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異世界流浪譚 ~傭兵と共に~  作者: ガキ坊
一章 少年期編
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葛藤

「では今日中に準備を終わらせて出発するぞ」


 太陽が雲一つ無い空で天頂に達しようとしていた頃、宿屋の大広間に全団員が集まっていた。

 グラスタ村で村長から依頼されたのは古都エルリッシュまでの護衛であった。護衛対象は村の商人。村所有の馬車を使い売り物を運ぶとのことであり、エルリッシュ迄同道する手筈となっている。魔物退治については、ついこの間に別の傭兵団が行ったばかりで今は必要ないということで、翌日には出発する。そうした内容をバスカーが団員に簡潔に伝えた。すぐさま副団長であるエストから各々がやるべきことを通達されていく。それが終わると各団員はすぐに自分の任務を全うするために広間を出て行った。

 久斗は今回ターシャ、エレイン以外の団員と一緒に買出しに出かけることとなった。これはターシャ、エレインがべったりと久斗にくっついていた為に他の団員との交流が疎かになっている、とバスカー、エスト両名が危惧したからであった。その他の理由としては、周りが常に女性というのも息が詰まると考えたエストが久斗に気分転換をさせるというものもあった。

 今回久斗と一緒に出かけることとなった団員は男性二名。両人とも久斗ほどではないにしろ、今回の遠征で経験を積むために連れてこられた若手で、まだ十代後半である。同年代とまではいかなくとも近い年齢の者同士、すぐに仲良くなっていった。

 しかし、道中の話に久斗は辟易していた。


「なぁなぁ、久斗。ターシャさんの好きな物って何か知ってるか?」

「エレインさんの異性の好みとかって分かるか?」


 三人の会話は主に残りの二人が久斗にターシャ、エレインに関しての質問をすることばかりであった。

 

 団員の中でも若くて恋人もいない上にタイプは違えど美人の範疇に余裕で入る二人は団内の若手、特に男性団員にかなりの人気があった。そんな二人からずっと面倒を見てもらっていた久斗は若手団員からは羨ましい限りの存在として認識されていた。

 しかし、そのような状況でありながら目の敵にされていない理由は年齢差があること。また、久斗に想い人がおりその人物を探すために旅団に所属したのを皆が知っていたからであった。その結果、久斗は周りの若手、特に男性からは競争相手にならないと受け取られていたの。

 そこで、団内の男性陣からは久斗を今回のように上手く情報を引き出すための情報源と認識されていっていた。そのため、若手団員から苛められるといったことはなく、逆にとても親切に世話をされていた。


「狙い通りね」

「あんな団員からの人気など要らないと思っていましたが、久斗君の役に立てられて良かったですわ」


 その状況がターシャとエレインの思惑通りであったということはエストのみが知る事実である。


 その後、三人は問題なく予定の買い物を消化し、宿屋に帰還した。他の団員も問題なく戻ってきており、翌日の出立の準備は順調であった。


「余裕があるか?」

「ええ、良い機会ですので、ここは一つ()()をやりますか?

「そうだな、久しくやっていないしな。許可する」


 バスカー達上層部は考えていた時間よりも早く準備が終わったことで、抜き打ちの特訓を行った。これは久斗も含む全団員が集まり日暮れまで特訓となり、その内容は厳しいものであった。特訓後の団員たちは特に騒ぐこともなく、すぐに就寝していた。


 翌日の朝早く、前日の特訓の疲れはすっきりとれていた久斗は日課である鍛錬を行っていた。同じように早朝の鍛錬に出てきていた幾人かの団員は、彼の行っている自分達が初めて見る特殊な鍛錬法を興味深げに観察していた。その後、朝食時にその鍛錬法について色々と聞かれた久斗は遥かに年上の団員たちを前にあたふたとしながらも、一つ一つ丁寧に説明していっていた。その際、ターシャやエレインが久斗に近づくことができず不貞腐れていたのには、エストやバスカー達上層部の失笑を誘っていた。

 

 その後、村の商人たちと村の入り口で合流して『風の旅団』はグラスタ村を出発した。次の目的地である古都エルリッシュを目指て……。


 その途中の馬車の中。


「じゃあ、エルリッシュに着いたら、そこの傭兵ギルド支部で久斗君の登録、および魔力測定を行うことになるのね」

「ええ、そうですね。エルリッシュ程の大きな所でしたら傭兵ギルドもありますし、わざわざ王都で登録する必要もありませんから」


 エストの言葉に一番目を輝かせたのが久斗ではなくエレインであった。


「では、やっと(わたくし)の出番になりますわね。もうすぐターシャの講義も終わりますし、古都に着くまでにも魔法についての指導は行いますが、本格的な指導を始めることができますわ」


 久斗は初めて魔法を使用したときに威力が大きすぎたため、以降は魔法使用禁止になっている。しかし、魔力測定ができればその数値を基にした指導が行えるため暴発の危険を減らせる、とエストは判断していた。

 暴発の危険が少なくなれば比較的安全に魔法の修練が行える。そして魔法という危険な力を支配(コントロール)することで、また暴発の危険を少なくできる。その結果、より安全に修練が行える。そういった繰り返しで一人前の魔法師としていくのがエストの目論見である。

 その大切な修練の時の指導者がエレインである。指導者を決める時、ターシャは積極的に反対票を投じたのだが、バスカー、エスト、更には久斗本人までが了承したために問答無用で可決されていた。その後彼女がいじけて講義が潰れるというちょっとした事件が発生していたが、しかし今では笑い話となっていた。


「ま、後二、三日といったところだな。ターシャ、それまでにはお前さんの講義はあらかた終わらせておけよ」

「分かってます、団長。既にもう殆ど終っていますので問題ありません」


 ターシャの答えに、バスカーは満足そうにしていた。バスカーは久斗に対してとても親身になって考えて行動している。バスカーは信条の一つに「子は宝」というものを持っており、仮に久斗が異世界人でなかったとしても彼の久斗に対する姿勢は変わらなかった。

 そして、そんなバスカーの姿勢の表れの一つがターシャが行っている講義であった。彼は久斗に早くこの世界に慣れてもらおうと、一般常識をはじめ、様々な知識を教えたい、学ばせたいという考えを持っていた。その考えには同調している「風の旅団」副団長のエストは、そのためだけにターシャを専属で付けるように配置したのであった。こうして行われたターシャの講義であったが、内容自体は詰め込み教育になっているため所々知識の穴が存在していた。しかし、それは両名共に納得済みでのことだった。


「それじゃあ、そのまま引き続き久斗の指導を頼むわ」

「はい、お任せください」


 指導係の変更なしという決定にエレインはひどく不満げではあるものの、魔法の指導は自分が出来るのだからと思い直し沈黙していた。そんなエレインの様子にエストが深い溜息をついていたのを横目にしながら、バスカーはこれからの久斗の指導方針などを確認していく。その場に久斗本人をいさせたのは指導方針をきちんと理解させるためであった。

 そうして、暫くの間確認作業が続き、終了後すぐに久斗、ターシャ、それにエレインの三人は自分たちに割り当てられている馬車に戻っていった。

 バスカーとエストは次に幹部達を呼び寄せ、旅団の日程を確認していった。いくつかの行程については幹部に指示を出し、さらにいくつかの行程については自分達上層部で動くことを伝えながら旅団幹部による話し合いは進んでいった。


「よし、それじゃこれで終わりだな。皆よろしく頼むぞ」

「はっ!!」


 バスカーの最後の言葉に返事をし、すぐさまそれぞれの馬車に戻っていく幹部たち。それを見送った後にバスカーはエストとともに更に詰めていくべき項目を消化していくのであった。




 古都エルリッシュまでの道程において、野盗に襲われること一回、モンスターの襲撃が一回とあり、久斗は魔物相手には弓による牽制ではあったがなんとかこなしていた。しかし、野盗相手にはその牽制すら満足にこなせなかった。そのことを責める団員は皆無ではあったが、久斗は戦闘で満足に貢献することができなかったことを悔いていた。


――あの時、きちんと射れなかったせいでターシャさんや他のみんなが危険になっていた。やらないといけないのは分かってたのに、何も出来なかった。


 その後ターシャから「覚悟が足りない」と叱責された。ネルバ村での旅団所属のとき、そして初めて経験した野盗襲撃のときにも、その覚悟は問われていたのに動けなかった。久斗は自分では覚悟したつもりではあったが、まだまだ足りなかったのは明白であるとターシャから伝えられていた。

 その事実は久斗のエルリッシュに着くまでの残り短い時間に影響を与えていた。いつもの明るさが鳴りを潜め、気が沈んでいた。無用な心配を掛けたくない故にターシャやエレイン、エストやバスカー達の前でこそ虚勢を張り、明るく振舞ってはいたが、人生経験の豊富な旅団員達にはばればれであった。


「ねぇ、エスト。何かいい手はないの?」


 だから、ターシャ、エレインは|相談ごとのスペシャリスト《エスト》に相談を持ちかけていた。


「ううーん。こればっかりは手を貸せるわけでもありませんしねぇ……。そもそも誰もが一度は通る道ですが駄目な人は駄目ですし。特に彼の故郷では殺人はかなり忌避されていたという話ですから尚更乗り越えるのは難しいかもしれません」

「そんなことは分かりきっていますわ。ですが、それを何とかしてこその副団長ではありませんか」


 エレインの無茶振りに慌てて首を横に振るエスト。


「いやいや、エレインさん。無茶苦茶言ってますよそれ」

「無茶だろうが無理だろうが何とかしないと団内に影響がでますわよ。ただでさえ、年配の団員からは自分の子供、孫と同様に扱われているのですから。皆さん気を揉んでいましてよ」

「そう言われましてもねぇ……」


 エストは本人の問題である上にネルバ村の時に助言はしたつもりであるので、これ以上干渉しようとは思っていなかった。そして周りもこれ以上干渉すべきではないと考えていた。

 しかし、実際に、この二人を筆頭に団内からも多数の陳情があがってきているため何とかしたいのもやまやまなのであった。だからといって、エストは自分から何か行動するつもりは全くなかったため、この場は一旦話を横道に逸らして難を逃れようと考えた。


「とりあえず、明日にはエルリッシュに到着しますからそこで気分転換に町を見回ってきたらどうですか?」


 この一言でターシャ、エレイン両名の気は確かに逸れはした。しかし、この後すぐにエストは頭を抱える羽目となった。


「じゃあ、私が彼を案内してさしあげますわ。確かにエルリッシュは古都と大きな顔をするだけあって見所がたくさんありましたわよね。ええ、なかなかいい判断ですわ、エスト」

「エレイン、とりあえずあなたは黙っていてくれない? でも、エストの言うことにも一理あるのは認めましょう。折角だし一緒に色々見て回ろうかな」

「あなたと回ったら食べ物のところしか行かないじゃありませんか。可哀想ですし、全く気分転換には成り得ませんわ。あなたは団の仕事でもしていなさいな」

「うるさいわね。あなたこそ服とか魔道具だけになるに決まってるでしょ。そんなの絶対つまらないと決まってるわ。あなたこそ団の仕事そこそこ溜まってるでしょうし、片付けておきなさいよ」

「何ですって!!」

「何よ、文句ある!?」


 ガルル!!

 シャアア!!


 お互いにいつものように威嚇し始めた二人。久斗が来る前も少し喧嘩腰であったがそれなりに仲の良かった二人だが、今は目の敵のようにお互いを扱っていた。


――本当に困ったものですねぇ。これ絶対私にとばっちりが来ると思うんですけど、どうしましょうか。


 そんなことを思いながら、エストは熱くなり過ぎたところで止めるだけ止めて後は久斗に振ろうと無情なことを考え、放置することを決定した。


 翌日も久斗の雰囲気は少しどんよりとしていた。しかし、考えてもどうにかなるものではないと日課の素振りと射的だけは行っていた。その間は心が空っぽになるので気が紛れていたからであった。その後、いつものように馬車は車体を揺らしながら古都エルリッシュを目指していった。

読んで下さりありがとうございます。

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