転移
作者初の作品となります。誤字脱字などありましたらご報告して頂けるとありがたいです。
日本S県のとある村には『帰らずの洞窟』と呼ばれている洞穴が存在していた。
村の大人たちは子供たちに対して「あそこにいくと家に帰れなくなる」と言っては、洞窟で遊ぶのを禁止していた。
しかしながら、言われたこととつい反対のことをしてしまいがちな子供達はどこにでもいる。その子供達も、大人の言いつけを破り、肝試しとして洞窟を事ある毎に利用していた。
「ねぇ……。ほんとに奥に行かないとだめかな?」
「罰ゲームなんだし……行かないとえっちゃんが怒るよ」
「だって……父さんも母さんもほかの大人もみんなここには絶対行ってはダメって……」
「ん~。仕方ないよ。えっちゃんが決めたことなんだしさ。ほら、俺もついて行ってやるから……行くぞ!」
「あ、まってよ」
洞窟内の高さは大人でもゆうに通れるぐらいであったが、入り口からの光が入ってくることはまず起こるはずもなく、洞窟内は真っ暗であった。今回肝試しを命じられた子供二人は事前に言われていた通り、家から持ってきた懐中電灯で足元を照らしながら進んでいった。
「えっと……もうちょっと奥に物が沢山ほったらかしになっている所があるんだって。それで、そこに何でもいいから置いてくればいいんだっけ?」
「うん。えっちゃんはそう言ってたよ。あと、自分もやったから何が置いてあるのか分かるし、後で何が置いてあったか聞くから、ずるはするなっていってた」
その言葉についため息をついてしまう。
「えっちゃんはまたそんなことを……」
二人の子供は何か出てきそうな雰囲気の暗い洞窟の中にいるため、緊張しており、お互いに何かしゃべっていないと逃げ出したくなってしまう気持ちで一杯であった。当然の結果として、洞窟に入ってからずっと、話が途切れることは一度もなかった。
しかし、そのせいで足元に対して不注意になり、懐中電灯の光の先で何かが動いたときは、あまりの驚きのために固まってしまった。そして互いに泣きそうな顔を見合わせて確認しあう。
「ひ、ひーちゃん……い、今何かいなかった? いなかった?」
「た、多分蛇だろ……蛇に決まっているよ。じゃなかったら鼠とか、もぐらだよきっと」
「だだだ、大丈夫だよね? ね?」
「大丈夫に決まってるだろ。さぁいくぞ」
普段よりも大きな声をだし、洞窟に響かせながらもう一人の手を引っ張る『ひーちゃん』。しかしながら、もうこれ以上進みたくないと思っていたもう片方の子供、『しーちゃん』は気が進まない様子であった。その時、そのしーちゃんの足に何かが当たってきて、つい悲鳴をあげてしまっていた。
「きゃあああああああ」
その子供特有の黄色い声は先ほどのひーちゃんの声より大きなものとなっていた。声に反応したのか暗い洞窟内をばさばさという音が響く。しーちゃんはその音にも恐怖を感じ、声を上げたまま洞窟の奥に逃げていった。残されたほうはそれを慌てて追いかけていく。
そして……。
「ひーちゃん……ここどこ? どこ?」
「もうどっちから着たのかわかんねぇ……どうしよう」
走って来た方向に向けて懐中電灯を向けるが、もともと入り組んでいた地形であったためか、来た道は枝分かれしており、どれが出口につながっているのかが分からない状況となっていた。
「ひーちゃん……」
先に奥まできていたしーちゃんは既に泣きながらも何度も「ひーちゃん」と呼んでいた。ひーちゃんのほうは慌ててその子の近くに走り寄る。すると泣いていたしーちゃんはひーちゃんの服をさっと掴み、ぎゅっと握りしめた。まるで絶対にはぐれないとでもいうかのように。
その怯えた様子にひーちゃんは自分も泣きたいのを我慢しながらも、なんとかできないかと考えた。が、そうそう名案が浮かんでくることはない。
その時、洞窟の奥のほうが少し明るい事にひーちゃんが気付いた。
「し、しーちゃん。あっち見てよ! あれ光だよ! 多分外に出られるよ!」
ひーちゃんはそうしーちゃんに言いなり、光のほうに向かって駆け出していく。その際、しーちゃんは掴んでいた服を手放してしまっていた。
「あっ! ひ、ひーちゃん。まって、まってよう」
心の支えにしていたものがなくなり、急に心細くなったしーちゃんも慌てて光のほうに駆け出していく。そして、明るさが一番強くなっているところで二人が見たものは予想外のものであった。
「鏡?」
「鏡だよね? だよね?」
光の中心にあったのは立派な装飾どころか簡素な装飾すらついていない楕円形の大きな剥き出しの鏡であった。それが岩を削ったと思わしきところに埋め込まれるようにして鎮座していた。その大きさは姿見と同じほどで洞窟の高さぎりぎりまでもあった。その大きな鏡自体が何故かぼんやりとではあるが光っていた。
「鏡……出口じゃないの? ひーちゃん、ここから出れるの? 出られるの?」
しーちゃんは全く不可思議な現象に恐怖し、狂乱寸前になっていた。縋るようにひーちゃんに問い掛ける。しかし、その声は洞窟の闇に吸いこまれるだけで、答えは返ってこなかった。
「ひーちゃん? どうしたの? どうしたの?」
返事がないことでさらに不安が募り、再度問い掛けるが、それでも答えは返ってこなかった。しーちゃんがまたそのつぶらな瞳に大きな滴を浮かべてひーちゃんの服を掴むが、掴まれたほうはまるで見惚れているかのように鏡をじっと見つめていた。そして、おもむろに鏡に向かって歩きだした。その歩みに釣られて、服を掴んでいたしーちゃんも鏡に近付いていく。
「ひーちゃん、何、何するの?」
鏡の前まで無言で進む様子におっかなびっくり問い掛けるが案の定答えはなく、しーちゃんには彼が何をしようとしているのか全然分からなかった。そこで、止めようと思い切って服を引っ張ってみても効果がなかったが、ある時動きが止まる。それで、ふと鏡のほうを見てみるとひーちゃんが鏡に触ろうとしていた。
さすがに光っている不気味な鏡を触りたくなかったしーちゃんはより強く服を引っ張って引き離そうとした。が、その弱弱しい力では抑えることはできず、それどころか、掴んでいた手が滑り服を一瞬手放す羽目となった。慌てて先程より強く掴み直す。そうして、彼を止めることが叶わないことを悟ると、その場で呆然と事の成り行きを見守ることにした。
そうして、しーちゃんが呆然と見守る中、ひーちゃんが鏡を触る。その瞬間、圧倒的な光が洞窟の中を満たしていった。まさに光の洪水。まるでこの洞窟には光しかなかったかのように辺り一面が真っ白な光で輝いていた。
その中でしーちゃんは思いがけない光景を目撃する。ひーちゃんが鏡の中に取り込まれていたのである。
「ひーちゃん。駄目、駄目だよう」
慌てて掴んでいた服を思いっきり引っ張るが今まで繰り返してきた時と同じく、止めることはできなかった。そして、光が洞窟を満たす中ひーちゃんはもとより、しーちゃんまでもが鏡の中へと吸い込まれていってしまった。
そうして、しばらくの時間がたった後。今まであった不思議な光の洪水は収まったが、子供達の姿はどこにもなく、後に残っていたのは輝き出す前と同じうすぼんやりと光る鏡のみであった……。
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