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異世界流浪譚 ~傭兵と共に~  作者: ガキ坊
一章 少年期編
10/69

魔法

「あっはっは、じゃあ何か。坊主は結局今日はまだ魔法使えなかったてのか。そりゃ残念だったな」

「はい。結局説明の後、ターシャさんはなぜかいじけてしまったんで……」


 久斗の説明にバスカーは大笑いしていた。賊の襲撃というものがあったものの特に被害も無かったためにご機嫌であった。その後は特に何もなかったために、一つや二つは魔法を使ってるだろうとバスカーは思っていたのだったが、まだ何もしていないとの報告は彼を面白がらせるだけであった。


「全く、何をしているのですか」


 その隣で話を聞いていたエストは呆れかえってしまっていた。そして、何も言うことはできないと情けなさで一杯であった。

 話題の人であるターシャは久斗の横でひたすら縮こまっているだけであった。


「まぁ別に急ぐことでもないから明日にすればいいさ。それかいっそのことエルリッシュに着くまで待って、あそこのギルドで確認するっていうのもありだな」


 エストはそのバスカーの意見に賛意を示す。


「そうですね……。ここでは結局その属性の適性がなかったら使えるわけがありませんし、たとえ使えたとしてもごく限定的なものだけになってしまいますからね。勿論、久斗君自身がどう思っているかは別の話ですが……」


 そう言いながら久斗のほうを見詰めるエスト。それに釣られてターシャやバスカーも久斗を見詰めていた。その視線に少したじろぎながら、久斗は恐る恐る意見を述べた。


「えっと、別にそのエルリッシュというところまで待つのはいいんですけど、折角教えてもらったブリーズの魔法だけはちょっとやってみたいです」


 魔法を使いたいという思いは昨夜の話でよく分かっていた幹部たちはその意見を無碍にすることはできず、翌朝の弓の鍛錬後に魔法の実験ということで話は落ち着いた。


「久斗君、ありがとう。助かったわ」


 ターシャからはひどく感謝されていたが、久斗は魔法が使えるということで全く気にしていなかった。

 そして、翌朝のことを思いうきうきする久斗の姿がその夜では見受けられた。団員たちはその微笑ましい姿に昼の襲撃で疲れた精神を癒していた。


 そして待ちに待った魔法の試し撃ちであったが、その前に魔力の引き出し方を練習することとなっていた。久斗は魔力をいう未知の力に対しての畏怖と興味から準備万端の状態で鍛錬場所に赴いた。久斗が着いた時にはターシャはすでにその場にいたが、練習を始めようとはしなかった。久斗は自分が来ても未だに開始の合図を出さないターシャに不審を抱き、尋ねてみることにした。


「ターシャさん、まだ始めないのですか?」

「ん、もうちょっと待って」


 そんなやり取りを二回ほど繰り返した時だった。二人に声がかけられる。


「おまたせ致しました、ちょっと準備に手間取りまして、申し訳ありませんわ」


 一人の団員が久斗達に謝りながら近づいてきた。


「ん、出発まではまだ時間があるし大丈夫でしょ。……あぁ、久斗君。彼女は団内でも有数の魔術師よ。主に火属性と土属性の魔法が使えるの」


 いきなりの登場に戸惑っている久斗に気付いたターシャは投げやりに女性の紹介をする。それに対して怒ったのは久斗ではなく、登場してきた人物自身であった。


「ちょっと! 何ですか、そのいい加減な紹介は!! あなたが珍しくも頼んできましたから、わざわざこうして出向いてきましたのに。帰りますわよ!」

「何言ってるのよ。久斗君のために役立てるんだから光栄に思いなさいよね」


 その言葉の応酬を皮切りにギャースカギャースカとお互いに罵り合いを始めた二人に久斗はまるで状況についていけず、ぽかんとした表情を晒した。

 その五分後、お互いに語彙が無くなってきたのと、単純に疲れてきたことで罵り合いは自然と収まっていった。そして未だにぽかんとした久斗に気付いた二人は気まずそうな顔をしたが、女性のほうは気を取り直して自己紹介をし始めた。


「ん、こほん。馬車も別ですし殆ど面識はないでしょうから知らないと思いますが、私はエレイン、エレイン・ウィードです。よろしくね、ボ・ウ・ヤ」


 そう言いながら優しく久斗の頭を撫でる女性団員。屈みこんでいるために胸元がチラリとのぞけてしまった久斗は顔を赤らめてしまう。

 エレインと名乗った女性はターシャとは違い、髪の色は鮮やかな金髪で、体型も出るとこが出ていて妖艶な雰囲気を醸し出していた。顔の造作も通りすがり十人に聞けば十人とも美人と答えるであろう人物であった。服装は地味な服を好む団員が多い中、珍しい派手なものであり胸元は大きく開かれていた。

 故に、ターシャやエレインから見てまだまだ子供とも言うべき久斗ではあったが、それでも十歳という思春期の男の子であったため、チラリチラリと目が胸に行ってしまったのであった。

 その様子にこめかみにくっきりと血管を浮かばせながらも笑顔になっていた人物がいた。その人物は無理矢理に間に割り込んで、女性に向かって怒鳴っていた。


「エレイン、あなたまさかこんな子供に手を出そうなんて考えてないわよね?!」


 そのターシャの難癖にすぐさま呆れた声で答えるエレイン。


「あらあら? あなたじゃありませんからこのような子供を誘惑することなどしませんわ。そもそも、自分に魅力が無くて虜に出来ていないからといって僻まないでくださいな」


 エレインの馬鹿にしたような返答にターシャも挑発を返す。


「あたしは純粋に子供が好きなだけよ。あんたは団内でもよく噂になるくらい美少年が好きじゃない。三度の飯より好きって聞くし、街とか行ったらよく少年を漁ってるそうじゃない」


 売り言葉に買い言葉で、再度二人はお互いを罵り合う。その様は後に久斗がエストに泣きながら訴えた内容によると、まさに猫の喧嘩、ただしどっちも猫科の動物であるだけでチーターやトラみたいな感じであったとのことであった。猛獣に例えてしまうほどに目の前の二人から恐怖を感じていた久斗はとばっちりが来ないように少し離れたところで弓の調子を確認して現実逃避をしていた。

 再発した口喧嘩から五分後、肩をフーフー言わせながらも取っ組み合い一歩手前の状態で止まった二人は、現状の不毛さを感じ取り、どちらからともなく本題に入ることにした。


「はぁはぁ。と、とにかく今からこの子が魔法を試すんだけど、魔力の引き出しにはあたしじゃ教えることができないからね。悔しいけどあんたの手を借りるしかないのよね」

「はぁはぁ。ですからその言い草は何ですか?! ……もういいですわ。いつまで経っても埒が明きませんし、早く始めましょう」


 ターシャの言葉に反応すると先に進まないと理解したエレインほうから折れて、話を進めようとする。それを受けてターシャも流石にこれ以上はまずいと思い、素直に頷いた。


「そうね……。じゃあ久斗君、これから魔力の引き出し方をエレインが教えてくれるからよく聞いておくようにね」


 そう言われて、現実逃避から戻ってきた久斗はやっと魔法が使えることに嬉しさよりも安堵が大きかった。しかしすぐさま期待が膨らみエレインのほうにきらきらとした瞳を向けるのであった。その瞳に頬を赤らめながらエレインが説明を始める。


「では、魔力の引き出し方について説明しますわね。まず、魔力については聞いているかしら?」

「はい!」


 勢いよく頭を振る久斗からは早く教えてほしいという気持ちがとても伝わってきていた。


「それでは、今からあなたに向けて魔力そのものを放ちますのでそれを感じ取ってくださいな」


 その言葉にターシャが思わず突っ込む。


「あんた、それ危険なんじゃないでしょうね? 怪我とか絶対させないようにしなさいよ」


 エレインはターシャの言葉に鼻を鳴らして肯定する。


「言われなくても分かっていますわ。久斗君、今から放つ魔力は危ないものではありませんから安心してくださいね」


 にっこりと微笑み、久斗の顔を赤らめさせながら、エレインは両手を久斗に向けて目をつむり集中し始める。すると久斗は自分の周りに何か得体のしれない不思議な力を感じ始めた。エレインは目を閉じているためにその様子に気づかず、さらに魔力を放とうとして眉間にしわを寄せている。そしてそのまま久斗に語りかけた。


「久斗君、今、あなたの周りに漂っているものが感じ取れまして?」

「ええっと、この何ていうか……柔らかいものですよね?」

「そう、その通りですわ。でしたらそれが自分の中にもあるのも感じ取れるはずですがどうです?」


 そう言われ久斗も目をつむり、自分の体を意識し始めた。すると、先ほどまでまったくと言っていいほど感じ取れなかったものが、自分の体の中を循環していることに気がついた。

 その久斗の気付きに雰囲気で察したエレインは魔力の放出をやめて両手を下ろすと、久斗を見守った。


ーーすごい、これが魔力なんだ……。


ぱしん!


 久斗が魔力の流れを感じ取るのに没頭していると、エレインがいきなり柏手を打った。久斗がそれに驚き思わず目を開けたところで、エレインは次の段階に進むことを告げる。


「感じ取るのはそれくらいで構いませんわ。それでは、次にその流れから魔力を引き出すことをしますわよ」


 久斗は流れを感じ取るので夢中であったために引き出すことをすっかり忘れていた。そのため少し恥ずかしそうに下を向いていた。そんな様子に少し鼻息が荒くなっていたエレインであったが、ターシャの視線に気づくと、こほんと喉を鳴らしてやり方を示した。


「ではその流れから手の先に穴を作るように想像しましょうか。そこから魔力が体の外に漏れていく感覚がするはずですわ」


 久斗は言われた通りに手の先にある魔力の通り道に穴をあける想像をした。


「うわぁ」


 すると、その穴からものすごい勢いで魔力が外にあふれていく感覚に襲われる。その時、エレインの声が耳に届いた。


「そして、その流れ出た魔力に指向性を持たせるのですわ。今は自分の周りに集まるように……」


 そこまで説明したところで久斗の周りに凄まじい魔力が渦巻き始めた。その光景にエレインは口に手を当てて驚いていた。


「ちょ、ちょっと、ターシャ。あの子って魔法がない所から来たのですわよね?」


 エレインと同様にその魔力の渦に驚きを隠せないターシャは、その問いに頷きを返すのがやっとのことであった。


「じゃ、じゃあ、あのもの凄い魔力量はなんなんですの!?」


 エレインの剣幕にターシャは首を横に振る。


「そ、そんなのわかんないわよ。実際に詠唱とか魔力とか全然知らなかったんだから、魔法がないところなのは間違いないわよ。説明だって大変だったのよ。大体本人だってそう言っているのだし」


 そうぼやき返しながら、このままでは危ないのではないか、と不安になってきたターシャは慌ててエレインに確認する。


「ね、ねぇ。あのままだとかなり危険じゃないの?」


 エレインもターシャに言われる前から既に想定外の魔力量に危機感を募らせていた。しかしそんな二人の様子に気付くことなく、久斗は魔力をだだ流しにしていく。魔力自体は久斗の周りを囲むかのような球体で集まっていたがその大きさはどんどん膨らんでいっていた。


ーーこれいつまで出していればいいのかな。なんだかターシャさん達は驚いた顔をしているし……。あ、もしかしてブリーズの魔法が使えるくらいまで出しちゃってたのかな? じゃあ使っても大丈夫なのかな?


 ターシャ達の驚きを勘違いした久斗はエレインの指示を待つことなくブリーズの詠唱を始めてしまった。


「……我願うは清涼なる風」


 久斗の詠唱はターシャ達の耳に届いていた。そのため、ターシャ達はギョット目を剥く。


「ちょ、ちょっと。あれブリーズの魔法だけど洒落にならない気がするわよ」

「あ、当り前ですわ。早く止めないと!!」


 しかし、ターシャ達が慌てふためいている間も詠唱は続いていく。


「無限の風を今呼び寄せん」

「久斗君、だめーーー!! それ以上は言っちゃだめよー!!」

「そこで止まってくださいな!! 今の魔力量だと危険ですわ!!」


 そんな二人の絶叫が久斗の耳に入るものの、疑問に思う暇もなく詠唱は完成した。


「ブリーズ!!」


 その詠唱終了と同時に初級魔法ではあり得ないほどの風の乱舞が次々と巻き起こり、あたり一面暴風によりなぎ倒されていった。そして、風は久斗を中心に集まっていった。ターシャやエレインが動こうとした瞬間。


ドガアアアァァァァァァァン


 轟音が響きわたり、暴風が久斗を中心してに吹き荒れる。


「きゃぁぁぁぁ」


 ターシャやエレインはもとより周りに生えていた木々まで吹き飛び、その結果として木々の根本に埋まっていた岩や土までが撒き散らされた。

 あまりの音量に咄嗟に耳をふさぎしゃがみこむ久斗はその時周りで何が起こっているのか気付かなかった。

 その場は魔法訓練のためにと野営地から少し離れた所だったことで、ターシャ、エレインの両名は吹き飛ばされはしたが、柔らかい草地の上に投げ出されただけですんでいた。木々はターシャ達の手前に転がっていたため怪我もなかった。しかし、久斗の周りはまるで隕石が衝突したかのようなクレータとなっており、威力の凄まじさを物語っていた。

 

 その魔法は近くで野営していた「風の旅団」まで騒音として響いていたために、朝の目覚ましとして充分以上の効果があった。


 その朝において、エストはまず、あまりの魔力量に飛び起き、次いで轟音がすることで、どこか「風の旅団」に匹敵する軍団が攻めてきたのではないかと錯覚した。

 バスカーは魔力量には気付かなかったものの、いきなりの爆音に飛び起き、すわ魔物の襲来か、と愛用の大剣を持ってテントから飛び出していた。

 他にも各団員たちはその魔力量、そして大音量に各々が非常事態における行動をとっていた。


「これが、ブリーズですって……?」


 エレインやターシャは吹き飛ばされ地面に転がった状態のまま、目の前で起こった非常識な光景に唖然としていた。この世界で各地を巡っている「風の旅団」に所属していた二人にとって、入門とも言うべき生活魔法において攻撃魔法以上の桁違いな威力が紡ぎだされたのは有り得ないことだった。


「あ、あれ? た、ターシャさん? エレインさん? どこにいるんですか」


 自分の周りの状況に気づいた久斗は慌てて二人を捜した。すると少し離れたところに二人がいるのが分かった久斗は安堵とともに、申し訳ない気持ちで一杯であった。


 結局、この後に久斗を助け宿営地に戻った三人から事情を聞いた団員たちはあまりのことに驚いていた。しかし、何もなかったことに安堵して出発の準備に戻っていった。

 しかし、バスカーやエストはそういうわけにもいかず、三人を連れて戻り説教の時間を敢行した。魔法は当分の間使用禁止というバスカー達からの御達しを頂いた久斗はしょんぼりとしていた。ターシャとエレインはエストから教育という名の説教(お仕置き)を受けることとなっためその日は馬車から悲鳴が絶えず聞こえてきていた。


読んで下さりありがとうございます。

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