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異世界流浪譚 ~傭兵と共に~  作者: ガキ坊
一章 少年期編
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古都

 古都エルリッシュ


 そう呼ばれる街は彼の国「ゲイルフォルク」に存在している五つの主要都市(王都含む)の一つである。ただし、他の街とはその成り立ちが大きく違っていた。

 王都を除く他の三つの街は他国との街道上に防衛、そして交易を目的として設けられいる。つまり交易上必ず通る場所であるために、(おの)ずと発展していった結果としての主要都市である。

 それに対して、古都エルリッシュは「古都」の名前が示す通り、元々は古代文明時の遺跡だったのである。王国が発展していく中で、その遺跡は只のがれきとしか見なされていなかったが、著名な学者がたまたま調査の途中で立ち寄った際に遺跡と判明した。その著名な学者は遺跡で様々な古代文明時の文献を発見し、研究を一歩も二歩も進めていった。以後、その著名な学者に続こうと遺跡を探索する学者、そしてそれを護衛するために雇われた冒険者に傭兵、さらにはその三者を狙って商売するために集まった商人達。そういった人々が集まり、小さな村が出来上がった。さらにそこから定住する者が増えてきたことにより、製造業に関わる人々も集まりだし現在のように発展していったのである。遺跡は未だに全てが探索されていない状態であり、日々様々な発見がされ、研究が行われている。


「という形で発展してきた都市ですので見所はやはり遺跡ですね」


 そう説明するエストであった。


「ああ、そうそう。名物は遺跡饅頭と呼ばれるお菓子ですよ」


 久斗は最後の説明にずっこけた。




 久斗たち「風の旅団」は無事にエルリッシュに到着し手続きを終えると、馬車はそのまま団体用の宿屋のほうに向かった。そうした馬車の群れの中の一つで、街での注意事項がターシャから久斗に伝えられていた。


「いい、エルリッシュは今までの村と違って人がたくさんいるし、その分人間族以外の種族も多いわ。さっきまでちょうど勉強していたからって目移りしていると迷子になっちゃうわよ。それに、あたしから離れたら見つけるのが大変だし、がらの悪い連中もそれなりにいるから危ないの。だからちゃんと付いてくるのよ」

「はい、わかりました」


 周りで聞いていた団員はまさにお母さんだなと思いながらターシャ達を眺めていた。そこに、久斗へ別の声がかけられる。


「あらあら、久斗君。そんな泥棒猫なんかについていく必要はありませんのよ。なぜならあたしが全て案内してさしあげるからですわ。そもそもターシャと一緒にいますと……」

「エレイン、あんたね……。はぁ、もういいわ。久斗君、エルリッシュを見て回りたいならあたしかエレインと必ず一緒に行くこと、いい?」

「は、はい」


 ターシャはいつものエレインのやっかみに溜息一つ吐くと久斗に少し訂正した注意を行った。

 久斗はターシャ、エレインどちらであっても優しく頼りがいがあるのでどちらと行くにせよ安心できると素直に頷いた。

 横ではエレインがまだ自分の素敵さ等を喋っていたが、すでに久斗、ターシャ共に聞いてはいなかった。そして、エレインがそれに気付いた様子はなかったため、周りからは呆れられていた。


 その後、エレインを無視して他種族を見かけても指差したり笑ったりしないこと、()()と絶対に呼ばないこと等、他種族についての注意事項が久斗に伝えられている所で馬車が宿屋に到着した。

 団員達は慣れたものでエストが宿を確保するやいなや、各々のグループで荷物を持ちながら部屋に入っていった。久斗はまだ子供ということ、エレインが積極的に説得したこともあり、ターシャ、エレイン、そして食事の準備などでよく話す女性団員であるジェシカと同じ部屋となってしまった。

 久斗自身は女性の部屋は嫌だと必死に主張していたが、バスカー、エスト両名はその異議申し立てを認めることはなかった。

 この時、エレインだけでなくターシャも隠れて脅していた事実があった。エストは建て前上では部屋数の問題から却下していたが、実際のところは女性二人(ターシャとエレイン)への恐怖から変更を認めることをしなかった。しかし、そのような事情を知らない久斗は随分食い下がったが、エスト達が頑なに拒否したためしぶしぶターシャ達女性陣と同部屋で過ごすしかないと諦めて決定に従った。

 その後荷物を置いた女性陣は大衆浴場に出かけるとのことだったので、久斗はさすがに遠慮し部屋で一人待つことにした。そして、暇つぶしに彼が馬車内で行った復習の更なる復習でもしておこうと思い、言われたことを思い出していたときである。



コンコン


 ノックの音がした。それに久斗が顔を上げ返事をしようとするが、その前に声がかけられる。


「久斗君いますか?」


 扉を開けずに確認をしてきた呼び声はエストのものであった。久斗は最初そのまま招き入れるつもりでいたが、さすがに女性の部屋に入れるのはまずいと思い、返事をするなり扉を開けて部屋の外に出た。


「何か用ですか?」

「ええ、これから私は所用でいかないといけない所がありますので、そこに付いて来て欲しいのです」


ーー所用があるのに僕がついていってもいいのかな? それにどこに行くつもりなんだろう?


 旅団の頭脳とも言えるエストが行く場所に何故自分を連れて行くのか。そういう思いが顔に出ていたのを鋭く読み取り、エストは久斗が聞く前ににこやかに笑いながら説明を始めた。


「これから行く所は傭兵ギルドの支部ですよ。久斗君も我々『風の旅団』に所属することになりましたからね。前々から言っていましたが君自身の登録、そして旅団への加入手続き、おまけとしては魔力測定をしに行こうと思うのですよ」

「ギルド登録……ですか?」


 聞きなれない言葉に首を傾げる久斗。その疑問を勘違いしてエストは説得に乗り出た。


「ええ、これからのことを考えるならば今登録しておいて損はないでしょうし、どちらにしろ登録は必須ですからね。それどころか、してもらわないと私達『風の旅団』も加入を認めることができないのですよ」


 単身の傭兵の場合は傭兵ギルドに登録していなくても活動することは出来る。しかしながら、登録していない場合は「信頼」という点において非常に厳しい状況に(さら)される。具体的には、依頼における契約内容が登録していない者では、雇用主からの「信頼」が問題となり雇われない可能性が出てくるのである。さらに報酬においても同様で登録していない者は足元を見られてしまうことが頻繁に起こってしまう。

 逆にギルド登録をしている場合、強さや身元などの保証をギルドが行うことにより雇用時の問題を回避できる上に、その強さに見合った報酬を要求することができる。

 依頼主側の利点は強さについての基準が「ランク」と呼ばれるものではっきりとわかるため、雇用時における人選の失敗を避けやすくなること、法外な報酬を要求されないこと等が挙げられる。

 傭兵団の場合は個人の場合と事情が異なり、過去に犯罪を犯した者、傭兵という職種そのものへの信用を墜落させたりした者を匿えないようにするために団員の登録義務が課せられている。

 そうした事情によりほとんどの傭兵は志願者も含め登録をする者が大多数である。ところが、登録しない通称「モグリ」と呼ばれる者もいないわけではなかった。しかし、「モグリ」と呼ばれる者たちは裏の世界での仕事が主なために表舞台に出てくることはなかった。


 また、傭兵とは似て非なるものである冒険者と呼ばれる職業が存在している。こちらは冒険者ギルドに登録することで初めて認められる職種であるため「モグリ」は存在していない。仮に無登録で冒険者と同じ依頼を行った場合は詐称の罪に問われることとなる。

 両者は基本的に戦争、紛争は傭兵、遺跡、洞窟探索は冒険者と住み分けがされているが護衛依頼については明確な線引きは存在しておらず、大体は人数差でどちらかを雇うという形になっている。


 そういったことを手短に話してエストは久斗を連れていこうとした。しかし、それをしようとした瞬間に背筋に悪寒が走る。そして久斗は淡い柑橘系の匂いに包まれる。


「あらあら、エストさん。先約を無視して行こうとしないでくれません?」


 そう言いながら久斗の両肩を基点に抱きかかえたのは、風呂上がりの状態で碌に髪も乾かしていないエレインであった。それを見てエストは心中で舌打ちをする。


――くっ。なんでエレインさんがすでにここに。きちんと時間を見計らってきたのですが……。


 それは風呂場での出来事であった。


 ターシャやエレイン達は大衆浴場の湯船の中でのんびりとしていた。頭の中では街の案内の計画をそれぞれ入念に練っていたためにのんびりとは言えないが、傍目からはのんびりとしているように見えた。

 そんな時に、いきなりエレインが立ち上がった。そして、突然のことに驚いているターシャ達に向かって深刻な表情をむけた。


「久斗君に悪い虫がつこうとしていますわ。私は先に上がります」


 それだけを言い残して浴室を飛び出し、身嗜みもそこそこにすぐに部屋に戻っていったのである。

 そのような事情から、エレインは火照った体のままで、服装も着崩れているため全体的に色気を醸し出す格好になっていた。久斗はいきなり発生した後頭部の感触の原因をすぐに察して赤くなる。エレインは久斗に構わず、抱き締めたままエストを威嚇する。


「久斗君にはこのあ・た・しが古都の案内をすることに決まったおりますの。いきなり現れて連れて行かないでよくださいませ」


 ターシャが聞いたら激怒しそうなことを平気で言ってのける。しかし、エストは内心冷や汗を掻きながらも平然としてお目溢しをもらおうと試みた。


「おや、それはすみません。ですが、ギルドへの登録などは久斗君が完全に団に所属するために必要な手続きですよ? そこを何とかご容赦願えないでしょうか?」

「そのようなことを言って……。その手続きが終わりましたらそのまま街の散策に行くつもりなのでしょう?」


 エストの言葉に不信感を拭いきれないエレインは胡散臭そうに見ながら、より久斗を強く抱き締める。


「ははは。では手続きが終わりましたらすぐにこちらに戻るよう手配します。それでは駄目でしょうか?」


 そう約束してもまだ疑いの目を向けるエレイン。エストは内心困り果てていたが、そんな彼に思わぬところから援護がやってきた。

 エストの言に賛成を示したのはエレインではなく先ほどまではいなかったターシャであった。


「いいんじゃないかしら。登録だけなのでしょう? それだとすぐ済むんだしそれくらいは待ちましょうよ」


 ターシャはエレインがすぐにお風呂からあがった時の発言は戯言と切って捨てていたが、それでも久斗に何かあったのではと思い、エレイン同様身嗜みもそこそこに出てきていた。

 そして、最後のほうしか聞き取れなかったものの特に問題があるわけではないと分かったために、久斗を案内するためにもきちんと身嗜みを整えておきたかった。それ故にエストに味方したのであった。


 結局は二対一という形になったためエレインが泣く泣く折れて、久斗はエストと一緒に傭兵ギルドに行くこととなった。


 その後、エストは久斗にぼやいていた。


「あれは後が怖いですね。久斗君、戻ったら是非機嫌をとっておいてくださいね」

 

 そう言いながらも怖さなど微塵も感じていない様子が印象的であったと久斗はバスカーに報告していた。




 傭兵ギルドエルリッシュ支部に向かう道中において、エストは先ほどの説明の続きを行った。


「じゃあ、傭兵って個々人でのランクと団体でのランクの両方を持っているんですか?」


 久斗は傭兵のランクについて疑問に思ったことをそのまま投げかけた。

 ランクとは依頼の達成率や戦闘における強さなどを基にギルド側で厳密に審査、規定しているものであり、個人と集団では求められる資質が違うため大きく変動するものであった。そのために個人と団体でランクが分けられている。


「……という訳なんです。私自身のランクはBですが、『風の旅団』のランクはAとかなり高いところにいますよ。ちなみに団長であるバスカーは個人でもAと非常に高評価を受けていますね。久斗君は初登録ですから自動的に最低のFから始めることになりますが、まぁ団体で受ける分には問題ありませんから安心してください」


 最高がSSで、次いでS、A、Bと続いていくランク分けの中でAというランクは彼の言うとおり高いものであるために、そんなところに入団できたのかと驚く久斗。それを優しい目で見守りながらエストは古都エルリッシュの傭兵ギルド支部までの道を案内していった。

読んで下さりありがとうございます。


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