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異世界流浪譚 ~傭兵と共に~  作者: ガキ坊
一章 少年期編
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「ほら見えてきました。あれが傭兵ギルドのエルリッシュ支部です」


 傭兵ギルドエルリッシュ支部は大体三階建てのビルくらいの大きさであり、見た目は久斗が思っていたよりも綺麗であった。外観はどこか外国の館を連想させるような造りでその入口のところと屋根のところには傭兵ギルドであることを示す紋章が描かれた旗がはためいていた。

 久斗は「傭兵」という言葉を自身が知っている物語から連想し、また「風の旅団」のどこか砕けた雰囲気も相まってワイワイガヤガヤしている小汚い酒場みたいなものを想像していた。それはしかし、良い意味で裏切られていた。


「傭兵ギルドっていうからもっと汚れた感じのする建物だと思ってました。でもきちんと掃除とかもされてますし、きれいな建物なんですね」


 その久斗の言葉にエストは笑いながら答える。


「あはは、このエルリッシュの支部に来た人の感想と同じですね。ですが、久斗君の言ったような建物が支部になってる所もありますよ。ここに関しては王都にも近めですし、貴族や大商人といった方が依頼に来たりもしますから常に綺麗にしてあるんですよ」

()()がわざわざ来るんですか?」


 久斗の発音の違いに引っかかりを覚えたエストはすぐに勘違いに気付いた。


「あぁ……。久斗君の言っている『きぞく』は鬼のほうですね。私が言いました『きぞく』は伯爵や男爵といった貴族ですね」

「あー、納得しました」


 先ほどまで馬車の中で種族についての講義をしていたためについつい「きぞく」というと鬼族のほうを思い浮かべてしまったのであった。


「鬼族の人たちはあまり自分たちの領域からでませんから、そちらを連想する人は少ないですよ。専ら『きぞく』といえば高貴な血筋の方々のことを指しますので覚えておいてくださいね」

「はい」


――そっか。勉強して知っているだけではだめなんだ。その知識を使って物事を考えていかないと……。


 久斗の考えに気付いているのか気付いていないのかエストはのほほんとしていた。


「まぁ、入り口で立ち話してるだけですと邪魔になりますから中に入りましょう」

「あ、は、はい」


 エストが何の気もなしに中に入っていく。それに続くようにして自分の考えを中断し慌てて久斗も支部の中に入っていった。

 中に入ると玄関口としてはあり得ない、劇場等に見られる大広間になっていた。正面には三つの受付があり、また久斗から見て右手の方向には掲示板と思わしき物とそれを眺めている数人の人達が立っていた。また逆の左手の方向には幅広く設けられた机があり、片側が受付となっていた。

 エストは正面の受付の一つにずんずん進んでいった。あたりを見回していた久斗はそれに気付き、またもや慌ててエストの背中を追いかけた。


「やぁ、こんにちわ」


 顔見知りに挨拶するようにエストは受付をしていた女性に気安く挨拶を掛けた。


「あら、エストさんじゃありませんか。お久しぶりですね。いつお戻りになったのですか?」


 受付の女性もエストのことを知っていたため声を弾ませて挨拶を返していた。


「ついさっきですよ」

「ということは戻ってこられたばっかりということですよね。それでは依頼の報告ということでしょうか?」

「今回の報告は引継ぎもありますから王都でします。途中の村からの依頼についてはまた後ほど伺いますのでその時にでも。今回はこの子の用事の付き添いで来ました」


 エストはそう言って、久斗の背中を押した。久斗は押されるがままに受付嬢の前に出た。受付嬢は見た目の年齢の低さに驚きの表情を作り、次の瞬間にはにこやかな笑顔を見せていた。久斗は女性の微笑みに顔を真っ赤にして少し恥ずかしげであった。


「ほら、久斗君。自分の目的を言わないと受け付けの方も困っていますよ」

「あ、はい。あのギルド登録に来ました」


 エストから言われ、気を取り直して受付嬢に登録の旨を告げる久斗。

 エストに連れられてきたとはいえ、幼い子供が傭兵ギルドに登録するということはめったにない出来事であった。それ故再度驚いた受付嬢であるが、ギルドの看板ともなる受付を担当しているだけに醜態は見せられず、すぐさま真面目な表情で登録の手続きを行いだした。


「ではこちらに氏名、年齢、得意武器、所属をお書きください。所属につきましては無ければ『なし』と書いていただければ大丈夫です。もし文字が書けない場合はこちらで代筆を行いますので一声お掛けになってください」


 久斗は一生懸命この世界の文字の練習をしていたことに安堵した。

 この国、ひいてはこの世界の識字率は現代日本とは比べるべくもなく低い。特に農民として暮らしている人々にとっては文字はなくても困らないものであるため習う者がほとんどいなかった。

 しかし、貴族やギルドの職員はその職務上文字の読み書きができないと務まらないために必ず勉強させられる。また、ギルドの依頼については掲示板として置いてある石板に書き出されるためギルド所属の人間もある程度は読めるように勉強する者が多かった。

 そのため、書けるのと書けないのとではどちらが恥ととられるかというと微妙な所であった。しかし、ギルド所属の人間は大半は読めるとはいえ、やはり最初は読み書きが出来ない者が多いので大概は恥と受け取られずに、逆に書けると感心されるのが常である。久斗自身は現代日本の感覚があったからこそ書けないことに恥ずかしさを感じただけなのであった。


「え? これって紙?」


 また、久斗はギルドの受付嬢に差し出されたものを見て驚いていた。紙がでてきたからである。現代日本においては質の悪いものではあるものの、この世界では貴重な紙であった。その貴重なものが、たかが登録のために出てきたことに驚きを禁じ得なかった。

 しかし、これは登録される内容というものが非常に大切なものであり、身元の保証などにも繋がる。もし石盤などにしていて「消えてしまいました」となると大問題となってしまう。その点、紙であれば、インクが掠れることはあっても消えることはあまりない上に管理もしやすいということで特別に使用されているのである。

 そういった事情をエストに教わりながらすべてに記入していき、書き終わったものを受付嬢に渡す。


「はい、特に記入漏れもありませんので登録を致しますので少々お待ち下さい」


 受付嬢はそう言うなりカウンターの奥に向かっていった。そこで登録の事務手続きをするのかと思っていた久斗であったが、受付嬢はすぐに手ぶらのまま戻ってきた。久斗はやっと登録ができるとワクワクしていただけに、なぜ手ぶらなのか非常に気になった。そんな久斗の思いに気付かずに受付嬢は何事もないかのように。別室に移動することを告げる。


「それではどうぞこちらについて来て下さい」


 むすっとした久斗とそれを楽しそうに眺めているエストが連れて行かれたのは小さな個室であった。部屋の奥には台座があり、その上には水晶玉が置かれている。受付嬢はその水晶玉に近づき作業をした後に久斗のほうを振り向いて手招きした。それにつられて寄っていった久斗に指示が出された。


「では、こちらのほうに手を置き、魔力を水晶に込めていただけますか?」


 魔力を込めるという言葉に、久斗はついエストのほうを振り向いてしまっていた。それに対してエストは笑って受付嬢の指示に従うよう促した。久斗は少し不安ではあったがエストからも促されたので仕方なしに水晶球に手を置き魔力を込めようとした。しかし、何も起こらなかった。


「あの……」

「はい、どうなさいましたか?」


 久斗は少し恥ずかしげに助けを求める。

 

「これ、どうやったら魔力が込められるのですか?」


 受付嬢はよくある質問であったため、すぐにどうすればいいかの指示を解説しだした。


「ではまず、もう一度その水晶に手をのせて下さい」


 言われたとおりに水晶に手をのせる久斗。それを見た受付嬢は次の指示に移る。


「そのまま、水晶に念を送るようにしてみて下さい」


 念を送ると言われて少し戸惑っているところにエストが横から助け舟を出した。


「久斗君、この前の詠唱のときにしたみたいに大切なのは想像力ですよ。その水晶にこの前感じた魔力を送るように想像してみてください。あ、それと込めるのはほんの少しでいいですからね。前みたいに沢山出してはだめですよ」


 そのエストの言に久斗は頷き、言われたとおりに魔力を水晶球に送るイメージをしてみた。その際注意された通り魔力量自体は少なめにするよう気をつけていた。

 するとすぐに水晶に魔力が流れ出ていくのを久斗は感じ始めた。そして水晶はすぐに眩いばかりの光で輝きだした。ただし色は全てを飲み込むような純粋なる黒であった。それを見たギルドの受付嬢はありえないとでも言いたげな顔になっていた。


「こ、これは……」


 エストのほうもある程度の結果については予想していたものの、その予想以上の結果になりそうな輝きに驚きを隠せないでいた。


「あの、いつまでこれを続ければいいのですか?」

「……あっ、すみません。もう大丈夫ですので離してもらって結構です」


 久斗の言葉にハッと我に返る受付嬢とエスト。受付嬢は少し落ち着きを失しながらも久斗に手を離して構わないと教えた。

 久斗は水晶の光をまぶしいくらいにしか思っておらず、自身の出した結果が尋常ではないものであることに気付いていなかった。

 水晶玉は久斗が手を離すと光るのを止めた。すぐに受付嬢が近づき結果を写し取っていき、終わると久斗達に一礼する。


「では、結果のほうですが……。とりあえず結果のほうは必ずお伝えしますのでしばらく先ほどの広間でお待ちになってていて下さい」


 そう言って久斗とエストを広間まで連れて戻った。彼女は戻るなり、慌てた様子で受付の奥に消えていった。


「光の色が黒というのは……。とにかく支部長に……」


 そう呟いていたのは久斗達が知ることはなかった。


 何もすることもなく、暇であったために待っている間に久斗は先ほどしていたこととその色についてエストに聞いてみることにした。


「今のっていったい何をしていたんですか?」

「あぁ、そういえば久斗君に説明がなかったですね。私がいたから説明不要と思ったのでしょうか。あれは魔力測定ですよ。ほらエルリッシュについたら行うと言っていたではありませんか。登録の際には必須になっているのですよ。光と色で判別しているのですが……」


――あんな簡単に測定できちゃうんだ。もしかしてあの水晶球ってすごいものじゃないのかな?


 少し感心している久斗であったが、すぐに次の疑問をエストにぶつけていた。


「じゃあ光が黒色だと何か問題があるのですか?」

「うーん、私も初めて見る色ですからねぇ。ですが、あのギルドの受付嬢の慌て具合を見ますと規格外の内容だったのは確かでしょう。まぁ規格外の内容なのはある程度予想済みでしたが」


 そのエストの言葉に思わず驚きの声を上げる。


「えっ」


 しかし、声を上げた久斗は以前に途中の宿泊地点でやらかしてしまったことをすぐに思い出し慌てて顔を伏せていた。

 そんな久斗を特に気にした様子もなくエストは受付嬢が戻ってくるまで、いつもののほほんとした様子で待っているのであった。


「お、お待たせしました。も、申し訳ありませんがこれからご案内する部屋まで付いてきてください」


 出て行く前よりも更に慌てた様子で戻ってきた受付嬢はエストと久斗を別室まで問答無用で連れて行った。その様子をたまたまギルド支部に来ていた他の傭兵達は珍しいものを見たような顔で見送っていた。

読んで下さりありがとうございます。


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