教室。
結局あのまま、帰らず
黙りを決め込んだ長瀬と数十分間
二人の時を過ごした。
卒業最後のお気に入りの場所…
本当は一人で過ごしたかったが、
まぁ仕方ないか…
と少し妥協の心境だった。
いくらお気に入りの場所だからと言って
自分だけの私有物では無いのだ。
「…見られてたのね……」
人目から避け、この場所で
静かに黄昏ていたのだ。
まさか誰かに
見られているとは思わなかった。
きっと、長瀬君の事だし…
前から自分も屋上を利用しようとは
思っていたものの、
私がいるから遠慮してたんだろうなぁ。
それに……
「先輩…寝不足っすか?
目、少し腫れてるっすよ?」
帰り際、長瀬に言われた言葉を
頭に浮かばせた。
彼は意外にもよく気がつくみたいね…
そんな事をボヤボヤ考えながら
百合は、ざわつきを見せる
教室の方へと重い足を運ばせた。
開けっ放しにされたままの
3-Aの教室の扉に入る。
正しくは、扉に入ろうとした。
「あ~白井瀬さん来たよ~」
最初に視界へと飛び込んできた人物。
オレンジ色に髪を染め
季節を問う事の無い小麦肌の女子…
"宮下 円"
宮下 円の、一言で
クラスメイトからの視線は痛い程、
白井瀬 百合に集中してしまった。
それに引き続き、
「遅いって~白井瀬ちゃ~ん?」
髪には沢山のメッシュが入り、
インパクトに残る派手な眼鏡。
ダテ眼鏡…なのだろうか?
個性的なファッションを見にまとう
"高月 鈴"が片手に持っていた鏡を
見つめながら笑顔する。
「ちょっと百合~!
あんた一生ドライブモードじゃん!」
少し膨れたように見せたのは、
柔らかい茶色い髪を2つくくりに
巻いた"谷野 光"だ。
三人は、白井瀬 百合を
待ち構えていたかのようだった。
どうやら百合がこの教室へ最後に
登校した人物らしかった。
派手な彼女達は、いわゆる
"ギャル"という部類の人間なのだろう。
百合は、一般的に比れば色素が薄く、
目立ってしまう程の髪と瞳…
そして 透けるかのような白い肌だ。
これがとんでもなく
コンプレックスでもあった。
しかし 生まれつきなモノ…
好こうが嫌おうが仕方のない事。
そんな彼女とは打って変わり
髪を痛め付け、色素を抜き、
顔には厚く塗り重ねられたメイク。
テンション、話し方、格好…
全てに対して彼女と彼女達に
当てはまるモノは到底見つからない。
それに クラスメイトとは
普段から関わりが深い訳でもない。
むしろ、あまり話す機会が
無い事の方が多いと言えた。
だが、
彼女達は"打ち上げ"だのなんだのと、
何かの集まりがあるとなると
確実と言っていい程、
強制参加を強いられる。
その"理由"を彼女は
なんとなく理解していた。
「…おはよう。
宮下さん。高月さん。谷野さん。」
百合は、にっこり微笑む。
「…相変わらず自分の
テンション崩さないね~
何度も連絡したんだよぉ?」
「あっ…」
ドライブモードに設定されたままの
スマートフォンの存在を思い出した。