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異世界流浪譚 ~傭兵と共に~  作者: ガキ坊
一章 少年期編
13/69

試合

 「風の旅団」を乗せた数台の馬車は順調に行程を消化し、日が暮れる頃にはグラスタ村に到着した。久しぶりに安全に休めるとお互いに笑いあいながら団員達はそれぞれ自分に(あて)がわれた部屋に向かっていった。

 久斗はターシャ、エレインとともに宿屋に入り、部屋の確認を行った。すると予定されていた空き部屋の関係により三人で一部屋を使うこととなった。


「誠に申し訳ございません」

「えええ、そんなの嫌ですよ。エ、エストさんは……」

「はいはい、我が儘言わないの。泊まれるだけ恵まれているんだからね」


 久斗が慌てて再考を促そうとエストを捜そうとするも、ターシャとエレインは何か問題でもあるかとばかりの態度で承諾をし、久斗を両側から捕まえて部屋まで引きずっていった。

 その光景に対して団員(男)からのやっかみの視線が久斗に殺到した。そんな嫉妬にかられた団員達には女性からの白い目が向けられていた。

 久斗はその視線に身の危険を感じたため、今度は逆に急いで部屋に入ったものの、そこで後悔することとなった。部屋に入るなり、またもやターシャとエレインが熱いバトルを繰り広げてしまったのである。


「だから、ベッドが二つしかないんだからあたしのほうに寝かせればいいのよ」

「何を言いますのやら……。あなたと一緒ですと気が休まらないに決まっていますわ。でしたら(わたくし)と一緒に寝ていただくしかありませんわ」

「あなたと一緒に寝かせたら、絶対いかがわしいことされるに決まってるじゃない!!」

「なっ! ターシャさん、まさかそんなこと考えてたのですの? そんなすて、いえいえ、いやらしいこと考えるなんて……。あなたのほうこそ『いかがわしいこと』する気満々じゃありませんか?!」


 ベッドが二つしかなかったためにいきなりギャーギャー言い合う二人に対して|その場にいた最後の一人《久斗》はどうすることもできなかった。しばらくオロオロしていたが最終的に諦観を抱いた久斗はエストとバスカーの部屋に赴き、事情を説明した。それに対してバスカーは大笑いしながらとんでもないことをのたまった。


「いいじゃねえか。いっそのことベッドをくっつけて二人とも巻き込んでもいいじゃねぇか」


 久斗からみて脳内ピンク色としか思えないことを言い放ったバスカーだが、その直後エストに折檻されることとなった。


「久斗君、すみませんが暫く外に出ておいてもらえませんか」


 折檻中は部屋の外に出ておくよう告げられた久斗はエストから溢れる黒い何かに怯えてすぐさま部屋を後にした。


「ま、待てエスト。話せばわか……ぎゃーっ」

「団長、ご無事で」


 それだけ呟いた久斗はどうしようか悩み、しばらく時間をつぶすために比較的仲の良い団員の部屋で「風の旅団」が今までしてきたことを聞くことにした。

 この時、ターシャとエレインは久斗がいないことに気付き、いなくなったのは相手のせいとばかりにさらに喧嘩をしていた。


「お待たせしました。団長、ここにいる間はあなたは床で寝て、ベッドは久斗君に譲りなさい」


 折檻終了後にエストはガタガタと怯える(バスカー)へ、久斗にベットを譲り、自分は床で寝るように指示。バスカーが怯えながらも頷くのを確認した後にターシャ達が喧嘩している部屋に殴りこんだ。突然の登場に驚く二人に対してエストは言い放つ。


「あなたたち、宿屋の人に迷惑を掛けえてはいけないとあれほど言ったのにまだ分からないみたいですね」


 エストの背中からはまさに「ゴゴゴゴ」と音が聞こえそうなほどの圧力が放たれており、ターシャ、エレインともに悪戯がばれた子供のようにビクッと首をすくめて縮こまっていた。その後何があったのか、宿屋からは三人(・・)の悲鳴が木霊(こだま)していた。

 後日宿屋のほうから聞こえてきた悲鳴に、グラスタ村の住人は悪いことをしたら旅団の雷が落ちると言われるようになった。


 宿屋での多少の問題はあったものの、久斗は久々のベッドであった故に、夕飯を食べて横になるとすぐに眠気を催し、そのまま眠ってしまっていた。十歳という小さな体では疲れもよほど溜まっていたことを示すように珍しく朝に早く起きることはなかった。そして、エストに起こされるまで睡眠を堪能していたのであった。

 この時、エストは自分が起床した時についでに起こそうとしたが、寝言で両親や故郷のことを呟いていたのが聞こえたために起こすことなく見逃していたのであった。結果として久斗は普段よりも大幅に寝坊することとなった。

 この時、ターシャ、エレインは久斗が朝食にも鍛錬にもいないことにお互いに相手が何かしたと勘違いし喧嘩をしていた。よってエストからお説教を貰う羽目となっていた。


「えっと、そのごめんなさい」

「気にすることはないのよ、久斗君。このショタ()が勘違いしただけなのだから」

「あら、何責任を擦りつけようとしていますの、この泥棒猫。あなたのほうこそ勘違いしていたではありませんか」


 久斗の謝罪に対して、二人はまたもや睨み合うが喧嘩に発展することはなかった。久斗の後ろで目を光らせているエストがいたからだった。


「まだ説教(お仕置き)が足りませんか」


 呟くように紡ぎだされた言葉に敏感に反応する二人。一気に背筋が伸びていた。


「あ、あはは。エ、エストは何を言ってるの。あたし達はこんなに仲良しなのよ」

「そ、そうですわよ、エスト。あ、あなたは私達の仲の良さをよくご存じではありませんか」


 焦ったように手を握り合いながらエストに仲良しの姿勢を見せる二人。そんな二人に対して溜息を吐きつつもその日の予定を言い聞かせた。


「あなた達は本日の集会に間に合いませんでしたから……」

「エストのせいじゃん」

「何か言いましたか、ターシャさん?」


 ボソっと呟いたターシャを一睨みして黙らせる。途端に怯えだすターシャを白い目で見ながら予定を告げる。


「コホン、ですから本日の予定を今ここで伝えます。本日は団長に村長の所に依頼がないかどうかを確認して頂きます。もし依頼があれば団員全員で対処し、なければ必要な物資を購入して次の古都エルリッシュに向けて出発します。

 どちらにせよ、昼までは自由行動となりますが、昼には一度この宿屋に戻ってきてください」

「了解よ(ですわ)」

「あ、了解しました」


 二人が口を揃えてエストの指示を了承する。それを横で見ていた久斗も慌てて返事をした。エストはその初々しい様子に笑みを浮かべながら自分に宛がわれた部屋に戻っていった。

 残された久斗、ターシャ、エレインの三人は折角の空き時間でもあるため、朝にできなかった久斗の鍛錬をすることにした。エレインは鍛錬には関係がなかったが、他にすることもなかったため付き合うこととなった。そうして、三人は宿屋から少しはなれたところにある空き地に足を運んでいった。

 空き地に到着するなり、ターシャは久斗にどうするのか確認を取った。


「今日もあの素振りから始めるの?」

「はい、あれはまぁ、準備運動みたいなものですから」


 久斗の返事に今度はエレインが問いかける。


「ですが、いつもその前に走り込みや柔軟体操もしっかりしているではありませんか。あれらは準備運動には入りませんの?」

「あれも準備運動といえば、そうですけれど……。やっぱり、基本をきちんとしないと技を修めることは出来ないっておじいちゃんが言ってましたからきちんとしていくつもりです」


 久斗の言葉にターシャはうんうんと頷き、エレインはしきりに感動していた。


「エライ、エライですわ、久斗君!! もうお姉さんとっても感動しましたわ。食べちゃいたいくらいでしてよ」


 エレインの最後の台詞に少し引きながら、ターシャは突っ込みを入れる。


「あんた、それはちょっと気持ち悪いわよ……。まぁそれは置いておいて、確かに基本を疎かに技は身に付かないわよね」


 そう言われて、少し照れる久斗であったが、すぐに真剣な表情で素振りを始める。そしてしばらくの間、二人が見守る中、素振りの音だけが空き地に響いていた。


 それは素振りが終わり、型の修練に入ろうとしていた時だった。


「ねぇ、久斗君。一度あたしと打ち合ってみない?」

「え?」


 唐突なターシャの発言に目を丸くする久斗。そしてその発言に噛み付いたのはいつものようにエレインであった。


「あなた、何を考えていますの? 久斗君に対して優越感でも持ちたいとでもいうですか?」


 ほぼ恒例となった噛みつきにやれやれという感じで首を振るターシャは久斗に自分の目的を告げる。


「エレインの馬鹿は放っておいて……。あたしはね。久斗君の実力が子供の枠には入らないと思ってるの。だから一体どのくらいの腕があるのかを確かめておきたいの」


 それを聞いた久斗は少し思案してから頷いた。


「……分かりました。じゃあ、今からしますか?」

「そうしたい所だけど、今あたしは得物も何もない状況だから準備してくるわ。少しだけ待ってて」

「はい、場所はここでいいのですか?」

「そうね。わざわざ他にいく程のものでもないし、広さも充分だからここでいいと思うわ」

「分かりました。じゃあターシャさんが戻ってくるまで休憩しておきますね」


 そう言って地面に腰を下ろして入念なストレッチを始める久斗。平然としているようでいて、指先などは震えている状態であった。それに気付いたエレインが心配気に声をかける。


「久斗君、大丈夫ですの?」


 その問いかけで自分が震えていることに気がついた久斗は安心させるかのようにエレインに微笑みかける。


「はい。ただ、ターシャさんの胸を借りれるなんてそうそうないことだと思うんで、ドキドキしっぱなしですけどね」


 久斗は自分の実力がどこまで通じるかワクワクして武者ぶるいしているのであった。エレインは何処か不満そうではあったものの、久斗も認めたことに対してそれ以上口を挟もうとはしなかった。


「おまたせ」


 約三十分 後にターシャは二振りの木造短剣を持って戻ってきた。久斗はターシャの姿が見えてからすぐに立ち上がり木刀を正眼に構えた。ターシャも約五メートルほどの距離を開けて立ち止まり短剣を構えた。彼女は気合い十分な構えに笑みを浮かべていた。


「じゃあ準備はいいかしら?」

「見ての通りです。いつでも構いません」

「じゃあエレイン、暇なんだから審判よろしくね」

「もう、仕方ないですわね。ではお二人ともよろしいですわね?」


 エレインの最終確認に頷く二人。それを確かめた後、開始の合図が告げられた。


「では、二人とも無理をしないように。始め!!」


 まず仕掛けたのは久斗であった。踏み込みと同時に上段に振り上げての強気の一撃を放つ。ターシャは落ち着いて左手の短剣で受け流し、そのまま右手の短剣で打ちかかる。それを後ろに飛んで避けつつも剣道の引き胴打ちと呼ばれる技を放つ。無理な姿勢での胴打ちに、ターシャも軽く後ろに飛んだだけで容易に避けていた。


「ふうん、なかなかやるわね。ただ最後の一撃はあまり良い点があげられないわよ」

「分かっています。自分でも今のは無理矢理と分かった上でしたから」

「分かっているならよろしい。……じゃあ次はあたしからいかせてもらうわよ!!」


 そう言い放つなりターシャは先ほどの久斗よりもかなり速い速度で斬り掛かる。


ガッガッ


 横で見ているエレインから見て意外なことに、久斗はターシャの動きをきっちりと把握した上で打ち出される連撃を上手に捌いていた。しかし、体格差はどうしようもならず、久斗は徐々に押され始めていく。


「せいっ」

「うわ」


 そのまま数回打ち合ったところで、いきなりターシャが放った足掛けにあっさりと引っかかり久斗は転んでしまう。すかさずターシャが短剣を突きつけて、そこでエレインの制止がかかる。


「はぁはぁ、ま、参りました」

「ふぅ。なかなかの腕前ね。でもまだまだ足元がお留守になったりと視野が狭いわよ」


 ターシャは転んだままの久斗に対して手を差しのべながら、先ほどの模擬戦の駄目出しを行う。すぐ横では駆け寄ってきていたエレインが呆れ顔をしていた。


「あなた、彼はまだ子供なのに容赦なさすぎですわ。もっと手加減してあげませんと経験、体格ともに(まさ)っているあなたに勝てるはずがありませんわよ」


 エレインの指摘に嫌な顔を見せるターシャ。ターシャは息も乱れていない自身の状況を鑑みると言われたことも当たり前と感じたが、そこで相手が思ってもいなかったことを述べる。


「それはそうなんだけどね。でも手を抜いていたら多分あたしのほうが負けてたわよ」


 その発言はエレインだけでなく、久斗も驚いていた。ターシャは二人の視線に気付くと、すぐに根拠を述べだした。


「あたしがそう思ったのは彼の動き。思っていた以上に速いのよ。それに剣戟も何とか受け流せたけれど、下手したら最初の一撃で終わっていたわ」


――流石にそれは恥ずかしいから必死にやったんだけどね。


 エレインはそれを聞くと考え込んでいた。


――ターシャさんにあそこまで言わせるとなると、久斗君は本当に子供の枠を超えているのかもしれませんわね。でもそれなら神童扱いになっているでしょうし……。村のほうも連れ出すのを許可するはずがありませんわ。彼はいったい何者ですの?


 エレインは久斗が異世界の者であることを知らないために少し久斗に対して警戒の色を強めた。しかし表には出さなかったために二人が気付くことはなかった。


「はぁはぁ、ターシャさん。もう一度お願いしていいですか?」


 久斗はターシャの手を取って立ち上がり、彼女に再度模擬戦を申し出ていた。それにエレインは警戒を隠して心配そうに聞く。


「久斗君、大丈夫ですの? 無理しないほうがいいですわよ。そこの泥棒猫は手加減なんて全然出来ないのですから」

「なっ?!どういう……」

「エレインさん、ありがとうございます。でも久々の仕合ですし、やっぱり勘は取り戻しておきたいのです」


 ターシャとエレインのいつものじゃれ合いに付き合うのはつらかったため、ターシャには悪いと思いながら遮るようにエレインに返事をした久斗は呼吸を整え、再度正眼に構えた。

 久斗の返事と姿勢に溜息をつきつつ、久斗の正体を探るいい機会と捉え、見逃すまいとばかりに厳しい目を向けるエレイン。それでも、もしもの時は助けようという思いもあった。

 ターシャはエレインの言葉で憮然としてはいたが、久斗の構えに呼応するように姿勢を整えた。


「では、二本目……はじめ!!」


 始めの合図とともに、久斗が一本目同様に打ちかかっていく……。


 その後、五本目まで模擬戦を行い、久斗は精も根も尽き果てたかのように地面に大の字に転がっていた。ターシャのほうも地面に座り込み休憩していたが、まだ余裕は残していた。エレインは久斗とターシャの介抱をしながら座っている人物に向けて言いたいことを直球で放った。


「まぁこれで実力のほうはある程度分かったのでしょうから、これからはこんな状態になるまでしないことですわ」


 エレインはそう言うと久斗を抱きかかえて嬉しそうに宿屋に戻っていくのであった。その様子からは疑ったことは微塵も感じられなかった。久斗は慌ててターシャにお礼を言おうとしたが、エレインに抱きかかえられて無理矢理連れていかれた叶わなかった。それを緩慢に見送った後、ターシャは少し横になって先ほどの仕合の流れを回想するのであった。その後昼までには戻るようにとのエストの指示を思い出し、慌てて自分も宿屋に向かうのであった。


読んで下さりありがとうございます。


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