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異世界流浪譚 ~傭兵と共に~  作者: ガキ坊
一章 少年期編
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 二時間ほどのお説教の後にエストから魔法の訓練禁止というお達しを頂いたこともあり、久斗は淡々と弓の練習をしていた。しかし、そうなると宿営地でできることは少なくなり、また子供ということもあって、何処か物足りない日々を過ごすこととなった。

 馬車の中では未だにターシャからこの世界における常識や文字などを勉強していたので、退屈という状況になることはなかった。だが、勉強ばかりというのは久斗にとってつらいものであった。

 その結果、単調になりがちな日々の中、ある事に気を取られてしまい、度々ターシャから雷をもらう羽目となっていた。


「こら、久斗君! また聞いてなかったわね。この国についてはとっても重要なんだからきちんと聞いて!」

「あ、ご、ごめんなさい」

「全くもう」


 ターシャは自分の為に色々教えてくれているとは理解しており、申し訳ないことであるとは感じていたがどうしても身が入らなかった。魔法使用禁止にされてしまったために、気持ちばかりが先走っていたのだった。


――昨日の魔法の威力にはビックリしたけど、魔法を使えたのはとても嬉しかったなぁ。もう一度どうしても使えないかな。間、空いちゃうと使い方忘れちゃうよ。


 久斗のそういった思いは叱っていたターシャも気がついており、雷を落としつつも仕方がないかと少しだけ同情していた。だがエストからの指示に従わないと今度はより恐ろしい目に遭うことが分かっていたために飴を与えることはなかった。


 そんな時だった。


「おう、邪魔するぜ」


 馬車の中に声が響いた。その声がした方に振り向いた二人は、手を振りながら馬車の中に入ってくる四十代くらいの男性を見つけることができた。そして、その男性を見たターシャは(いぶか)しげな顔をする。視線が真っ直ぐ自分達に向けられていたことと、その男性にまつわる話を知っていたからであった。


「マロイ、何の用?」


 マロイと呼ばれた男性は威嚇するかのようなターシャの低めの声を全く気にせずに、ニコニコしながら久斗のすぐ近くまで寄ってきてドスンと胡坐をかいて座った。


「おう。今日はな、猫嬢ちゃんじゃなくて、この新入り坊主に用があってきたんだわ」


 用事があるといわれた本人はきょとんとした顔をしていた。目の前の人物が一体何の用事で自分に近づいてきたのか分からなかったからである。

 目の前の男性が団員であるということは食事のときなどに見掛けたことがあるので知ってはいたが、ターシャとの勉強や弓の鍛錬などでほとんどの団員と交流がもてていなかった。そのため、用と言われても分からなかったのであった。

 ターシャは「猫嬢ちゃん」という呼び名を嫌っていたため、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。しかし、その目は警戒の色で満ちており、頭部についている猫耳も普段は垂れているのがぴんと立っていた。

 久斗は珍しく嫌悪感を剥き出しに警戒しているターシャを見て、自分の前にいる者をどれほど危険視しているのかを漠然と理解した。しかし、ニコニコしている様子からはとても危険人物には思えなかった。

 そんな警戒心丸出しのターシャが再度目的を問いただす。


「あたしに用が無いのは分かったけれど、久斗君に一体どんな用があるっていうのよ」


 久斗もその問いかけにうんうんと大きく首を振るった。すると、マロイは楽しげにそんな二人を見ながら答えた。


「なぁに、ちょっとした相談だよ。がっはっは」


 マロイの返答に、久斗の団内での交流をほぼずっと付き添っているだけによく把握しているターシャは、すぐさま見世物ではないとばかりに久斗を背中に隠した。


「怪しいわね。どうせ、()()賭け事に負けたから罰ゲームか何かでからかいにきたんでしょ」


 ターシャの容赦のない詰問内容に驚いている久斗を尻目に、マロイは豪快に笑い返していた。


「がーっはっは。猫嬢ちゃんはまだ根に持っているんかね」

「当たり前でしょ!」


 マロイの言葉に顔を真っ赤に染めながら叫ぶターシャ。久斗はその様子を見て、彼女がいつもマロイから弄られているであろうことを理解した。


――仲がいいんだなぁ。そういえばエレインさんともこんな感じになっていたし、もしかしたらターシャさんて、みんなから弄られキャラとして思われてるのかな? あぁそういえばエストさんも似たようなことしてたなぁ。


 年上の女性なのに失礼なこととは思いつつ、ついつい可愛いと思ってしまっていた。それに気付いたマロイがニヤっと悪戯小僧みたいな笑みを浮かべて久斗に話しかける。


「お、坊主。知ってるか?このターシャもな……」

「ああああああ、マ、マロイ!! 何言おうとしてるの!!」

「何って……ほら、よくわかってるだろ? あれだよ、あ・れ」


 その言葉に一番最悪なものを想像したターシャはいきなり大声を張り上げた。


「ぜ、絶対いっちゃダメぇぇぇぇ!」


 ターシャがマロイとのやり取りで赤くなった顔を更に赤くしながら叫んだ声は他の馬車全てに響き渡った。

 その後、マロイは「がっはっは」と笑いながら久斗に謝った。


「というわけで、教えることはできんみたいだわ。済まんな」


 そう言ってお茶を濁したが、おもむろに久斗に近づき、ターシャを見ながら耳元で囁いた。


「どうしても知りたかったら後でこっそりとな」


 そして、四十代のおっさんには似合わないウインクをした。ターシャはその二人のやり取りに気付かず、ぶつぶつと呪詛と思われる声を漏らしていた。

 さすがにターシャがかわいそうになった久斗はマロイが来た理由を聞くことで話を戻そうとした。


「あの、それで僕に何の用なのですか?」


 一頻(ひとしき)りターシャを弄り終えたマロイは満足そうな顔をしながら久斗の問いに答えになっていない答えを返した。


「ん? いやなに、お前さん刀が欲しいと聞いてな。それで来たんだ」


 いきなりの発言に、久斗は反射的に叫んでいた。


「え?! 刀があるんですか?!」


 その大きな声にマロイは苦笑しながら両手を前にして落ち着かせようとした。久斗はその動作を見て、自分が叫んでいたことに気付き、顔を少し赤らめる。そして、深呼吸をしてから再度問いかけた。


「あの、刀があるんですか?」


 久斗の再度の問いかけに対して、にやっと笑うマロイ。そして胸を張って久斗にこう告げた。


「ない!!」

「ええ?!」


 久斗はあると思っていただけに「ない」と言われたことに驚いてしまっていた。横から復活したターシャもジト目になっていた。


「じゃあ、あんた何しに来たのよ。この役立たず!」


 さらに先ほどの恨みも混ぜた辛口の評価で罵倒した。だが、マロイは全然気にせず、二人が驚くことを言いだした。


「ない代わりに、俺がそれを作ってやるよ!」

「え?!」


 その言葉に久斗は何を作るのか一瞬理解できなかった。しかし、その横ではターシャはやっぱりという呆れ顔を見せた。


「ただし、木製だけどな」


 けれども、続けて発せられた言葉にターシャはずるっと脱力してしまっていた。

 しかし、久斗は木製であってもよっぽど嬉しかったために、目をキラキラさせて、尻尾があれば振りすぎて千切れてしまいそうになっているだろうと思えるくらいにウキウキした雰囲気になっていた。ターシャはその様子を見て、手を額にあてて思わずため息をついていた。


「木刀でもいいです。ぜひ作ってください」


 勢いよく頼み込んだ久斗の前に、マロイは手を突きだして待ったを掛けた。


「まぁまて、そう焦るな。作ってやるのはいいんだがな、実は……」

「実は?」


 何か条件でもあるのかと身構える久斗。そんな久斗に対してターシャは無茶な条件を出してきたらどつきまわしてやると心に固く誓う。二人が身を固くしている中、マロイが悔しさを滲ませて口を開いた。


「実は俺、刀の形状を知らないんだよ。だからな、それを教えてくれ」

「はい?」


 そのマロイの言葉に思わず呆気に取られてしまう二人。一瞬何を言われたのかが判断できなかったのであったが、段々と言われたことを理解してくるにつれて、久斗は教えれば作ってもらえると能天気に考えた。しかし、ターシャのほうは肩をプルプルと震わせたかと思うといきなり怒鳴り声を上げた。


「あんたはアホかああああああ!!」


 今度の叫び声もまた全ての馬車に響き渡ることとなった。


 その後、ターシャを宥めた久斗とマロイであったが話はすぐに纏められた。久斗自身が形状を絵に描いたのを元に木を削り、木刀を作るということになったのであった。

 その日、マロイは久斗の手の大きさや体格、身長を軽く測定した後、久斗に木刀の絵をなるべく精密に描かせた。そして、久斗が描き終わったのを受け取ると、すぐに作成に取り掛かるために自分の馬車に戻っていった。


 マロイがいなくなった後に、久斗は興味本意でターシャに彼の評価をきいてみた。するとターシャ曰く「人の武器を作ることだけにしか興味がない変人」とのことで、久斗は納得するとともに言い過ぎではないかと心配した。

 そう思った久斗は食事時にエストやバスカーにも聞いてみた。


「あの、マロイさんてどんな人なんですか?」


 しかし、返ってきた評価はターシャと同じようなものであったことに驚きを隠せなかった。そして、久斗の中にあるマロイ人物像は「変人」で固定されたのであった。


 マロイ作の木刀は本人によると翌日には出来上がるとのことだったので、その日の久斗は今までと同じように勉強と弓の鍛錬、そして団内の雑事をこなして過ごしていた。ただし、久斗の表情は生き生きとしたものであった。


 そしてマロイ襲撃(?)から翌日、久斗がいつものようにターシャに教わっていたときにマロイが再び登場してきた。


「おう、坊主。やっとこさできたぞ! ぜひ具合を確かめてくれ」


 そう言いながら久斗とターシャの近くに座り、背嚢に入れていた三振りの、少しずつ違う形状の木刀を久斗に渡した。違う形状なのは久斗の絵だけでは全てを表現出来ていないゆえで、それぞれ刀身の長さ、厚さ、反り具合が異なっていた。


「お前さんの絵に合わした造りにしたんだがな。なんせ初めての作品だし、やっぱ本人に確認せんと分からん所も多い。だから次の休憩でそれぞれを振ってみて感想を聞かせてくれ」


 久斗はマロイのその言葉をに頷きながら、それぞれの木刀の握りを真剣に確かめていた。

 一本目のものは久斗の手の大きさからみてもそれなりに具合がよく、長さも小太刀程度で振りやすく作られていた。反りについてはほぼない直刀に近いが素振りに際しては使い勝手が良さそうであった。三本の中では一番小振りに作られていた。

 二本目のものは、他の二本よりやや肉厚に作られており、長さは久斗が道場で使っていた市販のものよりも長く作られており、久斗からみれば大太刀に近いものであった。全体的に三本の中で一番大きいものであった。

 三本目のものは、一番目と二番目の中間ともいえる長さ、厚さになっており、反りもそこそこのものであった。


――振ってみないと分からないけど、持ちやすさで言えば一本目のやつと三本目のやつかな。二本目は……あーやっぱり握りこめないや。流石にこれはちょっと無理かな。


 そうして握りだけで選別したものをマロイに伝える。


「これとこれが使いやすそうですけど、この肉厚の太刀はちょっと今の僕には使えそうにもないです」

「むぅ、やはりそうか……。坊主の好みを聞くのを忘れていたからな。そういった大き目のやつも作ってみたんだが、やはりまだお前さんには早かったか」

「おじいちゃんの道場でもこんなにごついやつを振る人は少なかったですね」


 久斗の言葉に難しい顔をするマロイであったが、すぐに気を取り直すかのように頭を軽く振り最終確認に乗り出した。


「まぁそのごっついやつは別のものに流用しよう。それで、残ったその二本だが何処か手をくわえる所があるか?」


 座った状態で軽く素振りをし、特に問題を感じなかった久斗はその旨をマロイに伝えた。


「そうか、もし何か直して欲しい点が出てきたら言ってくれ」


 マロイも久斗の感想に満足し、笑みを浮かべながら立ち上がった。そしてそのまま出て行こうとするが、久斗が慌てて呼び止めた。


「あの、御代とかはいいんですか?」


 言われたことに対して怪訝な顔を見せるマロイ。しかし、すぐに知らせていなかったことに気づくと自分の信条を伝えた。


「いらないさ。俺様はそんなもんもらうためにやったわけじゃないからな。ただ、俺様が要求するモノが一つだけある。与えた武器を極めてもらうこと、それだけだ。

 大体だな。そもそも同じ旅団にいるんだから面倒を見てやることは当たり前だろ。特に新人に対してはな」


 そう言い終えると豪快に笑いながらそのまま馬車を出て行ったマロイを唖然とした表情で見送った久斗はすぐにターシャに確認を行った。


「いいんですか?」

「別にいいと思うわよ。あたし達団員で彼に作ってもらったことのない人はいないし、皆同じことを言われるらしいわ。あたしだって、入団した直後にいろいろ世話してもらったしね。武器自体の出来もいいから団長は給金に色を付けてはいるみたいだしね、けど、その分は全部呑み代、しかも宴会するときの分で消えているとか聞いたことあるわね。ほんと馬鹿よ、馬鹿」


 呆れた表情で話していたが、その声には多分に誇らしげな色が含まれていた。久斗はこうしたふとした瞬間の団員達のつながりをどこか羨ましく思いながら、つい詩音のことや他の遊び仲間たちのことを思い出していた。

 お互いのことをよく知り、ふざけ合い喧嘩もした仲である。まだ十代になったばかりの少年にとって郷愁を誘う思い出であることは確かであった。しかし、その仲間の一人であり、とても大切で守ると決めた相手を自分は見失ってしまったことは記憶に新しい。今は無事を祈るしかできないでいたが、詩音を探すことを第一としてこの世界で生きていくことを心の中で改めて誓うのであった。

読んで下さりありがとうございます。


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