教師。
「えーおはよう。皆!
席に着いてくれー。」
担任の"渡辺 "が黒板の前に立ったが、
ざわめきが止まることは無かった。
だが、きちんと席に座り話を聞く
白井瀬 百合にちょっかいを出す者は
いなくなる。
担任は立ち歩く生徒に
特に注意する訳でもなく、
そのまま卒業式の"流れ"を話しだした。
説明を聞こうとする方が困難なくらい
煩い空間の中、渡辺は口を動かしている。
正直言って、渡辺は
クラスメイトからの評判は良くはない。
まず、評判がいい教師なんて
この学校にいるのだろうか?
だかそれも仕方のない事だと言えば
仕方のない事なのだろう。
"悪循環"と言う話しなのか…
3-A組は特に
問題児が集まっているクラスだ。
うまくまとめる方が難しい。
だからと言って、渡辺は
"教師"と言う仕事を怠っている訳ではない。
生徒達は聞いていないだけであって
説明は今もきちんと正確にされている。
頭ごなしに怒鳴る教師や
説得しようと向き合う教師…
最初はいなくもなかったが、
いつの間にか、まるで
当然かのようにいなくなっていた。
教師だって人間だ。
他人に干渉して
無駄な体力を浪費するよりも
事務的に決められた仕事をこなす方が
どう考えても先決なのだろう。
他人がどうなってしまおうと、
自分には関係のない事だ。
漫画やドラマの世界でありきたりな
"不良生徒を構成だ!"なんてのが
現実に通用するはずがない。
どんなに頑張って向き合おうとしても
結果がついて来るとは限らない。
それはどれに対しても当てはまる事実。
口は動いているのだから
何かは話しているのだろう渡辺。
卒業式の当日だってのに、
悲しみの感情すら見られない
機械的な担任の姿を百合はただ眺めた。
話し終わったのだろうと
思える行動をとった時、担任の視線が
自分に向けられているのが理解出来た。
「もう少ししたら呼びに来るからなー」
と、この一言を大きく残し教室を出た。
百合は席を立ち、
そのまま担任を追いかけた。
「…あのっ!先生!」
「ぁあ。白井瀬。よく分かったな?」
「あっはい。なんとなくですが…」
「そうか。
もう何度も聞いた話しだが、
本当に○○大学へは進学しないのか?」
「…その話しですか。
はい。別にいいんです。
進学するつもりはありません。」
「本当に勿体ない話しだ…
せっかく推薦が来てたんだぞ?」
「はい。」
「それに君の頭なら
こんな学校に入らなくても他に…」
「もう少しで入場が始まるんですよね?」
百合は少し微笑み話しを止める。
「あっ…ああ。そうだ。
いやぁ。君のような優秀な生徒と
今日で最後だと思うと先生は寂しいよ」
「…そうですか。」
「今日は白井瀬の親御さんは…」
「今までお世話になりました。先生。」
そう微笑んで残し、
百合は淡々と教室へと戻った。
やり取りの中に "悲しみ"は
小さな欠片でさえも
あったのだろうか………