ゴーレムの少女水鏡聖
登場人物を少なくし、書き直しました。
目覚まし時計の音が鳴り響き、私はう~んと唸りながらスイッチを叩いた。
脳に直接釘でも打たれたかの如く頭が痛い。変な寝方でもしていたのだろう、寝相悪いからな私。
私は起き上がり布団を畳んで押入れへと片付けた。寝室を出て顔を上げ爪先立ちでリビングへと向かった。端から見ればさぞや、親鳥にエサをねだる雛鳥のように見えたことだろう。
冷蔵庫から卵とソーセージを取り出した。
四角いフライパンを取り出し火にかけた。油を入れ全体にのばした。お茶碗に卵、塩コショウ少々、醤油少々、食べるラー油少々を入れかき混ぜた。
フライパンに卵を少し投入し全体に薄くのばした所でソーセージを入れ巻いた。そしてまた卵を入れという作業を繰り返し、最後に皿に入れてパセリを振り掛ければ完成だ。
それをテーブルに置き、コップを取り出しコーヒーを入れた。
何か思いつめた表情で無駄に顔をキリッとさせ、ムンクの叫びのポーズをすれば、ホラーっぽく見えるだろう? 見えませんかそうですか残念です。
あぁ、そういえば自己紹介がまだだったな。私の名前は、水鏡聖。ゴーレムと呼ばれる種族で腕力に長けている。
ふとカレンダーを見上げると今日の日付に霊宝公園集合と書かれている。……忘れていた、急がねば待ってろよ我が愛しき親友ども。
☆☆
数十分後、霊宝公園に到着した。
「ゴメン、遅れてしまった」
「遅いじゃない聖、何してたの」
ムスッとした表情で話しかけてきたのは、銀河雫。吸血鬼と呼ばれる種族でコウモリに変化できる美少女だ。
「人生と言う道に迷ってしまって」
「すぐばれる嘘をつくんじゃないの」
「おい、雫。そういうこと言っては駄目なことこの上ない。聖はここにくるまでに、遅刻の理由をスカスカな脳味噌で一生懸命考えても、あの程度の嘘だからことこの上ない」
屋壁知罰。人狼と呼ばれる種族で動きが速い少年だ。口癖は、~ことこの上ない。
「それは言ったら駄目よ。思っても心の中だけに留めてなさい。知罰」
酷い。脳味噌スカスカじゃないしちゃんと詰まってる。
「聖が集まれと言ったくせに遅刻するなんてね」
「誰しも遅刻することはあることこの上ない」
「皆に集まってもらったのは他でもない(忘れてたけど)。昨日のことだ」
『あれか』
昨日まで話は遡る。
「湖の側で遊んでいたら、突如鬼が現れ、娘を攫っていったのです。私は娘を助けようと必死に抵抗したのですが、歯が立ちませんでした。その時に金棒と思われる得物で足を抉られ肉片と血が辺り一面に飛び散りました。体中を駆け巡る激しい痛みで意識が朦朧とし気がつけば、鬼は居なくなっていました。私は関わってはいけない――鬼の話に巻き込まれたことに気がつきました。鬼は、とある場所に連れ込み両手両足を縛りロープで吊るし金棒で痛めつけ殺すということを聞いたことがあります。お願いです娘を助けてください!」
「千慈雨海娃流さん。アナタの娘は必ず助けます。私たちにお任せください」
「お願いします」
昨日の話終了、現在に戻る。
私たちはボランティアで、関わってはいけない話に巻き込まれた者たちを助ける活動をしている。
「それでは作戦会議を始める。誰かいい案ない?」
「聖、アナタがまず案を出しなさいよ。曲がりなりにもリーダーなんだから」
雫が不本意なことを言った。
「曲りなりって言うな。怒るぞ雫」
「どうぞ怒りなさい。全然怖くないし」
「怒れば冷静な判断ができなくなるからやめる」
「怒ってなくても冷静な判断できないくせに何生意気なこといってんのかしら」
生意気じゃねえし。
「同感なことこの上ない。殴っていいことこの上ない」
知罰が拳を構えながら、言った。
「いいわけない! 殴られたら痛いじゃないか」
「殴った手のほうが痛いこともあることこの上ない。というわけで夕日に向かって走っていいことこの上ない」
「昼だから夕日出てないし! 急に青春ドラマでありそうなシーンを!」
私は知罰を睨みつける。
「怒った顔もかわいいわね」
「かわいいって? 雫もっと言って」
「断るわ」
む。もっと言ってくれてもいいだろう雫。
「かわいい? こいつが? そんなわけないことこの上ない」
「むかつく殴っていいか」
手に力を込める。
「ダメなことこの上ない」
「私はお前を殴る権利があるし、お前は私に殴られる権利がある」
「ないことこの上ない」
きっぱりと否定された。
「そんな……どうしてあなたはロミオなの?」
「ロミオじゃないことこの上ない。 毒飲んで死んだわけじゃないことこの上ない」
「知罰。ロミオって毒飲んで死んだんだ?」
「ウィキで見たから、合ってるはずことこの上ない」
腕を組んでうなずく知罰。
「聖」
「何、雫」
雫が声をかけてきた。
「知罰って前に聖かわいい愛してるって言ってたわよ。気持ち悪いわね」
「そうなんだ」
知らなかった。
「それとね。聖が猫耳メイド姿で知罰に抱きつき熱い口付けを交わしてる夢を見たって言ってたわよ。どう思う聖?」
「正直な感想を言うと気持ち悪い。今後一切半径三十センチ以内に近寄らないでほしい」
私はきっぱりと告げる。
「三十センチって狭いわね」
「だって大切な仲間だから」
「…………」
なぜか、知罰は大粒の涙を流す。
「知罰なんで泣いてるの?」
「聖の言葉に感動したのよ」
苦笑しながら、雫は言う。
「そうだ雫。いい案ある?」
「そうね。海娃流さんに娘さんの持ち物を借りて、知罰に匂いを辿らせればいいんじゃないかしら」
「フフフそんなこともあろうかと海娃流さんから娘さんの靴下を借りてるのだ」
これで私のことを尊敬のまなざしで見てくれるはず。
「聖」
「何、雫」
頭を叩かれた。
「痛! 何すんだ雫」
「そんなのがあるなら最初から出しなさいよバカ」
「うっ。ごめんなさい」
顔を下げた。怒られた。
「……かわいい」
抱きしめられ頭を撫でられた。何で!?
「知罰匂いを辿って。私はその間、聖を愛でるから」
「わかったことこの上ない」
ポケットから靴下を取り出し、知罰に渡した。
知罰はくんくんと匂いを嗅いだ。
「ここから一時間ばかり離れた場所にいることこの上ない」
「一時間ね。さて、聖、今すぐ行くか、それとも準備を整えてから行くかどうする?」
「もちろん今すぐ行くに決まってる」
「それじゃ行きましょ」
『おお~!』
私たちは、知罰を先頭に走り出した。
しかしこの時は、まさかあんなことになっていようとは思いもしなかった。
☆☆
霊宝公園を出て、左に曲がった。直線に進み、また、左に曲がった。
知罰が顔を左に向けつぶやく。
「こう言っては、失礼かもしれないが娘さんの靴下が臭かったことこの上ない」
かもではなく、本当に失礼だよ、知罰。
今度は右に曲がりギリギリ通れるぐらいの路地を通った。路地を出ると目前には森が広がっていた。
知罰は森のなかに突入した。私たちも後に続いて突入した。
それから、一時間ばかり経ち、森を抜けると家があった。
☆☆
差し足忍び足で家に近づき、ドアノブを握ってまわし開いてることを確認し、家のなかに入って驚愕した。
壁一面には、血と思われる物が飛び散っていた。壁に取り付けられた棚には、目玉をくり貫かれた生首が数個ほど置いてある。後で食べようとしていたのだろうか。
そして、身体をバラバラにされた鬼の死体が放置されていた。
血の塊具合からして死後一日は経過していると思われる。
「鬼から娘さんの靴下と同じ匂いがすることこの上ない」
知罰がポツリとつぶやく。
え? どういうこと? 何で鬼と娘さんが同じ匂いなの?
「……首を絞められた痕が」
雫が何事かを呟いた。
「とりあえず海娃流さんの所にいくわよ」
雫がみんなを見回し言った。
『うん!』
☆☆
「娘はいなかった?」
小屋から戻ってきて、海娃流さんの家に行き、事情を説明した。
「ええ。先ほど申しあげたように娘さんと鬼が同じ匂いがするのです。何か心当たりはありませんか?」
雫が説明してる。全てにおいて雫は私を上回ってるからな。
「心当たりですか? ありません」
海娃流さんは首を振る。
「そうですか。一つ確認したいことがあるのですが、それは本当に娘さんの靴下ですか?」
「何が言いたいのです? これは娘の靴下です。間違いありません」
強い口調で答える海娃流さん。
「では、その靴下はいつ購入しましたか?」
娘さんがいなかったことと何か関係があるのだろうか。
「……わかりません」
「わからない? 覚えていないではなく?」
「娘が自分で購入したみたいで、いつかはわからないんです」
うなだれる海娃流さん。
「いつ頃から娘さんはその靴下を履いていましたか?」
「そうですね。三年以上前から履いていました」
「にしては、きれいすぎますね。その靴下」
改めてその靴下を見る。本当だ。きれい過ぎる。まるで最近購入したかのように。
「言われて見れば、確かにキレイですね」
海娃流さんは目を細めながら言った。
「鬼と娘さんの靴下が同じ匂いがする。三年以上前から履いているのに最近購入したかのように靴下はきれい。このことから娘さんと鬼は手を組んでいたんじゃないかと私は考えました」
雫は驚くべきことを言った。
「娘と鬼が手を組んでいた? そんな……何のために?」
海娃流さんが声と身体を震わせながら言った。
「海娃流さん」
「何です」
「娘さんと遊んだりしていますか」
何でそんなことを聞くんだろう。
私は首をかしげる。
「遊んでませんね。仕事が忙しくてここ何年も」
遠くを見つめながら海娃流さんは言った。
「それが理由だと思います」
「どういうことですか?」
「かまって欲しかったんでしょうね娘さんは。どこかで娘さんは鬼と会ったんでしょう。どういう経緯かは分かりませんが、鬼と手を組むことになった。娘さんは鬼に、この日のこの時間に自分を攫えといったのでしょう。場所を探すためには、自分の持ち物の匂いを嗅がせると娘さんは考えたのでしょう。しかし、見知らぬ者に自分の持ち物の匂いを嗅がれるのはイヤだったのでしょう。渡すとしたら靴下だろうとさすがに下着は渡さないだろうと考えた。それで自分が持ってるのと同じ靴下を購入し、鬼に履かせて匂いを靴下に染み込ませた。これが鬼と娘さんの靴下が同じ匂いと靴下が最近購入したかのようにきれいだったことの理由です。正確には娘さんの靴下ではなく鬼の靴下ですが。攫われて無事に戻ってきたら構ってくれる、遊んでくれると思ったんでしょうね」
なるほど。でも。
「何で鬼は死んでたの? 手を組んでたんじゃ」
私は雫に問いかける。
「ああ、それはね。たぶん鬼は欲情して娘さんを襲おうとして返り討ちにあったんじゃないかしら」
「返り討ちに……」
そうか。
「それで、鬼は身体をバラバラにされて死んだんだね」
私は言った。
「何を言ってるの? 身体をバラバラにされたのは"死んだ後"よ」
『!』
「それは、一体どういうことだよ」
私は雫に聞いた。
「どういうことも何も首に絞殺された痕があったじゃない」
「え? そうなの」
「気付いてなかったの。注意力が散漫してるわね」
私は、顔をそらす。見ると知罰も顔をそらしていた。
「何で顔をそらすの? まさか、私以外気付いてなかったの?」
『ああ』
「はぁ~」
情けないったらありゃしないってな感じで首を振る雫。
「まあ、いいわ。そんなことより、娘さんを探さないとね」
と、言って海娃流さんを見る。
「海娃流さん。娘さんの下着を貸してくれませんか」
「ああ、はい」
海娃流さんはいそいそとタンスへ向かい、引き出しを開けて下着を取り出す。
「どうぞ」
下着を差し出して雫が受取る。
「暗闇並みに黒い下着ね」
うわ~Tバックだ。
「知罰。たのんだわよ」
「ああ」
知罰が下着を受け取ろうとしたその時、
「その必要はないよ」
何者かの声がした。
声のしたほうへ顔を向ける。
そこには無数の蛇を身体にまとう少女がいた。
「海神じゃないか」
海娃流さんが驚いた表情で言った。
「初めましてわたしが娘の海神です」
少女――海神さんは笑いながら言った。
「いや~まさか下着を渡すなんて思わなかったよ。これでもお年頃なんだからさ。恥ずかしいよ。心配して見に来てよかった」
なぜか悲しげに言った。その直後、無数の蛇が蠢いて、知罰に襲いかかる。
「面倒なことこの上ない」
知罰は人狼に姿を変化させて、蛇に噛み付いて引きちぎった。血液が飛び散って肉が見えた。
「何をしているんだ。やめないか海じ……ぐふ」
海娃流さんの身体を無数の蛇が貫いていた。両手をだらりと下げピクリとも動かなくなった。絶命しているのが目に見えてわかった。
「そこにいる君が推測したとおり、構って欲しかったんだけど、下着を勝手に渡したから憎悪が芽生えてきたよ。そのせいで男共にわたしの下着を見られたじゃないか。ああ~虫唾が走る」
どうやら、男嫌いみたいだ。
「男は嫌いだ。わたしはこれまでに数えるのも面倒なぐらい男に襲われた。その都度殺す。蛇で頭をかじったりしてね。ジュルッと音がしたけど、アレは脳が潰れる音かな今思うと。あの鬼は出会い頭に襲って来たから、ぼこぼこにして無理やり協力させた。わたしを襲った罰としてね。けど、懲りずにまたわたしを襲ったから蛇を使って首を絞めて殺しバラバラにした。清々しかったよ。こんなことを君たちに話すのはね。わたしがどれだけ男が嫌いかを知ってもらうためさ」
うっとりした表情で語る。
「さて、女共のほうはどうしようかな。男とつるんでるようだし、ついでだ。殺すとしよう」
無数の蛇が私たちに向かってくる。先ほどよりも数が多い。
私はゴーレムに姿を変化させて、襲い来る蛇を握りつぶす。
「仕方ないわね」
雫は吸血鬼に姿を変化させた。無数のコウモリへと変貌し、無数の蛇に噛み付き血液を吸い取る。蛇は皮だけとなり、まるで脱皮した後のようだった。
「ふうん。やるな。けど」
海神はにやりとした。
まだ、残っていた無数の蛇が一箇所に集まり融合し巨大な蛇と化した。
『!』
巨大な蛇は、大きな口を開けて何かを吐き出した。
身体にかかった物を見る。それは紫色をした液体だった。身体が痺れはじめ倒れてしまった。
「それは、猛毒でね。数分で死に至る」
『ぐふ!』
私たちはほぼ同時に吐血した。視界が霞み意識が途切れた。
☆☆
それから、数日が経過した。
「さて、これからどうしようか。父が死んで一人になった。まあ、わたしが殺したんだけどね」
父が依頼した者たちは、猛毒により、二分ほどで全員が絶命した。
「適当にぶらつくとするか」
わたしはほほ笑みながら駆け出した。
感想頂けると嬉しいです。