クラスメイト
ストラップの一つも着けていない
シンプルなスマホを
制服のポケットから取り出す。
「ほんと掴み所が無いとゆーか
マイペースとゆーかぁ…」
谷野 光は、今思い出した…と
言わんばかりの姿を見て呆れる。
「今日 卒業式なんだよ~?
私もう泣いちゃったんだから。」
鏡を見つめたままに話し続ける
高橋 鈴は、その派手な眼鏡を少しずらし
アイメイクを気づかっているようだ。
そんな高月の姿を見て百合は、
涙はこーゆー時に流すものなのね…と
微笑んだまま、心で客観視していた。
「も~分かったから!」
苦笑いを見せ
宮下 円が話しに割って入る。
「とにかく!今日くらいはほんとに
最後なんだから集まり来なよ?」
そー言いながら百合の腕を掴み
教室へと足を進めさせた。
カラフルに落書きされた机の上に
複数の男女が寄って集まっている。
痛いくらいの視線は
いまだ こちらに向けられたままだ。
「ぁあー!
今日で白雪ちゃんと最後かぁー!」
"白雪"なんて勝手にあだ名を付けて
嘆いたように叫んでいる"杉原 和弥 "
身長が高く、がたいの良さ。
見るからに肉食系男子だ。
短めの髪型のせいで、
ぶら下がっているピアスがやけに目立つ。
「ちょっ!写真撮ろーよー!
白井瀬さんも入りなよ?」
茶髪と金髪、二色使いの短髪スタイルの
"辻浦 誠"が笑顔で声かけた。
「いやいやいやいや!
俺からだーかーらっ」
「はっ?俺からっしょー」
「っちょ!やめなよ~
白井瀬さん困っちゃってるじゃん」
「ねぇねぇー撮ろーよーー」
「だから 俺だってばー…」
「はい!チ~ズ~♪」
「もう撮っちゃった~」
誰が何を言っているのか…
百合の視界はもうすでに集団には無く、
分からなかった。
確認しようとも思わなかった。
ごちゃごちゃした教室の中、
ふざけあいが始まったおかげで
さらに周囲はざわついた。
ただの "仲良し"が
ふざけ合ってるにすぎない。
だが、不愉快だ。
百合は否定も肯定もする訳でもなく、
斜め前の席へと向かう。
「うるせぇよ。
お前等 盛んなっつーの。」
集団の中心にいた"神上 亮真"の
低い声がした。
少し長めの黒髪に整った顔立ち。
表情からなのか態度からなのか…
冷たい印象が残る。
彼は、
クールな振る舞いをしているにも関わらず
周りにはいつも人が集まり輪が出来た。
声の方へと思わず視線が向き、
彼と目が合ったが…
すぐにその目は反らされた。
百合は席へ腰かける。
普段は殺風景な黒板は、
紙で作られた花などで可愛らしく飾られ、
色とりどりのチョークで
メッセージが書き込まれていた。
"卒業おめでとうございます!"
この緩すぎる規則の不良校とは
今日で最後なのだ。
"寂しい"なんて思わない。思えない。
思わないのに…
だけど、
だから、世界は矛盾している…
「え~?
白井瀬ちゃん怒っちゃったの~?」
ガラガラガラ…
後ろから声をかけられたと同時に
前の扉が開き、堅苦しそうに
スーツを極め込んだ担任が入ってきた。