それに、()にもなりますし」


 バスカーは眉をひそめつつも先ほどの違和感の正体が分かったためエストの好きにさせることにした。


「それでいいなら構わんが……。それにしても、爺も厄介な情報を持ってきてくれるものだ」

「全くで」


 久斗の話はこれで終わりとばかりに、背もたれにもたれ掛かり、マードックから割り振られた件に話を戻すバスカー。その声音には面倒事はご免という思いがあふれていた。エストも面倒事などやりたくなかったが、やらなければいけない類のものであったため諦めていた。そして顔を引き締めてすでに考えてきていた対策を話し始めた。


「それについてですが……」


 こうして「風の旅団」の最高幹部による話し合いは夕方まで続き、その後、予定していた街の有力者との話し合いに出かけていくのであった。


 エストがバスカーに報告をしていた頃、久斗は自分に宛がわれていた部屋に戻ってきていた。そこには当然の如くアルムも付いて来ていた。その結果、小さな事件が発生していた。


「あなた達が久斗君のお世話を今までしてくれていた方々ですね。これからは私がお世話をしますのであなた達はお役御免となります。ご苦労様でした。後はどうぞお任せください」


 ギルドでの登録も終わり、ターシャやエレインが待っていると思い、なるべく急いで部屋に戻った久斗に付いてきたアルムが、彼女たちを見るなり言い放ったのが先の言葉であった。


「いきなりのご登場でいきなりのご挨拶ね。一体誰がそんなことを決めたのかしら?」

(わたくし)達はこれから久斗君を連れて古都を散策する予定ですので、部外者がしゃしゃり出てこないでくださいな」

 

 ジェシカもその場にはいたものの、久斗の世話とまで言えるほどのことはしていないため、自分は関係ないだろうと壁際に寄って傍観していた。

 しかし、いきなりのアルムの宣言に残った二人は彼女のことを敵と感じ取っていた。特にエレインは自分と相通ずるモノがあると本能的に嗅ぎ取っていたため、ターシャ以上に剣呑な雰囲気を醸し出して相手の言葉を全て無視することにした。


「これは傭兵ギルドの決定ですから、あなた方には従う義務があります」


 アルムはアルムで伊達にギルドで働いていたわけではなく、荒事に対する耐性が非常に高い上に、一般の職員とは違い探索もできるほどの実力があったため、二人の威圧に真っ向から対抗しだしていた。

 その結果、宿の一部屋からは一般客が裸足で逃げ出すようなプレッシャーが発生していた。


「あの……」

「だめよ、久斗君。こんなおもし……もとい、危険な雰囲気の中に入っていったら倒れちゃうわ」


 あまりに非常識な状況を打開すべく声をかけようとした久斗を心底楽しそうな顔をしたジェシカが止めた。団内でも冷徹さでは一位二位を争うほどで、さらには表情の変化が乏しいとされているターシャと、直情的ではあるものの、外面(そとづら)は決して崩さないエレインの珍しい顔が娯楽に飢えていた団員(ジェシカ)の興味を誘ったのであった。そうして一触即発の危険な状態が形成されいった。


「大体あなた誰よ。旅団の人間じゃないでしょ。何勝手に干渉してきているのよ」

「全くですわ。ただでさえ、ターシャというお邪魔猫がいるのにこれ以上蜜月を邪魔をする人はお呼びではありませんことよ」

「ちょっと、エレイン。誰がお邪魔猫よ」

「あら? 自覚がありませんでしたか? これだから察しの悪い猫は……」


 いきなり始まった仲間割れにアルムはどうでもよさげに入口を指し示した。


「お二方とも夫婦漫才はどうぞあちらから外に出てお願いします。ここは宿屋ですので。大道芸は外でするべきものですよ」

「はぁ? 誰と誰が夫婦よ。それよりさっきも言ったけどあなた誰よ?」

「夫婦……婦はあたしですから……夫はターシャ、あなたになりますわね」

「エレイン! あなた、もしかしてあたしに喧嘩売ってる?」

「どっちもどっちだとは思いますが……。それはともかく、あなた方に名乗る必要性を感じません。ですので、さっさと退室してください」


 久斗はあまりにも混沌とした状況に頭を悩ませていた。


――何が何でどうしてこうなったの?! 折角街の散策ができると思ったのに。ほんとどうしたらいいんだろう。ジェシカさんも面白がってるみたいだし。


 そう思っている間もターシャ、エレイン、アルムによる口喧嘩は続行中であった。仕方なしに久斗は自身が考えた最後の選択肢を選び取った。すすっと静かにジェシカに近づく。そして小声で話しかける。


「ジェシカさん、エルリッシュの案内をお願いできますか?」

「うん、わたし? 別に構わないけどこれはいいの?」


 これと三人の言い争いを指差すジェシカ。それに対して久斗は


「もう別にほっといたらいいと思います。普通に三人で案内してくれればよかったのに」


 少し不機嫌そうな声に、最後の言葉が彼の本心を告げていた。それが分かったジェシカは苦笑してしまった。要は三人とも仲良くして欲しいのに自分のことをそっちのけで口喧嘩しているのに拗ねているのだと理解したのである。そしてせめて久斗を楽しませてあげようとそのお願いを聞き届けることにした。


「仕方がないわね。確かにこの様子じゃ、日が暮れても終わりそうにないし、ね」


 ジェシカは言い争っている三人を横目に静かに久斗を連れ立って部屋を後にした。残った三人はその事実に気づくことはなく、彼らが出て行ってもずっと言い争いをしているのであった。

読んで下さりありがとうございます。


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